力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第11話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第十一話 鳳凰 イン グリーン:後編】
 水のバリアを張りながら星の弾丸を放ち、妹紅との戦いで優位を見せた勇美。彼女はこの勢いにそのまま乗ろうとしていたが。
「ちょっと待った、次は私の番だよ!」
「うっ……」
 妹紅の発言を聞いて勇美は言葉を詰まらせてしまう。
 確かにそうだ。今まで攻めていたのは勇美である。となれば次は妹紅が攻める番であろう。
「でも、このウォーターベールはそう簡単には破れないよ!」
 だが勇美は気を取り直したのだ。今の自分には無敵のバリアが付いているのだ。
「ふん、それはどうかな?」
 妹紅はニヤリと不適に笑って言った。
「!」
 それを見た勇美は背筋をゾクリと震わせ、ハッタリでない事を反射的に察するのであった。そして妹紅はまた新しいスペルカードを取り出す。
「じっくり体感しな! 【蓬莱「凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-」!!】」
 そしてとうとう発動された、妹紅のこの戦いでの四番目のスペルカード。
「何が起きるの?」
 そう言いながら勇美は考えた。フジヤマは富士山、ヴォルケイノは英語で『火山』の意味。
 そして、勇美が考えている間に事は起こったのだ。地面が奥底で激しく流動するのが分かった。
 続いて勇美の近くの地面にひびが入り……そこに穴が開くと同時に真っ赤に煮えたぎるマグマが顔を覗かせ、そして勢いよく吹き上がり火柱を上げたのだ。
「ええっ!?」
 勇美は驚いてしまうが、無理はないだろう。何しろ小規模ながら本物の噴火さながらの勢いだったのだから。
 そして、次々に起こるマグマの噴出。そんな最中勇美はたじろいでいると、とうとう地面のひびが彼女の足元まで忍び寄っていたのだった。
「しまっ……!」
 勇美は慌てて対処をしようとするが、それは最早後の祭りだった。そして容赦なく彼女の足元から爆音を轟かせ、赤き噴出が巻き起こったのだ。
「うわぁぁぁぁーーーーー!!」
 大きな悲鳴をあげながら勇美は噴火の餌食となり、吹き飛ばされてしまった。
 ずしゃぁぁぁぁー。そして宙に浮いた体が重力に引かれて地面にぶつかり、地に引きずられてしまう。
「どうだい、不死の山の怒りのお味は?」
 芝居がかった台詞で勇美に勝ち誇る妹紅であったが、当の本人からは返事がなかった。
「やりすぎちゃったかな……?」
 まだ弾幕ごっこの経験の日の浅い少女に対していささかムキになってしまったかと、妹紅はここで自分を顧みたのだ。
「いや……」
 だが彼女は首を横に振って、それは謙遜しすぎだと思い直す事にした。何故なら勇美は妹紅に完全に押されるのではなく、着実に一矢報いる形を取ってきたのだから。
 つまり、妹紅と渡り合ったのだ。だが、それもここまでかと彼女は思った。
「降参するなら今の内だよ」
 勇ましく自信に満ちた口調で、妹紅は地面に倒れている勇美に言葉を浴びせた。
「……うぅ」
 それを聞きながら、勇美は深手を負った体から脳に送られて来る苦痛の信号に苛まれながら呻いた。
 ──確かに降参すべきは今である。今の自分と妹紅は実力の差が大きいのだ。このまま白旗を揚げれば無謀なこの戦いを続ける事なく楽になれる。
(だけど……)
 そうする訳にはいかなかったのだ。
 まず第一に妹紅は輝夜と殺し合いをすると言っていた事である。みすみす惨劇が起こる前触れを見逃す訳にはいかない。
