力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第八話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第八話 新生勇美+α:前編】
「『天津甕星』よ、我が銃身となりて星の力を貸して下さい」
 そう勇美が唱え右手を前にかざすと、そこに星のように輝かしいSF映画で見るような外観の銃が顕現したのだ。
 そして勇美はスペルカードを宣言する。
「【星弾「プレアデスブレット」!】
 それに続いて彼女はその未来銃の引き金を引いた。するとそこからシャリシャリと固い物を削るかのような音を立てて、漫画で描くような星の塊が次々に弾丸の代わりに放たれたのである。
「いっけぇ~~!!」
 それを見届けながら、勇美は勇ましく掛け声をあげた。
 その弾の星団が向かう先には……依姫がいた。彼女は無表情で構えていて、その心境を読む事は出来ない。
「……」
 そして依姫は無言で刀を構えたのだ。続いてそれを無駄のない動作で振り抜く。
 するとパキンとガラス質の物が割れるような音を立ててその星の弾の一つは切り落とされたのであった。それが皮切りとなり次々に弾は退治されていった。『飛んで火に入る夏の虫』という表現がものの見事に合う光景であった。
 とうとう星の弾は依姫の剣捌きによって全て切り落とされたのだった。
「はい、今回はここまで」
 そこで依姫は勇美に言った。
「ああ~……」
 勇美は安堵と落胆の入り交じった複雑な心持ちとなっていた。
「ますます腕を上げてるわね。感心ね」
 依姫は笑顔になり勇美を労った。だが、圧倒的な依姫の技量を見せつけられた後では皮肉に聞こえてしまうのだ。勿論依姫はそのようなつもりはないのだが。
「でも、依姫さんに一撃も当てられなかったじゃないですか~」
 勇美はがっくりと項垂れ、少々涙目になって抗議する。
「それは私だからよ」
 勇美に言われて依姫はそう返した。彼女は自己陶酔から自分の事を強いという者ではないが、謙遜をして同情を誘うような者でもないのだ。
 だから、ちゃんと自分の力量を正確に認識した上でそう言い切ったのだった。
「さすがです……」
 勇美もその依姫の発言を嫌味とは取らずに、純粋な気持ちで受け取ったのだ。
「まあ、取り敢えず今日の稽古はここまでよ」
「ありがとうございました」
 依姫に今日やるべき事の終わりを告げられて、勇美は強張った肩の力が抜けるような感覚に陥った。
 そして、依姫に追い付く光景がまるっきり想像出来ないのだった。方や才能に恵まれ神降ろしを使いこなし自分の肉体の鍛錬も欠かさないという努力も怠らないという隙のない存在、方や昨日の今日で神の力を借りる手段を手にしてそれを手探りで探っている存在と、明らかに掛け離れているのだから。
(でも……)
 しかし、勇美はそこで思った。純粋な力では依姫に追い付く事は不可能であろうとも、せめていつか弾幕ごっこでは肩を並べられる所までは行きたいと。それすら高嶺の花であろうとも勇美はそう決心するのだった。

◇ ◇ ◇

「それで勇美、提案があるのだけど」
 本日のノルマをこなした勇美は、依姫と共に休憩室で憩いの時を過ごしていた所に依姫から話しかけられたのだった。
「はひ、なんれしょうは?」
 対して勇美はお茶請けの大福を頬張りながら返したものだから、その脱力を誘う雰囲気は半端なかったのだ。そして行儀が悪い。
「……勇美、物を食べながら喋るのは止めなさい」
「すみません」
 依姫に注意されて、勇美は大福をちゃんと噛んで飲み込んだ後で謝った。
「でも、依姫さんも私が食べてる所に話しかけたじゃないですか~?」
「あ、それは失敬でしたね」
 勇美に指摘されて依姫も詫びる。彼女は支配型の人間とは異なり、きっちりと自分の非は認める性質なのであった。それが彼女の精神面でも能力面でも強くさせた一因なのだ。
「それで依姫さん、私に提案って何ですか?」
 話を仕切り直すべく、勇美は依姫に聞き直した。
「そうね、話を戻すわ……」
