力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第七話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第七話 探求の心】
 黒銀勇美の初の弾幕ごっこは、彼女の勝利という形で幕を閉じたのだった。
 その喜びに、盛大にはしゃぐ勇美。
 いかなる時も初陣を勝利で飾れるとは限らないのだ。だから、今回の勇美の勝利は彼女にとって大きなプラスとなるだろう。
 だが、いつまでも一人で喜んではいられないだろう。勇美は興奮を段々押さえていくと、視線を自分と戦ってくれた相手──メディスンに向けたのだ。
メディスンちゃん、私と弾幕ごっこしてくれてありがとうね。いい戦いだったよ」
 そう、自分の勝利にばかり浮かれるのではなく、向き合ってくれた相手を労う事も忘れてはいけないだろう。
 言われてメディスンも笑顔になり、
「どう、初勝利の味は? 『勇美』?」
 と、勇美の奮闘を称えるのであった。
 自分との戦いで負けた相手が褒めてくれて勇美は嬉しくなった。更に彼女は『それ』を聞き逃しはしなかったのだ。
メディスンちゃ~ん、やっと私を名前で呼んでくれたんだねぇ~♪」
 勇美はそう舞い上がり、気付けばメディスンに抱きついていたのだった。
「初勝利、最高だよぉ~♪ ……ってあれ?」
 ばたん。そしてまたメディスンの毒を体に受けて倒れるという、ギャグ漫画の王道のような『お約束』をかます勇美であった。

◇ ◇ ◇

伊豆能売よ……はい、またなんですよね、頼みます」
 前回のように伊豆能売を呼び出し、彼女の力で勇美の毒を浄化していく依姫。そして、それにより勇美は顔色が良くなり目を覚ましていった。
「あっ、おはよう……」
 寝ぼけ眼で勇美が目覚め、そして状況を把握した。
「依姫さん、伊豆能売様、手間かけさせてすみません……」
 苦笑いで取り繕う勇美。それに対して依姫は、溜息を吐きながらも言った。
「全く……。でも最初の弾幕ごっこを勝利で飾ったのですから、少し浮かれても多めに見ましょう」
「ありがとうございます……」
 依姫に言われて、苦笑いだった勇美も表情が柔らかくなる。
「勇美もお目覚めみたいだし、私は鈴蘭畑に帰るわね」
メディスンちゃん……?)
 もしかして、私が眠っている間中ずっと側にいてくれたの? 勇美はそう思ったが口には出さなかった。
 軽く憎まれ口を叩かれ誤魔化されるのがオチだからであった。俗に言う『ツンデレ』という概念である。
「じゃあね、二人とも」
 そしてメディスンは永遠亭を後にして帰路に着いたのだった。
「それでは私も用がありますから、勇美はしばらくここでゆっくりしているといいわ。疲れたでしょうから」
 依姫もそう言って休憩室を後にした。
(……)
 その様子を勇美は何か思う所があるように、じっと見つめて見送ったのだった。

