力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第一話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第一話 出会い】
「参ったなあ……」
 ここは幻想郷にある迷いの竹林と呼ばれる所である。そこでとある人間の少女は窮地に立たされていた。
 彼女の目の前には妖怪がいるのだ。基本的に妖怪は人間を襲うものである。だからこの少女は純粋に危機に陥っているのだ。
 勿論、何の対策も無しに妖怪の蔓延る竹林の中へと飛び込むような真似はこの少女はしたりはしない。
 だが彼女は案内役の竹林に精通した兎の少女と一緒にいたのだが、いつの間にかはぐれてしまったのだ。運が悪かったのだ。
「あなたは食べられる人類?」
 そんな不運な人間の少女を嘲笑うかのように、妖怪の少女は無邪気な笑顔を見せながら迫っていたのだった。

◇ ◇ ◇

「それじゃあね、依姫。私はレイセンと一緒に一足早く月に帰っているわ。月の護りは私と玉兎に任せておいてね」
 暫しの別れの為に、綿月豊姫が妹の依姫に告げる。
「ありがとうございますお姉様。私の我がままを聞いて頂いて」
 それに依姫は返す。しかしどこか申し訳なさそうな様子だ。
 依姫のその様子を見て豊姫は言う。
「もう、水臭いわね、依姫は。私達姉妹じゃないの」
「……」
 豊姫にそう言われても依姫は釈然としないようだ。
 それは依姫の性格上『家族』とか『兄弟姉妹』といった概念を、物事を推し進める為の武器には使いたくないというものからであった。依姫は家族といったものを本当に大切する為、それを利用する事は避けたかったのだ。
 豊姫もそれはわかっているのだ。だが敢えて彼女は付け加える。
「安心してね依姫。元より私の『能力』があれば月と地上の行き来は容易なのよ。だから月に残るべきなのは依姫より私の方なの」
 そう言うと豊姫はにっこりと微笑んだ。
「それに依姫。貴方は私よりも『地上(ここ)で』やりたい事が沢山あるんでしょ?」
 そう、綿月姉妹は今地上にいるのだ。
 細かく言うと、地上の幻想郷と呼ばれる場所に存在する八意が蓬莱山輝夜と共に統括する『永遠亭』が居を構える『迷いの竹林』の中に二人はいるのだった。
 まず姉妹は永遠亭に玉兎のレイセンを偵察に行かせて、危険性がない事を確かめたのだ。尤も、レイセンがその事をものの見事に永遠亭の住人に漏らしてしまい計画もへったくれもなくなっていたのだが。
 そして危険性がないと判断した姉妹はレイセンと一緒にかつての師である八意や、最初の『レイセン』である鈴仙・優曇華院・イナバ達といった永遠亭に住まう者達との憩いのひとときを過ごしたのだ。
 だが、月の守護者がいつまでも不在では大問題であろう。だから豊姫はレイセンを連れて再び月まで戻るのだ。
 しかし、依姫は暫くの間地上に残る事を決意したのだ。と言っても永い年月をずっと過ごす訳ではないから、地上の穢れにより寿命を持ってしまう心配はないのである。
「はい、お姉様。私はこの幻想郷で色々見て回るべきだと思うのです」
 そう依姫は言った。
 かつて月侵略の異変を起こした八雲紫の管理下にある幻想郷。そこは人間と妖怪や神すらも共存する楽園だったのだ。
 そのような世界と深い関わりを持ちたいと依姫は考えたのである。
 それ自体に興味があるし、かつて月にロケットでやって来た者達に対して思い残した事にも再び向き合えるだろうから。
「でしょ、だから大船に乗った気持ちで後は私に任せなさいな」
「わかりました。お願いしますね」
 こうして互いの了承は進んでいったのだ。
「じゃあね、依姫。行くわよ、レイセン
「はい」
 豊姫の呼び掛けにレイセンが答えた。
 そして二人はその場からかき消えてしまったのだ。予備動作も予兆もなく、本当に『忽然』と。
(我が姉ながら、いつ見ても凄い能力ね……)
 と、依姫は暫し呆けていた。だが、ずっとそうしている訳にもいかない。
(さて……と)
 依姫はそう心の中で呟くと、彼女にとって第二の我が家となった永遠亭へと戻っていったのだった。

◇ ◇ ◇

「お帰りなさい、依姫」
 永遠亭の中に入ると、依姫を迎えてくれる者がいた。
 容姿は銀髪を長髪にして一本のお下げにして後ろで纏め、紺と赤が基調のナース服とも中華服ともつかない珍妙な出で立ちをした人であり、この人こそが……。
「ただいま帰りました、八意様」
 そう、綿月姉妹の師である八意であったのだ。
 ちなみに下の名前は地上の住人には発音出来ないので、ここでは『永琳』と名乗っているのである。
 今は彼女は地上の住人であるため、ここからは永琳と表記する事にする。
 綿月姉妹も永琳と呼ぶべきだとは思っているのだが、永い間慣れ親しんだ呼び方である『八意様』が定着してしまっていて、『永琳様』では違和感を覚えてしまうのであった。
 だから今まで通り八意様と呼んでいたし、永琳も呼び方を変える事を無理強いはしなかった。
「貴方の部屋はもう用意してあるから、そこでゆっくりしていていいわよ」
「ありがとうございます」
 永琳の計らいに依姫はお礼を言う。
 ちなみに、永遠亭の内部はここの主の一人である蓬莱山輝夜の能力によって『中だけを』拡張でき、それに上限はないから増築し放題なのであったので、依姫一人分の部屋を新たに用意する事など造作もなかったのだ。
「それはそうと八意様。今更なんですけど……」
 ここで依姫は新たに話題を持ち出す。その顔はどこかひきつった笑みである。
「何かしら、依姫」
 永琳はその先を促す。
「八意様は月ロケットの囮の際に、最終的にスペルカード戦に落ち着く事は予想してたんですよね?」
 依姫はあの時の異変の話を持ち出したようだ。
「ええ、そうよ」
 永琳はさらりと言ってのける。
 その口振りから、あの出来事はあらかた永琳の読み通りになったようだ。
「そうですよね……」
 依姫はそう言い、一息置き、
「それなら、些か酷だったのではありませんか? 私にあの者達に対してスペルカード戦で勝ち抜く事を要求するなんて」
 と、締め括った。
 それに対して永琳は。
「あら、貴方なら出来て当然でしょ」
 そう平然と憮然として言ってのけたのだ。
「八意様、貴方ってお方は……」
 依姫はそんなふてぶてしい物言いをした永琳に暫し呆気に取られてしまうが……。
「やはり八意様には敵いませんね」
 と、微笑んで見せたのだ。
 今の永琳の発言は寛大にも取れるだろう。だが、その中に自分への信頼がある事を依姫は感じ取っての事であった。
「話はこれで済んだかしら?」
「はい、お陰様で」
「それは良かったわ、それじゃあ夕食まで部屋でゆっくりしていてね」
「ありがとうございます」
 そして依姫は第二の我が家の自分の部屋へと向かっていったのだ。