 そう言って依姫は咳払いをして会話のペースを整え、そして言った。
「勇美、これから永遠亭に住まない?」
「ええっ!?」
 突然の話に勇美は驚いてしまった。幸い大福も飲み込んだし、お茶も口に含んでいない状態だったため、吹き出す物はなく大事には至らなかった。
「な、何言っているんですか依姫さん!?」
「言葉通りよ、貴方に永遠亭に住まないかって話をしたのよ」
 取り乱す勇美に構わず、依姫はさらりと言ってのけた。
「何故そういう話を私に持ちかけるのですか?」
 少し平静を取り戻した勇美は、呼吸を整え依姫にその言葉の真意を問う。
「貴方は私と稽古する為にいつも人里から永遠亭に通っているでしょう?」
「はい、確かに」
 依姫の言う通りであった。人里に住む勇美は依姫に会う為にいつも永遠亭に足を運んでいたのだ。人里で神の力を借りる稽古などしたら騒ぎになるし、最悪思わぬ被害が出かねないからである。
「その事、貴方はどう思っているのかしら?」
 そう依姫に言われて勇美は胸に手を押し当て考えてみた。
「ううっ、やっぱり胸がない……」
 自分の胸部のボリューム不足を呪いながら、涙目になり依姫に目で訴える。
「それは今話題にする事ではないわ……」
 依姫は頭を掻きながら呆れた。
「何を~、自分が結構あるからってぇ~。ない者の気持ちはない者にしか分からないわよ」
「そう、ごめんなさい」
 勇美の話題はどこか論点がおかしいのだが、その主張は的を得ている為、依姫は折れる事にしたのだった。
 だが、いつまでもそうしているのは変なので、勇美は再び胸に手を当て、先程の話題について考える事にしたのだ。
 そして答えが出た。
「はい、確かにここまで通うのは面倒ですね」
 それが答えであった。永遠亭まで行くには迷いの竹林を通らねばならないのだ。ただでさえ視界が悪いのに、そこに人を襲う妖怪が徘徊するとなれば尚の事である。
 だからそこを通るのに幸運を呼び込む能力を持ち、更に竹林の地理に詳しいてゐの力を借りなければならないのだ。たまにならばいいが、毎回彼女に手間を掛けさせるのでは勇美にもてゐにも負担となるだろう。
「そうよね、だから私は貴方がここに住む事を提案しているのよ」
「お気遣いありがとうございます。でも、私が新しく住んでいいのですか?」
 勇美は尚も踏み切れない気持ちである。
「大丈夫よ、元より永遠亭は大所帯だし、輝夜の能力で部屋はいくらでも増やせる……でしょう、八意様」
 依姫が突然自分の師の名前を出すと、その張本人が丁度休憩室の入り口にいたのだ。
「その通りよ」
「来てたんですか八意先生」
「……やっぱりその呼び方は通すつもりなのね」
「ポリシーですから♪」
 そんな勇美と永琳のやり取りを見て、依姫は些か自分が師を『八意様』と呼び慣れて使っている事を後悔していたのだった。
 そんな元弟子の思惑をよそに永琳は話し始めた。
「勇美ちゃん、依姫が言った通りだから、遠慮はいらないわよ」
 永琳はにっこり微笑んで言った。
(……)
 勇美はその有無を言わせぬ包容力によって決定打にされたのだった。もはや選択肢はないも同然であった。
「依姫さん、八意先生。これから永遠亭でお世話になります。不束者ですがよろしくお願いします」
「いや、その言葉はおかしい……」
 依姫は項垂れた。別に嫁入りする訳じゃないのだからと。
「それじゃあ、勇美ちゃんの部屋に案内するわね、依姫もお願いね」
「はい八意様。勇美、こっちよ」
「はい、お願いします」
 三人はそんなやり取りをした後、休憩室を後にしたのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、勇美は依姫と永琳に連れられて永遠亭の廊下を歩きながら思っていた。──やはり永遠亭は快適な所であると。
 行き届いた管理がされ清潔であり、造りも立派でありつつも威圧感がなく優しいものである。
 そういったものは創作物では軽視されがちで人間関係ばかりがピックアップされ、それを真に受けた者が現実とごちゃ混ぜにして周りに押し付けるのだ。