◇ ◇ ◇

 そして休憩室に残った勇美は、疲れた体を休めながらひたすら時間を貪っていた。
「う~ん、平和~♪」
 楽しく弾幕ごっこをやるのもいいが、何事もなく過ぎる時間もたしなむ程なら心地良いものである。そう勇美は思った。
「あ、勇美ちゃん調子はどう~?」
 そこに誰かがやって来た。
「あ、八意先生」
「勇美ちゃん、私の事そんな呼び方するの……?」
 まるで魔人探偵のパートナーと殺せない教師を足したみたいで、これどうなのと思う永琳だった。作者が同じだからってそれはないだろうとも。
「永琳でいいのよ」
「いえ、依姫さんが八意様って呼んでいるのに影響されてしまいましてね……」
「そう、なら仕方ないわね」
 どうやら永琳の方が折れる事にしたようだ。依姫は勇美に新たな道を与えた者である事は彼女も承知だから、彼女を慕う勇美の事を考えての事である。
「それで、体の方はどうかしら?」
 気持ちを切り替えて、改めて永琳は勇美に聞いた。
「はい、毒の方も疲れの方もバッチリ抜けました」
 ニカッと爽やかな笑みの元、勇美は返した。
「そう、それは良かったわ。医者として気になっていたからね」
「お気遣いありがとうございます」
 そうやり取りをした後、永琳は手に盆ごと持っていたものをテーブルに置く。
「喉渇いたでしょう、良かったらアイスティー飲んで」
「いいっすねぇ~」
 タメ口? 永琳は思った。しかもこの台詞をいったので更なる嫌な予感が彼女を襲っていた。
睡眠薬は入っていませんよね?」
 やっぱり来やがった。いくら自分が薬に精通しているからって、疲労困憊の子に睡眠薬を盛ってたまるか。しかも自分には同性愛の気はない。
「そういう事言うなら飲まなくていいわよ」
「いえ、丁度飲み物欲しかった所なので、ありがたく頂かせてもらいます」
 冗談めかして言う永琳に対して、勇美は少し焦りながらアイスティーの入ったコップを持つと、美味しそうに飲み始めた。
「正直な子で可愛いわね」
「ちゃ、茶化さないで下さい……」
 アイスティーを飲みながら顔を赤くして縮こまる勇美のその様相は、さながら小動物のようであった。
 その最中、勇美は思っていた。さすがは依姫さんのお師匠様だと。あらゆる面でこの人には勝てないと、まだ未熟な感性ながらも彼女は察するのだった。
 そして勇美はアイスティーを飲み終わる。
「ぷは~、ごちそう様でした~」
 喉を潤し、火照った体を程よくクールダウンした勇美は満足気に言った。
「ふふっ、お粗末様」
 その様子に永琳も気分が良くなったようだ。
「それじゃあね、勇美ちゃん。私はこれで……」
「あ、待って下さい八意先生」
 永琳も退室しようとなった時、勇美は咄嗟に彼女を呼び止めたのだ。
「どうしたのかしら?」
 引き止められて気を悪くした様子もなく、永琳は笑顔で勇美に答える。
「あの……」
 勇美は永琳を呼び止めたはいいが、その先の台詞を紡いでいいか暫し迷ってしまった。それは本当に聞いていい事なのか不安があるからだ。
「何? 構わないで言ってごらんなさい」
「あ、はい……」
 しかし、もう永琳を呼び止めてしまったのだ。だからもう後には引けない、勇美は意を決してその言葉を口にした。
「八意先生、依姫さんってどんな人なんですか?」
「……」
 勇美の言葉を聞いて永琳は暫しその内容を脳で受け止め、そして答えを紡ぎ出した。
「それは、彼女が勇美ちゃんへの接し方そのもので分かるんじゃないかしら?」
 にっこりと微笑み永琳は言う。あなたと依姫は良好な関係を持ち始めた、それが答えなんじゃないかと。
 だが、勇美が聞きたい要点はそれではなかったのだ。
「はい、私に依姫さんはとても良くしてくれます。でも、私が聞きたいのは依姫さんが他の人にどう接しているかという事なんです」
 勇美のその言葉全てを聞き終えた永琳は朗らかな表情を保ちながらも、疑問を浮かべたものとなっていた。
「どうしてそういう事を聞くのかしら?」
「それは……」
 永琳に言われ、勇美はその質問に至った理由を話し始めていった。
 それは勇美の家庭とその周辺の環境にあった。前に勇美が話した通り、彼女の母親は高いカリスマ性を有し我が子を自分の一部のように扱う支配型の人間であり、その母親の周りの人間も母親に心服してしまっているのだ。
 支配型の人間。それは我が子のような自分の一部に対して傍若無人に接する一方で、外部の人間にはとても紳士的で物腰柔らかく包み込むような対応をするのである。
 その対応に大衆は陶酔してしまうのである。いくら我が子には辛辣に接しようと自分には親切に接してくれる為、その面のみがその人間の本質だと人は思うのだ。夏目漱石の文学作品『こころ』では女性は公平な愛よりも自分にひいきした愛を喜ぶという旨の表記があるが、それはどちらかというと女性に多いという事で実際は男女問わず抱く感情なのである。
 閑話休題。それ故に勇美は心に決めているのだ。いくら自分に親切にされようとも、周りの人間には辛くあたるような人には関わりはしまいと。それが勇美が母親とその取り巻きから反面教師の形で学んだ信条なのだ。
 その勇美の主張を、永琳は真摯に受け止めていた。
「分かったわ、勇美ちゃんの気持ち」
「ありがとうございます」
 話を抜かりなく聞いてもらえた上に笑顔で返されて、勇美は目頭が熱くなるのが分かるのだった。
「疑心暗鬼ですみません。依姫さんは私の母親のように二面性のある人だとは思わないのですが、念を入れたくて」
「いいのよ、人を安易に信じちゃいけないからね」
 そう言う永琳であったが表情は複雑であった。勇美の心掛けを評価しつつも、元自分の弟子である依姫に対して懐疑的にされるのは心地よいものではないだろう。
「でも、私が直接話すよりも、手っ取り早い方法があるわ」
 そう言って永琳は懐から何かを取り出した。
「?」
 勇美は首を傾げてそれを見ると、それは何かのディスクであった。
 何だろう? 勇美の疑問は尽きない。
「八意先生、これは何ですか?」
「これはね……」
 勿体ぶっていう永琳の表情はその大人びた風貌に不釣り合いな、悪戯っ子のようなものになっていた。
「依姫が月で霊夢達と戦った時の映像よ」
「ぶーっ」
 その言葉に驚愕した勇美は派手に吹き出してしまった。例によって飲み物であるアイスティーは飲み終えた状態だったので幸い大事には至らなかったようだ。
「勇美ちゃん、女の子がはしたないわよ」
「すびばせん」
 さっきマックスに神を降ろす修練をした後の休憩の時と、言われた事まで同じじゃないかと勇美は思うしかなかった。
「それにしても、どうしてそんな物を持っているのですか?」
「ふふっ、月の頭脳と言われた私をなめてもらっちゃ困るわ」
 これ以上の詮索は無意味だと、勇美は身を引く事にした。
「それでどう? 観る?」
「……」
 勇美は脂汗を垂らしながら迷った。これって所謂プライバシー侵害ではないかと。だが彼女の気持ちは最初から決まっていた。
「はい、観させて頂きます!」

