雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER リベン珠】第23話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第二十三話 お留守番班Aチーム】
 早苗と咲夜、美鈴と跳流とレミリアがそれぞれの場所で目的を果たしているその時、ここ博麗神社の参道の森でも事に立ち向かう者達がいたのだった。
 一人は独特の──袖以外ほぼ様相といえる──巫女装束に身を包む少女、博麗霊夢
 もう一人は黒白の、いかにも物語に出てくるような魔法使いの格好をした少女、霧雨魔理沙であった。
 この話ではない、別の軸の世界でなら最早お馴染みといえる二人であろう。
 霊夢魔理沙、この二人も月から起こされた幻想郷の異変をかぎつけて、こうして解決に向かったという事だ。
 彼女達も、他の勢力と同様に地上でやりたい放題している蜘蛛型の月の探査車へと立ち向かっていたのだった。
 二人は暫く様子見の形で相手をしていたのだが、どうやら今は敵のターンであるらしい。
 機械蜘蛛は八本ある脚の幾本かを上に上げると、その足先を霊夢に向け、レーザーを照射したのだった。
 それは足が単純に複数あるから、その砲門も複数になるという強引でありながら理に適った戦法を取って来たという事である。
「来るぜ、霊夢!」
 魔理沙は咄嗟に相方の霊夢に向けて注意を促した。だが、決して『こんな事』では霊夢がやられるなどとは思っていなかったが。
「甘いわね……」
 やれやれと言った振る舞いで霊夢は言うと、何の造作もないといった風に、その場でバック転をしてレーザーをかわしてしまったのだった。
 そして、華麗に着地する霊夢。この程度の動作では、彼女にはウォーミングアップにもならないのだろう。
 これぞ博霊霊夢の強みなのである。こうして彼女は何者にも囚われない『無重力』と言える戦法と得意としているのだ。
 その様子を目の前にしていた機械蜘蛛は、感情を持ち合わせていないにも関わらずどこか苛立ちを覚えたようにも見える程であった。
 そんな素振りを機械蜘蛛は見せた後、その標的の変更を行ったのだった。彼のアイセンサーに移る照準が紅白の巫女から黒白の魔法使いへと変更される。
 まずは倒しやすい方から。機械であるが故に単純で効率の良い思考ルーチンが組み込まれているようだ。
 そして、今度は魔理沙に目掛けて足のレーザーを放った。
「今度はあんたをご指名のようよ」
「ぬるいぜ!」
 霊夢の指摘に、魔理沙は何の事はないという振る舞いの元答えた。そして、手に持った箒の柄をギュッと握りしめたのだ。
 その後は行動が早かったのである。抜かりなく箒に跨がった魔理沙は、一気にスピードを上げて敵のレーザーから回避運動を行ったのだった。
 これぞ、霧雨魔理沙の強みといえる事であった。霊夢のように無重力のような器用さも、同業者のアリス・マーガトロイドのように知的な戦い方も彼女には出来ないが、魔理沙には直球のパワーによる力押しの戦法が得意だったのである。
 尚も敵のレーザー攻撃は続いていったが、魔理沙はその根性と力でその状況を切り抜けていっていた。
 そして、彼女なただ回避するだけではなかったのである。幾度となく来るレーザー攻撃をかわしつつ、確実に機械蜘蛛との距離をつめていたのだった。
 好機は今しがた到来した。遠すぎず、近すぎない距離をとった魔理沙は、ここでとっておきのスペルを発動する。
「【「ブレイジングスター」】っ!!」
 その宣言の後、魔理沙は箒から火を吹きながら、一気に加速して機械蜘蛛へと突進していったのである。
 自らが弾丸のような存在となる事により強力な突撃攻撃を行えるのが、このブレイジングスターなのであった。
