雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第六話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第六話 毒VS鋼:後編】
 勇美にとっての初の弾幕ごっこ。それは『エルメスの靴』の力を発揮したマックスによって彼女の優勢に進んでいたのだ。
 だが、先程までメディスンを翻弄し多大な活躍をしていたマックスがショートを起こしていた。
 一体何が!? 勇美はそう思ってマックスを隅々まで見た。すると、いつの間にか彼の体に深々と刀身が真っ黒に塗られたナイフが刺さっていた。
 そしてマックスはその場で支えを失ったかのように倒れ込むと、地面に激突して派手に金属の破片を撒き散らして砕けたのだ。
「うっ……」
 更に自分の分身を解体された事により、勇美本人にもダメージがフィードバックされた。
「一体何が……?」
 ダメージに耐えつつも、状況が飲めず疑問を口にする勇美。
「【暗殺「デスポイズン」】……」
 メディスンが戦慄する勇美に答えるように、スペル名を言ってのけた。
「最近編み出したばかりのスペルだから、後に取っておきたかったんだけどね。あんな攻撃するような奴に出し惜しみは出来ないからね」
 メディスンは微笑を浮かべながら淡々と言う。
「マッくんに何をしたの……?」
「このデスポイズンはね、ナイフ型の毒を生成するスペルなのよ。そして刺さった相手は『命を奪われる』事になる、文字通り『死の毒』よ」
「な、なんですってー!?」
「はいはい、落ち着いて。そんな地球外勢力に立ち向かう漫画みたいなあからさまに大げさなリアクションしないで」
 折角格好良くスペルの説明を決めようと思っていた矢先に、勇美に水を指されてやるせない気分にメディスンは陥っていた。これじゃあ、憂鬱になってるのは私じゃないのよと心の中で自虐していた。
「安心しなさい、これは生き物の命を奪いえるような毒ではないから。だけど、生き物じゃない物の命は刺さったらそこで終わるから気を付けるようにね」
「つまり、物に刺せばそれだけで壊す事が出来るって事?」
「平たく言えばその通りね」
「……厄介だね」
 勇美は顔に冷や汗を浮かべて、正直に驚異である事を打ち明けた。
 それを見ていた永琳は感心していた。
「驚いたわね、あんなスペルは今まで見た事がなかったわ。うん、腕を上げたのね」
 しみじみと感慨深く呟く永琳。
「だけど、それは同時に勇美ちゃんにとって運が悪かったって事ね。さて、ここからどう切り抜けて見せるのかしらね?」

◇ ◇ ◇

「さあ、さっきの厄介なダチョウもやっつけた事だし、このまま攻めさせてもらうわよ!」
 再び自分のペースに引き込んだメディスンは、興に乗っていた。そして勢いよく息を吸い込み始めた。
「【毒符「ポイズンブレス」】!」
 新たなるスペルの宣言をするメディスン。それに続いて先程吸い込んだ息を少しずつ吐き出したのだ。
 すると彼女の口から毒が勢いよく噴射され始めた。そしてその勢いは留まる様子はなかった。
「うわっ!」
 当然その光景に勇美はうわずった声を出して驚いてしまう。そんな最中にも容赦なく毒の息は濁流の如く彼女に迫っていたのだ。
(どうすれば……?)
 絶体絶命の勇美。だがそこで、自分に新たな道標を与えてくれた依姫の事を思い起こしてみた。
(こんな時、依姫さんならどうする……? そうだ!)
