力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER リベン珠】第14話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第十四話 THE LUST 3/4】
 ドレミーとの戦いの中で、今正に勇美は鈴仙と組む事の心強さを実感していた。
 そして、このやり取りを見ていたドレミーは、この二人は実に息が合っているなと感じていた。まるで寝ている時に夢が滞りなく流れるかのようであって実に風情があると。
 だが、それはそれ、これはこれというものであろう。いくら相手の絆が深かろうとも、それで自分が負けてあげるような道理にはならないのである。
 その事を再度思い返しながら、ドレミーは勇美達との距離を取ったのだ。
「次の攻撃が来るのですね」
「そういう事です」
 相手の行動に合点がいきながら言う勇美に対して、ドレミーはその見方は正しいと評価する。
 そして、ドレミー一人と勇美と鈴仙の間に程よい空間が出来ていた。そこからドレミーがどう出て来るかであろう。
 勇美達が身構える中、ドレミーは次の手に出る為に、再び『胸元』からスペルカードを取り出すのだった。
「ああ~、何度見てもいい光景ですねぇ~♪」
 当然その光景に、脳味噌が春真っ盛りな勇美は癒やしと歓喜を同時に味わう事が出来ていたのだ。
 対して、鈴仙はそのドレミーの行為に共感出来はしなかった。なので彼女はドレミーに抗議の声を上げる事にする。
「あなた、そういう事、勇美の前でワザとやっていませんか?」
「あらごめんなさい。でも、悪く思わないで欲しいですね。これは私の癖みたいなものですから、多めに見ていただけると幸いです」
「癖……ですか」
 その言葉に鈴仙は閉口するしかなかったのである。何かその要素を持つ者が永遠亭には多い気がしたのだから。勿論その中には勇美も含まれる。
 鈴仙がそのようにどこかやるせない気持ちとなっている最中に、ドレミーのスペルカード宣言は行われたのである。
「【夢符「蒼色のドリームキャッチャー」】」
 このように確かにドレミーのスペル宣言は行われたのである。だが、勇美達は今の状況に首を傾げるしかなかった。
「いかがなさいましたか?」
 その様子にドレミーは聞いた。しかし、彼女はその答えは何となく分かっているようだ。
 だが、念のため勇美は敢えて口にする。
「ドレミーさん、確かにあなたはスペル宣言をしましたよね?」
「ええ」
 ドレミーはその質問に対して肯定で返す。確かにドレミーはスペル宣言をしたのだから。
 それは分かっているのだ。だが勇美達が聞きたいのはその事実ではないのである。
「ドレミーさん、スペル発動したのに『何も起こっていない』じゃないですか?」
 そう、ドレミーは確かに宣言をしたのだ。にも関わらず、未だに何も現象が起こっていないのである。
 その疑問に対して、ドレミーは待っていましたとばかりに言葉を発していく。
「そう来ると思っていましたよ。ですが安心しなさい、私は確かにスペル宣言はしましたから」
「でも、現に……」
 何も起こっていない。再度勇美がそう言おうとした所にドレミーが入って来る。
「確かにそう思うのも無理はありませんよね。そんなあなた方にいい事を教えてあげましょう。『上をご覧になって下さい』」
「上……?」
 そうドレミーに言われるままに上を見上げた二人は驚愕してしまった。
 そこには確かに存在していたのだ、ドレミーのスペル発動の証が。
「これは……」
「何て巨大なの……」
 勇美と鈴仙は口々にドレミーのスペル発動により生み出された産物に驚きの言葉を上げていく。
 それは、丸い機械のような外観をした蒼いカラーリングの要塞であったのだった。そして、その規模は直径十メートルには及ぼうかという程だった。
 そして、二人がそのような大それた存在に気付けなかった理由。それはこの要塞が宙に高く出現していたからである。二人はスペル発動による現象が目の前で起こるものと思っていた為に意表を突かれてしまったのだ。
「こんなスペルも存在するんですね……」
「ええ、でも幻想に生きる私達ですもの。こういうのも受け入れていかなければいけないのでしょう」
「そう、ですよね」
 その事実を、まだ幻想に住まう者としては新参の勇美はしみじみと受け止めるのだった。
 取り敢えず、今やるべき事はこの要塞がどう出て来るか動向を確かめるまでである。
「さあ、どう来るのでしょうか?」
「まずはそれを見定めなくてはいけませんね」
 二人とも言い合って、今しがた現出した要塞へと注意を向ける。さて、弾丸が来るかレーザーが来るか。
 そのような状況の元、ドレミーはスペルカードとは違う物を手元に取り出したのである。これは一体何だろうか。そう思い勇美はその物に対して注意を向けた。
「リモコン?」
 それが勇美が導き出した答えであった。縦長で様々なスイッチが付いているその物体は、正にリモコンそのものであったのだ。
 そして、ドレミーはその物体のスイッチの一つを押したのである。
 その瞬間、事は起こったのである。ドレミーのそのリモコン操作に呼応して、要塞の一部がパカリと開いたのだ。
 続けて、そこからマジックアームのような物が一気に伸びて来たのだった。更にそれは地上にいる勇美へと飛び掛かって来た。
「危ない!」
 だが、その進行を易々と受けてあげる勇美ではなかった。彼女は迫って来たアームを悠々と避けてみせたのだった。
 そして、アームはその手のひらを宙で握り絞める事となり、再び元の位置に格納されていく。
「ふう……間一髪でした」
 無事に攻撃を避けた勇美は、やれやれと一息を吐いた。そして彼女は思う。
 ──中々に効率的な攻撃だと。このアームで相手を掴んで上空へ持ち上げ、床に叩き付けるなり弾丸の標的にするなり様々な戦法が取れるなと感心した。
 ──ん? 『掴む』……?