 そして、第二に勇美が依姫の元で鍛錬を積む事、幻想郷やそこに住む人達と触れ合い戯れていく事、これは彼女なりの母親に対する『復讐』だったのである。ここで折れてしまっては『復讐』は完了しないのだ。
 これらの事が要因となって、勇美の心は決まったのだった。

◇ ◇ ◇

 そして勇美は痛みに疼く体に鞭打って、その身をゆっくり起こしたのだ。自分でも無茶をしていると思いながらも。
「へえ、まだ立つのかい?」
 妹紅はそんな勇美に対して感心しながら言った。
「まあ、色々ありますからね。負けられないんですよ」
「ほう……」
 そう振舞う勇美を見ながら、妹紅はどこか懐かしい心持ちとなっていた。──まるで昔の自分を見ているようだと。
 あの頃は無我夢中で父:不比等に恥をかかせた輝夜に復讐する事に必死だったのだ。勇美はその時の自分のように屈折した感情は持ち合わせていないように思えるが、必死さでは通じるものがあるのだ。
「でもどうするんだい? さっきの水の膜は破ったし、私には雨は通じない事は分かっているだろ?」
「そうですよね」
 勇美はそれに同意する。確かに今の自分は不利な状況である。
 だが、奥の手はまだ自分にはあったのだ。──さすがは八百万の神の力を借りているだけの事はあるという訳だろう。
 水の膜は弾き飛ばされる。雨の力では通じない。なら残った手段は。
「『ネプチューン様』、私とマッくんに力を貸して下さい!」
 そう勇美が呼びかけると、彼女の側で波のような水飛沫が巻き起こったのだ。雨という、空から降る水の力が駄目なら、海から攻めてやろうと勇美は思ったのだった。
 そして、水の奔流の中から何かが首を覗かせ始めた。マックスだ。
「これは見事な大蛇だねえ……」
 その姿を目の当たりにした妹紅はただ感心するしかなかった。
 それは水色が金属的な光沢を持つ、彫刻のように美しい3メートル程の機械の大蛇だったのである。
「名付けて『メカ・シーサーペント』だよ♪」
 勇美は今しがた思い浮かんだ名称を口にした。
「ほう。でも名前だけ立派でもしょうがないよ」
「はい、それにはご心配に及びません」
 軽口を叩き合う二人。だが、徐々にペースは再び勇美の方に流れていっていたのだ。
「では行きますよ! 【水圧「ハイドロバスター」】!!」
『メカ・シーサーペント』と化したマックスに命じた、勇美のスペル宣言だった。
 そしてそれを彼は受けて口を大きく開くと、そこに球状に水飛沫が集まり始め、それは段々大きくなっていった。
 一頻り大きくなった水の集束を確認した勇美は、ついに彼に命じる。
「いっけぇーーーーー!!」
 それを合図にしてマックスの口から勢いよく水が放出されたのだ。まさにゲームや映画でのドラゴンの炎のブレスを水で行ったかのようであった。
 猛烈な力量で押し進められる水の束の進行。当然それは妹紅目掛けて突き進んでいったのだ。
「これは……、マズいな……」
 さすがにこの大放水には自分の炎でも対処は出来ないだろう。そう思う妹紅の体をとうとう水はどっぷりと包み込んだのだった。
 そして、妹紅の体を勢いよく押し流し……木っ端微塵にしてしまったのだ。そう、跡形もなく。
「いいっ!!」
 当然勇美は驚いてしまう。これはまずい事になったのではと慌てふためくのだった。
「どどど、どーしよう依姫さん!? 私人殺しになっちゃったよぉー!!」
「落ち着きなさい、勇美」
 対する依姫は妙に落ち着いている。
「人殺しして落ち着けはないでしょうに!」
 勇美の主張は最もである。
「安心しなさい、貴方は誰も殺していないわ。見てみなさい」
 そう言って依姫はとある方向を指差す。
「!?」
 そこには炎が集まっていたのだ。そして集まった炎は一際激しく燃え上がると、人の形になっていったのだった。
