雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第23話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第二十三話 勇美と恐竜:後編】
「そんな……」
 特別授業の催し物として依姫と戦っていた勇美。彼女の優勢かと思われたが依姫が今まで見せた事のない戦い方により形勢を逆転されてしまう。
 呆気に取られてしまっている勇美。それを依姫は叱責する。
「駄目よ、自分が思っていなかった事に遭っても、それを引きずっていては」
 さりげない一言のようであった。だが、依姫のそれの場合は相手の心情に気を配り的確に放たれるのだ。かつての月で意気消沈しかけた魔理沙の時のように。
 その効果は勇美に対しても同じであった。戦う意欲を折られかけていた彼女であったが、今の依姫の発言により調子を取り戻していったのだ。
「まだ終わってはいませんよ!」
 そう勇ましく依姫に勇美は応えた。そして、再びマックスに指令を出す。
「もう一回地面に潜るのよ、ランド・ショニサウルス!」
 それに対してマックスは律儀に応え、地面に突っ伏していた身体を再び稼働させると、先程と同じように周りの土を泥のように変質させその身を地中へと沈ませていったのだ。
 それを見ていた依姫は、
「どうするつもりかしら? さっきと同じではまた弾かれるのがオチよ」
 と、余裕を見せて言った。
「ご安心下さい。同じ手は使いませんから♪」
 対する勇美も弾むような口調で生き生きと答えた。
 そして勇美はランド・ショニサウルスに新たな命令を下す。
「そのまま地中で輪を描くのよ!」
「?」
 勇美の言葉を聞いて依姫は首を傾げた。一体勇美は何をするつもりなのだろうと。
 だが油断は出来ないだろう。そう思い依姫は身構えた。
「さすが依姫さんですね、隙がありません」
 勇美は感心しながらそう言った。だがその後にこう続けた。
「でも、それは地面の上での話ですね」
「? 何が言いた……!?」
 言い切る前に依姫は異変に襲われた。違和感は足元からやって来たのだった。
 見れば依姫の周辺の地面が、チョコフォンデュに使うチョコレートのようにドロドロに溶け始めていたのだ。しかも……。
「これは、渦……?」
 そう依姫が呟いた通りであった。地面がドロドロに溶けると同時に、渦巻きを起こしていたのである。
「では行きますよ! 【土渦「グランドストローム」】!」
 自分の分身を地中で回転させながら、勇美はスペルカード宣言をした。
 するとみるみるうちに地面のぬかるみは激しくなり、依姫の足元を飲み込んでいった。
 だが依姫は至って落ち着いていた。
「……これ以上はやらせないわよ、折角の緋袴ですから」
 と、そんな余裕まで見せた。
「依姫さん。って事はその巫女服、気に入ってもらえたんですか?」
 勇美は、うるうるとした視線で依姫を見ながら言った。
「違うわよ」
 だが依姫はきっぱりと言った。
「ただ、この巫女装束は高価なものだから大切にしないといけないと思っただけよ」
「そうですかぁ~♪」
 否定する依姫に対して、尚も勇美はニヤニヤしながら食い付いた。
「そんな事言ってる余裕があるのかしら?」
「うん、ないと思う」
 勇美は依姫を追い詰めているかに見える状況にいながらそう答えた。彼女の元で修行に明け暮れる勇美だからこそ、肌で感じ取る事が出来るのだった。
「いい答えね」
 そう依姫は言うと、次なる手を打つべく身構えた。
「『火雷神』よ、我にその力を!」
 そして依姫はこの状況を打破すべく神を降ろした。
 そして異変はすぐに現れた。この広場の周囲の空の雲行きが怪しくなったのだ。
「みんな、これを差すように」
 その最中、慧音は生徒達に傘を配り始めたのだ。それが生徒達全員に行き渡った時、生徒の一人が疑問の声を上げた。
「先生、何で傘が必要なんですか?」
「すぐに分かるさ」
 そう慧音が答えてすぐに、それは起こった。
 ポツポツという間もなく、降り注ぐように雨が辺りを包んだのだった。
「【神嵐「猛き獅子の如き心」】!」
 そこへ依姫はこのスペルの名前を宣言したのだった。
