力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER 幽々子 オブ イエスタデイ】第七話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第七話 『魔王』光臨:前編】
 ザッと相手の足音がなる。見た目は幼い少女のものであるから実際に聞こえる音は軽やかなのだが、依姫の耳には本来よりも重厚に聞こえたのだ。
 それは相手に怖じ気付いているからではない。多少は畏怖の念を覚えているが、神の力を借りられる自分が万に一つでも負ける要素はないと依姫は自負しているのだ。
 では何故気が引き締まるのか。それは相手に対しての『敬意』にも似たものが原因であった。
 スペルカード戦開幕の際には自分が一番に出るのではなく、他の者と依姫の戦い方を見て確実に勝利を手にしようとするしたたかな一面。
 続いて従者のメイドが負けた際には、彼女が勝ったら私の出番がないじゃないのよと悪ぶって見せてかばう様。
 そして魔法使いが才能の壁にぶち当たって本調子ではない所で、負けるならやりたい事やってから負けなさいよと喝を入れた様。
 失態をかばう、心残りなく力を発揮させる、そして自分が一番頑張る事。
 それは依姫と同じなのであった。だからこれからの戦いを悔いなくやり切らなければと思うのだ。
 現代の者はその逆が多いだろう。失態を犯した者に容赦なく当たり、力を発揮出来ない者をあざ笑い、自分よりも他人に努力させる者が幅を利かせているのだ。
 だから、目の前の吸血鬼は貴重な存在なのだ。この戦い、すべからくこなさなければならないだろう。
「準備はいいかい?」
 高ぶった思考の中から意識を引っ張り出すべく、レミリアが依姫に声を掛けた。
「ええ、いつでもどうぞ」
 いつまでも物思いにふけっている訳にはいかない。依姫も刀を構えて臨戦態勢をとった。
「じゃあいかせてもらうよ!」
 レミリアはそう言うと体を前のめりに向けると──足で地を蹴り瞬発力を生み出し、一気に前方に飛び出したのだ。
(! 速いっ!)
 一瞬の出来事に、依姫は意表をつかれてしまった。先の魔法使いの方が速さ自体は上だったものの、彼女は直接依姫に向かってくる事はなく、遠距離攻撃に徹していたのだ。
 だが、レミリアはその己の肉体を武器に突っ込んできたのだ。
 そしてその勢いに拳を乗せて振りかぶった。見た目は少女の小さい拳だが、空気の流れの変動の異様がその威力がいかに凄まじいものになるかを物語っていた。
(だがっ!)
 間一髪依姫は刀をその攻撃に合わせ、拳撃を刃で受け止めたのだった。キィィィンと甲高い音と痺れるような振動が巻き起こった。
「私の第一撃を受け止めるとは、やるじゃないか」
「お褒めにあずかり光栄ね」
 お互いに軽口を叩き合う二人。そして互いに距離を取り合った。
 ちなみにレミリアの拳は刀身にぶつかったにも関わらず傷一つなかった。さすがは吸血鬼の身体能力とでもいうべきだろうか。
「楽しもうじゃないか」
「ええ、お互いにね」
 二人の闘志は沸々と煮えたぎって来ていた。
「では、今度はこちらから行かせてもらうわよ」
 そう言って構えたのは依姫の方であった。一端刀を腰の鞘に納め、抜刀の体勢をとったのだ。
「はあっ!」
 そして掛け声と共に右足をレミリアの方向に踏み込み、それと同時に刀を鞘から抜き彼女に振り抜いた。
 手応えは──あった。レミリアは確かにこの一撃を受けていたのだ。しかし。
「余り利いてないみたいね……」
「吸血鬼の身体を嘗めてもらっちゃ困るよ」
 攻撃は確かに入った。人間が相手だったら大怪我をしていた所だろう。だが吸血鬼のレミリアにとってはかすり傷程度のものであった。
「でも、この私に攻撃を当てたんだ。それには敬意を払わなくっちゃいけないな」
 ピクッ。レミリアのその言い方に僅かながら反応してしまう依姫。