 それは、正に先程水圧で押し流して消滅させてしまった筈の妹紅であった。
「良かった……でも何か引っかかる」
 それを見た勇美は安堵すると同時に、何か依姫に対して感じるのだった。
「でも、それを今気にしても仕方ないか」
 そう思い直す勇美であった。
「これが私のとっておきのスペル、【「フェニックス再誕」】だよ」
「つまり、やられても再生するスペルって事ですか?」
「ご名答♪」
 勇美に正解を当てられ、妹紅は嬉しそうに言った。
「だけど、これは再生だけじゃあないんだよな~」
 妹紅はそう言うと、自分の体から勢いよく炎を吹き出したのだった。そしてそれは勇美目掛けて襲い掛かった。
「!!」
「どうだい? 再生と攻撃を同時に行えるのがこの『フェニックス再誕』さ」
 得意気に言う妹紅。
「成る程、それは厄介だね。でも、まだ私は『ハイドロバスター』を撃てるんだよ。マッくん、もう一回お願い!」
 勇美の命令を受けて、マックスはもう一度その口から高出力の水圧を吐き出したのだ。
 そして、それは妹紅が放った炎を消し飛ばし、再び妹紅本人目掛けて一直線に突き進んだ。
 激しく弾ける音と共に、またも妹紅は水圧に飲み込まれ……その体を吹き飛ばされたのだ。
「う~ん、嫌な予感……」
 そう冷や汗を垂らしながら、勇美は独り呟く。そして、その予感は的中するのだった。
 案の定炎が再び集まり燃え盛ると、そこに妹紅の姿が再出現したのだ。
「やっぱり……」
「まあ、予想通りだったようだね。じゃあ、また喰らいな!」
 そして、また妹紅から炎が吹き出され、勇美を襲ったのだ。
「これじゃあ、きりがないよ……仕方ない」
 勇美はそう言うと、自分に向かって来る炎に対して、今度は放水を行わなかったのだ。
 そして、勇美は別の神に呼び掛けたのだ。
火雷神様よ、風神様よ、同時に私に力を貸して下さい!」
 そう勇美が言うと、マックスは大蛇の姿を解除して四散し、そして再び集まり形を作っていった。
 すると、彼は巨大なスクリューの姿を取っていた。
「何をする気だい?」
 妹紅はそれを見て、首を傾げた。
「まあ、見てなさいって」
 勇美は迫る炎にも臆さずに言ってのけた。そして、新たなスペルを宣言する。
「【渦符「鳴門海峡の名物」】!」
 その宣言後、マックスはスクリューを回転させると、そこから大渦が発生したのだ。
 そして、妹紅の炎を飲み込んで掻き消してしまったのだ。
「何!?」
 これには妹紅は驚いてしまった。だが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「でも、フェニックス再誕を使っている限り、私は何度でも再生して、その度に反撃するぞ。これをどう攻略する?」
 勇美が機転を効かしたが、尚も妹紅の有利は変わっていない状況なのだ。
 だが、勇美はニヤリと笑ってみせ、
「そっちが『再誕』なら、こっちにも奥の手があるってものですよ♪」
 と、不敵に言ってのけた。
 そして続ける。
火の鳥とか再誕には、こっちは爆誕よ!」
「いや、それはどうかと思うよ!」
 その理論はまずい、妹紅はそう思うのだった。確か、火の鳥に対して海の神が存在している、そんなゲームがあったのだ。
「じゃあ行くよ」
 言って勇美は右手を天に翳して神に呼び掛けた。
祇園様と、大黒様。私に力を!」
「あれ……?」
 その神のチョイスを聞いて、妹紅は疑問に思った。てっきり火の鳥である自分に対して、先程と同じように海の神の力を借りると思っていたからだ。
 そして、勇美の目の前に金属の断片が集まり、人の形を作っていったのだった。
 そう、人の形である。先程のような海の大蛇ではなく人の姿であった。
 そして、その人型は黒いローブを纏い、手には柄の先からのみならず尾の部分からも赤い光の刃で出来た薙刀を持ち……。