◇ ◇ ◇

 永遠亭で自分に割り当てられた部屋で、依姫は暫しの休憩だとくつろいでいた。
 そこは快適であった。月の民の地上への差別意識は未だ蔓延しているが、決して思っているような忌まわしい場所ではない事をもっと地上と触れ合い学び、そして月へと伝えていかなければいけないと依姫は想いに耽っていた。
 そんな黄昏に浸っていると、その風情をぶち破る事が起こった。部屋をノックする音が聞こえてきたのだ。
「はい」
 何事かと依姫は部屋の入り口の襖へと向かい、引き開けた。
「少しいいかしら?」
 そこには永琳がいたのだ。
「如何なさいましたか、八意様?」
 夕食まではまだ時間がある筈。依姫は疑問に思い聞いた。
「ちょっと、てゐの帰りが遅いから迎えに行って欲しいのよ」
「てゐがですか……」
因幡てゐ』永琳が今帰りを待っている存在であった。彼女は永遠亭に住み地上の兎達を束ねている妖怪兎である。
 依姫にはまだ馴染みの薄い存在であったが、これから永遠亭に関わる事を考えれば立派な『家族』である。
「分かりました」
 だから依姫は快くてゐの迎えを引き受けたのだ。
「悪いわね、私もウドンゲも他の兎達も夕食の準備で手が話せないのよ」
「お構いなく」
 ウドンゲとは嘗て依姫の元で訓練を受けた『初代レイセン』である、鈴仙・優曇華院・イナバの事である。
 そして永琳が蓬莱山輝夜の事を持ち出さなかったのを突っ込まない情けを依姫も持っていたのだ。「あのニート……」と心の中で思いながらも決して口には出さなかった。

◇ ◇ ◇

「そろそろ、てゐがいる場所かしらね」
 依姫はそう呟きながら竹林の中を練り歩いていた。
 さすがの依姫でも何も準備なしではこの竹林では迷ってしまう。なので彼女の手には『ナビゲーター』なる永琳の開発した機材があったのだ。
 この機材は現在位置を地図で表示してくれ、更に特定の人物の居場所まで指し示してくれる機能まで存在していたのだ。
「我が師ながら、存在がでたらめな物を作ってくれますね……」
 依姫は永琳の頭脳明晰っぷりに閉口するしかなかった。深く考えたら負けである。
 だが使えるのだから使うしかないと、依姫は腹を括り、その機械の示すままに歩を進めていったのだ。

◇ ◇ ◇

 そして依姫は目的の人物を見つけたのだ。
 癖っ毛の黒のショートヘアに、ナース服をアレンジしたかのようなピンクのワンピースに、頭頂部に兎の耳の生えた小柄な少女。更に付け加えると屋外にいるにも関わらず裸足。
「見つけたわよ、てゐ」
 そう、彼女こそが紛れもなくお目当ての人物『因幡てゐ』であった。
「あ、依姫ごぶさた~」
 てゐは気の抜けるような挨拶を依姫にした。
「どうしたのかしら、帰りが遅いみたいだけど」
「それがね~」
 依姫に聞かれて、てゐは参ったと言った感じで話を切り出し始めた。

◇ ◇ ◇

「つまり、貴方はその人間を人里に送る最中にはぐれてしまい、それで探していて帰りが遅かったという訳ですね」
「そういう事~」
 てゐの説明を受けて、依姫は事の詳細を把握したようだ。
「でも、どうしよ~」
 頭をかきながらてゐがぼやく。
「それなら、この『ナビゲーター』の出番ですね」
 そう言って依姫は手持ちの機械をてゐに見せる。
「その人間の事を頭に浮かべながら、この機械のこの箇所を押してみなさい」
 このナビゲーターには使い手の思考から情報を読み取ってデータに反映してしまう機能があるようだ。依姫はそれを説明していく。
「うん、だいたいわかった。これをこうして、あれを……」
 そしててゐはその人間の位置情報をナビゲーターに映し出していったのだ。

◇ ◇ ◇

「そろそろですね」
 ナビゲーターを持ちながら依姫とてゐは竹林の中を歩いていた。
「そうだね……って、あの子だ!」
 てゐは突然声をあげる。どうやら目的の人物を見つけたようだ。
 そこには人間の少女と彼女に襲い掛かろうとしている妖怪の少女の姿があったのだ。