 そのキーワードを反芻して勇美はある案を思い付くのであった……断じて思い付かなくて良かったものであるが。
「今のはかわされましたが、次はこう行くとは思わない事ですよ。どこまで上空からの攻撃に対処出来ますか?」
 それがこのスペルの強みだったのである。今立っている地上から遥か上空からという、距離の置かれた場所からの、単純だが効率の良い攻撃を前に二人はどう動けるかという事だ。
 その事を確かめる意味も込めて、ドレミーは再びリモコンの操作をしたのである。
 そして、またしても要塞からアームが伸び、二人を捕らえようと蠢き始めたのだ。
「捕まるものですか」
 言って勇美は再度そのアームの捕捉から逃れるべくその身を翻して攻撃をかわした。だが、今度のアームは少し引くと再度勇美に狙いを定めてきたのである。
 それは他でもない、ドレミーのアームの操作に先程よりも手を加えたからに他ならなかった。そして、今度こそ勇美を捕らえようとまたしても狙いを定める。
 次の瞬間、アームは一気に勇美に迫ったかと思うと、ガシッとしっかりとその手の形を握りしめたのである。だが、残念。勇美はそれをまたも巧みに避けていたのだった。
 これは、勇美が依姫との修行の元に得られ、また天宇受売命のその身のこなしを神降ろしを借りる事で彼女自身も肌で覚えていったという、鍛錬の賜物なのであった。
 ドレミーはその事は知らないが、少なくともこうして避けられ続けては、彼女ばかりに狙いを定めるのは得策ではないという結論に至ったのだ。
「仕方ありませんね、これでは埒が明かないというものです。なのでター……」
「きゃあっ……!」
『ターゲット変更』。そうドレミーが言おうとした所を勇美の悲鳴で遮られてしまったのである。
 見れば、彼女はその場で転んで尻餅を突いていたのであった。それによりミニの和服から生足が投げ出されて際どい事となっていた。
 勇美はこの旅でも普段幻想郷で過ごす時と同じようにミニ丈の和服を身に纏っていたのだった。つまり、この服はここまでの勇美の旅を支えた掛け替えのない頼もしい相棒であったのだ。
 些か旅には向きそうもないこの服装で彼女がここまでこれたのは、勇美の潜在能力か、それともこの服が意外にも機能的に優れた代物という事か。
 それはともあれ、勇美が今遭っている現状は、彼女が転んで地面に倒れてしまった事に他ならないのであった。
 彼女は、敵の猛攻に堪らず対処しきれずにしくじってしまったという事だろうか。
「いったあぁ~い!」
 いや、どうやらそれは違うという事が、このあざとい喋り方から想像出来るだろう。
「……」
「……」
 勇美のその余りにもわざとらしい振る舞い、もとい演技には鈴仙とドレミーは閉口するしかなかった。
 そして、暫しの沈黙が続いた後、満を持して鈴仙が口を開いたのである。
「……勇美さん、どさくさに紛れてこのアームに巧みにパンツを剥ぎ取ってもらおうとしているのならあなたにインビシブルフルムーンを叩き込みますよ!」
「……ちっ、ばれたか!」
 鈴仙の冷徹なる指摘に、勇美は露骨に嫌そうな表情と舌打ちの元のたまったのだった。
「勇美さん……、そんな趣味をしていたのですか?」
 これに呆気に取られながら言ったのはドレミーであった。色々ふざけた子だとは思っていたが、こんな倫理観に足を突っ込むレベルの発想をするとは至らなかったのだ。
「と、言うか勇美さん。あなたはパンツを取られたいのですか?」
「はい、相手に奪われたのを口実にして、堂々とノーパンになれますからね」
「いえ、軽犯罪の手助けをする気はこちらには毛頭ないですって……」
 勇美の平然と問題発言する様に、ドレミーは引き気味になりがらかぶりを振るしかなかったのである。
 対して、(自分の野望に関して)非協力的な態度を取るドレミーに勇美はご立腹の様子である。
「何を~ドレミーさ~ん! パンツの中には色々な夢が詰まっているんですよ。それを掴まずして何が『蒼色のドリームキャッチャー』ですかぁ~!」