 そんな彼女の目の前にいるレミリアは右手を眼前にかざすと、そこにもやのようなものが現れ始めた。
 ──それは依姫は知らないが、レミリアが幻想郷で起こした異変の紅い霧そっくりであった。
 まるで水の中に溶かした血液のように漂うそれは、だんだんとはっきりとした形を取っていったのだ。
 ──それは『槍』の形であった。長く立派な胴体、血のように赤くありながら金属の光沢を持つそれは、禍々しくありながらもどこか神秘的であった。
 レミリアは宙に浮いていたその槍をパシッと勇ましく掴むと、依姫に対してそれを向けながら一気に距離を詰めたのだ。
 ギュウウンと音を出し、鋭く空を切りながら依姫に迫る槍先。だが依姫は間一髪それを刀で受け止めた。
「長物を使えるのが自分だけだと思ったかい?」
「くっ!」
 だが、レミリアの軽口に返す余裕はなくなっていた。
 そして突き、引っ込め、突き、と槍の猛攻は始まったのだ。さながら蜂のように刺すという表現がしっくりくる程に。
 しばらく依姫は槍の攻撃を何とか刀で受け流していた。
(……)
 それを行いながら依姫は、段々ある事に気づき始めていた。
 ──槍の持ち方がでたらめだと。剣にしろ槍にしろ武器というのは扱いに精密さが要求されるものだ。
 だが、この吸血鬼はその膂力に任せて力で振り回しているのだった。そこに依姫は勝機を見出した。
「そこっ!」
 そう掛け声を上げると同時、依姫は刀に体重を乗せつつレミリアの槍の持ち手を狙ったのだ。
「!!」
 この的確な対処にレミリアは意表を付かれてしまった。そして手に持った槍を思わず離してしまったのだった。
 痛みは吸血鬼である彼女にとっては大した事はなかったのだが、まさかこうも巧みに持ち手を狙い打たれるとは意識していなかったのだ。
 そして弾かれた槍は歯車のように回転しながら宙を舞い、最後には綺麗に地面に刺さった。
 すると槍は再び霧となってその場でかき消えたのだ。そして、まるで最初から存在していなかったが如く跡形もなくなった。
「へえ、やるじゃないか」
「私の八意様仕込みの剣捌き、嘗めないで欲しいわね」
 そう言葉を返しながら、依姫は今は月から遠く離れた地上にいる師の事を想った。姉と同様に彼女の存在抜きには今の自分は有り得ないと心の中で噛み締めたのだ。
 このまま自分のペースに持ち込んでみせる、依姫はそう意気込んだ。師へ応える為にも。
「まあ、槍は別に私の十八番って訳じゃないんだよね」
 だが、吸血鬼から紡がれた言葉は依姫の予想に反するものであった。
「じゃあ、私の本領を発揮するとしますか!」
 そしてレミリアはコキッコキッと関節を鳴らして準備動作をした。いかにも余裕綽々といった態度で。
 その動作も終えると、レミリアはその場で両足を踏み込み──そのまま宙へと飛び立ったのだ。
「!」
 意表をつかれた依姫。だが驚く事ではないのだ。幻想郷では多くの者が空を飛んで戦うと魔法使い言っていた。彼女は箒を使って飛んでいたが、自力で飛べる者が多いという事なのだろう。
 レミリアは武士道に徹する気はないのである。故に相手が飛ばなくても自分は飛んでやろうと思ったのだ。
 どんな手段を用いても勝利をもぎ取る、それが彼女流の信念であった。それに加えて依姫は咲夜と魔理沙に勝っているのだ。そこに自分が出し惜しみする道理はなかった。
 そしてレミリアは宙で静止しながら相手を俯瞰し、目標を補足した。
「それじゃあ、これでも喰らいな!」
 言うとレミリアは頭を向けて依姫に飛び掛かったのだ。──それは『体当たり』。馬鹿げた発想であるが、その思い切りとレミリアの身体能力から脅威となった。
 まるでジェット機のように空を切り依姫に突撃していくレミリア
 だが依姫とて易々とその攻撃を受ける気はなかった。レミリアに刀を合わせ斬り掛かったのだ。
 その瞬間、暴風のような衝撃が巻き起こった。余波で木々がざわめく程であった。
 ぶつかる力と力。それは暫く均衡していたが、徐々にその差は開いていった。
