雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第52話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第五十ニ話 おもてなしSCARLETS】
 フランドールへの何者かによる憑依の一件からしばらく立った日の夜。
「う~ん、たのしみ~」
 勇美は緩み切った表情を出しながら心踊る気分であったのだ。
 それは他でもない、当の騒動があった紅魔館からの招待があるからである。
 あの時は完全に緊急の事態であった。だが、今回は安心してお呼ばれの下行くのだ。
 紅魔館には一度依姫と咲夜、勇美とレミリア弾幕ごっこをする為に招待してもらった事がある。
 しかし、今回は弾幕ごっこなしの、完全な息抜きと交流の為のものであるのだ。
 そして、これには紅魔館からのお詫びとお礼の意味が込められているのだった。
「勇美、楽しみそうね」
 いつになく嬉しそうにしている勇美に依姫は言い、そしてもう一人この場にいる者にも話し掛ける。
「それから、お姉様もね」
 そう、その人物は豊姫であった。彼女もまた紅魔館の危機を救った者としてお呼ばれが掛かっているのだった。
「そりゃあもう、紅魔館で出されるピーチティーはいかほどの物か楽しみじゃない訳ないでしょ~」
「天界で桃を盗み食いしてもまだ足りんのかい?」
「うっ……」
 依姫の手厳しい突っ込みに豊姫はうろたえた。
「よりひめ~、その事はさっぱり水に流そうよぉ~」
「ダメです」
 依姫は、もうそれは爽やかな笑顔でキッパリと言い切ったのである。
「そ、それじゃあ私が紅魔館にみんなを連れていくから準備はいい?」
 うまく逃げ切ったな、依姫はそう心の中で毒づいた。
 夜道、殊更幻想郷のそれは妖怪が蹂躙する世界であるために危険なのだ。
 その中を安全に、かつ手早く移動するには豊姫の能力が欠かせないのだ。
 自分の性質を巧みに利用している。このしたたかさには中々敵うものではないと依姫は痛感するのだった。
 なので、この場の自分の敗北を認める意味も込めて依姫は言った。
「ええ、頼むわお姉様」

◇ ◇ ◇

 そして三人は豊姫の能力により、瞬時に紅魔館の敷地内へと現出したのだった。騒ぎにならないように人目のつかない場所を狙って。
 そして歩いてすぐの場所に紅魔館の門が見えて来たのだった。
 そこでは門番でお馴染みの紅美鈴が出迎えてくれた。
「皆さん、お待ちしておりました」
 そう言って美鈴はペコリとお辞儀をした。
 既に招待の話は門番である美鈴にも行き渡っているようだ。その事に三人は安堵する。
 早速美鈴が館の中に三人を案内……するかと思われたが、ここで美鈴からこんな事を言われる。
「ところで御三方は今日は紅魔館に泊まっていかれるのですか?」
 それを聞いた三人は皆苦笑した。
「それがね……」
 依姫が歯切れ悪く言い、そこに勇美が加わる。
「以前、私が美鈴さんに日の当たらない紅魔館で一夜を過ごす為に『気』を身体に送ってもらった時の事なんですけどね」
 そして勇美は事の詳細を説明する。
 あの時は気が身体中を巡り『調子が良くなりすぎて』次の日が大変であったと。
「それで私も勇美ちゃんにセクハラまがいの事されて大変だったんですよ~」
 そう言って豊姫はニヤニヤしながら遠くを見るように語った。
「お姉様のそれは、半分故意犯ですけどね」
 そう依姫が指摘する通り、豊姫は今もノースリーブワンピースにケープという出で立ちを貫き通しているのだった。
 だが、かく言う依姫も巫女装束という格好を遵守しているのだが。
 ここで話は戻る。要は美鈴が提案する紅魔館への宿泊は見送りするという話になるのだった。
「そうですか、少し残念ですね」
 物惜しそうにする美鈴であったが、彼女はそれ以上無理強いしようとは思わなかった。恩の押し売りはエゴに近しいからである。
 心機一転し、美鈴は切り出す。
「それでは、お嬢様達の元に案内しますね」
 そう言って美鈴は三人を温かく迎え入れるのだった。

