力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER 幽々子 オブ イエスタデイ】第四話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第四話 提案】
 ──圧倒的に実戦経験不足。そう依姫は玉兎達に言った。
 だが、それには自分自身にも非がある事を彼女は心の底で痛感していた。
 兵隊を戦わせたい場合は敵を悪に仕立て上げるのが手っ取り早いのだ。それを互いの国が行うのが『戦争』というものである。
『前に地上に行った時はさー』かつて訓練を──さぼりながら玉兎の一羽が言っていたのを覚えているだろうか?
 何気ない一言。だがそれは玉兎が地上を悪と認識していなかった事の裏付けとなり、依姫がそう教えていなかった事の証明となるのだ。
 兵士を育成する役割を担う者として、それらが一体となり鍛錬に励み力を付ける事を望むものである。しかし、敵を悪者にしてまでそれを行いたくはないと依姫は考えての事であった。
 しかし、こうして今まさに敵が牙を向いてこちらに乗り込んで来てしまったのだ。
 これからは敵がいかに驚異であるかを玉兎に教え込み実戦を想定した鍛錬をさせなければならないだろう。
 だが、この場は私自らの手で対処しよう、依姫はそう覚悟を決めたのだ。自分の撒いた種は自分で摘まなければならない。
 ──話を現在の状況に戻そう。
 依姫は咲夜の未知の力によって背後を取られ羽交い締めにされ、それを侵略者の指導者レミリア・スカーレットは得意気に俯瞰していた。
 誰にも依姫の危機に見えるだろう。だが、彼女の表情には余裕が見えていた。
「……八意様の言っていたとおりね。増長した幼い妖怪が海に落ちてくると」
「?」
 そう言ってのけた依姫に、レミリアは疑問符を浮かべて首を傾げた。
「貴方、さっき私の手癖が悪いって言ったわね?」
 背後の咲夜に依姫は言った、次の瞬間。
 突如として、依姫の両手から炎が吹き出したのだ。
「「!!」」
 それを見ていた霊夢魔理沙は驚愕し、咲夜はたまらず後ろに身を引いてしまった。
「気がつくと桃に手を伸ばしている、お姉様ほどじゃないと思うけどね」
 咲夜を払いのけ、したり顔で言ってのける依姫。それを咲夜は頬に汗を浮かべながら身構えていた。
「そんなちんけな火、怖くも何もないでしょ? 何ひるんでるのよ!」
 隙を作ってしまった咲夜に対して納得がいかず、レミリアが声を荒げた。
「これは小さく見えても愛宕様の火、すべてを焼き尽くす神の火なの。地上には、これほど熱い火はほとんどない」
 依姫は火を自在に操り、籠手のように右腕に纏わせながら言ってのける。
 その言葉通りこの火は松明のように厳かで慎ましく見えるが、爆弾など比べものにならない火力を有しているのだった。
「なんだって、愛宕様の火だって?」
 そこで霊夢が言葉を発した。
「さっきは祇園様の剣って……もしかして、あんたも私と同じ──」
「そう、私は神々をその身に降ろして力を借りることができる」
 それが依姫の最大の強みだった。そしてその力をものにするために多大なる修練を今まで重ねてきたのであった。
 依姫は刀を再び持ち直した。
「奇遇ね、私も最近その力の修行をしたばかりなの」
「わかっているわ、住吉三神が貴方に呼び出されていたんだから」
 ため息をつきながら依姫は霊夢に言葉を返す。
「貴方がいろいろな神様を呼ぶと私が疑われるのよね。謀反を企んでいるんじゃないかって」
 その事は依姫の置かれている境遇にあった。八意を討伐しなければいけない立場にありながら彼女への恩義の為にそれを行わないが故に、他の月の民にあまり信用されていないからであった。
「そんなの知らないわよ、稽古は『やらされて』たんだもん──」
 霊夢が言い切るより前にザシュッと音が鳴り、祇園様の力が再び発動された。
「でも、その疑いも今日晴れる」
 依姫はふてぶてしく言った。
 そして手をこまねいている霊夢達。そこへ銃剣の刃が彼女達へ向けられた。先程の玉兎達である。
 敵を捕らえて見せたと言わんばかりに、玉兎達はしたり顔であった。依姫の力によるのにも関わらず。
(まいったぜ、まったく隙がない。
 霊夢と同じ能力と言ったって、見るからに力の差は歴然だ。
 吸血鬼は余裕の表情だが、何を考えてるかわからんし。
 咲夜も隙を窺っているが、動けそうにないし……。
 こんなのまともに闘ったら勝てるわけがないぜ。
 お得意の逃げるにしても、逃げ道(ロケット)は大破している……)
 そう魔理沙はこの危機的状況で思考を巡らせていた。
「どうした? 動いても構わないよ。祇園様の怒りに触れるけど」
 身動きすれば神の怒りに触れ身を滅ぼす事になる。霊夢達は今、牢獄に拘束されているよりも自由の利かない状況なのであった。
「自力で月に来るなんてどんな奴かと思っていたけど、おもしろくないわね」
 挑発的な台詞を依姫は吐いた。それにレミリアがカチンとくるが、手出しのしようがない状態だった。
 これで侵略者との決着が付く、依姫はそう思った。後はこの者を……。
「こ、降参だ、降参!」
 ここで言葉を切り出したのは魔理沙であった。
「今のままじゃ、こっちに勝ち目はないし、お互い大きな被害を被るだろうし」
「あら、あっけない」
 依姫は拍子抜けして言う。