 そして、それは一瞬であった。激しい爆音が巻き起こったかと思うと、そこには胴部に極大の風穴を開けられた機械蜘蛛と、その向こう側まで飛んでいた魔理沙があったのだった。そう、彼女の攻撃は『文字通り』機械蜘蛛を貫いたのである。
 対して、機械蜘蛛はビキビキと軋む音と激しい火花を出していた。そして、動きは最早見られない。
 無理もないだろう。このような致命傷を負えば、妖怪のような強靱な生命力を持つ者以外なら命を取り留める事は困難な状態なのだから。それが機械であっても、様々な内部構造をしているのだから、もう正常に動く事は出来ないだろう。
 そう、これでカタがついた──筈であった。敵が彼一体でなかったらの話であるが。
 博麗神社の土地に向かっていたのは、実は一体ではなかったのだ。まるで、この時を見計らったかのように傍らから『もう一体』の機械蜘蛛が現れたのであった。
「何、もう一体いたのかよ!?」
「……厄介ね」
 驚愕する魔理沙と、平静を保ちながらも面倒な展開になったという心持ちになる霊夢
 そして、事態は二人が予想していたよりもややこしい事となるのだった。
 もう一体の機械蜘蛛が現れた事により、今しがた魔理沙の渾身の一撃で満身創痍になっていた一体が、まるで悟りを得たかのような雰囲気を醸し出したのである。
 次の瞬間、それは起こった。ポンコツ寸前だった方の機械蜘蛛は、残った機体の部分をその場で自ら分解してしまったのだった。
 そして、その分解されたパーツ達はもう一体の機械蜘蛛の方へと向かっていったのである。続いて、そのパーツは次々にその蜘蛛へと取り込まれていった。
 パーツを取り込んだその機械蜘蛛の構造は一気に変化していく。メキメキとその体積を増やしていき、上部から細胞分裂をするが如く増大していった。
 そのような機械にあるまじき行為の後、そこに立っていたのは元の蜘蛛の体を下半身とし、上部には完全に上乗せの形で人間型の上半身が備え付けられていたのだった。
 それは、まるで半人半蜘蛛の化け物『アラクネ』のようである。
 当然、幻想郷の住人でもそう易々とお目に掛かれないようなこの光景に、さすがの霊夢魔理沙も目を見開いていた。
「おいおい、合体したぜ……」
「全く、大それた事してくれるじゃないの……」
 しかし二人は唖然としながらも、その『機械の合体』という点では、実は見るのは『初めて』ではないが為に幾分落ち着いていた。
「だが、機械の合体だけじゃあ、こいつの専売特許とは言えないよなあ」
「ええ、皮肉にもあの子のお陰でそういうのには免疫が付いているのよねぇ」
 霊夢魔理沙はそう口々にある一人の少女の事を話題にしているのだった。他でもない、何かと話題になり、今でもここから離れた所で頑張っている『黒銀勇美』その人であった。
「そんじゃ、ちゃっちゃとこいつを倒して、後々勇美の前で腹を切らせて詫びさせるか?」
「機械にお腹なんてないし、第一あの子はそういう趣味はしてないでしょう?」
「それもそうだな♪」
 二人は軽口を叩きつつも、勇美への理解を示しているのだった。
 確かに勇美は依姫という武士道的な理論を大切にする者の元で成長していった。だが、依姫が重んじるのはガチガチの武士道ではなかったのだ。
 その根拠は、依姫が仇討ちや切腹のような武士道の苛烈な部分は良しとはせずに、柔軟な扱い方をしていたからである。
 だから、勇美は『より良く生きる事で母親への復讐とする』という考えに至る事が出来たのである。もし依姫がやり返す事を良しとしていたら、勇美はこうはならなかっただろう。
「じゃあ、こうしておきますか? こんな歪な事をやらかす連中は、機械好きの勇美には見せられないから、こっそり倒しておくって事で」
「それが良いわね」
 その魔理沙の意見には霊夢も賛成なのであった。勇美のロマンを損ねないように、その存在を気付かれないようにしてしまう。それは勇美へのさりげない配慮であった。
「それじゃあ、勇美の為にも人肌脱ごうじゃない♪」
