雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER ダークサイドオブ嫦娥】第06話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第六話 金属対決・別章:前編】
 見事に歯車を入手した勇美は、早速その足でエレベーターへと向かった。
 部屋に入ると、再び外の景色が丸分かりとなる不思議な体感をするのだった。何度味わっても違和感のある光景であったが、今はその心地よいミステリアスな感覚を噛み締めている時ではなかったのである。
 勇美は手に持った歯車を部屋に浮かぶ水晶体へと翳す。すると、それは起こったのである。
 何と、歯車が水晶体へと吸い込まれていったかのようであった。まるで、原生生物が自分の行き先を遺伝子に任せて求めるかのように。
 更に、歯車は水晶体に接触すると、そこからずぶずぶとスライムに取り込まれるかのように溶けるように飲み込まれるという光景が繰り広げられていたのだった。
 その、異様な現象に勇美は思わず『ごくり』と唾を飲むのであった。そしてこう思った。
(さすがは、月の技術って所かなぁ……)
 その事実を勇美は噛み締めるのであった。今のこの瞬間は、そう表現するのが一番的確に思われたのであった。
 地上に生きる者としては、そう簡単に行き着く事の出来ない境地であろう。
 確かに、月の民の思想は偏見に満ちた排他的に仕上がってしまった所が大きい。だが、その能力が地上に住む者よりも遥かに洗練されている事は紛れもない事実なのであった。
 勇美はその事に対して、渇望に似た感覚を覚えるのだった。──自分が生きている間に追いつく事は難しいだろうけど、可能な限り目指していきたい所にあると。
 何よりその月の民の中には勇美の憧れたる綿月依姫、そして自分を同志と呼んでくれる綿月豊姫もいるのである。故に勇美の高揚感は一入というものであろう。
 そう勇美が心の中で意気込んでいる間にも、歯車は文字通り水晶体の機械と噛み合ったのである。後はこれを起動させてエレベーターを動かすだけだろう。
「後は動かすだけだね♪」
 勇美は今しがた生命力を取り戻したかのようにブート音を出す水晶体を見ながらそう言い、そしてそれに触れたのであった。
 するとその瞬間、水晶体が内部からキュルキュルとモーター音を出して稼働を始めたのである。後は、行き先を念じさえすれば目的の場所まで送って行ってくれるだろう事は勇美の意識の中に伝わってくるのであった。
「いざ、夢見鏡の世界へ!」
 勇美はそう言ってボケてみせたが、些か一人ではやりがいの無い事だと気付くのだった。
 あの世界ほど仲間が足手まといになる作品はそうそうないが、今の勇美は正に、仲間の大切さを思い知るのであった。
 だが、今回は各自が一人ずつ動くのが的確な作戦だと言い聞かされたのである。ならば、勇美はそれに従うまでなのであった。
「やるっきゃ、ないよね」
 そう自分に言い聞かせるように、勇美はいよいよを以てエレベーターを起動させたのであった。

◇ ◇ ◇

「はあぁ~~……」
 エレベーターによる移動を終えた勇美は、心ここにあらずといった風に恍惚とした表情を浮かべていた。
 その理由は他でもなく、エレベーターにあった。
 何せ、周りの景色が360度見渡せる状態での上昇であったのだ。さながら遊園地のアトラクションを堪能するかのような刺激的な光景が勇美の視覚と感覚に飛び込んで来たのだから。
 これには勇美はアンコールを願いたいとすら思うのだった。このような体感は幻想郷にいてもそう簡単には味わう事が出来ないのだから。
 言うなれば、月の文化はファンタジーとSFが融合しているかのようであるのだ。それを勇美は言葉に、
「まるでスt……」
 しようとして寸での所でやめる事が出来たのであった。
 今の時代、あの作品を言及するのは些か不味いだろう。何せ、今では夢の国の一部となったのであるから。
 こうして、別の存在と戦いを終えた勇美は、今回の任務である本番の戦いの場へと赴くのだ。
 そして、エレベーターが目的の階に着くと『チン』という小気味良い音が鳴るのだった。
「……月でも『チン』なんだぁ?」
 それに対して、勇美は呆れと安堵感の入り雑じった何とも言えないような感覚に陥る事しか出来なかったようだ。
