雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第十話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第十話 鳳凰 イン グリーン:前編】
 勇美(と綿月姉妹)が『新生』してから一週間が経っていた。今、永遠亭の縁側で勇美とメディスンが仲良くお茶を飲みながら話をしていた。
「勇美、思い切ったイメチェンしてみたものね」
「そうでしょう、そうでしょう♪」
 生足を露出したミニ丈の和服姿に豹変した勇美に、未だに意表を付かれているメディスンは、素直に思った感想を口にし、それに対して勇美はどうだと言わんばかりのふてぶてしい態度を取ってみせていた。
「でも、見た目だけで終わったらいけないと私は思うんだよね……」
「えっ?」
 先程までとはうって変わってしんみりと語り始める勇美に、またもメディスンは面を喰らってしまった。
「思い切ったにしては、地に足を付けてるんだね」
 メディスンは感心したように言った。
「だって、『復讐』は慎重にやらないといけないからね」
「復讐?」
 ここで自分にも身近な概念の言葉を出されて、またもメディスンは驚く。
「そう、復讐だよ」
 そう言って勇美は語り始めた。自分の母親とその周りの人間に所有物として扱われた事に対する復讐だと。
 だが、やられた事と同じ事をする復讐は御法度だとローマ法王は言っている事である。
 だから、勇美は母親達から受けた仕打ちとは別の道を歩む事による復讐を決意したのだ。
「それが、依姫さんの元で修行を積んで、そして幻想郷と深く関わって行くっていうのを私の『復讐』にしようと思っているんだ」
「勇美……」
 それをメディスンは胸の内がむずかゆくなるような心持ちで聞いていた。そんな勇美に比べて、自分はなんて狭い考えだったのかと。
 鈴蘭畑に捨てられた事に対する人形解放宣言。いくら自分以外の人形の為にも聞こえても、結局は自分だけの為であり、人形を作るのも人間だという都合の悪い事実は棚上げするという卑怯でしかない理論だったと今メディスンは思うのだった。
「勇美、ありがとうね。あんたを見てたら自分の小ささがわかったようよ」
「いや、私は大した事言ってないし、第一まだ始まったばかりだから……」
 いくら立派な目標を掲げようとも、掲げるだけでは意味がないのだと勇美は首を横に振った。
メディスンちゃんも、人形解放以外の復讐が見つかるといいね」
「あ、うん、ありがと……」
 先程からメディスンは勇美にペースを掴まれてばかりだった。復讐という言葉は良い響きがないものだから『何々以外の復讐』等という発言はそう簡単には出てこないものだからだ。
「ところでメディスンちゃん……」
「何?」
 勇美に言葉を返すメディスンに対して、勇美は引きつった笑みを浮かべていた。
「あなたがお茶を飲むのは無理があるみたいだと思うよ……」
 勇美がそう指摘するメディスンはというと、見事に球体関節から飲んだお茶が漏れ出していたのだった。
「あんたを見てると不可能だと思う事にもチャレンジしていくべきだって気になるのよね」
「いやいやいや……!」
 勇美は手を振って否定した。メディスンにそう言ってもらえるのは嬉しいが、それとこれとは全く別の問題だと思うのだった。何よりお茶が勿体ないし。
 そんなこんなで混沌としたオチで以て、勇美とメディスンの憩いの時間は過ぎていったのだった。

◇ ◇ ◇

 そして勇美と依姫は永遠亭の近くの竹林の中で稽古に励んでいた。
「いい感じよ、勇美」
「ありがとうございます」
 一頻りスペルの応酬を行った二人はそのような言葉を交わした。
「はい、今日はここまで」
「ありがとうございました」
 そう言って二人は稽古を終えた。依姫は降ろしていた神を送還し、勇美も借りていた神を送還して自分の鋼の分身を解体して無に還していった。
「ますます腕を上げているわ、勇美。では永遠亭に帰りましょうか」
「はい、さすがに疲れてしまいましたからね」
 そう二人の意見は一致して憩いの場へと帰ろうとする。ちなみに稽古も勇美は黒のミニ丈の和服、依姫は巫女装束で行っていたため、その見栄えは非常に『華』のあるものであった。