「うわぁぁぁぁぁーーー!!」
 妹紅は慌てて両手を振って、言葉にならない抗議をした。
 その姿に怖気づいたからではない。そのデザインが海の神よりも大人の事情的にまずいものだったからだ。
 そういや時期が近かったなぁ、海の神が活躍する二作目の映画と、薙刀持ちが立ちふさがる時間軸がシリーズにおいて過去の映画。そんな事を妹紅は遠い目をしながら思ったのだった。
「どんなもんですか?」
「あんた、著作権侵害で訴えられればいいわ!」
 妹紅は悪ノリする勇美に、項垂れながら言った。
「でも、世界的洋画に喧嘩売った所で、私の優位は覆らないわよ」
 しかし、気を取り直して妹紅は軽口で返した。
「それはやってみないとわかりませんよ♪ 行きなさい、『ダーク』!」
「うん、そのネーミングもまずいね」
 妹紅は突っ込みを入れる。明らかに一字違いのアレから取ったものだと分かったからだ。
 だが、妹紅がそう思っている間にもローブの薙刀使いは彼女へと向かっていたのだ。そしてエネルギーで出来た薙刀を妹紅目掛けて振りかざした。
「くうぅ……」
 思わず呻き声をあげる妹紅。──油断していた。単に著作権に喧嘩を売ったデザインではなく、ちゃんとした攻撃手段となっていたからだ。そして彼女は薙刀の一撃をしたたかにもらってしまったのだ。
「だが、一撃くらいはもらってあげたけど、次はこうはいかないよ!」
「いいえ、今ので決まりましたよ」
「!?」
 不敵に言う勇美に、妹紅はただならぬものを感じて思わず息を飲んでしまった。
 そして、妹紅が感じた何かは現実のものとなるのだった。
「【薙符「ブレードローリング」!】
 そう勇美が宣言すると、ダークが振り抜いた薙刀をそのまま器用に回転させたのだ。それにより妹紅は何度も切り刻まれる事となるのだった。
「ぐあぁぁぁぁーーー!!」
 意外な猛攻に対して、妹紅は叫び声をあげてしまう。だが、そんな最中でも彼女は徐々に冷静さを取り戻していった。
(い、いくらこの攻撃が強烈でも、私が一度消し飛んで再生すれば、その時に反撃のチャンスはある……)
 そう心の中で踏んだ妹紅だったが、何度もプロペラのように回転する刃に切り刻まれている中で気付き始めた。
(まずい、こうも絶え間なく攻撃を加えられては、再生の隙が生じない……!)
 その結論に至った妹紅は何度も斬られた後、吹き飛ばされて地面に体をぶつけてしまったのだった。
「くぅぅ……」
 呻く妹紅。再生に入る事が出来ずに深手を負っている。
「参ったね、絶え間なく攻撃する事で再生を防ぐとは考えたね……」
「いえ、正直そこまで考えていませんでした♪」
 実は勇美は薙刀状の刃で攻撃したら強力程度にしか思っていなかったのだった。
「えっ……?」
 これには妹紅は拍子抜けしてしまう。そして……。
「あ……あははははは!」
 彼女は端を切ったように笑い始めたのだ。
「むぅ~、そこまで笑う事はないじゃないですか!」
 それに対して勇美はむくれて抗議する。
「いや、悪い悪い。あんたとの弾幕ごっこが余りにも楽しくなってきたからさ。思わずって感じ」
「そ、そうですか……?」
 なんとか笑いを収めて誤りながら言う妹紅に対して、勇美は満更でもなくなってしまう。
「そう、だから私もここで新しいスペルを試したくなったのさ」
 新しいスペル。さっきの再生と反撃の猛攻で最後ではなかったのかと、勇美は身構えた。
「じゃあ行くよ!」
 そう言うと妹紅は両手を天に掲げ、スペルの発動の予備動作を行った。
「【殺刃「スレイサー1005」!!】
 そして、妹紅の新たなるスペルが宣言されたのだ。
「!?」
 それを聞いて依姫ははっとなった。
「気を付けなさい勇美。そのスペルは本当にこの者が今まで使っていなかた物よ!」