 ともあれエレベーターは目的の階へと着き、その扉を開けていくのだった。
 その瞬間も、やはり目を引く光景が繰り広げられていた。何せ、エレベーターの中にいれば周りは一面外の景色となるのである。
 そこに、エレベーターの出口が現れるのだ。それはまるで、何もない空間に入り口が開くかのような異質な外観であったのである。
 だが、入り口が開いているのは紛れもない事実なのだ。だから勇美は迷わずにその中へと入るのだった。
 そして、エレベーターの外へと出た勇美を待っていたのは、再び豪華に造られた塔の内装であった。だが、高い階へと辿り着いた為か、はたまた重要な拠点である為か、そこから伝わってくる緊張感は一味違っていた。
(まるで、職員室に入る時みたいだなぁ……)
 その例えが今の空気を表すには一番的確なのであった。あの無駄に緊張する、空気だけで人を殺せそうな感覚がここにはあったのだ。
 そして、勇美は塔内の道をひたすら前に進んでいったのだ。幸いそれは一方通行なので彼女は迷わずに済んだのである。
 歩を進めて行って漸く、勇美は目的の場所であろう扉の前へと辿り着いていたのだった。
 ゴクッ。勇美は思わず固唾を飲む。無理もないだろう、その扉からはいかにも他とは違うという重厚な佇まいを感じさせられてしまうのだから。
 だが、意を決して勇美はその扉を開けたのだった。そして、今感じている空気が空気なだけに思わずこう口走ってしまった。
「先生、失礼します……」
「誰が先生よ」
 あろう事か、勇美はそうやらかしてしまうのだった。そして、それに対して部屋にいた者は的確なツッコミを入れるのであった。
 その者の容姿は銀色の髪に整った顔立ち、そして出で立ちはスーツ姿であったのだ。無論頭には大きな耳が生えている辺り、すぐに玉兎だと分かる。
 スーツ姿、それを見て勇美は思う所を口にする。
「いえ、あなたはスーツ着てるからやっぱり先生でしょう?」
「いや、それは教師に対する偏見ってものよ……」
 そして、勇美のボケに対してまたしてもそのスーツ玉兎は的確なツッコミを入れるのであった。その振る舞いは手慣れたものである。
 そんなやり取りをしながら、勇美は改めてその玉兎をまじまじと見つめる。
 少女がスーツを纏っているが為に、非常に男前でいて、それでいて可憐という絶妙な二律背反がそこにはあったのである。
 そして、勇美は考える。これは先生と言うよりも、寧ろ……。
「ヅカ?」
「月に宝塚なんてあってたまるか」
 勇美はそう結論付けたのに対して、またも玉兎はピンポイントでツッコミをくわえる。そして、今度はその玉兎から話を切り出すのであった。
「……いい加減本題に入りましょう。あなたはこの塔の奪還に来たのですよね?」
「ええ。話が早くて助かります」
 それに対して、勇美もさらりと答えを返すのだった。そして、こういう人に対して自分は取っ付き易いのだと感じていた。
 それは、依姫の影響が強いのだと勇美は感じるのだった。加えて母親のような二言三言余計かつ高圧的な発言をする者と対称的であるとも。
 だから、勇美はこの玉兎に好感を覚えるのだった。この人とはきっといい友達になれるだろうと。
 しかし、今は異変解決の為に行動している最中なのである。だから、勇美は解決に奮闘される側で、目の前の玉兎は退治される側にあるのだ。
 だが、そうであっても礼儀というのは大切である。寧ろ、弾幕ごっこをやる上では必要というものであろう。
 なので、勇美はこう切り出す事にしたのだった。
「何にしても、まずお互いに名乗っておかないといけませんよね。私は黒銀勇美です」
 その勇美の律儀な態度に、玉兎は思わず頬を緩めた。
「紳士的な子ね。さすがは依姫さんの所で育っただけの事はあるわね。それじゃあ、私も名乗らない訳にはいけませんよね」
 そう言うと、その玉兎はオホンと咳払いをして一呼吸置いた後に名乗りをあげる。
「私は『クガネ』と言います。以後お見知りおきを」
 それに加えて、彼女は深々とお辞儀をしたのであった。やはり、この玉兎──クガネは落ち着き払っていて紳士的な性格のようだ。
 そして、彼女の名前は片仮名での表記であったのだ。これは彼女が今も月で行動しているが故の事であろう。
 以前に出会った玉兎の清蘭や鈴瑚は漢字の表記であったが、それは地上で行動をするにあたり、それに合わせて名前に漢字を用いたのである。
