雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第41話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第四十一話 天子の招待状】
 依姫と霊夢の激戦から暫しの時が経ってから。勇美と依姫は永遠亭の休憩室でその事を話題に話をしていた。
「いやあ、あの時の依姫さんと霊夢さんは凄かったですよ」
 勇美はその時の様子を今でも鮮明に思い出すのだ。それだけあの時の勝負は観ている方も手に汗握るものがあったのである。
 だが、次に依姫が言う事は勇美にとって思いもよらない事だった。
「ええ。でもあの子、また努力してなかったようね……」
「えっ!?」
 事も無げにさらりと言う依姫に、勇美は面喰らってしまった。
「でも依姫さん、あの戦い、とても接戦だったじゃないですか!?」
 依姫の判断を飲み込めず、勇美は思わず食い下がる。自分の事でもないにも関わらず。
 それに対して依姫は冷静に言う。
「あの子の潜在能力はあんなものではないわ。あの戦いでよく分かったわ」
「……」
 勇美は唖然としてしまう。あれ程の戦いを見せた霊夢が、努力すれば更に上へ行くというのだろうか。
 ぞくっ。その瞬間勇美は背筋に寒気を覚えるのだった。──彼女は決して敵に回してはいけないと。
 だが、それと同時に勇美は感慨深くなるのであった。その理由は。
「でも、霊夢さんってそんな恐ろしい存在なのに、多くの人妖を惹き付けているなんて不思議ですよね」
 それには依姫も同意見であった。
「勇美の言う通りね。あの子には、私にも無い何かがあるのね」
 そんな話に華を咲かせる二人であった。

◇ ◇ ◇

 そして、それと同じ日に永遠亭に来客があった。
「ごめんください」
 誰だろう? 勇美は思うが、これだけは譲れなかった。
「早苗さんだったらお引き取り願いたいですね……」
 そう、勇美の早苗に対する苦手意識は消えてはいなかったのだ。あれから頻度は減ったものの、人里で会うと相も変わらず危ないアプローチを受けるのだった。
「安心しなさい勇美、どうやら違うようだから」
 そう言って依姫は微笑むと、その答えは直ぐに分かるのだった。
「あら、あなたは永江衣玖さんね。これまた珍しい来客ね」
 と、応対を行った永琳が言った。
「『ながえいく』さん?」
 聞き慣れない名前に、勇美は首を傾げた。一体何者なのだろうと。
「ああ、彼女ね」
 依姫の方は認識があるようであった。一人頷く。
「依姫さん、ご存知なんですか?」
「ええ、話に聞いた事はあるわ──」
 そう二人が話している内に、当の永江衣玖は永琳に案内されて彼女達の元へやって来たのだった。
「衣玖さん、勇美ちゃんと依姫はこの二人よ」
「ありがとう永琳さん。感謝しますわ」
「それじゃあね。何かあったら言ってね」
 やって来た二人はそう言い合うと、永琳はその場から去っていったのだった。
 そして、後に残った者を勇美は見据える。
 まず目立つのは、──こういう表現は些か卑猥であるが──ヒダヒダをふんだんにあしらったピンクの服であろう。下半身は黒のロングタイトスカートである。
 次に目を引くのが赤い触覚のようなリボンを施した黒の帽子である。
 後は紫色のショートヘアに赤い瞳の顔立ちであるが、それ自体は至極普通の要素である。
 彼女の印象を強くしているのは、何と言っても服装の方であり、服装をノーマルな物にしたらきっと誰だか分からなくなる事儲け合いだ。
 だが、勇美は彼女を見た瞬間に頬をほんのり赤く染めてしまった。奇抜な衣裳の中にある彼女の素朴な魅力を感じ取って心惹かれてしまったのだろう。
「初めまして綿月依姫さんに黒銀勇美さん。私は永江衣玖と申します」
 勇美がそんな衝動に駆られている事とは知らず、衣玖は自己紹介をした。
「あ……」
 対して勇美は放心状態となっていた。
「勇美……」
「あっ、はい!」
 そこへ依姫に呼び掛けられて、勇美は漸く自我を取り戻す。
「貴方、大丈夫? どこか具合でも悪いのかしら?」
 依姫は勇美の事を気遣い言葉を掛ける。
「いえ、大丈夫です。依姫さん、この人が」
「ええそうよ」
 勇美に言われて、依姫は改めて説明する。
 彼女、永江衣玖は天界に住む龍神の遣いで、妖怪化したリュウグウノツカイである事を。
「でも、その龍神の遣いさんが私の所へ?」
 勇美は当然起こる疑問に首を傾げる。
 その問いに対して衣玖は答える。
「それはですね、総領娘様からあなた宛てに招待状を預かって来たのですよ」
 そう言って衣玖は一通の手紙を取り出し勇美に渡す。
 勇美はそれを受け取りながらも疑問に思った事を聞く。
「総領娘様って誰ですか?」
「これは失礼しました。総領娘様というのは、天界の王の一人娘の比那名居天子様の事ですよ」
「ほええ……」
 それを聞いて勇美は話が跳んでしまっていると思った。そんな凄い人から自分はお呼びが掛かったのかと。
「確かに渡しましたよ。それでは……」
 そう言って衣玖は気品溢れる振る舞いで永遠亭を去っていったのだった。
「……」
 それから暫し勇美は放心していたが、やがて気を持ち直して言う。
「天界ですか、面白そうですね」
「行く気のようね、勇美」
「はい。待っていて下さいね、永江さん!」
「なぬっ!?」
 依姫はひっくり返りそうな声で言った。
 招待の手紙を寄越したのは彼女ではなく天子であるというのに。
 ──これは一目惚れという奴か。こやつも早苗の事どうこう言えないなと依姫は頭を抱えるのだった。