「いや、その発言は完全にアウトですよ」
 これだとネチョになってしまうと、ドレミーは釘を刺しておく事にした。
「いえ、ドレミーさんの今の格好もネチョに片足突っ込んでいますって」
「それは否定しない」
 その意見には鈴仙も賛同した。何と言っても、今回の勇美を悪ノリさせているのはドレミーの出で立ちや振る舞いも一因だと彼女は思う所があるのだった。
「と、言う訳で鈴仙さん。パンツ剥ぎ取ってもらう作戦は失敗したので、これからご協力をお願いします」
「うん、人にモノを頼むような言い方と文脈じゃありませんね」
 でも、とここで鈴仙は続ける。
「あの厄介なマシンは早いとこ壊して置きたいから、一緒にてっとり早くやりましょう」
「そうこなくてはですね♪」
 そう二人は言い合うと、互いに手頃な位置に立つのであった。そして、早速とばかりに勇美は次なる神に呼び掛ける。
石凝姥命よ、その手に持つ鏡の力を私に貸して下さい」
 勇美が言い切ると、彼女の目の前に大きな鏡が形成されていったのである。
「普段はここで天照大神の力も合わせて太陽の鏡を造り出す訳ですけど、今回は違いますよ。鈴仙さん、お願いします」
「任せて下さい。【幻朧月睨「ルナティックレッドアイズ」】!」
 鈴仙はそのスペルをドレミーに直接ではなく、勇美が顕現させた大鏡へと注ぎ込んだのである。
 それにより鏡に鈴仙の狂気の瞳の映像が浮かび上がる。そして、その赤い光は瞬く間に鏡全体へと及んでいったのだった。
 何か得体の知れない事が起こる。そう踏んだドレミーは直ぐに行動に移した。
「何やら大それた事になりそうですが、それを私がさせると思っているのですか?」
 そしてドレミーは再度要塞のアームを操る。しかも、今度は一本ではなかった。要塞から別の箇所が開き、二本目、三本目のアームが追加されていったのだ。
 だが、その対処は一足遅かったようだ。
「いい対応ですね。でもちょっと手遅れだったようですね」
 そう勇美は得意気に言い、そして決め手となる行為の名称を口ずさむのであった。
「【魔鏡「月読みの鏡」】」
 その宣言を受けて、勇美が造り出した鏡の鏡面は赤一色に染まったかと思うと、そこから一気に太い赤色の光線が照射された。
 そして、光線は伸びてきた三本のアームを巻き込むと、一瞬の内にそれらを塵へと還したのである。
「えっ……!?」
 当然それにはドレミーは息を飲んだ。遥か上空からの回避しづらい攻撃が、こうも簡単に打ち砕かれてしまったのだから。
「いっけえー!!」
 この勢いに勇美は乗り、そのまま赤の光線を照射し続けたのである。目指すは勿論、上空に浮かぶ蒼の要塞である。
 そして、事は一瞬であった。鏡から放った光線は寸分違わずに要塞を貫いていたのである。
 次の瞬間、とうとう要塞はその身に受けた衝撃に耐えきれずに爆発を起こしていった。やはり巨大な構成物が爆発に飲まれて崩落していく様は不謹慎ながらも芸術的というもののようだ。
 思わず勇美達は暫しその美しい光景に目が釘付けとなっていたが。
 そして、要塞は完全に崩落を迎えたのだった。その要塞の持ち主は無言で佇んでいた。
「……参りましたよ、このドリームキャッチャーすら葬るなんてね……」
 口ではそう言うドレミーであったが、二人は見逃さなかった。彼女の表情に微笑が湛えられていた事に。
鈴仙さん、気を付けて下さいね」
「ええ、分かっています」
 慎重にそう言う二人に、ドレミーは感心する。
「よく分かりましたね、私がまだ奥の手を用意している事に」
「はい、あなたから感じられる雰囲気から、そうじゃないかって感じたのですよ」
 余裕の様相を見せ始めたドレミーに対して、勇美は尚も油断なく彼女に向き合う。
「それではお望み通りご覧にいれましょう。【月符「紺色の狂夢」】」
 こうして遂にドレミーの奥の手が発動される事となった。そして、勇美は違和感を覚える。
「あれ? 『月符』?」
 それが違和感の正体であった。今まではドレミーのスペルは『夢符』で通されていたのに、ここにきてその法則に変化が見られたのだ。