 勇美はそこで何か妙案を思いついたようだ。
石凝姥命よ、やたの鏡の力を私に貸して下さい!」
「!?」
 これには依姫は驚いた。自分が力を使った石凝姥命をこのタイミングで勇美も借りるのかと。
「何をする気!?」
「マーキュリー様よ、やたの鏡の力を受けて、新たなる加護を見せて下さい!」
 勇美はメディスンの質問には直接答えずに唱えた。
「【水鏡「ウォーターベール」】!!」
 その勇美の宣言に続き、彼女の周りに水の膜のドームが現出したのだ。
 そしてメディスンのポイズンブレスがそこに当たった。
「そんなチャチな膜、このポイズンブレスが破ってあげるわよ!」
 意気込むメディスン。だが一行にポイズンブレスはその水の盾を突破する事はなかったのだ。
 ぶよぶよとスライムのように変幻自在に毒を受け止め、主である勇美の元へは断じて行かせまいとしているかのようであった。
「くっ、打ち止めね……」
 そして、とうとう毒の流動は止まった。勇美と彼女が借りた二柱の神の力がこの我慢比べに勝ったのだ。
「やったー、持ちこたえたよ。石凝姥命、やたの鏡の力ありがとうございました」
 勇美は危機を乗り切らせてくれた石凝姥命を労い送還した。
「神の力の複合……驚いたわね」
 勇美の奮闘を見守っていた依姫は目を見張っていた。確かに自分も神の力を同時に借りる事は出来る。だが、それを勇美が初の弾幕ごっっこでやってのけ、更に自分流に力の使い方をアレンジした、その事に依姫は驚きを隠せないのだった。
 そして、勇美を守っていた水のバリアは役目を終えたと言わんばかりに溶けるように掻き消えていったのだ。
「これで、ドローだね」
「そうね」
 お互い猛攻を阻止し合って、勝負は振り出しに戻ったのだ。両者ともダメージを受けている事を考慮してでもある。
「じゃあ、次は私から行くね!」
 そう宣言したのは勇美であった。そして呪文を唱え始めた。
「マーキュリー様、私に水のように変幻自在な刃を貸して下さい」
 勇美が言い終わると、彼女の手から液体が吹き出し始めたのだ。それも鮮やかな銀色をしたものが。
 それは飴細工のようにどんどん引き延ばされていくと、勇美の手に刀の形になって握られていたのである。
「【曲符「水銀刀」】……」
 そして勇美は自分が作り出した武器の名称を言った。
「刀……ね」
 その得物を見ながらメディスンは呟いた。どこか気の毒そうに。
「いい刀だと思うけどね、人間のあんたには持て余す代物じゃないかしら?」
 それがメディスンの見解だった。いくら精度の高い得物があろうとも、使うのが人間、それも妖怪退治のような訓練を受けていない者が使えば宝の持ち腐れだろうと。
 だが、勇美とてその事は百も承知だったのだ。何しろその事で今まで苦汁をなめてきたのだから。
「分かってるよ、私にはお侍さんのように格好良く普通に刀を振り回す事なんて出来ないのは」
 どこか憂いを含んだ表情で勇美は言う。
「だから、私は私のやり方でやらせてもらうよ!」
 高らかに言った後、勇美は大きく手に持った刀を振りかぶった。するとその刀身は鞭のようにしなり、長く伸びたではないか。
「食らいなさい!」
 勇美はそう叫ぶと、その刃の蛇をメディスン目掛けて打ち下ろしたのだ。
「!!」
 予想をしていなかった刀──と、もはや呼べる代物ではない──の軌道にメディスンは翻弄され、その攻撃を許してしまった。
「きゃあっ!」
 刃に斬り付けられ、メディスンは悲鳴をあげた。
「それそれそれー!」
 勢いづいた勇美は、その化け物刀を水を出して放置したホースのように巧みに暴れさせていった。
 そして、その刃は何度もメディスンの体を斬り付けていく。
「それそれー、どう? おばかさぁ~ん?」
「勇美……字が違うわよ……」
 調子づく勇美に対して、依姫は呆れてしまっていた。それだと寧ろ相手の方が人形だ等とどうでもいい突っ込みが脳内で再生されてしまうのだった。
「あ、ちょっと一休み」