 そして帰路に付いていた二人であったが、そこで第三者と出くわしたのだ。
「あっ……」
 その人物は勇美と依姫を見て、思わず声を上げた。
 その人は霖之助のような白髪をロングヘアーにし、その髪の所々にリボン状にした赤と白のお札を備え付けていた少女であった。
 そして瞳の色が燃えるような赤である事からも、どこか危ない匂いを醸し出していたのだ。
 だが、それ以上に目を引いたのが……。
「……、もんぺにサスペンダーって奇抜ですね」
 勇美は思わず初対面の人には些か失礼な発言をしてしまった。
 だが、勇美の指摘は紛れもない事実であったのだ。白で長袖のカッターシャツに緋色のもんぺ、そしてそれを固定する為に備え付けられたサスペンダー、どうしても目を引く服装であった。
「! あんたらに言われたくはないよ!」
 もんぺの少女は反論した。
「そうよ勇美も変わった服装になったんだからって……」
 そこで依姫は重要な事に気付いた。
 あんたら……あんたら……あんた『ら』。つまり依姫も含まれていたのだった。
(……)
 依姫はこの事実に項垂れた。そして普段落ち着いている彼女とて、これには納得いかなかったのだった。
「貴方、この格好が奇抜なのかしら?」
 依姫らしくなく、もんぺの少女に絡む。
「うん、まともな巫女装束ってのが、寧ろ幻想郷だと目を引いてしまうよ」
「うっ……」
 痛い指摘を受けて、依姫は閉口してしまった。この時ばかりは真面目に普通の巫女装束をチョイスした自分の性格を呪わずにはいられなかった。
 そして勇美は今の状況がおかしな空気を醸し出していると悟り、ここは自分が取り繕わなくてはと思った。
「まあまあ、人の服装を兎や角言うなんてマナー違反ですよ」
 そう宥めるように勇美は言ったが、
「いや、あんたの服装が一番目立つんだよ!」
「そもそも言い出しっぺは貴方でしょ!」
「うっ……」
 二人に綺麗に突っ込みを受け、見事に墓穴を掘ってしまった勇美だった。
 だが、勇美は気を取り直して話題を変える事にし、もんぺの少女に質問した。
「ところで、あなたはこんな所で何をしようとしていたんですか?」
 見たところ、この少女は妖怪ではない。なのにこのような場所を一人で歩いていたというのか。
「ああ、その事か……」
 もんぺの少女は合点がいったように相槌を打ち、言葉を続けた。その言葉に勇美は聞かなければ良かったと思う事になるのだが。
「それはな……輝夜と殺し合いをしようと思って探していた所だよ」
「えっ……!?」
 その言葉を聞いて勇美は凍り付いたような感覚に陥った。聞き間違いではないかと思い、もう一度もんぺの少女に確認する。
「今、何て言ったんですか?」
「よく聞こえなかったか? 輝夜と殺し合いをしようと思っていた所だって言ったんだよ」
「!!」
 やはり聞き間違いではなかったようだ。勇美は確信するのだった。そしてすぐに彼女の答えは決まった。
「そんな事、私がさせませんよ!」
 勇ましく勇美は吠えた。輝夜とはまだ永遠亭で一緒に暮らすようになってからまだ長くはない。そして依姫や永琳と比べて関わる機会も少ないのだ。
 だからこれから関わりを増やしていこうと思っていた所である。
 そんな、これから仲良くしていこうと考えていた人に危害を加えるなんてさせない、勇美は強く心に誓うのだった。
 幻想郷での揉め事を解決する為にスペルカード戦、すなわち弾幕ごっこが作られたと勇美は依姫から聞いていた。
 そして、勝敗にそぐわない行為をする事も禁じられていると。
 だから勇美は決意して宣言するのだった。
「私と弾幕ごっこして下さい。そして私が勝ったら輝夜様に手は出させませんよ!」
 それを聞いた依姫は、勇美は少し事情を勘違いをしている事を指摘しようとしたが、途中でその考えを押し込めた。
 理由は勇美にとって『経験』になるいい機会だと踏んだからだ。
 依姫は含み笑いで顔が歪みそうになるのをこらえながら勇美に言った。
「わかったわ、勇美。うまく勝つのよ。この勝負、私が見届けるわ」
「はい、依姫さん。輝夜様は私が守ります!」
 そのやり取りを見ていたもんぺの少女は挑発的な笑みをたたえて言った。