 そう、その事は今勇美が戦おうとしている場は紛れも無く『月』である事実を物語っているのだった。
 その事を勇美はここに来てどことなく肌で感じているのだった。だが、今になって引くなんて事は出来ないだろう。
 なので、勇美は意を決してクガネに向き合うのだった。
「後は……何をするか決まっていますよね」
「話が早くていいわね」
 そう両者は言い合うと、にこりと微笑み合った後、互いに距離を取り合うのだった。こうして二人は臨戦状態に入ったという事であった。

◇ ◇ ◇

(まずは、敵──クガネさんの能力を見極めないとね……)
 それが、勇美のすべき当面の指標であった。何はなくとも、敵がどのような能力を持って出てくるかを見定めなければ不利というものなのだから。
 今まで幻想郷では、概ね戦う相手の能力は知れ渡っていたのだ。しかし、彼女とは初対面であるが故に当然今はそのような状況ではないという事なのである。
 だが、次にクガネが取ったのは思わぬ事であった。
「あなたは、恐らく私の能力が何であるか探ろうとしているのでしょう?」
「!?」
 この発言には、勇美は意表を突かれてしまったようだ。何せ図星を見事に射抜かれてしまったのだから。
「驚きましたか? 敵である私がこういう事を言うなんて?」
「ええ、正直……」
 勇美の方も、その今の想いを正直に打ち明ける事であったのだ。
 何故なら、先の月の異変解決に当たっては、自分の能力を打ち明けた上で戦う人は誰もいなかったのだから。
 そして、クガネは自身の言葉を続ける。
「私も依姫さんの事は尊敬に値すると思っていますからね。出来る限りで彼女に倣いたいと思っている所です」
「あなたもですか?」
 そのクガネの考えを聞いて勇美は驚くのだった。彼女は嫦娥の管轄の筈なのに、こうして依姫に対して敬意を示しているというのだから。
 そこへ疑問を持った勇美は、彼女にこう質問した。

「では、何でクガネさんは嫦娥って人の管轄にいるのですか?」
「それは、私達にも色々事情があるって事よ。出来れば私も依姫さんの所につきたいと思ってはいるのですけどね……」
 そう言うとクガネは切なげに溜息を吐くのであった。
「何か、あなた方も大変みたいですね……」
「ええ、分かってもらえるとありがたいです」
 二人はそう言い合うと、ここで気持ちを切り替えて再び向き合うのだった。
「まずは、話を私の能力に戻しましょう。私の能力は『金属を操る』ものよ」
「金属……ですか」
 そう勇美は返しながら、ここで『これはしめた!』と思うのだった。
 何故なら、勇美は金属を操る力は良く見知ったものであったからである。
 まず、彼女の読書仲間となり、時たま弾幕ごっこをし合う仲間となったパチュリー・ノーレッジである。彼女は金属だけではなく、火、水、木、土、果ては日や月といった上位の属性まで操るテクニシャンなのである。
 だから、金属単一のクガネとならパチュリーよりかはやりやすいのではと勇美が思う所なのであった。
 そして、依姫の元で修行を積んだが故に、それ以上に金属操作は身近な代物なのである。
 それは他でもない、金属の神『金山彦命』の存在である。これによる金属の分解と再構成は勇美は幾度となく見たものであったし、何より自身もその力をマックスに備え付けさせて行使をしていったのだから。
 これらの要因により、クガネには悪いが、実にやり易い相手ではないかと勇美は思う所なのであった。
 なので、勇美はその事を表面には出さずに心の底で好機だという思いを抱えながら相手に向き合うのだった。
「ありがとうね、クガネさん♪」
「戦いの間に敵にお礼を言うのは禁物って所ですよ、勇美さん」
 そう言い合い、二人はにこりと微笑み合う。やはり、依姫を尊敬の対象とする彼女達にはどこか通じ合う所があるようであった。
「確か、あなたは後手に周るのが得意だったようですね。では、お言葉に甘えて私から行かせてもらいましょう」
 クガネは言うと、右手を掌を広げて前に突き出したのである。ここで満を持して彼女の『金属を操る』能力が披露されるという事であった。
 そして、クガネはいよいよスペル宣言をする。
「【銅符「ブロンズソード」】」
 そう言うと、クガネの掌の先に金属が集まり、光沢のある薄茶色の剣が形成されていったのだった。
「うわあ、これは『どうのつるぎ』ですね、たまげたなあ……」