「ただな、幻想郷には知的で美しい決闘ルールがあるんだ。力の強い妖怪が多い幻想郷だからこそ生まれたルールだ、それで少しの間楽しまないか?」
 切羽詰まった様子で魔理沙はそう『提案』してきた。
「……」
 しばし考え込む依姫。その様子を玉兎と妖精メイドは無言で見ていた。
「何かしら?」
 そして依姫はその提案について質問した。
「人間も妖怪も月の民もオケラも皆平等に楽しめる、この世でもっとも無駄なゲーム──スペルカード戦だ」
 そう魔理沙は言い切った。依姫は当然初めて知る事になる訳だが、魔理沙達の住む『幻想郷』では日常茶飯事に行われている戦い方だったのである。

◇ ◇ ◇

 豊かの海に響くさざ波の音が心地よい。
「たあっ」
「……っ!!」
 その中で玉兎を妖精メイドが『戦って』いた。玉兎が銃剣の突きを繰り出し、メイドがそれを危なげにかわす。
 何とかかわし続けるメイドであったが、よけるのに意識を取られすぎてその足をよろめかせてしまったのだ。
 それを玉兎は見逃さなかった。そのまま勢いに乗り、銃剣を下から上に振り上げたのだ。
 すると弾丸型のエネルギーが無数にそこから発射され、それをメイドは見事に被弾してしまった。
 吹き飛ばされるメイド。これで──玉兎は妖精メイド三人に勝ち抜いたのであった。
「ま、こんな感じで基本一騎打ちで戦うんだ」
 今行われた戦いの趣旨を説明する魔理沙
(まさか3匹みんな負けるとは思わなかったが)
 等と、心の中で呟きながらも。
「その際自分の大技をすべて見せて相手にかわされるか潰されたら負け。
 技と体力が残っている側はさらに続けても構わない。
 でも、勝負がついたらおとなしく引き下がる」
「……。普通の決闘と何が違うの?」
 そこまで聞いていた依姫は疑問を口にした。
「美しいほうが勝ちなんだ。つまり精神的な勝負ってことだ」
「へえ、それはわかりやすいわね」
 依姫が感心している中で、魔理沙はチラっとレミリア、咲夜、そしてボロボロになった妖精メイドの方に視線を送っていた。メイド達はものの見事に主であるレミリアに怒られている。
「で、うちらが全敗したら……、おとなしく地上に帰るから」
「ふーん、それで無駄な血が流れないのであるならいいかもしれない」
 無駄な殺生を好まない武人的である依姫らしい答えだった。その中には死のエネルギーから生まれ、月の民にとって害である『穢れ』を発生させるのを避けるのにうってつけであるからという意味合いもあったのであるが。
 だが、それだけではなかった。依姫は月の都の事を脳裏に思い浮かべていた。
 それが意味するのは、月の民の一般人の身を案じているという事であった。兵士は基本的に直接戦っている自分達の事に意識がいきがちであり、平和に暮らしたい民の事をないがしろにしがちなのである。
 しかし、依姫は違ったのだ。自分が護る民の事を抜かりなく想っているのだった。
「もし私が敗れるようなことがあっても、月の都には入れさせないけど……」
 依姫はそう魔理沙に言った。神の力を借りる自分はそう易々とは負けないという自信の現れからでもあったが、別に魔理沙に意地悪をするつもりではないのだ。まず侵略などさせないという事が先行しているのだが、それを除外しても地上の住人を月の住人に近づけさせたくはないのだ。
 月の民は『穢れ』が自分達にとって毒となるため、極端に地上やそこの住む生き物を嫌うのが基本的な月の民の思想となってしまっているのだ。そのため豊姫は月で騒ぎを起こさせない為に地上から来た鴉を殺した理由なのだ。
 だから、安易に地上から来た者達を月の都に招き入れたら、決して月の民は快く受け入れはしないだろう。魔理沙達を傷つける言動をするかも知れない。
 彼女達は月の事情について知らなくてもいい。それが依姫の考えであった。
「ま、そのときは手土産一つでもあればいいや」
 幸い当の魔理沙は月の都に入れない事に対して、深く考える事はなかったようだ。
「正直、本気で月の都を攻めたがっているのは、一人だけなんで」
「ちょっと」
 魔理沙が話している所にレミリアが割り込んだ。
「いつまでこんな茶番劇を見てなきゃいけないのよ! さっさとそいつを倒して、月の都に向かうよ!」
 レミリアは早く始めたくてうずうずしていたようだ。
「話は終わったわ。さあ、一番最初に私と戦うのは貴方かしら?」
「咲夜、あんたが行きなさい」
「はい」
 依姫に聞かれ、レミリアは予想に反して先行は自分ではなく咲夜を指名したのだ。
 それを見て依姫はクスクスと笑い、そしてその笑みは凍り付くかのように冷たいものとなった。
「怖じ気づいたのかしら?」
 挑発的に依姫は言ってのける。
「先に貴方の能力を見て、少しでも勝率を増すためよ。でも咲夜は強いから、私の出番がないかもね」
「単純かと思ったら以外と冷静なのね」
 感心しながら依姫はそう感想を口にした。
「さあ始めましょう。私の美しいナイフ捌き、残念ながら誰にも見えないかもしれないけど」
 言いながら咲夜は大量の自前の銀のナイフを自分の周りに展開していた。付け入る隙を作らないという意思表示の如く。
「そう」
 ニッと依姫は薄ら笑いを浮かべ、
「それでは私も月の使者のリーダーとして、最大限、美しく……」
 玉兎達の渇望の眼差しの中でそう宣言した。
 これが依姫のスペルカード戦デビューとなるのだった。