『月』。それは鈴仙のかつての故郷であり、高い英知と技術と力を有する、地上の者にとってはその真の姿は未踏の地となる存在である。
 その月の名を冠するスペルをドレミーは発動したのだ。それに警戒しない鈴仙ではなかった。
「わかっていますよ、鈴仙さん」
 月はあなたの十八番ですからね、そう言って勇美は鈴仙の忠告の言葉を素直に受け止めたのである。
 そんな二人に対してドレミーは言葉を掛けて来る。
「お二人ともいい心構えですよ。でも、心得だけでは対処出来ないって事をこれから分からせてあげましょう」
 そう言うとドレミーはまたもパチンと指を鳴らしたのである。その芸当にやはり勇美は「いいなぁ~」と羨んでしまう。
 その勇美のスケールの小さい渇望はさておき、今の合図を皮切りに事は起こっていった。
 それは一瞬であった。辺りに不可視の波動が広がったかと思うと、その光景は今までとは一気に豹変してしまったのである。
「これは……」
 勇美は余りの事態に呆気に取られてしまうのだった。
 彼女が目を奪われる程の光景。その詳細は、辺り一面が無数の大きな歯車で出来た要塞の内部のような場所に変貌していたのである。そして、その要塞の全体の色彩は濃厚な紺色で統一されていた事も今の状況が異様な事を物語っているだろう。
「恐らく、月の重要機関の内部もこうなっている事でしょうね」
 鈴仙は感慨深くそう語る。かつては月に住んでいた身であるが故にそれを構成するものについてはある程度認識があるのだった。
 だが、彼女は月の民ではなく玉兎である。実際にそのような重要機関に立ち入った事はなく、あくまで話に聞いた情報からそう推測するしか出来ないのである。
 そして、勇美はこの常軌を逸した光景にも、どこか懐かしさを感じているのだった。その理由は。
「……まるで、紫さんと戦った時みたいですねぇ……」
 勇美は緊張感を感じながらも、そうしみじみと呟くのだった。それだけ勇美が紫と戦った事は彼女にとって意味のある経験だったからである。
 かつて八雲紫は勇美との弾幕ごっこで別の時間軸上の荒廃した未来の世界を創り出して彼女と戦ったのである。正に勇美にとって今の状況はその時以来の刺激的な体感なのであった。
 そして、気付けば勇美は……。
「勇美さん、この状況で笑っているんですか?」
 鈴仙のその指摘通り、勇美の顔には隠し切れない笑みが浮かび上がっていたのである。この緊迫した状況の中にありながら。
「あ、ごめんなさい鈴仙さん。私笑っていました?」
「ええ、でも何でこの状況で?」
「いえね、私の大切な人と戦った時もこんなぶっ飛んだ状況になっていましたから、その時みたいでつい嬉しくなってしまいましてね……」
 勇美はポリポリと頬を掻きながら照れくさそうに弁明する。
 その相方の様相に少し驚く鈴仙。だが、今は好都合と考えるべきだろう。
「勇美さん、頼りにしていますよ」
「はい、任されました♪」
 普段頼りない勇美であったが、ここにきて彼女はとても心強く鈴仙に映るのだった。
 それを当然ドレミーは訝るのである。
「何だか知りませけど、次のスペルを受けてもその余裕を見せていられますか?」
 言うとドレミーは新たなスペルカードを取り出す。
「ここで次のスペルですか……」
 その事に鈴仙は驚く。ドレミーは今しがたスペルカードを発動してこの空間を造り出したばかりだというのに、すぐに別の手が追加されるというのか。
「はい、紺色の狂夢はあくまで直接攻撃をしない補助的なスペルです。そこから次に出るには別のスペルを使う必要があります。……相方の方は驚いていないみたいですね」
 ドレミーは丁寧に説明しながらも、至って落ち着いている勇美に気付くのだった。それに対して勇美は答える。
「ええ、それも私の友達が取った手段にそっくりなんですよね。驚いた事に」
「その友達と私……、何か無関係には思えませんね」
