雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第44話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第四十四話 空鰓のUMA
 神力を使った瞬間移動──縮地を行い、衣玖が飛ばされた勇美と天子から離れた場所に依姫は出現した。
「ふう……縮地は問題なく出来たみたいですね」
 そう一人ごちる依姫。そしてお姉様程立派にはこなせないけどねと心の中で付け加える。瞬間移動のような力は惑星規模で行える豊姫に足元にも及ばないからであった。
 だが、依姫はそこで自分に力を貸してくれた神々の事も忘れてはいなかった。姉への尊敬と神々への敬意の中で複雑な心境になる依姫だった。
 それはそうとタッグ戦を始めた時から豊姫の姿は見受けられない。一先ず月へ帰ったのだろうか。
 だが豊姫の事だからこの勝負が終わる頃には迎えに来てくれるだろう、依姫はそう思いまずは当面の課題に目を向ける。
「あ、いたわね」
 そう依姫は確信する。お目当ての人物を見付けたのだ。
 舞いの神と風の神の力による旋風で吹き飛ばした、永江衣玖その人である。
「まあ……」
 だが、依姫はその姿を確認すると驚きと感心に苛まる事となる。
 その理由は。
「まさか無傷でしたとはね……」
 頭を掻きながら依姫が言う視線の先には、あれだけの強風に巻き込まれながらノーダメージの衣玖の姿があったからだ。
 そんな依姫に対して、衣玖は丁寧にお辞儀をしてから説明する。
「そういえばまだ申しておりませんでしたね、私の能力」
「?」
 そう衣玖に言われて依姫は訝りの表情を見せた。
 そして、彼女が言わんとしている事を衣玖は察して代弁する。
「ご察しの通り、私は電撃を操れますが、これは私の力であり能力ではないのです」
「……」
 言いたい事を言われて依姫は少々面喰らってしまった。
「驚かせて済みませんね。これが私の『空気を読む能力』なのですから」
 衣玖はゆったりとそう説明した。
「成る程……」
 依姫は言いたい事は幾らかあれど、取り敢えず納得する事にした。
 衣玖がある程度相手の言わんとする事を読んで見せたり、極め付きはやはり旋風を無傷で掻い潜った事だろう。
「貴方、素敵ですね」
 依姫はそう衣玖を称した。それが能力からであるとはいえ、彼女を優雅に彩っているのだから。
 勇美が惚れ込むのも頷けるというものだ。
「お褒めに預かり光栄です」
 そう言って衣玖はスカートを気品良く両手で摘まみながら答え
た。
 そして、最後に確認しておきたい事を依姫は口にする。
「それから、これまでの事から判断して、貴方わざとフェザーダンスに巻き込まれたわね」
 と、いう事になる。空気を読めるのなら、わざわざ旋風に取り込まれてやる必要はなかったのだ。
「気付いていましたか。確かにメインディッシュは総領娘様に堪能してもらいたくて、こうしたまでですよ。……そういうあなたも大概ではありませんか?」
 衣玖は丁寧であるが嫌味なく微笑みながらそう指摘した。
「さすがですね、お分かりでしたか……」
 そう言って依姫は自分の思惑の種明かしをする。
 それは、あのまま続けていたら勇美は依姫に頼る形になっていたからだと。
 勇美は腹を括り、安いプライドに捕らわれなくなったのだ。
 それ自体は良い傾向である。
 しかし、勇美はあの場で、活用出来るものは活用しようとしただろう。
 その結果、悪い言い方だと『依姫に依存する』形となっていたのだ。
 それも立派な戦術である。だが依姫は勇美の成長の為に敢えて、あの場から離れる事にしたのだった。
「お厳しいのですね、依姫さん」
「確かに、自分でも思うわ。でも、あの子はそんな私を求めてくれているのよ」
 なら、自分はその気持ちに最大限に応えなくてはいけないだろう。依姫はそう締め括った。
