雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第三話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第三話 好機】
 依姫とルーミア弾幕ごっこは、依姫の勝利という形で決着がついたのである。
「勝負ありましたね。それではこの人間の子を襲うのは諦めなさい」
「分かったよ~」
 依姫に言われて、ルーミアは渋々だが承諾した。幻想郷に住む以上、そのルールは守らなくてはいけないのだ。
「問題は一先ず解決しましたね……後は」
 そう言って依姫は人間の少女へと向き直った。そして続ける。
「もう日が暮れて来ました。今から人里を目指して行くのは危険です。なので今日は永遠亭に来るといいでしょう」
 その言葉を聞いていたてゐもそれに便乗する。
「そうだよ、うちに来なよ。夕ごはんもご馳走するからさ」
 願ってもない二人の提案を少女は受ける。だが。
「そんな、夕ごはんまでご馳走になるなんて厚かましいですよ……」
 そう少女が言い掛けた時、タイミングよくクッションに深く座り込むかのような音が辺りに鳴り響いたのだ。
 ──腹の虫。いくら口では遠慮しても、肉体は正直なのであった。
「……」
 暫し少女は赤面する。そして。
「私の負けですね。夕ごはん、ご馳走になります!」
「素直でよろしい」
 そんな少女の対応に依姫も気を良くして微笑んだ。
 そして依姫は思った。一夜とはいえ、これから同じ釜の飯を食う仲となるのだ。だから、しておかなければならない事があった。
「私は綿月依姫。貴方の名前は?」
 そう、互いに名前を知っておくべきだと思ったのだ。
 相手の名前を聞くときはまず、自分から名乗る、それが武士の心得である。
 以前月ロケットで月にやって来た者達とは本気ではなかったにしろ、仮にも『侵略』を掲げていたため名乗り会う状況ではなかったが、普段初対面の者と関わる際に依姫は自分の名を語る事を心掛けているのだ。
 名前を名乗るように言われて一瞬戸惑った少女だったが、すぐに取り直してはにかみながら言った。
「私は黒銀勇美(くろがね いさみ)です。よろしくお願いしますね、依姫さん」
 そう言って、人間の少女──勇美はとうとう自分の名を名乗ったのだった。
「黒銀(くろがね)という名字ですか。変わっていますね。まあ私の『綿月』も地上の者には余り馴染みないかも知れませんが」
 自分の事を棚に上げずに言いつつも、依姫はその珍しい名字に少々驚いていた。
 白銀(しろがね)という言葉はある。そして黒鉄と書いて『くろがね』と呼びもする。しかし、黒銀と書いて『くろがね』と呼ぶケースは中々お目に掛かれないからだ。
 だが、人の名前に執拗に絡むのは些か不謹慎と言えるもの。依姫はそれ以上の思考を止める事にしたのだ。
「それでは宜しくね、勇美」
「はいっ」
 依姫に言われて勇美は笑顔で返事をした。やはり初めて名前を呼んでもらえるというのは嬉しい事なのであった。
「それでは参りましょうか」
 ここでいつまでもぐずぐずしている訳にはいかない。依姫は予定外の客人と共に帰路に着く事にした。
「あっ、待って下さい」
 それに対して勇美は待ったを掛ける。
「どうしたのかしら?」
 少々訝りながら依姫は聞く。一体何だというのだろう。
 そう思っていると、勇美は先程まで自分を襲おうとしていたルーミアの肩に手を掛けて言った。
「この子にも夕ごはん食べさせてあげて下さい!」
 その瞬間、幻想郷の能力者が力を使った訳でもないのに、この場の時が止まった。
「えっ?」
「はいっ?」
「ええっ?」
 そして勇美以外の三人から、言葉にならない疑問の声があがった。
 ──どうやら予定外の客人は一人増えてしまったようだ。