 液体金属の鞭を暴れさせていた勇美は、ここで疲労を感じたのだ。やはり人間には肉体に限界があるのである。得物を持った手を引くと、みるみるうちに伸びきった刀身は縮まり元の刀の形を取ったのだ。
「助かったぁ……」
 弄ばれていたメディスンは、嵐のような猛攻が止みほっと一息ついた。
「うん、疲れたからね……」
 勇美はやや呼吸を乱しながら呟いた。
「無理はしない方がいいよ」
 そんな勇美に対してメディスンも優しく言う。しかし……。
「あんたが攻撃の手を休めたのが命取りだよ♪」
 にんまりと満面の笑みを浮かべながらメディスンはのたまった。
「ですよね~」
 当然こういう事態が来るものだと、勇美は心の中で嘆くしかなかったのだ。
 そんな勇美の心境に構わず、メディスンは口を開いた。
「まずは、さっきの『デスポイズン』ね」
 メディスンはスペル宣言すると、彼女の右手に髑髏の紋様が浮かんだと思うと、そこには先程の黒塗りのナイフが握られていたのだ。
「うわあ出た……」
「そんな露骨に嫌な顔をしなくても……」
 メディスンにそう言われても勇美は、嫌なものは嫌なのであった。『物の命』を奪うその毒のナイフは、機械という物を使役して戦う彼女にとって生理的な嫌悪すら与えるのだ。
「でも、この水銀刀に刺すのは難しいんじゃない?」
 冷静さを少し取り戻した勇美は、そう指摘した。確かに刃に刃を刺すのは至難の技だろう。
「残念ね、今度はこのデスポイズンだけじゃないわ」
 その言葉に続けてメディスンは説明をし始める。
「これから使うスペルはね、相手を狂わせるのが主な使い方なんだけどね、あんたとのこの勝負にはしつこく相手を蝕む形では毒は使わないって決めてるからね。
 『自分を興奮状態にする』ために使わせてもらうわよ」
 そう断ってから、メディスンはスペル宣言をした。
「【譫妄「イントゥデリリウム」】!」
 メディスンがそのスペルを宣言すると、彼女の左手にコーラのような外見の液体が入った瓶が現出した。
「うわあ、美味しそう。私もそれ飲みたい~」
 初のスペルカード戦で喉も乾いていたのだろう。勇美はコーラは体に余り良くないとは思いつつも、肉体が欲しがってしまうのだった。
「だから、あんたに飲ませちゃこの弾幕ごっこの流儀に反するんだって」
 メディスンは首をぶんぶんと横に振って言った。
「う~、ケチぃ~」
「ケチとか言うな、人聞きの悪い」
 やたら絡んでくる勇美に対して、メディスンはあしらうのが億劫になってくる。そこで至った結論は。
「飲んでしまえばこっちのものでしょ」
 単純な理論であった。それを実行するためにメディスンは瓶の蓋を外して一気に飲み始めたのだ。
 ごくごくと喉を鳴らして飲むその様は見応えがある位だ。いささかメディスンのような見た目幼い少女には不釣合ではあるが。
「抜け駆けは許さないよメディスンちゃん……って」
 まだ諦めの悪さを見せる勇美であったが、ようやく異変に気付いたようだ。
 体から得体の知れない気迫とオーラを醸し出しながら、メディスンは息を荒げていた。そして豹変した彼女は口を開く。
「オクレ兄さーん!!」
 ヤバい薬であったようだ。勇美は断じて飲まなくてよかったと運命に感謝したのだ。彼女はレミリアとは面識がないが、それに感謝せずにはいられなかった。
「ヒヒヒヒヒフフフフフフフあんた」
 勇美は戦慄した。メディスンの発する言葉が、もはや意味を成していなかったからである。そしてメディスンは黒塗りのナイフを片手に勇美目掛けて突っ込んで来たのだ。
「うわあ、来た!」
 勇美は更におののく。今までメディスンは毒を使っての遠距離攻撃に徹していたからだ。それが今自分の体を使って迫って来るではないか。
「ハアアッ!」
 そして掛け声と共にメディスンの手に握られたナイフ──デスポイズンが振り下ろされた。
 いくら生き物の命は奪わないものであろうとも、れっきとした得物である。これで斬られたらダメージは免れないだろう。
「くっ!」
 迷わず勇美は水銀刀を再び鞭のようにしならせ、その攻撃を弾いたのだ。