「それでは始めましょうか、『永江さん』♪」
「……あなたも私を名字で呼ぶのですか」
「ええ、勇美の気持ち、今よく分かるわ」

◇ ◇ ◇

 そして、言うなれば『第二回戦 Aブロック戦』とでも称するべきか。
 そのような内容の戦いが始まったのだった。
 依姫はまず、衣玖が動きがゆったりな分、彼女が仕掛けて来るのを待っていると些かこちらの不利だろうと踏み、こちらから仕掛ける事にしたのだ。
 まずは小手調べ。依姫は刀を振り抜き、衣玖へと振り翳した。
「甘いですよ」
 言って衣玖は腕を翳すと、そこに服の数多のヒダが集まっていき、螺旋状になった。
「【魚符「龍魚ドリル」】……」
 そのスペル宣言通り、衣玖の右腕は穿孔機の如く依姫の刀へと向かっていったのだ。
 そしてぶつかり合う剣とドリルという、所謂『男のロマン』同士。生憎、依姫も衣玖も女性な訳であるが。
 刃と穿孔機は衝突により、激しく火花と金属音をほとばしらせていた。
 そして、両者はその得物に力を込めると、互いに弾かれ、距離を取り直したのだ。
 即ち、仕切り直しである。
「永江さん、貴方面白い攻撃をするのね」
「そういう依姫さんはスペルカード無しであれ程の剣捌きを見せましたね」
 そう両者は言葉を投げ掛け合う。
「……」
「……」
 そして二人とも見つめ合い、互いに相手の隙を探り合っていた。
 だが、その沈黙は破られる事となる。次に動いたのは衣玖であった。
 やはり状況を読む事においては彼女の方が得意なようだ。
「【雷符「雷鼓弾」】」
 言って衣玖は依姫に対して指を指すと、そこからエネルギーの弾を撃ち放った。
「その程度の攻撃……」
 依姫は至極落ち着いた様子で刀を構える。
 そして、迫って来たエネルギー弾を容易くそれで切り払ったのだ。バチンという珍妙な音を立てて弾は弾け飛んだ。
 依姫にとって実に簡単な作業であった……筈である。だが、彼女は刀を持つ手に違和感を覚えた。
「……?」
「お気付きになられたようですね。私の弾も当然電気ですから、刀で捌く際にはお気をつけて下さいね」
 金属である刀は当然伝導体である。それで電気に触れれば持ち主である依姫にも幾分か電流は走るというものだ。
「これは厄介ですね……」
 刀を扱う自分は些か分が悪い、そう依姫は思った。
 故に次の手を出し辛くなる依姫。その隙を空気を読む事に秀でた衣玖が見逃す筈もなかった。
「ではこのまま行かせてもらいますよ。【雷魚「雷雲遊泳弾」】」
 そして衣玖は先程と同じく指を依姫に向けると再び電撃の弾を彼女目掛けて放出した。
「……」
 依姫は無言でそれを見据える。彼女の視線の先には、無数の電撃弾が迫っていたのだった。
 一つでも触れると面倒なのに、それが数多く存在していたのだ。
 だが、依姫は全く動じていなかった。
 人の手で触れれば厄介。それならば神の力を借りればいいまでの事。
 別にこの勝負で神降ろしをしてはいけないルールなどないし、依姫自身そのようなものを自分に課してなどいない。
 故に依姫は迷わず神の力を借りる事にしたのだった。
「【護符「祗園式避雷針」】」
 依姫は祗園様の力を借りると、例の如く刀身を地面へと突き刺した。
 だが、そこからが様相が違ったのだ。現れたのは動いた者を捌く刃の牢獄ではなく、一本の高く聳える刀身であった。
 僅か一本の刃でどうするつもりなのか。その答えはすぐに出る事となった。
「……?」
 空気を読む事に長けた衣玖はいち早く異変に気付いた。自分が放った電撃の弾幕の軌道に変化が見られたのだ。
 そして、電撃弾の群れは、まるで意思を持っているかのように次々と例の長き一本刀へと吸い込まれていったのだ。
 こうして弾は全て飲み込まれてしまったのだった。
「成る程、避雷針ですか……」
「そういう事ですよ」