◇ ◇ ◇

「おかわり下さい」
「おかわりなのだ~」
 ホテルのレストランと見まごう程の永遠亭の豪華な食堂で、無邪気な少女二人は夕食のカレーのおかわりの催促を同時にした。
「はいはい、どんどん食べていいわよ」
 そう言って永琳が手早く二人にカレーのおかわりをよそる。
 その様子を呆気に取られながら見ていた玉兎がいた。
 玉兎らしくブレザーのような軍服を着て、薄桃色のロングヘアーに、やはり玉兎らしくくしゃくしゃの耳。鈴仙・優曇華院・イナバである。
「あの……勇美さんでしたっけ?」
「うむう?」
 話しかけてきた鈴仙に勇美は、継ぎ足されたカレーを頬張りながら返事をするという行儀の悪い対応をした。
「その宵闇妖怪は貴方を襲おうとしてたんですよね、それなのに今一緒に食事するって如何なものですか?」
 鈴仙は極めて真っ当な疑問を投げ掛けた。
「う~ん、そうなんですけどね~。この子、お腹空かせてたみたいだから、それを頬っておけなかったんですよね」
 その疑問に手早く答えると、庶民に中心に人気の献立であるカレーに再び食い付いてしまった。
「まあ、面白いお客さんが来てくれて退屈しなくていいわ」
 その言葉を発したのは、勇美のように艶やかな黒髪をロングにして前髪を一直線に切り揃え、洋服のような構造の着物を纏った、日本人形のように可憐な様相の──永遠亭の主たる蓬莱山輝夜である。
 さすがは大所帯の主を務めるだけの事があってか、その振る舞いは鈴仙よりも器の大きさを感じさせるものであった。
 賑やかを絶対正義と考え、静けさを求める人を軽視するエゴを持つ人は多い。だが、今夜の永遠亭が予期しない二人の来客により賑やかになり、楽しい雰囲気を醸し出していたのは事実であった。
 そのような憩いのひとときも終わりを告げた。

◇ ◇ ◇

「じゃあね~、ルーミアちゃん」
「またね~」
 永遠亭の玄関にて勇美はルーミアを見送りに来ていた。
「カレー、美味しかったね」
「そうだね~」
 そう仲睦まじく話す様は、捕食する側とされる側とは到底思えない。
「今度は私の事食べようとしないでくれると助かるよ」
「ん~、考えとく~」
 訂正。仲睦まじいやり取りの間にも補食するされる間柄の殺伐とした内容が含まれていたようだ。
 そしてルーミアは夜の竹林の中へと繰り出していった。
 彼女は妖怪であり、夜の眷属である。だから今がルーミアの『時間』であるから、そこへ送り出すのは自然な事であった。
 その様子を見守っていた依姫は安堵の溜め息をついた。──何事も起こらなくて良かったと。
 勇美が襲われかけていたのだから何事もなかった訳がないのだが、それは依姫が解決したから問題ないのだ。
 それとは別に、依姫の注意は最初にルーミアを見た時のリボン代わりのお札による封印に他ならなかったのだ。
 全てを受け入れる幻想郷にいながら、その上で『何か』を封じ込められている。これはただ事ではない。あそこには何かこの世に解き放ってはいけないものが押さえ付けられている──依姫はそう思えてならなかったのだ。
 だが一先ず問題は起こらなかったのだ。依姫はもうこの事については詮索するのを止める事にした。
 今度はもう一つの謎について知りたいのだった。