「あ、はい!」
 依姫の忠告を素直に聞く勇美。だがその最中、どこか依姫の言い方に違和感を覚えるのだった。
 そうこうしている内に、妹紅の背中から今まで通り炎の翼が顕現した。
「その翼は何度も見ましたから、もう驚きませんよ♪」
 どこか達観した様子で勇美は言う。
「安心しなよ、こっちとしても同じ事はしないから」
 それに対して妹紅も憮然とした態度で挑む。
「それじゃあ、行くよ!」
 そして、とうとう妹紅は行動に出たのだ。背中の炎の翼を勢いよく振りかぶったのだった。
 すると、そこからエネルギーの刃が無数に作られ、勇美目掛けて飛び掛っていった。
「今度の攻撃は炎ではないんですね」
 刃の群れが迫る中で、勇美は冷静に分析した。
「私が炎だけが得意分野だと思ったかい? それは偏見ってもんだよ」
「確かに人を見た目で判断するってのは良くないですよね」
 ちょっとした皮肉のやり取りをする二人。勇美も幻想郷の少女流の戦いの感覚を理解していっているのかも知れない。
 しかし、そうしている間にも、刃と勇美の距離はどんどん縮んでいったのだった。
 だが、勇美はなおも冷静である。
「ダーク、お願いね!」
 そう勇美は相棒の機械騎士に呼び掛けると、彼はエネルギーの薙刀を眼前でプロペラのように回転させたのだ。
 それをエネルギーで出来た刃で行ったために、次々起こる残光が非常に幻想的なものとなっていた。
 そして飛び掛っていった刃はパキパキと音を立てて、見事に全て斬り弾かれたのだった。
「やるね、でもまぐれはそう何度も起きないよ!」
 攻撃を防がれた妹紅であったが、めげる事なく言い、
「まだまだこっちの攻撃は続けられるんだからね!」
 と、再び翼を振りかぶって光の刃の群れを放出したのだ。
「また来ますか」
 そう言って身構える勇美であったが、動じる様子はなかった。
「何度やっても同じ事ですよ。ダーク、またお願い!」
 そして勇美は再びマックスに指令を出したのだ。
 またしてもマックスは薙刀を回転させ、妹紅の放った光の刃は先程と同じく木の枝の如く切り払われたのだった。
「むぅ……」
 これには妹紅は唸るしかなかった。
「どんなもんですか♪」
「さっきのはまぐれって訳じゃなかったんだね」
 素直に相手の健闘を妹紅は称える。
「こちとら、依姫さんの刀捌きをいつも見てるんでねぇ~」
 どこか時代掛かった台詞回しで、勇美は得意気に語ってみせた。
「成る程、いい師匠を持ったって事か……」
 妹紅はそうしみじみと呟く。師匠──自分にも意味合いが少し違えど、それに通じるような存在『上白沢慧音』がいる事を今、妹紅は噛み締めるのだった。
「そうとなれば、最早出し惜しみは必要ないって事だね!」
「ええっ!? これで出し惜しみしていたんですか?」
 妹紅の発言に、勇美は露骨に嫌そうな表情で抗議した。
「まあそういう顔はしなさんな、これで最後だから」
 そう、これがこの戦いにおいて妹紅の最後のスペルとなるのだ。妹紅にとっても、勇美にとっても、これで勝負は決まるであろう。
 妹紅は深く息を吸い込み、そしてこれまた深く吐き出した。そして宣言する。
「【灼熱「フレアウィング∞(インフィニティ)」】!!」
 身構える勇美。だがそれを聞いていた依姫は「そのネーミングはどうなの?」と思っていた。スペル名に『∞』のような記号を付ける者は、弾幕ごっこの経験が深くはない依姫でもどうだろうと感じるのだった。
 だが、問題はネーミングではない。妹紅の背中からは、今までとは比べものにならない熱と炎が吹き出したからだ。まさに『灼熱』である。
「行くよ!」
 そして振りかぶられる灼熱の翼。それだけで物凄い熱風が巻き起こる程だった。