 だから勇美は人との関わりは勿論大切にするが、物理的な充実をより大切にして行きたかったのだ。
 故にこのような素晴らしい造りの永遠亭に住めるのは願ってもない事であった。
「勇美、ここがあなたの部屋よ」
 そして自分の新たな住まいとなる部屋に着き、依姫に案内されたのだ。
「ここが私の部屋かぁ~」
 そして勇美はその部屋を一望した。
 そこは旅館の一室程はある広々とした空間であった。それでいて王室のように庶民には広すぎるという事もなく落ち着ける広さであった。
 落ち着ける要因をもたらしているのは広さではなかった。造りは和室のようになっており、壁は断じてストレスの原因になる白ではなく、和室特有の薄緑色で安らぐものとなっていたのだ。
 そして日当たりの方も申し分なかった。竹林の中にあるから不安要素であったが、丁度永遠亭のある所は開けた場所であるため日光も差し込んでくるのであった。
「ありがとうございます、こんな素晴らしい部屋を用意して頂いて」
 勇美は嬉しくなって、ぺこりとお辞儀をしてその喜びを振る舞いで表した。
「気に入ってもらえて何よりよ、勇美ちゃん」
 それに対して永琳も笑顔で返した。
「暫くゆっくりしていていいわよ」
「えっ? 私にそんな表情の崩れた首だけの存在になれって言うんですか?」
「その『ゆっくり』とちゃうわ」
 依姫は色々な意味で落胆した。勇美の言う事にも、『ちゃうわ』などという自分のキャラクターに合っていない突っ込みをしてしまった事にも。
「まあ、取り敢えず……」
 だが依姫は気を取り直す事とした。
「十分に疲れが取れたら、私の部屋にまで来てくれるかしら?」
「貴方を連れて行きたい所があるから」と依姫は付け加えた。自分の部屋の場所も説明しつつ。
「?」
 それに対して勇美は首を捻りながらも今日の稽古の疲れを取るべく、取り敢えず新たな居城となったこの場所で寛ぐ事にしたのだった。

◇ ◇ ◇

 そしてあらかた疲れが取れた勇美は依姫の部屋まで行き、彼女を呼び出していたのだ。
「それで依姫さん、私を連れて行きたい所ってどこですか?」
 勇美は当然起こる疑問を依姫に投げ掛けた。
 それに依姫は答えるべく口を開く。
「それは、服屋よ」
「服屋……ですか……?」
 予想していなかった答えに勇美は首を傾げる。
「何で服屋なんですか?」
「それはお祝いという訳ではないけど、貴方が初めての弾幕ごっこで勝利した、これがいい機会だと思ってね」
「機会ですか?」
 勇美は疑問を依姫に答えてもらっても、新たな疑問が生まれるという流れになってしまっていた。
「そう、機会よ」
 そして依姫はその迷走に終止符を付けるべく説明を始めた。
 それは勇美の今の出で立ちにあった。幻想郷の外の産物であるセーラー服だからである。外界の服装でずっといては主に悪い意味で目立つというのがまず第一の依姫の考えであった。
 そして第二に勇美が依姫から神の力を借りるようになり、更に初勝利までした事で『新たな道』を歩み始めたからである。これを期に服装を変えて心機一転するのもいいだろうという考えからだ。
 勿論依姫は勇美が今まで歩んで来た人生を否定して、まっさらに塗り替えるような傲慢な考え方はなかった。言うなれば今までの彼女の要素に新たなるものを『付け加える』というのが狙いであったのだ。
 そこまで聞いて勇美は胸の内が暖かくなるような心持ちとなった。依姫の全ての主張に対して嬉しくなったが、特に最後のが決定打となったようだ。
 それは例によって勇美の母親やその周りの人間が原因であった。彼女らは、何かにつけて勇美の今を否定して勇美を作り替えてしまおうとするからである。だから『付け加え』だと言った依姫を信頼したのだ。
「それでは依姫さん、お願いします。でも服代を後から請求なんて事しませんよね?」
「そんな悪徳商法みたいな事はしないわよ。私からの餞別だから安心しなさい」
「それなら一安心です」
 勇美は笑顔で依姫の施しを受ける事にしたのだ。しかし最後にある一言を付け加えたのであった。