 そう言って霊夢は──おもむろに自分の生腕に別途取り付けている夢とロマンの詰まった『袖』を脱ぎ去っていったのだった。
「うわあ♪」
 この願ってもいない事態に、魔理沙歓喜狂乱した。人肌脱ぐとは言ったが、こうも物理的に脱いでくれるとは思ってもみなかったからである。
「はあはあ……、こりゃいいぜ。これで向こう三ヶ月はオカズに困りそうもないぜ」
「はいそこ、変な想像はよしなさい」
 霊夢は袖を完全に脱ぐと、取り敢えず邪魔にならないように地面に畳んで置いておいた。無重力霊夢であるが、こういう所は意外にマメなのである。
 後、彼女がケチな所も要因している。何かと賽銭を要求する彼女が、ずっと使う袖を粗末に使う事はしないのだ。
 そして、完全に袖の枷から逃れた霊夢の生腕は非常に魅惑的であった。霊夢は胸が控えめであるから分かりづらいが、彼女の全体的な体の肉付きは良いのである。
 加えて、修行は余りしないが妖怪退治の実戦により鍛えられているので、肉付きの良い中で筋肉も程よく引き締まっていて、非常に芸術的な体つきをしているのだった。
 その彼女の体の一部である腕が、こうして今何物にも包まれずに惜しげもなくさらけ出されているのは非常に魅惑的なのである。
 さて、彼女が袖を脱いだ理由。それは断じて霊夢が見せたがりな訳ではない。では、普段腋を出しているのは何かという事になるが、それは彼女のみぞ知る事だろう。
 そして、これから体術を仕掛ける為でもないのである。霊夢は肉体を実戦で鍛えている訳だが、それは肉弾戦によるものではないのである。
 彼女の攻撃方法はお札や針や宝玉による遠距離からの攻撃がメインとなるのだ。では、彼女が肉体を鍛えられるに至った要因はというと、それは彼女の身のこなしにあるのだった。
 要は霊夢の鍛えられ方は格闘家というよりも、新体操の選手に近いものがあるようである。そのように計らずとも筋肉を回避の為に特化させていったのが霊夢の強みの一つなのかも知れない。
 そう、霊夢の霊力・神力はほどんどを攻撃に回せるという事である。それを今彼女は実行に移す。
愛宕様よ……」
 呟くが瞬間、霊夢の両腕は一気に神の炎に包まれたのであった。
 これはかつて月で依姫が見せた演出と同じである。しかも、両腕に炎を灯している為に、単純計算でその威力は二倍というものだろう。
霊夢……それは……?」
「ああ、魔理沙。あんたにはまだ言ってなかったわね」
 言って霊夢は今までの自分の経緯を説明していく。
 それは『幻想郷』にて霊夢と依姫が戦った後の事であった。その戦いの後で、依姫からこんな事を言われたのだった。
 ──貴方には火の力の扱いに分があるようね。それに特化させれば貴方はもっと伸びるわよ。と。
 それを、依姫の助力の元霊夢はこなしていったのだった。元来の彼女の努力嫌いが足を引っ張りはしたが、それでもこうして実戦に至れるレベルにはその技術を昇華する事は出来たのである。
 そして、神の火に袖を焼かれないが為に袖を脱いだ訳であった。別段脱がなくても使用者の衣服には影響がないものの、脱いだ方がやりやすかったからというが霊夢の弁である。そもそもひらひらした袖を付けたままではこの攻撃はやり辛いであろう。
 新たに『炎の袖』を纏った霊夢は、ひょいひょいと軽い身のこなしで敵の懐へと潜りこんでいった。
 当然敵が指をくわえてそれを許している訳はなかった。人間の上半身が新たに加わった機械蜘蛛は、その構造を活かして鋼の拳を近づく霊夢へと次々に打ち込んでいく。
 だが、それをことごとく霊夢はかわしていった。無重力の巫女が、そのような今から初めて手にした力で墜とされる訳がなかったのである。
 そして、霊夢は敵の懐からスペルの宣言をする。
「【神炎「カグツチエンド」】!!」
 まず、霊夢は左の拳を敵へと打ち込んでいった。利き腕ではないので、謂わばジャブのような要領であろう。
