力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第四話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第四話 野生人形】
愛宕様、私の鋼の移し身に力を授けて下さい」
 勇美はそう唱えると、愛宕様の力が彼女が作り出す機械『マックス』に取り込まれていった。
 すると、ガチャガチャと音を立ててマックスが変型を始めた。ルービックキューブのように体を構成するパーツが回転し、目まぐるしくその構造を変化させていったのだった。
 そして変型が一頻り終わるとそこには、立派な鋼の体躯のが存在していたのだ。
 それはキャタピラを持った戦車であった。だがそのボディのカラーリングは一般的な戦車のものである深緑色ではなく、マグマのように目を引く真紅色であった。
 更に戦車と違う所は、砲身が弾を撃つものではなく、大型の火炎放射機である所だった。
「いっけえ、名付けて『カグツチブラスター』!」
 そう勇美が叫ぶとマックスの砲身から轟音と共に勢いよく炎が吹き出されたのだ。
 暫し炎の息吹は続き、それを勇美と依姫は見守っていた。
「はい、そこまででいいわ」
「わ、分かりました」
 口を開いた依姫に対して勇美は答える。
「マッくん、もういいよ」
 そう勇美が自分の分身に呼びかけると、みるみるうちに炎の勢いは弱まり鎮火していったのだ。
「マッくん、今回はもう休んで。愛宕様もありがとうございました」
 勇美はそうマックスと愛宕様を労う。するとみるみるうちにその真紅の戦車は解体されていき砂のように掻き消えてしまった。
「お疲れ様でした。今日の練習はここまでです」
「ありがとうございました」
 ここは永遠亭の敷地内の大庭園。そこで勇美は依姫に神の力を借りて新たなる自分の力を使いこなす修練を行っていたのだった。

◇ ◇ ◇

「依姫様も勇美さんもお疲れ様です、お茶とお菓子を用意しておきました」
 そう言って現れたのは鈴仙であった。
「ありがとう、鈴仙
「ありがとうございます」
 それに対して二人は言葉を返し、鈴仙に案内されて庭園から休憩室へと向かっていった。
「ああ、このお饅頭おいしい~」
「エネルギーを使った後は糖分を取るのがいいですからね」
 お茶と甘味を肴に話に華を咲かせる二人。依姫のそう察した通り、勇美は先程の練習で体のエネルギーを消費していたのだ。
 勇美の操るマックスは自立した機械ではなく、勇美の肉体の一部であるから動作させるには勇美からそれだけエネルギーを拝借する事になるのだ。
 それだと動力源という話とは何かという事になるだろう。それはマックスを動作させるには勇美のエネルギーを使い、力の源には動力源が必要という訳である。
「それにしても貴方には驚かされましたよ、ここまで神の力を借りる事の上達が早いなんて」
「それは、依姫さんと神様が力を貸してくれるからこそですよ」
 勇美は謙遜半分、本音半分でそう言った。
「それでも素晴らしいわよ」
「そ、そうですか……」
 なおも依姫にそう言われて、勇美は嬉しくて照れてしまう。
「そう、もっと自分に自信を持ちなさい」
 依姫はそう締め括った。『自信を持つ事』その言葉は勇美だけでなく、改めて自分にも言い聞かせていたのだ。姉と師の存在に加えて、その心掛けがあったからこそ今の自分があるからだ。
 依姫がそんな思いを馳せながらも、二人の憩いの一時は終わりを迎える。
「お茶とお饅頭、ご馳走様でした」
「ふふっ、今度それを鈴仙に伝えておくわね」
 依姫は嬉しそうに言った。
 そして、後片付けとなる所で近くで声がした。
「こんにちはー、永琳はいるー?」
 それは勇美にとって聞き覚えのない声であった。当然彼女は疑問に思う。
「依姫さん、誰の声ですか?」
「そういえば説明していなかったわね。私も余り会う機会がなかったからね」
