力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第40話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第四十話 月の巫女と楽園の巫女:後編】
 祇園様の加護による膂力を受けた依姫の一薙ぎによる剣圧の直撃を受けた霊夢だが、彼女は無傷であったのだ。
 今彼女はその種明かしをする。
「【夢符「二重結界」】……」
 そう、霊夢は依姫の攻撃が当たる瞬間に、結界による防壁をはっていたのだった。
 これが幻想郷を外界から隠す『博麗大結界』を管理する霊夢が故の、彼女の十八番なのである。
「やるわね」
 依姫は口角を吊り上げて霊夢を見据える。
「まあね、回避はあんたの専売特許じゃないって事よ」
 対して霊夢も得意気に返した。
「それじゃあ、今度は私から行かせてもらうわ!」
 言って霊夢は次なるスペルカードを取り出し構える。
 その様子を見ていた勇美は、思わず見とれてしまった。理由はと言うと。
「あ、何ていい腋の眺め何だろう」
 という不純なものであった。
 確かに勇美は以前、霊夢のスタンダードな巫女装束に不満を持ったが故に依姫に正統な巫女装束を着せた訳であるが。
 これはこれで旨味があるというものである。ヒラヒラしたノースリーブの紅服と白い別途装備の袖の間から覗く、余り見せてはいけない肌の部分の眺めは格別なのであった。
「あいつ、どこ見てるのよ……」
 この勝負が終わったら少し注意しておこうと霊夢は思うのであった。
 それはさておき、霊夢はスペルカードを繰り出した。
「【霊符「夢想封印」】!」
 その宣言の後、霊夢の両手から無数の七色の玉が辺りに現出する。
 そして、一頻り宙を漂っていたそれらは、まるで意思を持ったかのように、郡体を構成した生物であるかのように依姫に飛び掛かっていったのだ。
 見事な統率により依姫の周りを取り囲んだそれらは、意を決したかのように次々とその場で爆ぜていった。
「綺麗……」
 思わず勇美は感嘆の言葉を口ずさんだ。
 それも当然であろう。何せその夢想封印が描く光景は、さながら虹色の花火のようであったからだ。これぞ博麗霊夢の張る弾幕の代名詞なのである。
「これは腋の次に美しいですな~」
 だが、勇美の煩悩を完全に打ち消すまでには至らなかったようだ。夢想を封印するという仏道的なネーミングの技であったが勇美の夢想は祓えなかったのは皮肉である。
「見事ね。でも私と神の力を捉えるには足りないわね」
 言うと依姫は天宇受売命に念を送りそれをその身に降ろす。
「【踊符「最古の巫女の舞踏」】」
 舞踊の女神の天宇受売命の力を宿した依姫は、正に踊るように虹色の爆陣を潜り抜けていったのだった。
 同時に現代の巫女に古代の巫女の底力を見せ付けるという、依姫の気の利いた計らいでもあったのだ。
「やるわね」
 それを見据えながら霊夢は呟く。だがその表情は曇ってはいなかった。
「これ位天宇受売命の力の前では朝飯前ですよ」
 依姫は攻撃をかわしながら余裕の態度で返す。そう、月での三回戦目のような気分で。
 だが、それでも霊夢は落ち着いていた。
「でも、私はレミリアとは一味違うわよ」
「?」
 何を言っているのだろう。依姫はそう思いつつも弾幕の回避に専念する。
 と、ここで霊夢の眼差しが閃光のように瞬く。
「そこっ! エクスターミネーション!!」
 技名を叫ぶと霊夢は無数の針をマシンガンの如く依姫目掛けて発射した。
「っ!!」
 依姫はそれすらも容易く避けるだろうと思われた。だが、針の攻撃は彼女に命中したのだった。
「くうっ……」
 攻撃を貰ってしまった依姫は思わず呻いた。
「うそ……、依姫さんが攻撃を受けた……?」
 如何なる時も、依姫はのらりくらりと相手の攻撃をかわして来たのを勇美は見ているのだ。
 そんな依姫が攻撃を受けた事が勇美には意外であった。
 だが、一番驚いていたのは依姫の方である。
「まさか、私が攻撃を貰うなんてね……」
「驚きついでに、もう一回喰らいなさい!」
 そう言って霊夢は再び手を構える。