 その台詞回しはさておき、勇美はまるで敵の形成するものが自分の好きなゲームでよく使われるような産物に酷似している事に感動を覚えていた。これぞ男のロマンであると彼女は思うのだったが……残念、勇美は少女である。
 そんな勇美を見ながら、クガネは微笑ましそうにこう言った。
「そういう無邪気なのは嫌いではないですよ。でも、私は淫夢も好きだけど、一番はレスリングシリーズですね」
「えっ、それも私と同じですよ」
 相手の思わぬ嗜好に、勇美はすかさず同意するのであった。結構この玉兎は真面目そうに見えて、自分と趣味が合うかも知れないと思うのだった。
 そして、このような話をしてくるあたり、このクガネという玉兎は案外天然かも知れないのであった。
 とまあ、このような茶番が繰り広げられてしまったが、それもここまでにしておくのが良いだろう。そう思いクガネは次の段階に入るのだった。
「さて、得物は造った訳ですし……、ここで行かせてもらいますよ」
 そう言うとクガネは『ハッ!』という気合を銅の剣を翳しながら籠める。すると、その剣はその剣先を勇美に向け、勢いよく彼女の元へと飛び掛かってきたのだった。
「剣を発射するって訳ですね」
 その使用方法に驚くものの、勇美は既に心の準備は出来ていたのだった。敵が金属を使って来るならば、こちらのやる事は一つなのであった。
 ここで勇美は、この場に相応しいある神へと呼び掛けるのだった。
「『金山彦命』よ、お願いします」
 そう言って勇美はその金属の神の力を自身の分身マックスへと備え付けていった。
 すると、マックスのその鋼の体が、より金属感のある光沢を放ちながら飛んでくる敵の攻撃に対して身構えるのだった。そして、勇美はこう言ってのける。
「あのうるさいトンボを撃ち落としなさい」
「トンボ!?」
 その勇美の例えには、クガネは呆気に取られるしかなかったのであった。何せ、余りにも突拍子がなかったからである。
「……私も人のセンスには余りとやかくは言いませんけど、もう少ししっくりくる表現はなかったのですか?」
「え、駄目ですか? 依姫さんの真似をしてみたんですが……」
「いえ、依姫さんはあなたに真似られる事は望んでないと思いますよ」
「あ、それもそうだね♪」
 クガネに言われて勇美はそこで心得たといった気持ちになるのだった。それは正に彼女が指摘した通りであったからだ。
 依姫は自分のやり方を真似られるのではなく、その人らしくする事を望んでいるのだ。その事を勇美は再認識するのであった。
 その事を胸に勇美は言い直す。
「目の前の太くて固いモノを使い物にならないようにして下さい! 【金解「メタルスプラッシャー」】!」
 そう宣言した勇美はマックスを向かって来た銅の剣の前に差し出した。そして、マックスはその両手をはんだ小手のように変型させて目の前に突き出したのである。
 するとどうだろうか。その小手に触れた銅の剣は瞬く間に砂のように分解されてしまったのだった。
 それを見ていたクガネは、悔しがる様子もなく、ただただ感心したかのように振る舞っていた。
「見事ですね。あなたも依姫さんを見て『金山彦命』の力を使いこなしているのですね」
「ええ、伊達にあれを見てきてはいませんからね♪」
 クガネにそう言われて、勇美も得意気になるのだった。師から学んだ事をここで活かせているのを実感出来て、実に充実した気持ちである。
 そんな勇美の様子を、クガネは満足気に見ていた。自分も依姫の事を尊敬する身である為、彼女から得たものを活かしている勇美を見るのは気分が良かったのだ。
 だが、それはそれ。ここでクガネは言っておかなければならないと思う事があるのだった。
「しかし勇美さん。先程の台詞は些かお下品ではありませんか?」
 それが問題であった。仮にも勇美は淑女なのである。だというのに先程の表現は捨ておく事は出来ないのだ。
 だが、勇美には別段悪びれた様子もなかったのである。否、今のクガネの発言を受けて、寧ろ悪ノリすらするのだった。
「いえ、普段から私はあんな感じですから。パンツだってしょっちゅう脱ごうとしてますし♪」
「ぱ、パンツぅ!?」
 その一言にクガネは面喰らってしまったようだ。したたかに少し鼻血が出てしまったかも知れない。
 確かに和服なら西洋の下着は身に付けないというルールがある。だが、彼女が今着ている和服の丈の短さでそれをやるのは危険ではないかと。