「あんたは勇美って言うのか。勇美の覚悟、見させてもらったよ」
「負けませんよ。ところであなたの名前は何て言うんですか?」
 勇美は聞いた。例え身内に危害を加えようとする者であっても、これから弾幕ごっこを一緒に行う関係となるのだ。名前は知っておくのが礼儀だろう。
「そういやまだ名乗ってなかったな。私は藤原妹紅っていうんだ、覚えておきな」
 そして妹紅と勇美の弾幕ごっこの火蓋は落とされたのだった。

◇ ◇ ◇
「私から行かせてもらうよ!」
 そう妹紅が言うと、地を踏む足に力を込め、そのバネで見事に宙へと跳躍したのだ。そして飛び上がりながらスペルを宣言する。
「【不死「火の鳥-鳳凰天翔-」】」
 宣言後、すぐに異変は起こった。妹紅の背中から炎が翼のように現出したのだ。
「!!」
 これには勇美は驚くしかなかった。
「喰らいな!」
 炎の翼で羽ばたきながらそう言うと、妹紅は足にも炎を纏わりつけ──勇美目掛け空から蹴りを放った。
「ひっ!」
 飛び掛かる火の鳥から慌てて身を翻す勇美。そして間一髪で蹴りを避けたのだ。
「くっ! 避けられたか!」
 勢いづいて標的の射程範囲外となってしまった妹紅はそのまま地面へと突っ込んでいった。
 そして炎の蹴りは地面に着弾した。続いて爆音と爆発がそこに巻き起こったのだ。
 徐々に爆発により発生した土煙が晴れてくると、勇美は息を飲んでしまった。
 妹紅が突っ込んだ地面には、見事に直径5メートル程のクレーターが出来上がっていたのだから。
 その瞬間、勇美は悟った──この人は自分が最初に戦ったメディスンとは格が違うと。さすがは輝夜に殺し合いを挑もうとするだけの実力があるという事か。
「でも、負けません」
 勇美は力強く言った。例え格上の相手でも輝夜を守る為に自分は勝たないといけないのだ、それに。
「私には神様の力が付いているんですよ。『火雷神』様、お願いします!」
 そう勇美が神に呼び掛けると、彼女の目の前に金属の断片が集まっていき、徐々に形作られていった。
 そして、それは完成したのだ。
 人型のロボットのような外観をしていた。
 そして、ロボットのような外観に似合わず、傘をさしていたのだった。
(……)
 その存在が現出する様子を妹紅は見守っていたが、やがて口を開いた。
「そいつの名前は何て言うんだい?」
「この子? マックスって言うんだけど、今のこの形態はね……」
 そこで勇美は一呼吸置き、
「名付けて『ガン降ラスター(ガンブラスター)』だよ!」
 と、言い切ったのだ。
「ええっ、それは何か問題な気がするよ……」
 妹紅は手で頭を抱えながら項垂れた。当て字だし、どこかで聞いたような名前だったからだ。
「まあ、そう言わないでよ」
「言うわ! 色々まずいよ」
 弾幕ごっこが始まったばかりだというのに、勇美と妹紅の二人はギャーギャーと言い合っていた。
「細かい事は言いっこなしだよ。妹紅さん、あなたは炎を操るんですよね。ならばと思いましてね」
「?」
 そう勇美に言われて訝る妹紅に対して、勇美は華麗に指をパッチンと鳴ら、
「……」
 せなかった。
「ううう……、指が鳴らない……」
「それは出来る人と出来ない人の違いは体質から来るものだから、無理にやらない方がいいよ」
 妹紅は勇美を宥めつつも、何で敵のフォローを自分はやっているんだろうと、何だか虚脱感に襲われていた。
「うん、そうだね、無理はしない事にするよ。じゃあ、気を取り直して」
 勇美は言って一呼吸置き、
「【降符「押し寄せて来る激しい雨」】!!」
 スペル宣言をし、『ガン降ラスター』に指令を送ったのだった。
「そのスペル名も何か駄目だ~~!」
 妹紅は首をぶんぶんと横に振って、必死に抗議した。日の出を冠する会社のみならず、どこぞの音楽団体の事も怖いぞと戦慄しながら。
 しかし、そういう突っ込みをしている余裕は妹紅はなくなってくるのだった。
『ガン降ラスター』はさした傘をお洒落にくるりと回すと、妹紅の周りの空気が変化したのだ。
「!!」
 妹紅が気付いた時には、ザァァーと激しい水音が辺りに響き、彼女にバケツをひっくり返したような雨が降り掛かっていたのだった。
「これは……」
「火には水、これ常識でしょ♪」
