力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER 幽々子 オブ イエスタデイ】第十話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【最終話 青への萌し】
 ここは綿月邸の演習場。かつて依姫が神との修練を行っていた場所である。
 そこに再び依姫と……玉兎三羽がいた。玉兎達は三角型に展開して依姫を取り囲んでいた。
「どこからでも掛かって来なさい」
 そんな中依姫は言った。
「では……はあっ!」
 その依姫の言葉を受けて、金髪の玉兎は掛け声を上げて銃剣を突き立てて依姫に向かっていったのだ。
 どうやら依姫は玉兎達と一緒に演習を行っているようだ。そして、依姫の力量を考慮して玉兎達には複数で立ち向かってきてもらっているようである。
「まだまだ動きが甘いわねっ」
 向かってくる玉兎に、依姫はそう返すと最低限の動作で刀を以てして銃剣の突きを受け止めてしまったのだ。
 やはり依姫と玉兎一羽とでは力量に差がありすぎるのだ。だが。
「てやあっ!」
 依姫が相手にしている玉兎達は複数いるのだ。一羽目の攻撃が防がれると同時に別の、茶髪の玉兎が銃剣を振りかぶって依姫に斬り掛かった。
 だが依姫は慌てる事はなかった。
「見事な連携ね。だけど……」
 言うと依姫は難なく刀をその玉兎へ合わせ、この攻撃も受け止めたのだ。
「くうっ!」
 もらったと思った茶髪の玉兎は、苦悶の表情を浮かべ唸る。
 だが、玉兎達の攻撃はこれで終わりではなかった。最後に残っていた眼鏡の玉兎が跳躍して依姫に斬り掛かったのだ。
「やりますね、ですが」
 息の合った攻撃にも動じず、依姫は全ての玉兎達に目を配せ、
「はあっ!」
 その掛け声と共に刀を一気に引き抜き、玉兎達を一度に薙ぎ払ったのだ。
「ひやあっ!」
「きゃあ!」
「くうっ!」
 玉兎達は一斉に悲鳴を上げ攻撃を受け、後ろに仰け反ったのだ。
 そして玉兎達は再び距離を取り、先程のように膠着状態となった。
「どうしました? 動かなければ勝負は進みませんよ?」
 挑発的に依姫は言ってのけるが、それに易々と乗らない位には玉兎達は成長していた。
「依姫様に無用心に仕掛けられない事位解ってますよ」
 金髪の玉兎が言う。あの時、月に来た者達との戦いの様は玉兎達の脳裏に抜かりなく焼き付いているのだ。
「じゃあ、『あれ』やる?」
「そうだね!」
 残りの二羽は相槌を打った。
「行きますよ、依姫様!」
 金髪の玉兎が言って銃剣を手前に構える。そして彼女は自らの妖力──妖怪に備わる生命エネルギー──を銃剣に込めたのだ。
「発射!」
 そして、銃口から何かが射出された。
 ──それは弾丸型のエネルギーの塊であった。機関銃の弾のように射出されたそれは次々に依姫へと襲い掛かった。
 だが依姫は刀でそれをことごとく切り払ってしまったのだ。弾け飛ぶ『弾幕』。
弾幕で勝負ですか、いいでしょう」
 弾丸を全て切り落とした依姫は得意気に言った。そして両手を前方に掲げた。
「『愛宕様の火』!」
 続いて攻撃宣言をした。すると依姫の両手が炎に包まれた。全てを焼き尽くす神の火である。
 だが今回はそれが目的ではなかった。炎に包まれた手から赤い火の弾が射出されたのだ。
「うわっ!」
 慌てる金髪の玉兎。そして火の弾は彼女の眼前まで差し迫っていた。
 だが、彼女は間一髪でそれをかわして見せた。
「では、こちらからも行かせて貰いますよ!」
 依姫はニヤリと口角を上げると、炎の灯った手を茶髪の玉兎目掛けて振り下ろしたのだ。そして発射される赤い弾。
「ひいっ!」
 何とか茶髪の玉兎はそれをかわした。
「まだまだこれからよ!」
 依姫には、文字通り『火がついて』しまっていた。次は眼鏡の玉兎目掛けて火の弾を投げ付けた。
「きゃあ!」
 今度は眼鏡の玉兎に被弾したようだ。
 だが、弾幕での戦いの為に火力は落としてあるので大事には至らなかった。
「それそれそれ!」
 そして依姫は大量の火弾をばら蒔く、ネジの外れた兵器のようになっていた。いささか彼女のキャラクターには合っていない言動であるが、こうして思う存分戦える弾幕勝負を気に入っているが故であった。
 だが、神力を一度に少し使いすぎたようだ。依姫は両手に灯った炎をかき消すと神力の自然回復を待つ事にした。
 そこを玉兎達は逃さなかった。
「一斉射撃するよ!」
 金髪の玉兎が他の二人に合図すると、皆弾かれたように依姫との距離を取った。そして皆一斉に銃剣を依姫に向けたのだ。
「「「発射!」」」
 声の合った掛け声と共に三人から同時に弾丸の雨あられがばら蒔かれた。
 依姫は弾丸の雨に包まれ、何度も着弾音が撒き散らされた。
「やったかな?」
 眼鏡の玉兎が呟く。手応えはあったように思えたからだ。
 そして弾の雨により巻き起こった砂煙が収まっていった。そこには……。
「『祇園様』」
 そう依姫は呟いた。そして彼女の周りには例の刃の壁がそびえ立っていたのだ。
 祇園様の力はこうして防御にも使えるのであった。
 そして彼女の傍らで地に刺さっている刀を抜くと、案の定刃は引っ込んだのだ。
「「「そんなぁ……」」」
 渾身の連携弾幕攻撃を防がれて、玉兎達は項垂れた。
 そんな彼女達の様子を刀を手にしながら依姫は見ていた。
「恥じる事はありませんよ、貴方達はよくやりました」
 そして微笑んでみせた。
「依姫様……」
 金髪の玉兎は呟いた。
「そんな貴方達へ、この弾幕を捧げましょう」
 依姫はそう言うと刀を天高く掲げた。そして宣言する。
「『天津甕星』よ、数多なる星の瞬きを見せたまえ!」
 そう依姫が言い終わると、掲げた刀が燦然と輝き始めた。
 そして、そこからロケット花火の如く大量の火花が放出され、宙高く溢れていったのだ。
 それが暫く続いた後でようやく火花は止まり、刀の輝きも収まった。
「行きなさい、星達よ」
 依姫は掲げた刀を勇ましく下に振り下ろすと、天津甕星が生み出した星々へと命令を下した。
 その刹那、星々の輝きが強まった。
「嫌な予感……」
 眼鏡の玉兎が冷や汗を出しながら呟く。こういう時の予感というものは当たる場合も多いものである。
 それは的中したようだ。
 輝きを増した星は次々に地上へと雨のように降り注いだのだった。それは容赦なく演習場の土をボコボコと撃ち抜いていった。
「「「うわあ~~っ!!」」」
 当然玉兎達にも牙を剥いた。彼女達は次々に星の凶弾の餌食になっていったのだ。だが終わりというものは必ずあるもの。気付けばその猛攻も収まっていたのだ。
 そして辺りは土煙に包まれていた。徐々にそれが止んでいくと──。
「……やり過ぎてしまいましたか」
 案の定三羽の玉兎は目を回してその場で倒れていたのだった。