「エクスターミネーション!」
 再度霊夢の両手から針がばら蒔かれ、依姫を襲う。だが依姫は今度は冷静にそれを見据えていた。
「……私が月で見せた事、忘れたのかしら?」
 そして依姫は口角を上げながら神を降ろしスペル宣言をする。
「【金符「解体鋼処」】……」
 金山彦命のその身に借りた宣言の後、一気に依姫に向けて放たれた針の群れは粉砕されてしまった。
「……っ!」
 それを見て霊夢は驚愕する。その様子を見据えながら依姫は続ける。
「そして金山彦命よ、あの針を再び生み出し持ち主に返しなさい」
 言って依姫は霊夢に向けて刀を翳し、金属の神に指示を下した。
 すると、みるみるうちに鉄の針は元の形に再構築される。──但し例の如く切っ先を相手に向ける形で。
「行きなさい、鋼の使い達よ!」
 そして依姫はその身を惜しまない鉄の兵団に攻撃命令を送る。
 それに伴い、針の群れは飼い主に牙を向くべく一気に放出された。
「くっ……やっぱりこれは厄介ね……」
 そう愚痴りながら霊夢は苦虫を噛んだかのような表情を見せる──と思われたが。
「な~んてね……♪」
 一転して晴れやかな表情へと変貌させながら言うのだった。
「貴方、どういう……」
 その様子の真意を掴めない依姫は戸惑いの念を見せる。
「あんたこそ忘れてない?」
 言って霊夢はそこではっきりと宣言した。
金山彦命、もう一回あれを砂に返して!」
 その言葉を受け、金属神は先程とは別の主の支持に従い、霊夢に向かっていた針を再び分解したのだった。
「!」
「私も神降ろしを使ったまでよ。驚く事はないでしょ♪」
 確かに依姫は神降ろしを使えるが、それは彼女の専売特許ではなく、加えて神は特定の人物だけの味方ではなく中立の立場を守っているのだ。
 そして霊夢は「神降ろしを私に教えてくれたのは他でもない、あんたなんだからね」と付け加えた。
 そう、依姫は霊夢に月ロケットでの邂逅の後、神降ろしを使って良からぬ事をしようとしていたという濡れ衣を拭う為に、霊夢も神降ろしが使えて彼女こそが犯人であった事の証明に依姫は彼女を暫く月に滞在させていたのだ。
 その間に依姫は、神降ろしをかじったレベルであった霊夢に、本格的にそれを教えていたのだ。
 その経験の結果が今出たという事であるが。
「そこまで飲み込みが早いとはね……」
 そこに依姫は驚愕するのであった。
 彼女もかつて永琳から飲み込みが早いと言われたのだが、その飲み込みの早さだけなら霊夢は依姫を凌駕するかも知れないのだった。
「でも、驚くのはこれを見てからにして欲しいわね」
 言うと霊夢は先程の陰陽宝玉を懐から複数取り出すとおもむろに宙に投げ放ったのだ。
 そして、再び金山彦命に指示を出す。
金山彦命、この宝玉を手堅く包みあげなさい♪」
「何を!?」
 依姫がそう思うや否や、宙を舞った玉の周りに針を構成していた金属成分が集まっていった。
 それはさながら金属のコーティングである。
「名付けて【鋼泡「博麗メタルボール」】よ。さあ、行きなさい」
 霊夢はパチンと指を鳴らすと、それを合図に宝玉……に金属を纏わり付けた物体は次々に依姫に向かって行った。
「味な真似してくれるわね、でもその程度……」
 相手の奇術を前にしながらも、依姫は臆する事なく刀を構える。
 そう、彼女には神降ろしだけではなく、剣捌きの腕も備わっているのだ。何も恐れる事はない。
 そして、迫って来た鉄球に向かって剣を振る。
 すると金属と金属がぶつかり合った時特有の甲高い音が鳴り響くと、勢いを失った鉄球は地面にドスンと鈍い音を立てて落ちた。
 難なく一つ目を叩き落とす事に成功したかのように思われたが。
(……重いわね)
 それが問題となるのだった。
 何せ質量が大きかったのだ。宝玉のそれに加えて金属の衣を纏い、頑丈に仕上げられていたのだから。
 依姫は思いながらも、二球目、三球目と刀で弾いていった。
 だが、徐々に無理が祟ってくるのだった。
 重く早く飛んでくる物体を打ち返すと、それだけ依姫の肉体へ負荷が掛かってきたのだ。
(ここはやはりこちらも金山彦命を……!)