 更に事はそれだけではなかったのだ。今度はそれに続いて、妹紅が作り出した熱の進路で次々に爆炎が生まれていったのだ。
「すごいです……」
 今まさにその爆炎に飲まれようとしているのに、勇美は感心しながら呟いたのだ。
 それだけ、この妹紅との戦いを素晴らしいものだと勇美は噛み締めていたのが理由であった。
 この状況には最早下手な小細工は通用しないだろう。勇美はそう決心し、正面から立ち向かう事にしたのだった。
「今こそ、『アレ』を使う時だね……」
「何かい? このフレアウィング∞に対して対策でもあるというのかい?」
 勇美に言われた妹紅は強気に出る。それだけこの最後の攻撃に対して自信があるのだ。
 だが、勇美の出した答えは、
「対策なんて大したものじゃないよ。正面からぶつかるだけだよ」
 というものであった。
「そうかい、なら受けて立つよ!」
 そんな勇美の心意気に触発されたのか、妹紅の意欲は最高潮となるのだった。
「金山彦様に愛宕様、力を貸して下さい」
 そう祈るように目をつむりながら念じる勇美。そしてローブの薙刀使いダークとなっていたマックスは分解され、金属の神と火の神の力を受けて新たな姿へと変貌していく。
 そして出来た姿は、鋭いくちばしに荘厳な翼と、それを金属で作り上げた機械の鳥であった。体色は目に焼き付くような橙色である。
「行きなさい、【機翼「メタルフェニックス」!】
 勇美がスペル名を宣言すると、その機械の鳥『メタルフェニックス』は勇ましくいなないた。
 すると彼の体から、妹紅のように激しい炎と熱が放出され纏わり付いたのだった。
 続いて立派な爪で地を蹴り、炎を纏いながら妹紅の放つ爆炎の道に突っ込んでいった。
「真正面から来るか。いいじゃないか、力比べだ!」
 それに対して妹紅も意気揚々と迎撃態勢となる。
 メタルフェニックスの進路で次々と炎が爆ぜる。その中を彼は物怖じせずに突き進んでいったのだ。
 もちろん無傷とはいかなかった。爆発をもらい、所々その機械の体にひびが入っていったのである。
「うう……」
 当然彼の本体である勇美にもダメージがもたらされる。だが……。
「負けませんよぉーーーー!!」
 気合いとか根性とかいう精神論は母親が強制してきた中で育ったために好きではなかった。
 だが、妹紅との最後の勝負は小細工は通用しないと勇美は踏んでいたため、妹紅に敬意を示す意味でも精神でぶつかる方法に出たのだった。
 そして、機械の不死鳥は竹林の不死鳥の放つ灼熱の小宇宙の中を突き進むシャトル機さながらの風貌を醸し出していったのだ。
 ピキ……ピキ……。メタルフェニックスは軋み割れる音を出しながらもひたすら主の意志に応えるかのようにひたむきに突っ切っていった。
 その苛烈な宇宙旅行も幕を迎える事になる。ひとしきり機械の不死鳥が突き進むと、これまでにない盛大な爆発が起こったのだった。

◇ ◇ ◇

 迷いの竹林内で起こった派手な爆発。それによって巻き起こった大規模な土煙も徐々に収まる傾向にあった。
 そして晴れて来る視界……。そこにあったのは。
「はあ……はあ……」
 片膝をついて満身創痍の短い丈の黒い和服の少女、勇美。もう彼女はこれ以上戦う事は出来ないだろう。
「……」
 そして無言で倒れている白髪の長髪の少女、妹紅がいた。
 つまり、勝負の行方は。
「勇美、どうやら貴方の勝ちよ」
 終始二人の勝負を見守ってきた依姫が審判を下した。妹紅が意識を失っている以上、逆に意識を保っている勇美の勝利という事になるだろう。
 すなわち、勇美はややハードルの高かった相手に打ち勝ったという事であった。
「あはは……やった、勝った……」
 息も絶え絶えになりながら勇美は呟くと、彼女も意識を手放し深い夢の中へと入り込んでいくのだった。