 驚愕する妹紅に対して、勇美は得意気に言ってのけた。
 その彼女の主張通りに、妹紅が纏った炎は段々と弱まっていっていたのだ。
「やるわね……」
 思わず歯噛みする妹紅。
「どんなもんですか♪」
 その様子を見て、勇美はなおもふんぞり返って調子に乗る。
「確かに完璧な理屈だよ、でも……」
「……?」
 妹紅の雰囲気が変わった事に、勇美は何事かと目を見開いた。
「私とてこういう状況で戦った事は一度や二度じゃないんだよ!」
 妹紅はそう言うと新たなスペルカードを取り出す。
「【焔符「自滅火焔大旋風」】!!」
 そしてその符に記されたスペル名を高らかに宣言したのだ。
 すると、弱まっていた妹紅の炎が再び燃え盛ってきたのである。
「ええっ!?」
 今度は勇美が驚く番であった。
「私の炎をなめてもらっちゃ困るよ」
「成る程、無能の烙印を押された大佐の人とは違うって事ですね」
「だから、そういう話はやめようよ」
 炎の勢いを上げつつも、妹紅は首を横に振った。それと同時に、烙印が原因で寧ろその大佐は女性人気が上がったというのが世の中おかしいと嘆きながらも。
「無駄話はさておき、炎の量は十分に集まってきたよ」
 そういう妹紅は、炎に包まれて走るスタントマンの如き状況であった。『火だるま』という表現がしっくり来るだろう。
「すごい炎ですね。でも、妹紅さんもそれで熱くはないんですか?」
 勇美は疑問に思った事を口にした。でも、答えは決まっているだろうとは思いながらも。
「ああ、熱いよ」
「えっ?」
 だが答えは予想していたものとは違っていた。妹紅に言われて思わず勇美は上ずった声を出してしまう。
「驚く事はないさ、スペル名に『自滅』ってあったじゃないか」
「自分の身を削るスペルがあるなんて……」
 勇美は呆気に取られてしまった。
「そこまでしますか」
「ああ、自分の不利な状況じゃ四の五の言ってられないからね。そう思って作ったスペルさ。さあ、行くよ!」
 妹紅がそう言うと、彼女の周りの空気が渦を巻き始めた。そして激しい風の奔流が起こると、それに妹紅の纏った炎が絡め取られ火炎の嵐となって辺りをのたうち回ったのだった。
「!!」
 それは雨風を吹き飛ばし、更に勇美が作り上げた『ガン降ラスター』をも巻き込み焼き付けたのだ。
 そして太陽のように光と熱を放ちながら、猛火に包まれたロボットは溶けてしまった。
「うっ!」
 自分の分身を溶鉄にされた事によりダメージが自身にフィードバックされる勇美。
「これでダメージはおあいこのようだね」
 誇らしげに言う妹紅。彼女もまた服が焦げ、痛々しい様相となっていたのだ。
「そのようですね」
 対する勇美も、呼吸を乱していささか辛そうだ。
「そして、これで振り出しに戻った訳だな」
「はい」
 妹紅に言われて勇美は歯噛みしながら返した。これで、炎を使う彼女に対して雨を用いるという完璧に思えた戦法は通用しないなと思いながら。
「では、次は妹紅さんから仕掛けて下さい」
「ん? そうか? いい心構えだな」
 勇美に薦められて、妹紅は感心して言った。
 だが、勇美とて譲歩している訳ではなかったのだ。先程妹紅の攻撃で雨を無効にされたように何が起こるか分からない事を考慮して、相手の出方を見計らっているのだ。
「じゃあ、遠慮なくやらせてもらうよ!」
 そう言って妹紅はまた新たなるスペルカードを取り出す。
「【滅罪「正直者の死」】」
 そしてスペルを宣言すると、右手を前に出すと、そこにエネルギーが集まっていったのだ。
「来る!」
 身構える勇美の言う通り、妹紅のその手からレーザーが放たれたのだ。
 それを見た勇美は避けなければと思いレーザーをかわすべく体を動かしたのだ。
「逃がしはしないよ!」
 そんな勇美に対して妹紅が言うと同時に、レーザーの軌道が変わった。
「ええっ? 追尾レーザー!?」
 そう、勇美の指摘するように、そのレーザーは勇美を狙って軌道を変えたのだ。
「うわ~、そんなのずるいよ~」
 勇美は慌てふためきながらレーザーから逃げるように走り始めた。
「まあ恨みなさんな。これも立派なスペルだよ」
 そんな勇美を面白おかしそうに俯瞰する妹紅。そしてその主の心持ちに応えるかのように意気揚々と勇美を追い回すレーザー。