◇ ◇ ◇

 勇美は今、永遠亭の応接室に案内されて来ている。そこには依姫、てゐ、鈴仙、永琳、輝夜がいた。
「と、いう訳なんですよ。驚かせて済みませんでした」
 勇美が説明を終えた所のようだ。
 それは他でもない、彼女が竹林で見せた『鉤爪』の事であった。
 あれは勇美の能力で作り出したものであった。
 黒銀勇美の能力──それは『機械を生成し、それを変型させる程度の能力』である。
 具体的に言うと、空気中の物質を集めてそこから機械のような物を造り出し、それを変幻自在に変型させる事が出来るのだ。
「面白い能力ね、幻想郷全体を見てもかなり珍しい部類だと思うわ」
 永琳が目を細めてうっとりするかのように言った。
「でも……」
 だが今度は含みのある言い方をして続けようとする。
「分かっています」
 と、ここで永琳の言葉を遮るように、この話題の当事者である勇美が言葉を発した。
「私の能力は機械の生成と変型までで、動力を生み出す事は出来ないんですよね」
 だから自分の力で機械を動かす人力になってしまい、非力な人間の力では十分に性能を発揮する事が出来ないのだ。
弾幕ごっこに向いてないんですよね、この力……」
 例えばルーミアに出会ってしまった時に能力で右腕に鉤爪を生成して装備していたが、それは人間の力では満足に武器として機能しないから悪あがきであったのだ。
 はあ、と苦笑しながら口惜しさを見せる勇美。その姿は愛おしくも切ない。
「それは残念ね……」
 輝夜が相槌を打った。彼女は月にいた時、地上に行けばやりたい事が見つかるというやや受動的な姿勢でいた。
 だがそれは間違いで、自分から求めないとやりたい事は巡って来ないと分かったのだ。
 だから、今目の前にいる『やりたい事』が明確な少女に対して尊敬と哀愁の念を抱いていた。出来る事なら力になりたい。
 輝夜がそんな想いを馳せる中、勇美は続けた。
「幻想郷の多くの者は私を『個人』として見てくれるから、とても嬉しいんです。だから弾幕ごっこを一緒にして交流を深めたいのですけどね」
 またしても溜め息を吐く勇美。
 この場にいる者達全員が何とかしてあげたいと思っていた。しかし、それは難しいだろう。
 そこに依姫が口を開いた。
「まあ、取り敢えず永遠亭に泊まって行きなさい。明日人里に送ってあげるから」
「はい」
 一通り勇美と永遠亭の重役達が話をした所で、一同は入浴等の準備をして寝床についたのであった。

◇ ◇ ◇

 そして勇美は初めて永遠亭での朝を迎えて目を覚ましたのだ。
 続いて顔を洗う等の準備をして昨日の夜と同じく食堂に向かったのだ。
「おはよう、勇美」
 第一声を掛けてくれたのは依姫であった。ルーミアから助けた縁もあり、昨日のあの場で内心一番勇美の事を気に掛けていたのだ。
「よく眠れたかしら?」
「お陰様でバッチリです」
 二人はそう言葉を交わした。
 それに続いて他の永遠亭の者からも勇美に向けて朝の挨拶の声があがった。
「では朝食を頂きましょうか」
「はい」
 そして一同は賑やかな朝食にありついたのだ。
 ちなみに朝食は白米と味噌汁に魚とシンプルながら味付けのしっかりしたものであった。
 そして朝食を終えた勇美は、暫しの休憩の後、てゐと共に永遠亭の玄関まで来ていた。
「それじゃあ、君を人里まで送るね」
「はい、お願いします」
「昨日はごめんね、途中ではぐれちゃって……」
「てゐさんは気にしないで下さい、私の不注意なんですから。それに竹の子はちゃんと採れましたから」
 そう、勇美がてゐの案内の元竹林を散策していたのは、ここの物は非常に美味だと評判である竹の子を採るためだったのだ。
「それは良かったよ。じゃあ行こうか」
「はい」
 そして勇美はてゐに連れられて永遠亭を後にしたのだった。

◇ ◇ ◇

 それから数日間、依姫は心の隅に何か引っ掛かるものを感じながら永遠亭で過ごしていた。
 他でもない、勇美の事だ。
 たかだか人間一人の事である。だからいちいち気にしていては幻想郷では過ごしていけないだろう。だが、依姫は何故か気掛かりで仕様がなかったのである。
(もう一度あの子に遭おう)
 そして依姫はそう決心してしまったのだ。
 狂気の沙汰である。別に元弟子である鈴仙の瞳に当てられた訳でもないのに。
 だが、決心は変わらなかった。もう一度会ってどうなると訳でもないのに。そして彼女はてゐの側まで来ていた。
「私をあの子──勇美の所まで案内して」