 そして降り注ぐ雨あられは戦いの場一面へと広がったのだ。
「うっ、さすがは火雷神の雨ですね。でも、それで何を狙うのですか?」
 確かに勇美の言う通りであった。いくら協力な雨風といえど、それだけでは勝負に影響はしないだろうという事であった。
 そう指摘されて、依姫は不敵に笑った。
「分からないかしら?」
 その振る舞いを見て、勇美は思わず背筋がぞっとしてしまった。そして辺りをよく確認してみる。
 降り注ぐ火雷神の雨。それに激しく打たれて……地面が徐々に抉られていたのだ。
「……もしかして?」
「気付いたようね」
 呟く勇美に対して、依姫は言う。その先には地面を抉られた事により顔を見せ始めたランド・ショニサウルスの姿があった。
「いくら地面に潜って渦に飲み込む事が出来ると言えども、その地面を対処してしまえばいい事よ」
 得意気に言う依姫。確かにそうだ。例え優れた鉄板があれど、焼き肉のように食材を取り上げられてしまえば役に立たないのである。
 そして、とうとうランド・ショニサウルスは地面の上に打ち上げられてしまったのだった。機械で構成された身体であるが、心なしか目を回しているかのようであった。
「マッく~ん!!」
 その光景を目にして勇美は慌てふためいた。
「もうこれで十分のようね」
 そう言って依姫は火雷神の力を解除した。 瞬く間に雨は引いて、快晴の空が再び姿を現したのだった。
「くぅぅ~……」
 項垂れる勇美。無理もないだろう。折角攻勢で攻めていると思っていた所にこれであったのだから。
「これで終わりかしら?」
 そこへ依姫が挑発的にのたまう。
「!!」
 それを聞いて勇美は、はっと目が覚めるような心持ちとなった。──ここで終わらせたくはないと。
 折角自分が憧れてやまない依姫との勝負を行っているのだ。いくらこれが依姫の神降ろしを子供達に見せる為のデモンストレーション的な戦いであっても、勇美は勝ちに行きたいと心から願う気持ちになるのだった。
「とんでもねえ、まだまだこれからですよ」
「そのいきよ!」
 依姫はやる気を取り戻した勇美を褒めながらも心の中で突っ込んだ──『とんでもねえ』はないだろうと。その流れだと私はゴミを収集してもらおうとした所へマシンガンを浴びせられるのかと。
 そんな事に構わず、勇美はまず打ち倒された自分の分身マックスを送還する。そして彼は歯車と金属のパーツに分解されて空気中へと消えた。
「さっきはあんなになるまで頑張ってくれてありがとうね、マッくん」
 勇美は自分の為に奮闘してくれたマックスに対して、心から労った。彼がいるからこそ自分は戦えるのだから。
「でも、もう一踏ん張りしてくれると嬉しいな!」
 続いて勇美は心機一転して彼に呼び掛けたのだ。
(次に力を貸してもらう神様は……祇園様、お願いします)
 そう心の中で勇美は願うと、再び彼女の側に歯車と部品が次々に収束していき、マックスが新たなる姿を形成し始めた。
 その姿は……。
「地上の情報から聞いた事があるわ、『ステゴサウルス』ね」
「その通りですよ、名付けて【剣符「ブレード・ステゴ」】です!」
 その勇美の返答を聞いて、依姫は『あー、やっちゃった』といったような心持ちとなってしまった。
「どうしました、依姫さん?」
「勇美、念の為に言っておくわ……」
 依姫が頭を抱えながらそう言うので、勇美は何事かと思いながら聞いた。
「勇美、『ステゴ』って『剣』って意味よ」
「え゛っ……」
 変に濁った声を出して、勇美はしばし固まってしまった。
「あ゛ーーーーーっ! やっちゃったーーーーー!」
 勇美は頭から火が出るような感覚に陥った。穴があったら入りたい気分であった。
 思えば『ステゴ』は『ソード』に語呂が似ていたなと後悔する勇美であった。
「……依姫さん、このスペル名付け直していいですか?」
 僅かな希望に向かって、勇美はわらをも掴む気持ちですがった。
「駄目よ」
「うぅ~」
 だが現実は非情であった。
 仕方ないので、勇美は腹を括る事にした。
「『ブレード・ステゴ』! 依姫さんを切り刻んでしまっちゃいなさい!」
 もう破れかぶれであった。
「来るのね」