◇ ◇ ◇

 そして勇美は手にポップコーンとコーラを持って、永遠亭の廊下を歩いていたのだ。
「よしっ、確保するものは確保したっと♪」
 うきうきした様子で勇美は歩を進めていた。そこに向こう側から依姫が歩いて来た。
「あっ、依姫さん」
「どうしたの勇美、ポップコーンとコーラなんか持って?」
「いえ、大した事じゃないです」
「いえ、お構いなく」
「いや、その返事はおかしい」
 依姫は首を横に振った。しかし、それ以上咎める事もなく勇美を見送った。
 そして依姫は今度は側まで歩いて来た永琳に事情を尋ねる事にしたのだ。
「八意様、勇美は一体どうされたのですか?」
「それがね、依姫が自分以外の者にどう接しているのか知りたいって言うからね」
 永琳はさらりと言ってのける。普通なら秘密をあっさりバラす暴挙だが、相手が依姫なら問題ないと踏んだのだ。
「それで、八意様はそれに対していかがなされたのですか?」
「それは勿論、あなたが月で侵略者と戦った時の映像を見せてあげる事にしたわ」
 その瞬間、暫し時間が止まった。そして、時は動き出し、静寂は破かれる。
「な、何言っているのですか八意様ー! そもそも八意様はその時地上にいた筈でしょうに、どうやって映像なんか確保していたのですか!?」
 依姫は柄にもなく取り乱してしまっていた。それだけ、師である永琳には未だに敵わないものがあるのだ。
 そして永琳はしれっと答える。
「こういう事もあろうかと、月ロケットを偵察に行った時に超小型のカメラ付きの偵察機を忍ばせておいたから。今でもあなたの側にいるわよ」
 そう依姫は言われてはっとなった。そして見つけたのだ、確かに彼女の側に飛び交う虫型の機械が確認出来たのだ。
「はああっ!」
 それを確認するや否や、依姫が行動するのは速かった。彼女は鞘から即座に刀を抜くと、目にも止まらぬ速さで虫型偵察機を一刀両断したのだ。パキンと切ない音と共に偵察機の生涯はそこで終わった。
「八意様、何Dr.ゲロみたいな事してるのですか……」
 依姫は頭を抱えながら突っ込みを入れた。
「ふふっ、依姫もまだまだね」
「いえ、あんな得体の知れないのに気付けって方が無茶ですよ……」
 全く八意様は……依姫はそう思うしかなかった。
「でも、勇美に見せる事に対しては問題ないのでしょう」
 と、永琳が言う。
「ええ、あの子には私の事を包み隠さずに見てもらって、それから判断してもらった方が良いわね」
 そう依姫も同意するのであった。
「でも、私の事を映画を観る感覚で知ろうとするのはどうかと思いますが」
 だが、それだけは譲れないのだった。