「シャアアッ!」
 だが暴走状態となったメディスンはそれで止まる事はなかった。怯む事なく第二撃が放たれる。
 しかし、勇美もめげる事はなかった。彼女も銀色の蛇の刃を巧みに捌き、黒い刃との打ち合いを何度も行っていった。
 ホームランのような小気味良い音が続けて奏でられていった。だがそれも終わりを迎える事となる。
 キィィンと一際甲高い音が鳴ったかと思うと、メディスンからデスポイズンが弾かれ手から離れたのだ。
「やった……」
 勇美はその手応えに思わず呟いた。しかし。
「あれっ……?」
 勇美の手により暴れていた水銀刀が砂のようにパラパラと崩れていくではないか。見ればメディスンの手から離れたデスポイズンが巧みにそれに刺さっていたのだ。
 そして水銀刀は完全に砂と化してしまったのだ。すると支えの無くなったデスポイズンは地面に落ちると、自分の役割は終わったと言わんばかりにぶくぶくと泡を吐き出しながら溶けてしまった。
「相討ちみたいね……」
 その声はメディスンのものだった。
メディスンちゃん、元に戻ったんだねぇ~」
 思わず嬉し泣きする勇美。
「……何も泣く事はないでしょ?」
「だって怖かったんだもん」
 呆れるメディスンに対して勇美は反論する。
(イントゥデリリウムを自分に使ってどうなっているか自分で確認した事ないけど、そんなに怖いのかな……)
 少し反省するメディスン。
「だけど、これで仕切り直しには違いないよね」
「うん、そうだね」
 その事を互いに確認し合う二人。
「私のスペルも残り一つだし、あんたも体力は限界だろうし、多分次で最後になるわね」
「……そうだね」
 メディスンに指摘されて、勇美はその通りだと痛感した。刃の鞭は刀を振るうよりは力が要らないものの体力を使う事には変わりなかったし、自分の分身であるそれを破壊された事でダメージも負ったのだから。
「だけど、確実に後がない私から行かせてもらうからね!」
 そう言ってメディスンは両手を広げて予備動作を行った。
「【霧符「ガシングガーデン」】!!」
 そしてメディスンのこの勝負最後のスペルが宣言されたのだ。
 するとメディスンの体から毒の霧がジェット噴射のように吹き出してきた。
「凄い……」
 その目を引く光景に呆気に取られる勇美。
「驚くのはまだ早いよ!」
 そう言うメディスンの体からは、更に止めどなく毒霧が溢れ出していったのだ。
 そして気付けば大庭園が丸ごと、悪趣味な色の霧に覆い尽くされていた。
「この毒で私をなぶる気でしょ! エロ同人みたいに!」
「いや、そんな同人漫画余りないって……」
 毒霧を出し終えたメディスンだが、疲労感の原因はそれだけではない事を頭を痛めながら噛み締めるしかなかった。
「安心しなさい、今回はあんたを蝕むように毒は使わないって何度も言ってるでしょ」
「それなら安心だね」
 メディスンに諭されて、勇美はペロっと舌を出して茶目っ気を出して言った。
「本当に安心していいのかな?」
 不敵な笑みをたたえながらメディスンは言う。
「それってどういう……」
「周りを良く見てみなさいよ」
 言い終える前にメディスンに指摘されて漸く勇美は気付き、はっと息を飲んだ。
 周囲は不気味な霧で覆われて、ほとんど視界が通らなくなっていたのだ。
「周りが見えない……」
「どう、気付いた? これであんたは動き回るのは困難になったって事よ」
 憮然とした態度でメディスンは言う。だが勇美はここである事に気付いた。
「でも、これじゃあメディスンちゃんも辺りを見回せないんじゃないの?」
 これは好機かと思って勇美は言った。だが現実はそこまで甘くはなかったようだ。
「残念ね。この霧は私の力で作っているのよ。問題なく私はこの中で動けるわ」
「ですよね~」
 抜け道を見つけたと思ったら、あっさりそれを潰されて勇美はうなだれた。
「じゃあ、行かせてもらおうかしら?」
 そう言ってメディスンが臨戦態勢に入ったのが、姿が見えなくなっていても分かった。
(どうすれば……?)