 だが、今の霊夢の腕には神の炎が灯っているのだった。故にそれはジャブの範疇を優に越えていたのだった。
 霊夢の炎の左拳撃が繰り出される度に、敵の体に軽い爆発が起こっていった。それが繰り返し続けられた為に機体には馬鹿にならないダメージが蓄積されていったのである。
 そして、ここが頃合いかと、霊夢は右腕にありったけの神力を込め、一気に敵のボディー目掛けて打ち込んだ。
 その威力は先程までの左の攻撃とは比にならない程であった。豪炎を纏った右の渾身の一撃は、容赦なく敵機を抉り、そこから大爆発を生み出したのだった。
 機械蜘蛛はその衝撃に、堪らずその身を吹き飛ばされてしまったのである。だが、何とかして彼は蜘蛛の下半身で力強く地を踏みしめてその場に留まった。
「機械に適切な表現かは分からないけど、根性あるじゃないの? ああ、でもこういうのこそ私にとってやりやすいわね」
「ああ、こういう敵の方がお前も何かとやりやすいだろうからな、分かるぜ」
 しみじみと呟く霊夢に、魔理沙も納得がいったように同意の言葉を投げかけるのだった。
 かつて霊夢は神奈子や依姫といった、謂わば『神』の側の領域の者達との戦いをとてもやりづらく感じたのだった。それは、霊夢自身が神に仕える身であるからに他ならない。
 対して、今の敵はどうだろうか? 幻想郷に土足で踏み入り、あまつさえ道行く所の植物を枯らしていく。これ程までに『侵略者』といえる存在はないだろう。
 故に、そういった側の存在を懲らしめるのが得意であり生業である霊夢にとって、今のこの時はとてもやりがいのある仕事となっていたのだった。
 だが、敵も易々と退治される為の存在ではないのだ。例えそれが人工的に造られた機械であってもである。
 その責務を果たすべく、敵の機械蜘蛛はその右手を変型させたのだ。その形は砲門となっていた。
「成る程、そこからレーザーなり出して攻撃するって訳ね。でも、それをさせると思う?」
 そこまで言って霊夢は一旦ここで愛宕様の力を解除したのである。
 このままでは心もとないだろう。何せ赤のノースリーブからいたいけな生腕がむき出しの状態に戻ってしまったのだから。
 なので、霊夢がする事はただ一つである。そう、新たな神の力の顕現である。
「続いていくわよ。火雷神よ、私に力を」
 言うと霊夢は両手を広げた。すると、またしても彼女の両手に炎が纏わり付いたのだ。
 だが、今回は先程とは些か様相が違っていた。前回の時は厳かな松明の炎といった感じであったのに対して、今回のは激しく渦巻く炎の蛇といった様子であった。
 その状態で霊夢はスペル宣言をする。
「【炎蛇「フレイムヴァイパー」】。さあ、どんどんいくわよ♪」
 言うと霊夢はまず、炎で渦巻く右手を敵に向けて翳した。すると、そこから炎が鞭状となって敵に向かっていった。その攻撃に相手は弾かれてダメージを負う。
 だが、当然これで終わりではなかったのだ。霊夢は今度は残る左手の炎を前に突き出した。
 今度も当然のように炎が鞭状になって機械蜘蛛へと向かっていき、容赦なく彼を叩き付けたのである。
 その左手の炎を霊夢は引っ張り込み、自分の元へと手繰りよせた。さて、彼女は一体どうするつもりであろうか。
 だが、その答えは既に見えていた。右と来て左、その後に思い付くのは一つしかないだろう。
「さあ、今度は左右同時に味わってね♪」
 そして、霊夢は片方だけでも十分な威力のそれを、今度は左右両方いっぺんに振りかざしたのであった。
 それにより、敵は迫り来る炎に十字状に切り裂かれてしまったのだった。そのダメージに耐えかねてか、金切り声とも壊れたモーター音とも取れないような音を敵は撒き散らした。
 彼のボディーの方も見るも無残な状態となっていた。その胸部は十字状の熱に切り裂かれた為、金属が溶けて痛ましい十字架が刻まれていたのだった。
 ここに、霊夢が基本的に無慈悲と言えるスタイルが現れていると言えよう。