 ドレミーはそうしみじみと呟くのだった。夢の世界の支配者という大それた役職にある自分にも分からない事があるのだと思うと、どこか感慨深くなるのである。
 それはともあれ、今はこの勝負に勝って自分の責務を果たすだけである。それは『自分だけ』の問題ではないのであるが、その事については今は話題にすべき時ではないだろう。
 そして、ドレミーは次なるスペルの発動の為に言葉を発する。
「大したものですよ、あなた達は。本当はこのスペルの発動は予定していなかったんですけどね。でもまあ、行きますよ【水星「樺色のアクアブレス」】」
 宣言の後にドレミーは大きく息を吸い込む。それにより彼女のネグリジェから除く肉の谷間が艶かしく強調されてしまい、勇美の春に染まった脳にいらない刺激を与えてしまったが、それは些細な問題というものだろう。
 ドレミーは構わずに、今度はその吸い込んだ息を大きく吐き出したのである。──勿論それがただの吐息になる筈がなかった。
 彼女が吐き出したその息は、無数の大きなオレンジ色に近い色の泡の群れであったのだ。それらはどんどん距離を勇美達へと詰めていく。
 だが、今まで様々な攻撃を掻い潜ってきた二人である。今更このような単調な攻撃に当たってあげる道理はなかったのだ。
「余裕でかわせますよね、鈴仙さん♪」
「そういう事ですね♪」
 二人は弾むように言い合いながら、これまた流れるような作業でオレンジの泡の流れを避けていった。
 しかし、攻撃をかわされたにしてはドレミーの様子は別段取り乱してはいなかったのだ。
 一頻り泡の吐息を繰り出したドレミーはどこか余裕の態度でこう言う。
「さすがはお二人さんですね。でも、『ここがどこだか』忘れてはいませんか?」
「「?」」
 そのドレミーの言葉に二人は首を傾げながらも、言われた通りに辺りに目を向け──そして気付いてしまった。
 今この場所は歯車の要塞の中である。そしてそれらは無論精密機械である。そのような代物が『水』に侵食されでもしたら……。
「! 勇美さん、まずいですよ!」
「えっ?」
 慌てる様子を見せた鈴仙の様子に、勇美は何事かと反応するが、彼女が一体何を言いたいのか計りかねて首を傾げるしかなかったのである。
「もう遅いですよ」
 そうドレミーが言う間に、泡の吐息は次々に周りの歯車へと侵食していったのである。それにより、避けるべき事態が起こったのである。
 機械に水などご法度なのだ。何故なら機械の故障の原因になるからである。そして、その際にはただ機械が壊れるだけでなく、様々な災害に繋がる現象が起こるのだ。
 その一つがショートによる放電であろう。そう、それが今正に起こる所であった。
 水に侵食された歯車はギギギと耳障りな音を立ててその動きがぎこちなくなり、拳銃を発砲する時のような激しい音を立てて辺りに火花と電流が迸ったのである。
 正に辺りは一瞬にして危険遅滞となったのである。そして、このような芸当が出来るのは、夢の世界の機械だからであろう。
 現実世界で機械を造るには多大なコストと費用を費やすのである。故に攻撃の為に壊すなどコストパフォーマンスが悪すぎて誰もが敬遠する事である。
 しかし、この世界の機械は夢の産物であり、無論コストなど存在しない代物なのだ。故に『いくら壊しても出費など元から無い』という事だ。
 この夢だからこそ出来る大胆な戦法に、勇美はたじろいでしまっていた。そして、この状況から身を守る神力機械の使い方をすぐには思いつけなかったのだ。
 もしかした、このように状況が一変していなければ対処のしようもあったかも知れない。だが、『かも知れない』では物事は解決しないだろう。
「まずい……」
 勇美は苦虫を噛み潰すかのようにそう呟いた。さっきまで鈴仙に頼りになる所を見せていたのに、それが急変して今の状態である。
 このまま格好悪い所を大切なパートナーに見せたまま負けるのか。不甲斐ない自分を呪いながら諦めかけたその時……。
「【「障壁波動(イビルアンジュレーション)」】」
 鈴仙のスペル発動の声が辺りに響いたのだった。