◇ ◇ ◇

 人里の一角にある、他と変わらない一軒の家。その外に勇美はいた。
「これで薪は全部集まったね。後はこれを慧音先生の所まで持っていけば……頼んだよ、マッくん♪」
 勇美は別に独り言を言っている訳ではなかった。話しかけている相手はちゃんといたのだ。
 それは人里では中々見ない物であった。──トラックの荷台にタイヤが付いたような造形をした、紛れもなく『機械』である。
 そして、勇美の呼び掛けに応えるかのように大量の薪を荷台に乗せた、『マッくん』と呼ばれた機械はエンジン駆動音を鳴り響かせると、タイヤを回転させ前進を始めた。
「うん、順調に動いてるね」
 問題なく起動した機械を見据えながら勇美は満足気に呟いた。後はこれを走らせて慧音先生の元まで──。
「黒銀勇美って子の家はここかしら?」
「うわっ!」
 突然自分の名前を呼ぶ声に勇美は驚いてしまった。それに合わせるかのように機械である筈のそれもエンジン音を止ませて前進を止めた。
「お久しぶりね勇美」
「あなたは確か、綿月依姫さんでしたよね?」
 そう、声の主は先程てゐに案内してもらってやって来た依姫のものであった。
「どうしたんですか、私に会いに来て?」
 竹林で助けてもらい永遠亭で一夜を共にしたものの、それだけの間柄になるかと思っていた所に会いに来てくれて勇美は嬉しかったが、その理由が分からないので疑問を口にした。
「いえ、特に理由はないのですけど、貴方の事が気掛かりでしてね……」
 そこまで依姫が言うと、すぐに目の前の異質なものに気がいく。
「ところで貴方、その機械は?」
 当然依姫の注意は先程までエンジンを鳴らして走ろうとしていたその鉄の造形物へと向いた。
「あ、この子は『マックス』。略して『マッくん』♪」
「……」
 依姫は絶句した。名前を聞いているのではないとか、自分で名付けておいてそれを略すとは八意様みたいだとか、そもそも文字数的に略されてはいないとか、突っ込みの句が脳内でミミズのように這い回るような名状しがたい事態に陥ったのだ。
「あ、ごめんなさい、意味不明でしたね」
 それを全てではないが察したのだろう、勇美は一先ず謝って仕切り直しをした。
「この子はね、私の能力で造ったの。私の能力はこの前話しましたよね」
 やはりそれしか考えられないだろうと依姫は疑問を頭の中で整理し直す。だが、それで全て解決はしなかったのだ。
「では、どうやってそれを動かしているのかしら?」
 問題はそこに行き着くのだ。勇美の能力では機械の生成と変型までしか行えず、作動させるには人力でしか出来なかった筈だ。
 その筈が、先程まで確かにこの機械はエンジン音を出して自力で動いていたのだから。
「あっ、それですね」
 勇美は合点がいったとばかりにポンと自分の手を打った。
「確かに私の能力は自力で出来るのは機械の生成と変型までですけど、動力源さえあればこの子の力で動いてもらえるんですよ。ちなみにこの子の動力源の燃料は河童の皆さんから買っています」
 そこまで聞いて依姫は合点がいった。生成と変型までしか勇美の力では行えないが、エネルギーがあればこの『マックス』とやらは機械として稼働するのだと。動物で言えば食べ物があれば良いというようなものか。
「やはり、面白い能力ですね」
 依姫は素直に感心の意を示した。
(いえ、もしかしたらこれは……)
 それと同時に彼女の頭の回転は巧みに行われ始めた。永琳お墨付きの『頭が切れる』性質が発揮されたのだ。
 そして、脳内で練り上げられた結論を声という形にし始めた。
「貴方のその力、前に動力が確保出来ないって言ってたわよね」
「はい、燃料なんていつも持ち歩いている訳にはいかないから、弾幕ごっこには不向きなんですよ」
 数日前の夜と同様に憂いを帯びた表情となる勇美。だが依姫とて人のコンプレックスを蒸し返して意地悪するような趣味は断じて持ち合わせていないのだ。そして依姫は続けた。
「その問題、解決出来そうよ」
「えっ?」