 依姫がそう言う間に、その声の主は側まで来ていたのだ。
「えいりーん? って、あなたは確か?」
 そう言ってとうとうその人物は依姫と勇美の前まで現れていたのだ。
「あなたは永琳の元お弟子さんでしたっけ? 噂は聞いているわよ。月では霊夢魔理沙達に弾幕ごっこで勝ち抜いたって」
「ぶふぅ~」
 驚きの余り勇美は吹き出してしまった。丁度お茶を全て飲み終えたところで良かっただろう。でなければ見事に漫画の如く噴出していただろうから。
「勇美、女の子がはしたないわよ」
「すびばせん……」
 だが、十分に年頃の少女としてみっともない醜態は晒してしまったのだ。見事に依姫に注意される勇美。
「でも、驚くのも無理はないってものですよ。あの霊夢さんや魔理沙さんに勝ったって!」
 勇美とて、霊夢魔理沙の幻想郷での影響力というものは十分に認知しているのだ。だから驚きは隠せなかったのだ。
 依姫の実力はルーミアとの戦いの時に垣間見たつもりであった。だが、それは氷山の一角に過ぎなかったというのか。もしかしなくても、自分はとんでもない人に見初められてしまったのではないのか。
「どうやら大それた事のようね」
 依姫はそう言った。ここで『大した事はない』と言っては霊夢達に失礼に当たるし、何より下手な謙遜はしないのが彼女の流儀だからだ。
「本当に私で良かったんですか?」
 そんな話になっては、勇美の一旦は括った腹がここに来て再び緩みかけてしまう。
「言ったでしょ。貴方は力を必要としているし、私も貴方が神の力をどう使っていくのか見届けたいって」
「はい、そうですよね。済みません、しつこくしてしまって……」
 だが依姫に改めて言われて、勇美は緩んだ腹を再び括り直すのだった。
「あのさー、二人で話が盛り上がっている所悪いけどさー、私の事忘れてない?」
 そこでようやく、この場の三人目の者から声が掛かってきた。
「あ、ごめんなさいね。勇美、紹介するわ」
 依姫はここに来て第三者に話題を持っていった。
「この子はメディスン・メランコリー。人形の付喪神(つくもがみ)よ」
「お人形さんですか?」
 そう言って付喪神──メディスンへと視線を向けた勇美の表情はみるみるうちに綻んでいった。
 その理由は、彼女の容姿がゴシック・ロリータ、通称ゴスロリと称されるような可憐なものであり、金髪に黒いリボンまであしらわれ、体も勇美よりも幼い少女に見えるものであったからだ。元が人形なだけあり、球体関節が剥き出しである事に目をつむれば……。
「かわいい~♪」
 という反応を勇美にさせるには十分なポテンシャルを秘めていたという訳である。
 そして問題だったのが、勇美がその感情に忠実に行動を起こしてしまっていたという事だ。メディスンを抱きしめるという形で。
「な、何なのこの人間!? こら、やめんか~!」
 突然降り掛かった災難に、メディスンはもがくしかなかった。
「あ、勇美、悪い事は言わないわ。やめなさい」
 依姫はバツが悪そうな表情で勇美に呼びかけた。
「依姫さん? なんで……」
 勇美はそう言おうとした所で、異変を感じた。
「あ、何か体がだるぃ……」
 そう言ってメディスンから離れてその場でへなへなとへたばってしまう勇美。その様子をメディスンと依姫は「やれやれ」と言った風にアイコンタクトをとった後、互いに溜息を吐いたのだった。

◇ ◇ ◇

伊豆能売よ、この者の毒を清めたまえ」
 依姫の側には世にも珍しい、巫女の姿をした神が顕現し、両手を翳して勇美に何か不可視の波動を送っていた。
「ああ、だいぶ楽になってきました~」
 横になりながら伊豆能売の力で治療を受けていた勇美は、顔色も良くなってきていた。
「馬鹿な人間ねぇ~」
 呆れながらメディスンは頭を掻いて言った。
「そう言われても聞いてませんよ、メディスンちゃんが『毒を操る程度の能力』を持った毒人形だったなんて~」