◇ ◇ ◇

「酷いですよ依姫様……」
 茶髪の玉兎がぼやく。三羽とも依姫の圧倒的っぷりに落ち込んで長い耳を垂らしていた。
 依姫の力が強大である事は周知の事実であり、彼女自身それを自覚している。
 だからこそ依姫は玉兎に三羽同時に掛かって来てもらうというハンデを自分に課したのだが……結果はこの通りであった。
「そう落ち込む事はありませんよ。貴方達は腕を着実に上げていますから」
「そ、そうですか……?」
 依姫に言われて、金髪の玉兎はそう返す。他の二羽の表情も段々明るくなっていった。
「ええ、それに貴方達がこの勝負を望んでくれて私は嬉しいのですよ」
 そう、今までの戦いは玉兎達が自ら望んで行った事なのである。相手の考えを尊重し、無理強いはしない依姫が強制的にやらせはしないだろう。
 玉兎達はあの『侵略の異変』から、徐々にではあるが腕を上げてきているのだ。
 理由はずはりその侵略にあるのだ。
 今までは依姫からは地上を忌まわしきものといった風に吹き込まれていなかった上に、地上まで行く事を許されさえしていたので地上を驚異だという認識がなかった。
 だが、現に囮にさせられた者達とはいえ月に乗り込んで来たのだ。だからそれに対して備えがなければいけないという意識が玉兎達には芽生えていた。
 それに加えて依姫が戦い、そして勝ちまくる様を目に焼き付ける事になったのも大きいだろう。言ってみればヒーローに憧れる子供の心理である。
「さあ、気を取り直して」
 依姫は玉兎達を労い、それに付け加える。
「それに、これからお楽しみがありますからね」