 霊夢と敵対する者は強靭な力を持つ妖怪や神クラスの存在である為に、霊夢に無慈悲に攻撃されてもそこまで痛手を喰らう事はないのである。
 だが、この機械蜘蛛には不幸な要素が二つあった。
 一つに、その自己再生能力を始めとした性能は高くとも、自らの意思を持って異変を起こす、生きた幻想の住人達程の力は備わってはいない事であった。
 そして、二つに彼が生き物ではない事である。幾ら霊夢が無慈悲と言えど、それは生きる者に対する範疇の中での事であるのだ。だが、今の彼は正真正銘の『物』。故に霊夢は紛れもなく彼には本当の意味で無慈悲になる事が出来たのであった。
 そんな霊夢を敵に回した敵に、魔理沙は同情すら覚えつつもここで霊夢に提案をするのだった。
「やるなあ霊夢。だが、私の方も今回ちとばかし試したい事があるんで、ちょっとここは譲ってくれないか?」
「このまま単純に私が破壊してもつまらないと思っていた所だから、いいわよ、早いトコその試したい事をやっちゃってくれる?」
「サンキューな」
 ここで、魔理沙の交渉は滞る事なくうまくいったのだった。
 普段だったらこうはいかないだろう。何せ霊夢ら異変解決者達はそれぞれライバル関係にあるのだ。
 故にどちらが先に異変を解決して利益を得るかの競争相手同士となる訳だから、当然そこに協力関係など付け入る余地はないのである。
 だが、今回の異変は別であった。幻想郷全体が脅かされるという未曾有の危機となったが為に、彼女らは今までとは違い協力体制を取っているのだ。だから、そこには今のように友情が絡む余地があったという訳だ。
 だから、こうして魔理沙は新しい事を試す機会を得られたという事なのだ。その好機を棒に振る手はないだろう。
「早速いくぜ。でもこのスペルは二段階必要でな。まずは第一段階をやるぜ。【魔放「セーフティーロックリムーブ」】」
 何やら思わしげな事を言いながら、魔理沙は取り出していたミニ八卦炉にスペルの命令を送り込んでいった。
 すると、ミニ八卦炉はガチャガチャと耳障りな音を立てて、その構造を変化させていったのだ。分かりやすく言うと、あらゆる箇所が解放された、ドームが通気をする為に開かれた時に似た状態となっていた。
「んん?」
 勿論こんな芸当を魔理沙が今までした事はなかった。故に霊夢は狐に摘まれたように思わず変な声を漏らしてしまうのだった。
「これで、準備は整ったぜ。後は仕上げといくまでだ」
 そう魔理沙が言うと同時、ミニ八卦炉に何かが集約していく感覚を霊夢は感じたのであった。それは、普段の八卦炉から感じる光と熱などではなく、漠然とだがそれとは『逆』のものを霊夢は受け止めていた。
「喰らいな……いや、『喰われちまいな』。【恋沌「オスカースパーク」】……」
 魔理沙がどこか冷徹にそう宣言すると、彼女の持つミニ八卦炉から例の如く極太レーザーが照射されていったのだった。
 だが、徹底的に違うのは、何と言ってもそのレーザーがまるで夜の闇を切り取って今の昼間の世界に貼り付けたかのような異質極まりない漆黒であった事だろう。
 当然そのような得体の知れないような攻撃は、機械であっても許す事はないだろう。機械蜘蛛は霊夢の時は不発に終わらされた右手の砲門からのレーザー照射攻撃を行ったのだ。
 しかも、それはマスタースパークのような強烈な一撃は有してはいないが、その分連射が効いたのだ。それならば、数と量でマスタースパークの出力を上回れるかも知れない。
 しかし、それは『マスタースパーク』なら意味があったかも知れない事である。この今の『オスカースパーク』にはまるで無意味だったのだ。
 結論から言うと、その漆黒の光線は敵のレーザー連射を『文字通り』飲み込んでしまったのだ。つまり、そのエネルギーを自らの推進力に還元してしまったのである。