「くっ!」
 力の押し比べに負けたのは……依姫の方であった。得意の長物を持ったその手が衝撃に耐えきれず弾かれたのだ。
 攻撃を防ぐ手段を押し曲げられた依姫は体当たりを見事に受けてしまった。
「っ!!」
 衝撃の余りよろめく依姫。だが相手は容赦がなかった。体当たりの一撃目を喰らわせたレミリアはその反動で再び上空に浮かび上がり、依姫との距離を取ったのだ。
「もう一発行くよ!」
 そして高らかにレミリアは宣言した。またしても吸血鬼は弾丸と化して依姫を襲う。再びダメージを依姫は負った。
 突撃しては距離を取る。その動作を繰り返し、レミリアはじわじわと依姫を追い詰めていったのだ。
 それが暫く続いた後、レミリアは何を思ったのか空高く舞い上がり、どんどん上昇してついに肉眼では確認出来ない所まで飛んで行ってしまった。
「……」
 それを見ていた依姫は無言になる。勝負の放棄という訳ではないだろう。
 そして、突如空に輝きがあったかと思うとそれは一気にこちらに向かって来たのだ。
 レミリアだ! 加速を最大限につけたそれは弾丸やジェット機等を凌駕し、隕石の如く依姫に突っ込んで来た。
「!!」
 依姫は刀を構えて迎撃体勢に入るが、如何せん今回のレミリアに掛かっている力量は今までの比ではなかった。
 そして削岩機を廃ビルに叩きつけたかのような轟音と衝撃が巻き起こった。
「くうっ……!」
 その後体を地に擦り付けながら依姫は吹き飛ばされてしまったのだ。
「!!」
 玉兎達は皆戦慄した。当然だろう、今まで優位に戦って来た、頼れる主が翻弄される所を目の当たりにしては。
 その一撃を喰らわせたレミリアは得意気に着地して見せた。
「地上で最速にして最強のレミリア様(わたし)だ。ちっぽけな天体(つき)だったから一周して来ちゃったよ」
 そして憮然とした態度で言ってのけた。
「最速って彼奴(文)と比べるとどうかなぁ」
「力だって彼奴(萃香)がいるしねぇ、じつは大して取り柄がないんじゃ」
 と、外野の魔理沙霊夢がひそひそ話をしていた。
「聞こえているよ」
 デビルイヤーは地獄耳だからとレミリアはそのやり取りに釘を刺す。
 そんなやり取りをして、レミリア達は和やかな雰囲気に包まれていた。
 だが、これは単に器用貧乏とは侮れない事実だろう。速さと膂力ではそれぞれそれを上回るものが存在はすれど、その二つをあわせ持っているのは強力な武器と言えるだろう。
 かの手塚治虫も漫画家としての能力のみならず、医者としての能力を持っていた事が氏の代表的作品の医療漫画『ブラックジャック』を生むに至ったのだから。
 そのような抜かりない二律背反の要素を者と対峙する依姫としては厄介であろう。そして彼女は刀を杖代わりに体を支えながら立ち上り地に刺さったそれを引き抜いた。
 そして、暫し相手を見据える。
「どうした? 圧倒的な力の差に絶望したとしても降参は許さないよ?」
「貴方……羽から煙が出ているわよ?」
「ん? うわっ!」
 依姫に指摘されてレミリアはそれに気付き慌てた。彼女のこうもりのような羽が焼け焦げたかのようにチリチリと燻っていたのだ。
 すかさず咲夜が日傘をレミリアに投げ付ける。そしてレミリアはそれを指した。
「危ないところだった。日光の下では長く生きられないのだよ」
 それは強大な力を持つ吸血鬼故だからだった。だが、レミリアはこの時自分を『強いから』とは言わなかった。
 自らを強いと自称する者には本当に強い者は多くはないからである。
 言葉巧みに他人を操り支配し精力的に自分の勢力を拡大し、自分の役に立たないものは容赦なく切り捨てていく者を言い様によっては『強い』と称する事も多いだろう。
 だが、レミリアの強さはそういうものとは程遠い事はもはや周知の事実であろう。
「……その傘、全然カバーしきれてないみたいだけど……」
 依姫が呆れながら指摘した。レミリアは『強い者』であるが、こういう抜けた所も多いのであった。