 そう、それが勇美が倒れ込んだ原因であったのだ。メディスン・メランコリーは鈴蘭畑でそれの毒に当てられながら妖怪化した人形なのだ。
「話も聞かないでいきなり初対面の相手に抱きつくあんたが悪い」
「う~っ」
 メディスンに世知辛い指摘を受けて勇美はうなだれる。
「依姫さん、何なんですかこの子は? ちょっと態度が辛辣ではありませんか?」
 勇美はぷっくりと頬を膨らませながら、直接関係ない依姫に抗議した。
「……貴方には事情を説明してもいいかしらね。メディスン、いいかしら?」
「構わないわ。寧ろ知ってもらうべきよ」
 メディスンの承諾を受けて、依姫は説明を始めた。
 それは、メディスンが人形から妖怪化するに至った経緯が、人間に鈴蘭畑に捨てられたというものであった。
 それで人間に復讐すべく『人形解放』を目論んでいる事も。だがそれを幻想郷の閻魔に『あなたは視野が狭い』と指摘された後に、人間に近い性質である永琳と友好を結び、度々永遠亭を訪れては永琳に実験のために鈴蘭の毒を渡す仲になり、丁度今日そのために永遠亭に来た事も。
 そこまでの話を勇美は真摯に受け止めていた。そして説明を受け終わると暫しの間の後に口を開いた。
「ごめんね、メディスンちゃん。そんな事情があったなんて」
「分かればよろしい」
 そんな勇美に対してメディスンは憮然とした態度を取るが、先程よりもその態度が柔らかいものになっていた。
 そして、勇美は続ける。
「私は人間だから、さすがに人形解放は応援出来ないけど、復讐心を持つななんて言わないよ」
 復讐心を抱くに至った苦しみは、本人にしか分からないからと勇美は付け加えた。
 勇美のその言葉にメディスンは面喰らってしまっていた。
「あんた、変わった事言うのね。大体の場合は『復讐なんてやめて』と言われると相場が決まっているのに」
「それはね……」
 そこで勇美は自分の家庭環境について話し始めた。
 今幻想郷の外にいる彼女の母親は支配型の人間で、勇美を自分の付属品として見ている事を。
 更に悪条件として、その母親には多大なるカリスマ性が備わっていて、彼女の周りの大人の多くは彼女に心腹してしまっており、彼等もまた勇美を母親の付属品として見ているのだ。
 勿論建前として母親や彼女の取り巻きは、『勇美のためを思っている』とか『本人の意見を尊重する』という名目を掲げるという徹底っぷりである。
 そんな本当の愛を注がれない環境では勇美に悪影響を与えているであろう。そして、その悪影響は人間に愛情を受けられずに捨てられたメディスンと似通うものとなるだろう。
「だから、私はメディスンちゃんの事ちゃんと分かってあげないといけないと思うんだ」
「あんた……」
 そんな勇美の話をメディスンは真摯に聞き入っていた。人間も自分が味わったような苦しみに晒される者もいるのだと。そう、彼女は視野を広く持たないといけないと自分に言い聞かせていた。
『分かち合い』とは互いに自分の主張を聞き入らせるエゴである場合が多い。だが今の勇美とメディスンは互いの境遇を言い合った事で、共感の心が芽生え始めていたのだ。
「そうだ!」
 そんな中、勇美は突然声をあげた。
「どうしたのよ?」
 新しい友達となりつつある人間の突然の声にメディスンは聞き返す。
メディスンちゃん、私と弾幕ごっこしてよ」
「それはいい考えね。そろそろ貴方は戦ってみる相手が必要だと思っていた所よ」
 勇美の発案に、依姫も賛同する。初めての弾幕ごっこの相手が、新しく出来た友達であるならこの上ない好条件だろう。
 提案を受けたメディスンは暫し呆けていたが、頭の整理がついてくると口を開いた。
「分かったわ。私もあんたとなら楽しく弾幕ごっこが出来るかもと思ってた所よ」
「ありがとう~」
 互いの意見が一致した二人と依姫は、永遠亭の大庭園へと歩を進めていった。
 これが勇美の弾幕ごっこのデビュー戦となるのだ。