 これが、魔理沙の新技オスカースパークの真骨頂であった。八卦炉をリミッターを外し逆回転させる事で、破壊と動力となる力ではなく、逆に周りの力を吸収して奪う、正に混沌そのものの力を生み出すという代物である。
 そして、とうとうそのカオスの力の奔流に機械蜘蛛自身を容赦なく飲み込まれてしまった。その漆黒の波動に体は、触れた所からどんどん消化されるように溶け出していったのだった。
「これはまず依姫にぶつける予定だった技だぜ、光栄に思いな」
 不気味な黒の砲撃はこうして終わった。そこに広がっていた光景は……。
「あれ……?」
 霊夢は『逆に』驚いてしまった。あれだけ周りを貪欲に喰らっていった黒の怪物であったにも関わらず、その場にあったのは、完全に消滅してその存在を確認出来なくなった機械蜘蛛のいない光景と、傷一つ付いていない博麗神社の近場の森であったのだから。
魔理沙、一体どうなってるの?」
 その理不尽な現状に、さすがの霊夢も聞くしかなかったようだ。
「安心しな、霊夢。この『オスカースパーク』は自然は生物を喰らいはしない。喰うのはエネルギーや人工物だけだぜ」
「分かったような、分からないような……ね」
 霊夢とて、この超越した状況には理解が追いついていないようである。
「だろうな、私も始めて……じゃなくて、私自身この仕組みは理解していないんだからな」
「って、それでいいの?」
 霊夢はそんな行き当たりばったりな方向性の魔理沙に首を捻るのだった。
「私もちょっとアブない事はしてると思うぜ。……でも、こうでもしなきゃ依姫には勝てないだろ?」
「……確かに」
 その主張には霊夢も納得するのだった。才能、努力、周りの環境等様々な要因が重なって生まれたあの『化け物』には並大抵の事では勝てない事は分かるのだった。もっとも、自分の持ち味に努力を加えれば同じ場所に立てる程のポテンシャルを霊夢は持っているのだが。
「これで、どこまであいつに通じるかは分からない。だが、生み出すんじゃなくて奪う攻撃ならあいつもそう簡単には対処出来ないだろうぜ」
 依姫が得意とするのは、真っ向から向かって来る攻撃に対処する事である。だが、このオスカースパークは向かうのではなく、自分の元に引きずり込む攻撃なのだ。故に、依姫もそのようなものに立ち向かった機会は少ない、もしくは全くないだろう。そこに勝機があると魔理沙は踏んでいるのだ。
 そこまでの理論を聞いて、霊夢とて身の毛がよだつ思いとなるのだった。──少しは自分も努力していかなければ、気が付いたら追い抜かれているだろうと。
 加えて霊夢は感じた。ますます魔理沙は『種族:魔法使い』と化す兆候が強くなっているのではないだろうかと。
 もしそうなったら、魔理沙は自分とは『住む世界』が違ってしまうのだ。故に正直に言うと寂しい気持ちは今の彼女と無二の親友の霊夢にはあるのだ。
 だが、それを止める権利は自分にはない事も分かっているのだった。人間のままか、種族:魔法使いになるかは魔理沙自身が決める事なのだから。
 しかし、取り敢えずそれは今考える事ではない。今は一刻も早く月から起こされる異変の解決を、幻想郷側で出来る限りの事をしなくてはならないのだ。それが幻想郷に住まう者としての責務というものだろう。
「それじゃあ、他の場所に例の機械蜘蛛がいないか探しに行くわよ。あんたには丁度その自然に優しいオスカースパークって奴がある訳だしね」
「優しいという言葉を何か勘違いしているのではないのか、この政治屋め!」
「……色々おかしいけど、少なくとも政治屋はニュアンスが違うわよね。あんた、どこぞのマスターアジアかい? いや、この場合『オスカーアジア』かしら?」

◇ ◇ ◇

 これらの幻想郷の者達の活躍を、今しがた紫からのスキマ経由の手紙で知った勇美、鈴仙、サグメ、イシンであった。
 そして、彼女達は思った。
「オスカーアジアって何!?」
「オスカーアジアって何!?」
『オスカーアジアって何!?』
「オスカーアジアって何!?」