 避雷針。それは建物に雷が降り注がないように高い所に、かつ電気を通す金属の性質を利用して設置される保護手段である。
 それを依姫は神の力で瞬時に設置したのだった。
「やりますね……」
 衣玖は正直言うと閉口していた。神降ろし……何という応用力のある業なのかと。
 この人は自分とは格が違うと痛感した。成る程、連れの者が寄り掛からないように離れようと考えるだけの事はあると。
 だが、衣玖はこの勝負を捨てた訳ではなかった。そして、彼女は次なる手を打とうとする。
「避雷針があるなら、それに影響されない力で攻撃すればいいだけの事ですよ」
 言うと衣玖は懐から新たなスペルカードを取り出す。
「【光星光龍の吐息」】」
 そして、衣玖は両手を揃えて眼前に構えた。
 そこから放たれたのは先程までの電撃ではなく、光の奔流であった。
「!?」
「驚く事はありませんよ、私の能力は雷ではないのですから」
「確かに」
 依姫はそう言われて納得する。衣玖は雷の専門家ではないのだから、それ以外の攻撃方法があっても別段驚く事はないのだ。
「いい判断……と言いたい所ですが、これは貴方の判断ミスですよ」
「!?」
 衣玖はその言葉に耳を疑った。空気を読む事に長けた自分が読み違いをしてしまったのかと。
「【反射「やたの鏡の守護」】」
 石凝姥命の力を借りていた依姫は、彼女の造りし神の鏡、やたの鏡を眼前に繰り出した。
 すると光の清流はみるみる内に鏡へと飲まれていったのだ。
「!」
 驚く衣玖に、依姫は追い討ちをかけるかのようにいう。
「驚くのはまだ早いですよ。光の直進なら私の剣で簡単に斬れました。
 それをわざわざやたの鏡で受け止めた理由を、これからお見せしましょう。──石凝姥命、お願いします」
 その依姫の指示を受けて、石凝姥命は軽く頷くと、持つ鏡に神力を込め始めた。
 すると鏡は一層輝きを増す。
 そして、鏡から衣玖から溜め込んだ光が、一気に彼女目掛けて放出されたのだった。
「!! くうっ……!」
 自分の力で生み出した光の激流に飲まれ、衣玖は苦痛に顔を歪めた。
 今度はダメージがあったようだ。風なら空気を読みいなす事が出来る。電撃なら自分は耐性を持っている。
 だが、今衣玖を飲み込んでいるのはそのどちらでもない、光のエネルギーなのだ。故に今回彼女は成す術がなかったという訳だ。
 そして、漸く衣玖を飲み込んだ光も収まっていった。
「くっ……」
 先程までのゆったりとした振る舞いが崩れ、衣玖は苦悶の表情を浮かべて依姫を見据えながら言った。
「さすがです依姫さん、やはり月を守護する者は私の遠く及ばない所におられるようで」
「ええ、私やお姉様には護るものがありますから、強くならないといけませんからね」
 彼女らしく謙遜せずに依姫は言う。そして、「まだまだ強くならなければいけないのです」と付け加えた。
「これ以上に上を目指すのですか」
 依姫の弁を聞いて、衣玖は途方もないものを感じた。
 だが彼女とて易々と勝ちを譲る気はなかったのだ。
「参りますね。ですが私もそう簡単に引く気は有りませんよ」
 言うと衣玖はスペルカードを取り出す。だが、先程までとは何か感じるものが違う。
「これは総領娘様にも見せた事のないとっておきなんですけどね、あなたに対して出し惜しみなんて無粋の極みでしょう」
 そう意味ありげな事を言うと、衣玖はその手段の名を刻む。
「【雷神魚「フィッシュタケミカヅチ」】」
 その宣言の後、衣玖の体が目映い光で彩られた。
「?」
 何が起こるのだろう? 依姫はそう思いながら事の成り行きを見守った。
 光は一際激しくなるが、やがてそれも収まった。
 そして、光の収まった世界を目を凝らして見据える依姫であったが、さすがの彼女でも目を見開いてしまう光景がそこにはあった。
「永江さん、貴方……」
 依姫は辛うじてそれだけを口にした。
 彼女の視線の先にあったのは、リュウグウノツカイであった。