◇ ◇ ◇

 一方、試写室に勇美はいた。ポップコーンとコーラは持ったので、観賞……もとい、依姫の事をより知る為の準備は万端なのであった。
 そして勇美は投影機のスイッチを入れたのだ。そう、テレビではなく投影機である。映画感覚で観るというのは勇美の悪ふざけであるが、そうなるように仕向けた永琳の故意犯でもあったのだ。
 そのような思惑がある中、とうとう投影機から映像が流れ始めたのだった。
 そして、映し出されたのは波飛沫であった。
(そうか、依姫さんは月では確か砂浜で戦ったんだっけ……)
 そう勇美は納得するが、徐々に異変に気付いてきた。
 映像にあるのは砂浜ではなく岩場であったのだ。そして段々勇美は勘づき始めてきたのだ。
(これって、映画で良く見るアレじゃないの……!?)
 そして大体の予想を勇美が付けた所で、『それ』は現れたのだった。
東宝project』
 やはりパクりだった。しかも小ネタまで利かせなくていいと勇美は項垂れたのだ。
 そんな不条理な光景を生み出しつつも、投影された画面は暗転したのだ。
 そして映し出されたのは、今度こそ本当に月の、豊かの海の砂浜であった。
「今度こそ大丈夫だよね」
 勇美はそう言い、気を取り直す事にしたのだった。
 そこに映し出されていったのは、かつて依姫が月ロケットでやってきた者達にしたやり取りが嘘偽りないありのままのものであった。永琳の事だから特撮とかCGとか入れて脚色しているのではないかという懸念もあったが、それはどうやらきゆうで終わったようだ。
 そして映像は全て流れ、勇美はそれを見終えたのだった。
(……)
 勇美は暫し頭の中で、今し方見た映像、依姫の振る舞いについて整理をしていた。
 やはり、自分は他の者よりも依姫に良くされているのだと思った。
 そして、地上の海を穢れの海と称したりする等、多少地上に対する差別意識はあるのだとも。
 だが、それは些細な事であるし、下手な地上の住人よりも余程紳士的であったのだ。
 そして、依姫の振る舞いには厳しさの中に優しさが確かにある事も勇美には分かるのであった。自分の一部としている我が子に対して厳しさを前面に押し出す自分の母親とは、全くの別物であると。
 しかもそれを、ほとんど月への観光目的で行ったが、曲りなりにも侵略を掲げた者達へ行ったのだ。ここまで敵に敬意を送れる者はそういないだろう。
 そこまで整理して、勇美の気持ちは少しずつ、しかし着実に固まっていったのだ。観賞の際に飲み食いしたポップコーンとコーラの味が心地好く脳内で反芻されているような感じがするのも気のせいではないだろう。
 そして勇美は投影機の電源を切り、試写室を後にするのであった。自然と足取りも軽くなっていた。
「見終わったようね」
 それを見計らって現れた永琳が勇美に言った。
「はい、おかげさまで。ありがとうございました」
 勇美はこれ以上ない貴重な映像を提供してくれた永琳にお礼を言った。
「それは何よりね」
「はい、それで依姫さんは今どちらに」
 勇美は依姫の居場所を永琳に聞いた。

◇ ◇ ◇

「あっ、依姫さん」
 勇美は永琳の言葉を便りに依姫を見つけ出して会っている所であった。
「勇美……」
 依姫はそう呟く。これから勇美がどうするかは彼女次第なのだ、だから自分が口を出すべきではないのだ。
 依姫は自分自身は悔いのないように行動する事を心掛けているつもりだ。だが、自分が正しいと思ってする事を他人が認めるとも限らないのである。
 そして、今決定権を持つ勇美は口を開いたのだ。
「依姫さん、これからもお願いします」
 依姫の危惧が完全に消え去った瞬間であった。