◇ ◇ ◇

「三人ともよく来てくれたわ、歓迎するわ」
 そう言って三人を迎え入れたのは紅魔館が主たるレミリア・スカーレットであった。
 そんな気品正しくするのが幼女である。そのギャップに引かれる者があった。
「こんばんわ~、レミリアちゃ~ん♪」
 そう言ってレミリア愛玩動物のように抱き締めるのは豊姫であった。
 豊姫は、何故か先日の一件によりレミリアをいたく気に入ってしまったのだった。
「あ"あ"~、やめんか~、咲夜、何とかしなさい」
 もみくちゃにされながらレミリアは自分の従者に助けを求める。
 幸い、従順な従者である咲夜はそれに応える。
「豊姫さん!」
 睨みと鋭い声の下、咲夜は豊姫に対して身構えた。
「そのポジションは私のものですわよ!」
「それも違う」
 否、主の要望は正確には応えられなかったようだ。
 それを聞いて豊姫は悪ノリする。
咲夜さん、固い事言いっこ無しですよ。ここは二人で堪能すればいいじゃないですか」
「それもアリですわね♪」
「ナシだ」
 私はパーティーパックじゃないわとレミリアは心の叫びをあげるが、それは最早無駄な抗いとなるのだった。
 そして、しばらく二人の玩具にされた後、レミリアはようやく解放された。色々何かを失った気もするが、深く気にしてはいけないだろう。
 そんないざこざがありつつも、三人をもてなす為のパーティーは滞りなく行われていったのだ。
 楽しい談笑に、豪勢な料理と憩いの時間がそこには繰り広げられていった。
 特に特上ロースのステーキは勇美にとって非常に喜ばしい物であったのだ。
 その理由の一因は、フランドールとの戦いに多大な労力を費やした事にある。故にこの数日の勇美の身体はエネルギーを多く求めているのだった。
 だから、ステーキのようなガッツリした料理は勇美にとって有難い一品だったのだ、
 もしかしたら、レミリアがその事に気を利かせてくれたのかも知れない。さりげない気遣いが出来る彼女であるが故に。
 しかし、当然その事をレミリアに聞いてもはぐらかされるのがオチであろう。
 だから勇美は心の中でレミリアに感謝するのだった。
 そんな中、咲夜が突然このような事を切り出し始めた。
「依姫さん、突然このような事を言うのはどうかとは思うのですけど」
「何かしら?」
「私にも勇美さんのように稽古をつけてくれませんか?」
「これまた意外ね……」
 依姫は予想しなかった咲夜の言葉に驚くのだった。
 だが、何故かを聞く前にそれを承諾する。相手の事情に深く立ち入るのは野暮だからだ。
「分かったわ。貴方が望むのなら口出ししないわ」
「ありがとう」
 お礼を言った後、咲夜はその理由を話す事にした。いくら相手が強要しないとはいえ、知りたがらない筈はないからであり、それが礼儀だと咲夜は思ったからだ。
「私は前回の妹様の一件で、自分の実力不足を実感しましたわ。だから、私はもっと強くならないといけないと思ったのです」
「それは感心ね。でも、その考えに至るまでには相当迷った事でしょう」
 以前敵として戦い、その後もライバル関係にある者に対して師事をする。それは自尊心という概念が妨害をしてくる事柄である。
 それを振り切った事を選んだ理由を咲夜は語る。
「お嬢様も家族を守る為にはある程度プライドをお捨てになる事を選びましたわ。だから私もそれを見習わなければなりません」
 重荷は主たるレミリアにばかり負わせる訳にはいかない。それが咲夜の考えという事だ。
 その考えを受け止め、依姫は口を開いた。
「いいわ、貴方の心意気、大切にさせてもらうわ」
「ありがとうございます」
 そして咲夜は、依姫に頭を下げて感謝の言葉を口にするのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、咲夜の師事という眉唾な話がありつつも、無事にパーティーは幕を閉じる事が出来たのであった。
 ここでお開き、そう思われていた所にある者が三人の前に駆け付けて来たのだ。
「よりひめ~、パーティー楽しかった~?」
「あらフラン。ええ、とても楽しめたわ」
 依姫が答える相手、それはフランドールであった。
 あの一件の後、三人の招待に出席したいという彼女の要望を、紅魔館の住人達は多少のリスクをおかしてでも叶えてあげたいと思い参加させていたのだった。
 そして、フランドールは依姫に助けられて以来、彼女になついているのである。
「えへへ~、それは良かった~」
 屈託のない笑顔ではにかむフランドール。
 その様子を勇美は微笑ましく見ていた。──やっぱりフランドールは無邪気で純粋な子なんだなと。
 こんな子に酷い事をしたのは誰だか知らないけど許してはいけないと静かな怒りの炎を燃やしていた。
 そのような事を勇美は思っていると、突然フランドールから彼女にも話し掛けられた。
「いさみ、あなたにもお礼が言いたかったんだよ」
「え、私?」
 思いがけない事を言われて、勇美は驚いたようだ。
「そう、私を助けてくれる為に一番頑張ってくれたのはお姉さまといさみだって、みんなから聞いたんだ~」
「そ、そう」
 それを聞いて勇美はこそばゆい心持ちとなった。こうも面と向かってお礼を言われるのはどうも照れ臭いものであるからだ。
 勇美がそのようにまごついていると、フランドールが懐から何かを出したのだ。
「だからこれ、いさみにあげる」
 彼女が手にしていたのは、彼女の背中に生えている宝石のような物と同じ物であった。
 それを見て勇美は慌てた。
「そ、それフランちゃんの身体の一部でしょ!? そんな大切な物受け取れないよ!」
「ううん、気にしないで。私は吸血鬼だから取ってもすぐに生えてきたから……。
 これには私の妖力がこもっているから、何かの役に立つと思うんだ」
 そう言われながらも尚も困惑している勇美だが、そこでフランドールの表情を見てハッとなった。
 それは非常に切実な表情をしていたからだ。彼女は自分を助けてくれた勇美の為に何か彼女なりに悩み抜いて出した結論だからだろう。
 その事を勇美は汲み取り、迷う事を止めて言った。
「フランちゃん、ありがとう。大切に使うよ」
「えへへ、ありがとう~」
 勇美はフランドールの『意志』を受け取ると、満面の笑みを浮かべる彼女の頭を優しく撫でてあげるのだった。