 ──それは衣玖を形容する比喩ではなく、銀色の体に赤い鰭を持つ体長の長い魚である、正真正銘リュウグウノツカイだ。
 それだけなら、さして依姫は驚きもしなかっただろう。問題なのは……。
「何て大きい……」
 依姫の言葉通り、その体躯であった。ざっと見て全長は8メートルはあるものであったのだ。
 衣玖はかつてリュウグウノツカイにしては小さいと言われていたが、それは人間型を取っていた時の事である。
 だが、今の彼女はスタンダードなリュウグウノツカイと比べても、極めて巨体であろう。
「驚かせてしまいましたね」
 巨大魚と化した衣玖が申し訳なさそうにいう。姿は変われど彼女の丁寧な性格は失われていない所に安心感を感じる。
「それが貴方の姿なのですか?」
 その依姫の質問に対して、衣玖は首を横に振る。
「いいえ、ご安心下さい。この姿は私の妖力をありったけ肉体に注いで造った仮の姿ですよ」
 それを聞いて依姫は幾分が安心した。
 その事に対して衣玖は多少の訝りを見せる。
「それは余裕というものですか? 私のこの姿を見て」
 言う衣玖の雰囲気が変わる。人間の姿であったなら、恐らく彼女らしからぬ邪な笑みを浮かべていた事だろう。
「これから私が行う攻撃を見てもその余裕を保っていられるでしょうか?」
 言って衣玖は空高く舞い上がった。その優雅でありながら悠然とした姿は、正に『龍』そのものであった。
 その流麗ながらも威圧的な様相を目の前にして、依姫は気を引き締め直す。
「これは余裕を見せてはいられないわね……」
 そう言って、依姫は自分よりも高く聳える空の龍を見据える。
 そして、遥か下方にいる依姫に、衣玖は照準を絞り、攻撃段階へと入る。
「【破貫「シャイニングボンバード」】」
 衣玖の声が響く。といっても彼女は口を使って発声している訳ではなく、一種の念で言葉を紡いでいるようであった。
 そして、衣玖の口に光の粒子が集約していき、瞬く間に彼女の口の周りに光の塊が練り上げられていった。
 そうして一頻り光が拵えられると、それを衣玖が内部から押し出すように放出した。
 衣玖の口からSF作品に登場する戦艦の主砲の如く光が打ち出された。
 だが、依姫は慌てなかった。先程の光の吐息の時のようにやたの鏡を合わせるだけである。
 依姫は再び石凝姥命をその身に降ろし宣言した。
「【反射「やたの鏡の守護」】」
 それにより再度現れる神の鏡。
 そして光の爆流はぐいぐいと依姫へと距離を詰めていった。
 だが、依姫は揺るぎなき護りの力を持つやたの鏡を現出しているのだ。恐れる必要はないだろう。
 とうとう光は淀みなく磨かれた鏡面へと取り込まれていった。それにより凄まじい空気の震えが生じているが、この神鏡の前には成す術がない筈である。
 だが、まさかその思惑は外れる事となる。
「!?」
 依姫は感じたのだ。この光が生み出す衝撃の凄まじさに。
 ──このままでは鏡が弾き飛ばされる。そう思った依姫は鏡を斜め上に向けたのだった。
 それにより光の砲撃は進行方向を変更されて、遥か上空へと誘導されていったのだ。
 やがて終わる光のブレス攻撃。そして、その光景を見届けていた衣玖は言葉を発した。
「うまくかわしましたか……」
「ええ、まさかやたの鏡を弾き飛ばせる程の力があるなんて驚きですよ」
 依姫のその言葉が示す通り、今の衣玖の攻撃は鏡を吹き飛ばす程の力があったのだ。
 幾ら神の加護を受けた護りの産物を持ってしても、それを押し退ける程の力があれば、攻撃は持ち主に届くというものだ。
 要は、どんな攻撃でも壊れない盾を持っていようとも、それを手離す事になれば意味がないという事だ。
 故に依姫は攻撃を弾き返して相手にそのまま返品するという芸当を見せるという欲張りは見せず、攻撃が自分に届かなくする事だけに専念したのだった。
「さて、どうしたものか……」