 そこまで依姫は思った所でハッとなってしまう。
 ──今相手にしている物体は完全な金属ではないのだ。
 その事に気付いた時、依姫は一瞬判断が遅れてしまった。
「ぐぅっ……」
 苦悶の声を漏らす依姫。彼女は今正に鉄球の一撃を脇腹に貰ってしまったのだった。
 そして、依姫に一撃をくれてやるという偉業を成し遂げたそれは、まるで満足したかのように勇ましく地面に引かれていったのだ。
「すごい……」
 この接戦を見ながら勇美は興奮気味になっていた。自分の慕う依姫には悪いが、彼女とここまで渡り合う戦いを見せる霊夢にも惹かれるものを感じたのだ。
 そして、気付けば興奮の余り──霊夢が途中だったお茶とお茶請けの煎餅を飲み食いしながら観戦していたのである。
「あっ……やっちゃった……」
 取り返しのつかない事をしてしまった。そう勇美は、まるで養豚場の豚を見るかのような霊夢の無慈悲な視線に晒されながら後悔するのだった。
 そして、その霊夢は「奴には後で地獄を見せる」と腹を括り目の前の課題に意識を向ける。
「さあ、この勢いに乗って行くとしますか」
 そう意気揚々と霊夢は言う。──月での鬱憤を晴らす為に。
 霊夢は『無重力』と称される程であるから、『復讐心』等という束縛には捕らわれる事はない。
 だが、彼女とてプライドというものがあるのだ。その衝動に答える形で霊夢は次の手を打とうとする。
 そして彼女が取り出したのは、陰陽宝玉とは違う玉であった。
「!」
 それを見た瞬間、依姫は凍り付くような感覚に陥る。
 ──それは月で、穢れをばら蒔かれた時の事に他ならない。
 聞く所によれば、霊夢はその行為をあろう事かスペルカードにしてしまったようなのだ。
 そして、それを発動する為に『玉』を媒体に使っているらしいのである。
「……」
 依姫は無言になり意を決した。──霊夢が再び自分に対してそのような事をするのであれば、こちらもそれ相応の事をしなければいけないと。
 幸いこちらは穢れを祓える『伊豆能売』を使役出来るのだ。大事には至らないだろう。
「そりゃっ」
 そう思いを馳せている依姫に対して霊夢はその玉を投げ付けて来た。
 これに穢れが仕込まれていれば即座に伊豆能売で対応する。そう考え依姫は玉を斬るべく刀を振り翳した。
「掛かったわね。この瞬間スペル発動よ!」
 そう言って霊夢はありったけの神力を両手から送り出し、その神々の名前を言う。
「伊耶那岐に伊耶那美、その力を私に示して!」
「何ですって!?」
 依姫は驚愕する。しかし、その驚きの方向性は予想だにしなかったものだった。
 ──伊耶那岐と伊耶那美は兄妹の神々であるが、身を結び夫婦となって天地創造を行った創造神なのである。
 そんな神々を目の前の巫女は降ろしたと言うのか。
 そう依姫が驚く最中、霊夢はそのスペルを宣言する。
「【焔姫「想世のびっくりバン巫女玉」】!!」
 その瞬間、辺りは一瞬にして白の閃光に包まれる。
 続いて起こったのは、凄まじい大爆発であった。赤と橙の中間の禍々しい色のエネルギーの奔流が引き起こされる。
 これは正に大宇宙が創造される時に起こる大爆発、ビッグバンを想起させるものであった。
「くうっ!」
 余りの衝撃に、さすがの依姫も計らずとも手に持った刀を吹き飛ばされて手離してしまうのだった。
(やった……!)
 それを見据えて、霊夢は心の中で歓喜の声をあげた。
 あいつの刀は厄介な神降ろしの補助を行う媒体、それを手離させた事により自分にも勝機が訪れたと。
 生憎、今の自分では伊耶那岐、伊耶那美の力を使った事により神力を使い果たしてしまったけどねと思いながら。
 自分でも無茶な戦いをしていると思う。だが、こうでもしないと今の自分はあいつ(依姫)には太刀打ち出来ないのだ。
 柄にもなく熱くなっていると、今霊夢は思っていた。だが、そういうのもたまには悪くないなと感じるのだった。
 やる事はやった。後は結果に任せるだけである。
 そんな思いを霊夢が馳せる中、徐々に彼女と神々の力で引き起こした爆炎は収まっていった。
「はあ……はあ……」
 そこには爆炎のダメージを受けて息を荒げている依姫の姿があった。
 その光景を見て、霊夢は結論付けた。
「あ~あ、私の負けね」
 それが揺るぎない真実であった。──何故なら、依姫の手には握られていたのだ。
「まさか、金山彦命の力で一旦刀を分解して、金属部分を戦輪(チャクラム)型にして探り寄せるなんてね……」
 そう霊夢は本心から感心しながら言った。そこには清々しさすらあったのだ。
「ですが間一髪でしたよ。よくここまでやりましたね」
 対する依姫も本心からそう言う。彼女は下手なお世辞は言わない主義なので、これはありのままに依姫が思った事なのであった。
 そして、この激戦を見ていた勇美は──思わず感涙していた。
 まさか彼女は戦いを見て涙を流すとは思っていなかったのだ。それだけ今回の勝負の内容は深いものがあったのである。
 勇美は涙を拭い二人に呼び掛ける。
「二人とも素晴らしかったです!」
 その勇美に対して、依姫と霊夢は温かい眼差しで返す。
 ──事はなく、それは養豚場の豚を見るような視線であった。
「えっ? どうしたのですか二人とも?」
 気付けば勇美は依姫に背後からガッチリと取り押さえられていた。
 そこに霊夢は勇美の腕を締め上げ捻り上げる、所謂『アームロック』を綺麗にきめていたのだ。それはもう芸術的に。
「このお茶と煎餅泥棒~!!」
 動力源である緑茶とそれを彩る煎餅を奪われた霊夢の怒りは凄まじかったのだ。容赦なく勇美は関節技の芸術の餌食となる。
「ごめん、ごめんなさい!! がああああ~っ!!」
 激痛に支配される頭で、勇美は依姫まで何故協力するのかと思った。今は痛みの事にしか意識がいかない。
 そんな彼女が依姫と霊夢のわだかまりが解けて仲良くなっていた事をほっこりとした心持ちで思うようになるのは、熱さが喉元を過ぎた後であった。