 この子はアブない事を言うものだとクガネは思うのだった。彼女のペースに乗せられてしまったら、色々大切なものを失ってしまうのではないだろうか。
 だが、クガネは落ち着いた紳士的な性格なのだ。勇美の女性としてどうかというような発言は一先ず置いておく事にしたのである。
「それはさておき、弾幕ごっこの続きをやりましょう。先程の攻撃を防いだからといって、浮わついた気持ちになってはいけませんよ」
「分かっていますよ」
 そのクガネの指摘には、勇美も同意する所であったのだ。先程の金属を生成して攻撃するまでのプロセスに一切の無駄がなかったのは、同じ『何か』を造り出して戦う者として肌で感じられる所があるのだから。
 故に、勇美には油断する所はなかったのである。
「素直な子ですね。依姫さんもさぞ喜ばしい事でしょう。では、参りますよ」
 クガネは勇美を褒めながらも、その手を再び前方に翳すのだった。そう、クガネの攻撃が今一度発動されようとしていたのである。
 そして、彼女の掌にはまたしても金属の粒子が集まっていく。
「【銅符「ブロンズロケット」】!」
 そう宣言したクガネの掌から、再び銅の塊が射出されたのだった。
 だが、先程は剣の形だったのに対して、今回のはミサイルの形状であったのである。
「より飛び道具らしい形になったって事だね」
 それを見た勇美は、そのように感想を言った。対してクガネの方は無言であった。
 いくら飛び道具として優れた形状になろうとも、先程と同じように分解すればいい。勇美はそう考えながら身構えていた。
 だが、どうやらそれはクガネの思うつぼだったようである。
 迫って来たなら再び分解してしまえばいいと思っていた銅のミサイル。その産物に突如として変化が見られたのであった。
 そのミサイルを構成しているパーツの幾つかがそこから空中で外れていったのだった。そして、残ったのは軽量化されて身軽になったミサイル本体であった。
 身軽になった。この事により起こるのは一つであろう。
「速いっ!?」
 そう勇美が叫んだ通りなのであった。余計なパーツを外したミサイルは、そのまま直進する速度を上げたのである。
 それは突然の事であった。故に勇美は対処のしようがなかったのであった。
「くうっ……」
 見事にその身にミサイルの一撃をもらってしまった勇美は、呻き声と共に後方へと飛ばされてしまったのだった。
 そして、その体をしたたかに床へと倒してしまったのだった。その際に短い和服から覗いた脚が痛々しいながらも生艶かしく投げ出されたのである。
「うう……」
 敵の思わぬ策略を受け、肉体、精神共にダメージを負ってしまった勇美は、ただ呻く事しか出来なかった。
「どうですか? 油断してはいけませんよ。ただ私が親切で自分の能力を明かしたと思っていましたか?」
「……」
 そうクガネに諭されるように言われて、勇美は無言でその主張に同意する所であったのだった。
 そして、勇美はその思いを口にする。
「成る程、クガネさんが自ら能力を明かしたのは、自分の金属を操る技術に自信があったからという訳ですね」
「ご名答です」
 その勇美の指摘にクガネも同意する所であったのだ。
 その理屈はスポーツで言い表すとこうだろう。
 それは、例えば『ボクシングが出来る』と一重に言っても、その言い方だけでその人がいかほどにボクシングをこなせるのかは分からないという事である。
 例えばボクサーであると一言で言っても、ライセンスを取ったばかりでデビュー戦をこれから初めて行うという人もいれば、ヘビー級の世界チャンピオンである人も一重に『ボクサーである』のだ。
 それが意味する所。つまり、クガネは金属操作術の専門家という事なのであった。
「う~ん、これは厄介だねぇ……」
 そう言いながら勇美は項垂れた。その際にも和服から覗いた脚がどことなく艶かしく動いて目に付いてしまう。
「そういう事ですよ、という訳で、私を金属『しか』使えない……と思っていると痛い目を見ますよ」
「確かにそうだね……」
 そのクガネの主張には勇美も同意する所であった。何か一つを極めた者というのは手強いという事が何となく分かるのだった。
 その理由は、勇美の妹の楓の事が一因なのであるが、ここではまだ触れるべき事ではないので割愛しておく。
 そう勇美が想いを馳せる間に、クガネは次の攻撃の為の動作に再び移るのであった。