「はあ……はあ……」
 そんな不毛な鬼ごっこを強いられていた勇美は段々と疲弊していったのだ。
 当然だろう。勇美は生身の人間なのに対して、相手は生物ですらないレーザーだったのだから。
 もう逃げられない。そう思って勇美は足を止めてしまった。これでダメージは免れないだろう、余り痛くなければいいなと消極的な事を思いながら。
「あれ……?」
 身構えながら勇美は異変に気付いた。いつまで経っても体に痛みが走らなかったからだ。
 何事かと目を凝らして見ると、妹紅の手から照射されていたレーザーが収まっていたのだ。
「あれ? どうしたんだろう?」
 勇美は首を傾げるが、
「何だか分からないけど、これはチャンスかも!」
 そう意気込んで勇美は神に呼び掛ける。
天津甕星様、私に力を!」
 言って勇美は右手を前に突き出すと、そこに銃が顕現を始めた。
 そして、その銃を掴むと勇美は攻撃の為に妹紅との距離を開けるべく後ろに下がったのだ。
 すると、妹紅の手から再びレーザーが照射されたのだ。それを見て勇美は避けようと更に後ろに下がろうとした。
「!!」
 思わず息を飲む勇美。後ろに下がろうとしたのだが、彼女の背後には竹が差し迫っていて、それが叶わなかったのだ。
 これまでか。そう勇美が思った。だが、レーザーの発射は再びなりを潜めたのだ。
「あれ、まただ……」
 勇美は助かったと思うと同時に再び首を傾げた。
 どういう事だろう。相手が足を止めた時なんて、攻め入る絶好の機会だというのに。
 そう訝った勇美だが、ある仮説に行き当たった。
(もしかして、攻撃しなかったんじゃなくて、出来なかったんじゃ……?)
 そう勇美は思い、それを確認すべく行動に移した。
「【星弾「プレアデスブレット」】!」
 彼女はスペルカード宣言をして、自作の銃の引き金を引いたのだ──今度は足を動かさずその場で。
「ちっ!」
 それに対して今まで余裕の態度だった妹紅は舌打ちをした。そして彼女に星形の弾の群れは襲い掛かった。弾の一つ一つは妹紅に着弾すると次々に小さな爆ぜを生み出していったのだ。
「くぅっ……」
 勇美の攻撃を受け、妹紅は苦悶の表情を浮かべた。
 そして、その瞬間勇美は確信したのだ。
「分かりましたよ妹紅さん、そのレーザーは相手が移動してる時だけ発射されるんですね」
「ご名答だよ、さすがだね」
 勇美の答えに妹紅は正解だという意を示したのだ。
『正直者の死』。それは正に正直に攻撃を避けようとする者に痛手を負わせる為の、一風変わったスペルだったのだ。
「攻撃の性質は読んだよ。つまり移動しなければこっちから攻撃し放題って事だね」
 勇美は勢いづいて銃口を再び妹紅に向けた。このまま一気に攻め倒してしまおうと踏んだのだ。
「残念、その答えはハズレだよ」
 だが妹紅には先程までの余裕が戻っていた。ニヤリと笑みを浮かべると、彼女はどこからともなく何かを取り出した。それは……。
「何と竹でできたバズーカ砲だったのです!」
「あんたが先にそれを言うか……」
 人が武器の説明をしようと思っていた矢先に相手に言われてしまい、妹紅はやるせない気分となった。
 しかも勇美の言い方だと、東方は東方でもprojectとは別の東方になってしまうのだ。更にそれだと妹紅はタイムパラドックスを起こした罪で時の団地に幽閉されてしまう、そんなの冗談じゃないと憤りを感じるのだった。
 閑話休題。妹紅はそういうネタ的な話題を頭から振り払うと、気を取り直して手に持った武器の説明をした。
「『火焔竹筒』。こいつの火力は相当なもんだよ。尤も……」
 そう言って妹紅は竹筒を左手に構えて勇美へと狙いを定めた。
 そして発射される炎の砲弾。それは着実に勇美との距離を詰めていったのだ。
 勇美はこの攻撃を避けようと、その場から動いてしまったのだ。
「ダメージを直接当てるのが狙いじゃないけどね」
 妹紅はニヤリと笑いながら言った。そして、再び照射される『正直者の死』。
「ひぃっ……」
 勇美は襲い掛かるそのレーザーから、また逃げるしかなかったのだった。
 逃げる彼女をレーザーは追い始めた。そんな窮地に至ってしまった勇美は走りながらも必死で考えを巡らせ始めた。
(一体どうすれば……?)