◇ ◇ ◇

 ここは綿月邸の大広間。そこには沢山の者達で賑わっていた。
 まずは玉兎達、そして依姫と豊姫の綿月姉妹、そして綿月邸に仕える月人達が数人であった。
「あ、この桃私の~」
 玉兎の一人が広間に沢山用意された桃に手を伸ばす。
 そう、今行われている催しものは、綿月邸に成った桃を中心に様々な食べ物や飲み物を用意した宴会であった。
 これは以前に案があった事であるが、その時は豊姫が庭の桃を端からかき集めて食べてしまい没になってしまったのだ。しかし、今回は無事に行われたようだ。
「依姫、お疲れ様。侵略者に立ち向かった貴方と私と玉兎達に乾杯ね」
「それと、この場にはいませんが八意様の事も忘れてはいけませんよ」
「そうね」
 そして二人とも今は遠く離れた地上に住まう師に想いを馳せた。
 同時に依姫は姉である豊姫にも尊敬の念を覚えた。普段は桃ばかり追い回しているが、依姫の知らない所で損な役や汚れ役を引き受けている事を妹であるから察してるのだ。だから、今回は。
「お姉様ももっと桃を食べていいのですよ」
 そう豊姫を労う気持ちになるのだった。
「あら、珍しいわね。依姫がそんな事言うなんて」
「そうですね。だから宴会の時だけですからね」
「やっぱりそう言う方が依姫らしいわ。じゃあ桃のおかわりもらうわね」
 そんな和やかな姉妹の会話が行われていたのだった。
 ちなみに、侵略者に『勝った』とは豊姫は言わなかったのだ。最後には侵略の首謀者との知恵比べでは姉妹は『負けた』のだから。
 侵略の首謀者──八雲紫は、自分が豊姫に捕らえられて敗北すると見せ掛けて、他の者に知恵比べの画竜点睛を託したのだ。
 それを西行寺幽々子という、紫の友人にして亡霊の姫にして、以前玉兎の前に現れた者が行ったという訳だ。──綿月邸の酒を盗むという形で。
 これに綿月姉妹は『ぎゃふん』と言わされたのだ。強大な力を持つ二人が味わされた敗北であった。
 だが、その後の二人は絶望や憎悪といった感情は余り湧かず、それどころか不思議とどこか晴れやかな気持ちすら抱いたのだ。
 それは二人が今まで負け慣れていなかった所へ、本格的でない勝負の形で心を折られる事なく負けを知れたからだ。だから……。
「これはもう『復讐』するしかないわよねぇ~」
「そうですねぇ」
 そう微笑み合う豊姫と依姫。その態度が示す通り本気で復讐心を抱いている訳ではなかった。
 そして、復讐を口実に地上と関わりが持てる事を喜ばしく思うのだった。侵略の首謀者八雲紫は以前月に攻めて来た時のように本気で制圧する気はなかったように見える。
 だから綿月姉妹は関わりたいと思うのだ。八雲紫が管理下に置く者達とは友好的な関係を築けるだろうと。それが八雲紫の目論み通りでも、それに乗ってやろうじゃないかという念が綿月姉妹には生まれていたのだ。
 英雄が登場する物語では基本的に悪の親玉を倒して話が完結してしまうものだ。
 だが今回の綿月姉妹の場合はその例に漏れるのであった。親玉を倒した後にも物語が綴られる、そう思うと得した気分になるのである。
 特に依姫はあの者達を見届けたい渇望が芽生えていたのだ。
 メイドとは本当の決着をつけたい、魔法使いが努力をやめてないか確かめたい、巫女がもう少し修行するようになって欲しい、そして自分と同じものを大切にする吸血鬼とは更なる親交を深めたい……そういった様々な想いで頭の中が満たされているのだ。
 考えは決まっていた、『青き地上へ行こう』と。今までは争いを避けるためになるべく関わらなければ良いと思っていたが、それでは得られないものもあると今回の件で分かったのだから。
 だが下準備は必要だろう。手始めに二人はレイセン──今回豊姫と共に任務をこなした──を偵察に行かせて八意の様子がいかなるものか調べてもらう事にしたのだった。

【第一章 幽々子 オブ イエスタデイ】完。
【第二章】に続く。