 視界を塞がれ標的にされた勇美は焦り始めた。
「勇美、落ち着きなさい」
 そこに目の前の敵であるメディスンとは違う声が掛かる。
「依姫さん……?」
 勇美は呟く。そう、彼女の言葉が示す通り、声の主は依姫からのものだった。
「あなたには八百万の神の力がついているのよ。だから落ち着いて対処すれば解決出来るわ」
「……」
 依姫の言葉に勇美は聞きいった。その最中、依姫は今の自分の行為は神聖な勝負において些か邪道であるなと思っていた。
 だが、勇美にとって初の弾幕ごっこなのだ。これ位の支えを与えても罰は当たらないだろう。それに最後に解決するのは神の力を借りた勇美自身なのだから。
「ありがとうございます、依姫さん。お陰で落ち着けました」
 そして当人の勇美も調子を取り戻していったようだ。
「この霧を吹き飛ばせでもしたら……そうだ!」
 勇美は妙案を思い付いたようだ。後はそれを実行に移すだけである。
「風神様、私に力を!」
 そう勇美が呼び掛けると、大袋を持った青い肌を持つ鬼の神が現出し、そしてかき消えた。
 そして勇美の側の中空に湧き出る機械の塊。それがメキメキと音を立てながら次々に体のパーツを増やしていき、徐々にその姿を明らかにしていったのだ。
 それが終わり完成したのは……。
「扇風機……?」
 思わずメディスンが呟いた。その言葉通りその機械は扇風機のようであった。
 しかし、その規模は家庭用の扇風機と比べて一回り大きく、言うなれば業務用の送風機さながらである。
「じゃあ行くよ」
 そして勇美は風神の力を取り込んだマックスに頭の中で司令を送った。
 そして、思い描いたスペル名を口に出す。
「【空符「倒し難き者の竜巻」】!!」
 勇美のスペル宣言を皮切りに、その送風機は徐々にファンを回し始めた。
 回転はどんどん速くなっていき、ブゥーンという重厚な音を奏でていったのだ。
(まずいっ!)
 そのただならぬ力量ひメディスンは危機的なものを感じた。そして行動に出る。
「その扇風機、壊させてもらうわよ! 『デスポイズン』!」
 そう宣言し、この戦いで何度も活躍している『物殺しのナイフ』を手に持ち、メディスンはマックス目掛けて飛び掛かった。
「残念、壊しに掛かるのが一足遅かったみたいだね。マッくん、頼むよ」
 勇美がマックスに司令を出すと、彼はその体をメディスンに向けたのだ。
「!!」
 そして飛び掛かって来たメディスン目掛けて──大規模な送風が浴びせられた。
「きゃあああっ!!」
 風の猛攻を受けてメディスンは悲鳴をあげながら吹き飛ばされてしまった。そしてしたたかに地面に体をぶつけてしまう。
「まだまだいくよぉ~。マッくん、この厄介な霧を吹き飛ばしちゃって~!」
 マックスはまるで『承った』と言ったかのような雰囲気を醸し出した後、送風量を更に高めたのだ。
 すると、その風は小型の竜巻位になった。小型といえども庭園で起こすには十分に大規模なものであったのだ。
 その竜巻にガシングガーデンで生み出した毒霧は余す事なく取り込まれてしまった。そして霧の薄暗さはなくなり、竜巻により辺りの視界は乱れていた。
「もういいかな? マッくん、ありがとう」
 勇美の言葉を受けるとマックスは徐々にファンを回す速度を緩め、送風を止めていったのだ。
 すると段々竜巻は止み、辺りはすっきり晴れ渡った庭園が見渡せるようになったのである。
「マッくん、戻っていいよ。風神様、ありがとうございました」
 勇美がそう言うとマックスから神の気配が抜け落ち、彼の体がパーツに分解されてかき消えたのだ。
「さて……」
 そして勇美はメディスンに向き直り、彼女に呼び掛けた。
「まだ弾幕ごっこ続ける?」
 あぐらをかいてどこか不貞腐れたような振る舞いをしていたメディスンは、その言葉を聞くと憑き物が落ちたように爽やかな表情となり、
「いいや、完敗。私の負け」
 と言い切ったのだった。余談だが「何回やっても何回やっても」毒霧は吹き飛ばされるから無意味という台詞付きであった。
「やった、勝った~♪」
 初の弾幕ごっこ勝利に勇美は歓喜したのであった。