 依姫のその言葉の意味を瞬時には理解出来ず、勇美は聞き返してしまう。だが、脳の理解が追い付いてくる。
「本当ですかぁ~、私が弾幕ごっこ出来るようになるって~?」
「ええ、本当よ」
 はしゃぐ勇美を微笑ましく、かつ落ち着いて依姫は見据える。
 ちなみに盛大に飛び跳ねて喜ぶものだから、勇美の幻想郷では普段は見ないセーラー服のスカートの中身が見えるか見えないかの瀬戸際まで事は進んでしまったのだが、依姫は敢えてこの場はそれを黙認した。
「で、どうやれば私は弾幕ごっこ出来るようになるのですか?」
 ようやく落ち着いた勇美は、最大の疑問を依姫に突き付けた。
「それはね──」
 依姫は言って呼吸を整え、そして、
「私の神降ろしの力を使うのですよ」
 と、締め括った。
「えっ、それってどういう事ですか?」
 勇美は首を傾げる。当然だろう、依姫の発案は一見すると突拍子もないのだから。
「それはね、私が予め神々とコンタクトを取っておいて、私が借りた神の力を更に貴方が借りてその……マックスの動力に組み込むという方法を取るのよ」
「そんな事が可能なのですか? それにそんな事して弾幕ごっこしてもいいのですか?」
 色々飛んでいる話を聞かされて、勇美はつい質問責めしてしまう。
「ええ可能よ。それに行っても問題ないわ。幻想郷を管理する妖怪の式の九尾の狐は、更に式を使役しているしね」
 そう依姫は説明しながらも、かつての宿敵の事を例に挙げている自分に心の中で苦笑した。
「それでも、そんな事したら罰当たりなのではないですか?」
「その辺も大丈夫よ。貴方が弾幕ごっこをしたい気持ちに邪なものはありません。だから神々も快く力を貸すでしょう」
「……」
 依姫の主張に勇美は戸惑いが生まれていた。それは……。
「何故私のためにそこまでしてくれるのですか?」
 その一つの疑問に理由が集約されていたのだ。
「それはね……」
 当然の疑問を突き付けられた依姫は目をうっすらとさせ、次の言葉を紡ぐ準備をした。
「今の私があるのは、姉と師匠の存在があってこそだからよ」
 そう依姫は続けた。
「お姉さんとお師匠さんですか……」
 勇美は興味深そうに聞き返した。
「そう、要はこの二人の持つものが私に引き継がれていったというわけ。だから、今度は私が引き継がせる番、それが今だと思うのよ」
 依姫から引き継がれる役割は本来は鈴仙になるのが流れだと思われていた。しかし、彼女は戦いを恐れて依姫の元から去る事を選んだのだ。だから無理強いは出来ない。
 勇美はここまで聞いて、依姫の言わんとする事を理解し始めていた。だからこそ驚きもそれに合わせて膨れ上がっていったのだ。
「ほ、本当にそれが私でいいんですか?」
 それが真っ当な理由だろう。たかだか一人間の一人でしかない自分が依姫程の力量を持った者から何かを引き継がれるなんて大それた話だから。
 だが依姫は続ける。
「ええ、私は貴方を選ぶわ。これは私の神の力が他の人にどう使われていくのか興味があるからでもあるのよ。そして貴方は力を必要としている」
 ここで依姫は一旦言葉を区切り、一呼吸置いた。そして続け、
「これは『お互いのため』なのよ」
 と締め括った。
「お互いのため……ですか」
 勇美は思わず聞き惚れてしまった。
『お互いのため』この状況でそう簡単には出てこない言葉だろう。よく自分のために『お前のためを思っているんだ』とエゴイストが好んで使うケースが多いものだから。
 また『お互い』という言葉を持ち出す人でさえ、実際は自分の都合のいいように物事を運ぶ手段に使う場合も多いのだ。
 だが、今の依姫はそのどちらのケースにも当て嵌まってはいなかった。お前のためだとも言っていないし、勇美の意思で断れる状況を作ってさえいるのだから。
 故に勇美は思った。「この人は信頼出来る」と。
 そして今、勇美の答えは決まったのだ。
「お願いします、私に神の力の借り方を教えて下さい、依姫さん」
「もちろんそのつもりよ」
 この瞬間勇美の新たなる道の幕開けとなったのだった。