 思考を馳せさせる勇美。こういう窮地で以前──メディスン戦ではどうしたのだっただろうか?
(そうだ!)
 勇美はすぐに今すべき事を思いついたのだ。後は実行するだけだった。
 そこに妹紅のレーザーが今まさに差し迫っていた。そして勇美を貫かんと彼女に肉薄したのだ。
 そして勇美にレーザーが突き刺さり、そこから激しい閃光が迸り辺りを包んだのだった。
(勝負あったね)
 妹紅はここで自分の勝利を確信したのだ。
 そして、閃光が止み視界が晴れて来た。妹紅は後は地面に倒れた勇美の姿を確認するのみであった。
 だが……。
「!!」
 その瞬間、妹紅は目を見開いた。
 そこには、彼女が想像していた、倒れた勇美の姿は存在していなかったのだ。代わりにあったのは。
「バリアかい。味な真似してくれるね」
 妹紅は苦笑いを浮かべながら言った。
「【水鏡「ウォーターベール」】……」
 勇美はそう自分が発動していたスペルの名前を宣言した。そして彼女は丈夫な水の膜に覆われていたのだった。
「駄目ですよ妹紅さん。味な真似って言ったら、その後はビチグソがぁ~って言わないと」
「言うか女の私がそんな下品な事!」
 そんなふざけた台詞の発言を求められた妹紅は、当然怒る。
「さすがね、勇美。今ので段々貴方のペースに引き込み始めたわよ」
 感心して言う依姫。だが実際妹紅にビチグソ発言を薦めた事までは賞賛していなかった。これはないわ~と思っていた。
「これで『正直者の死』は封じたようだね」
「悔しいけどそのようだよ」
「じゃあ、今度は私から行かせてもらうね~」
 言うと勇美は水の防護膜に覆われた状態から天津甕星の力で造った銃を妹紅に構えた。
「この状態からプレアデスブレット発射!」
「何っ!?」
 妹紅は驚いてしまった。防御しながら攻撃をしようとするなど。だが、彼女は冷静になって言う。
「水の膜を張ったままで、どうやって銃撃しようってのさ?」
 その発言が現状を明確に言い表していた。壁に弾を発射しても当然そこにぶつかってしまうだろう。
 だが、勇美は構わず引き金を引こうとしていた。
「まあ見てなさいって♪」
 意気揚々と彼女は言うと、そのままキリリと引き金を引いたのだ。
 そして発射される星の弾丸。しかしこのまま水の壁にぶつかって文字通り星となるのは目に見えているだろう。
 しかし、弾が差し迫った時それは起こったのだ。星の弾はぶつかって砕ける事なく──水の壁をすり抜けたのだった。まるで水が弾のために見えない通り道を作るが如く。
「何っ?」
 当然妹紅は意表をつかれてしまった。そして、自分の元に届かないと高を括っていた弾丸の群れに対して準備が出来ておらず、その攻撃をまともに喰らったのだった。
「くぅぅっ……!」
 妹紅に次々着弾してパチパチと弾ける星の弾丸。それに堪らずに呻き声を出してしまう妹紅。
 そして一頻り射撃を行った勇美は、攻撃の手を止めたのだ。エネルギーを連続で放出した為、少し休む時間が必要だったのである。
「どんなもんですか?」
 勇美は弾むように、妹紅に挑発的に言ってのけた。
「はあ……はあ……」
 対する妹紅は思わぬ攻撃に息を荒げていた。
「やるね……」
 呼吸を乱しながら彼女は呻くように呟いた。
(よし……!)
 この調子ならいける! 勇美はそう意気込み次の攻撃を仕掛けようと思った。