 依姫はそこで手をこまねいた。
 相手がタケミカヅチの名を称したスペルで今の姿になったのなら、こちらは本物の建御雷神(タケミカヅチ)の力をお見舞いしてあげようか。
 そう一瞬思った依姫だったが、すぐにその考えを却下する。
 相手は能力ではないが電撃を操るのだ。しかも今の姿は巨大な怪魚のものである。
 下手に雷の力で攻撃などすれば吸収されるのは目に見えているだろう。
 さて、どうしたものか。そう思い至った時、依姫は気付いた。
 ──何も『どうにかする』必要はないと。
 その考えの元、依姫は口角が上がらないようにするのに必死であった。
「先程は光線であったからかわされましたが、今度はそうはいきませんよ」
 言うと衣玖は再び口を開いて迎撃体勢に入る。
「【魚龍「バハムートブレス」】」
 その宣言に伴い、衣玖の口に再びエネルギーが収束する。
 だが、今回は光ではなく、炎熱であった。
 煮えたぎるような炎を粘土細工のようにかき集めると、衣玖はそれを一気に吐き出した。
 そして生み出されるのは爆炎の行列であった。その飲み込まれたら地獄行きの体感を味わうだろう列は爆音と震動を振り撒きながら依姫へと差し迫った。
 それに対して依姫は、この場に来る際に使ったスペルの発動準備をする。天宇受売命と韋駄天は既にその身に降ろしている。
「【縮地「ライトステップ」】」
 言って足を踏み込むと、依姫の姿がそこから消えた。
 そこに衣玖が吐き出した爆炎が迫った。そして地面に着弾すると激しい爆発を発生させた。
 対して依姫は少し離れた場所に出現していた。
「ふう、間に合いましたか」
 間一髪といった風に依姫は額の汗を拭った。
 依姫はこのまま縮地で爆炎をかわし続けるというのが作戦だろうか?
 だが龍の権化と化した衣玖が生み出す破壊の奔流の規模は凄まじいものがある。このまま逃げの一手を続ければ、いずれ依姫の方が追い詰められるだろう。
 しかし、依姫は余裕の態度でこう言った。
「まだ続けますか?」
 その意味ありげな質問に対して、衣玖は言葉ではない形で答えた。
 彼女の体が突如として光る。それはどこか何か想起させるものがあった。
 そして予想通り、光が収まるとそこには人間型の姿に戻った衣玖がいたのだ。
 ちなみに桃色のヒダがふんだんにあしらわれた服に黒のロングスカート。残念ながら彼女はきっちりと普段の服装に身を包んでいた。
 勇美がこの場にいたら激昂していた事だろう。『女性が異形の変身から解けた時は、すっぽんぽんじゃないと男のロマンに反する』と。
「……随分おスケベなお弟子さんね」
「ええ、それに女の子なのに男のロマンって何なのかしらね」
 依姫と衣玖は当事者のいない所で極めて失礼な考察をする。
 だが、それらの読みは寸分たがわぬものなのだから問題ないだろう。
 閑話休題
「まさか私の限界が読まれますとはね。空気を読む者失格ですね。
 ──いつから気付いていましたか?」
「光のブレスを放った後ですね。それで貴方があの形態を維持するには妖力の消耗が激しいのだと」
「参りましたね」
 そう言うと衣玖は付け加える。
 そもそもあの姿をとったのは賭けだったのだと。依姫との力量の差を感じたからこそ正攻法では無理だろうと踏んでの事であったのだ。
「私の柄にもない事したと思いますけどね」
「いいえ、あのがむしゃらさ、勇美にも通じるものがあって素敵でしたよ」
「……いいお弟子さんを持ちましたね」
 衣玖がそう微笑みながら言った後、暫しの間が開いた。
 だが、それもつかの間の事。依姫も衣玖に微笑み返すと、はっきりとこう言った。
「ええ、勇美はいい弟子よ」
「そうでしょう、では行きましょうか、依姫さん」
「そうですね、永江さん。参りましょう」
 そう言い合い、二人は今繰り広げられているだろう本日のメインディッシュの場へと赴くのだった。