 そんなやけっぱちな勇美に対しても、依姫は油断する事なく身構えた。
「いっけえー! ソード・シューティング!」
 そう勇美が命ずると、マックスは背中に力を込め、そしてその剣状の刃を射出したのである。
 ボコボコと打ち出される剣は空中へと飛び、重力に引きずられる形で地面目掛けて降り注いだのだ。──勿論その先には依姫がいる訳である。
「来たわね」
 だが依姫は臆する事なく手持ちの刀をその刃の群れに向け、見事にそれを弾き始めたのだ。
 ぶつかり合う刃と刃、鳴り響く金属音。この特殊な殺陣は互角に進んでいくかと思われた。
「くぅ……」
 だが、依姫の方が押されていったのだ。生身で刀を振るう方と機械の身体から放つ方とでの差が生まれたようだ。
 それを勇美は実感していき、そして言った。
「どんなもんですか!」
 自分が依姫を追い詰めている事を実感しながら、勇美は気分が高揚するのだ──この自分がここまでやれるのかと。
 依姫を窮地に追い込んでいるかのよう……。だが当の依姫本人には既に先程の焦りの様子は全く見られなくなっていたのだ。
「見事な攻撃ね、隙が見られないわ……でも」
 含みのある言い方を始める依姫。
「『私を倒すには程遠いんだよねぇ~』なんて言うんですか?」
「言うか! どこぞのファンサービスの人よそれ」
 と、そんなコントじみたやり取りを依姫とする勇美であったが、彼女には一抹の不安が生まれていた。
「忘れていないかしら? 私が今まで降ろした神の事を?」
 そして勇美の不安は現実のものとなる。
「【金符「解体鋼処」】!」
「やっぱり!」
 勇美は予想通りの展開に驚愕した。これこそ二度に渡り咲夜のナイフの群れを退けた『金山彦命』の、金属を操る力だったのだ。
 そして、依姫が刀をブレード・ステゴが放った刃の群れに向けると、瞬く間にそれは砂状に還ってしまったのである。
「あ……」
 余りの展開のひっくり返りっぷりに、呆気に取られる勇美。
「勉強熱心な貴方らしくないわよ」
 依姫は厳かに、それでいて諭すかのように勇美に言う。
「……」
 それを黙って聞く勇美。俯く彼女からはその表情は読み知れない。
(少し苦い薬だったかしら……?)
 依姫は心の中でそう内省する。
 しかし、自分は間違った事はしていないと思っていた。多少厳しく向き合う事が勇美のプラスになるし、勇美自身その事を望んでいるのだ。──でなければ厳格な振る舞いをする依姫の元で鍛練に励もうとは思わないだろう。
 その事実がこれから見られる勇美の様相の裏付けとなっていた。
「やっぱりさすがは依姫さんって所ですね」
 そう言って顔を上げた勇美の表情は、実に晴れ渡っていた。
「まだ意気消沈はしていないようね」
 その様子を見た依姫も喜ばしく思った。
「でも、これからどうするつもり? 貴方の剣は何度でも金山彦命の力で砂に還すわよ」
 依姫は強気で言う。自惚れる気はないが、金山彦命の力は強力なものだと理解しているからだ。
「その点はご安心下さい。もうブレード・ステゴの力はここからは使いませんから」
 言って勇美は剣山のような風貌を見せつけていた彼を解体した。当然金山彦命の力ではなく勇美自身の意思で。
 そうして再び姿を消したマックス。そこで勇美はまた心の中で念じる。
愛宕様に天津甕星様、最後に私に力を貸して下さい)
 最後に……。そう勇美は心の中で念じた。この次の手がこの勝負において最後になるだろうと肌で感じての事であった。
(次はどう出てくるのかしら?)
 依姫は期待しながら待ち構えた。そこに不安はなかった。
 ──勇美はよくここまで私と張り合ったと。だが、まだ未熟である。だから私が負ける事はないだろう、そう思っていたからである。
 そんな思いを依姫が馳せている間にも、勇美の側には彼女の最後の想いを乗せて鋼の意志が寄り集まっていたのだ。
 次々に形作られていく勇美のこの勝負最後の化身。その様相は今までとは違っていた。
(……まだ形成が続いているのね)
 そう依姫が勘ぐる通り、今までよりもマックスの身体のパーツが寄り集まる時間がこれまでよりも長かったのである。
 だが、物事には必ず終わりがあるもの。その長きに及んだ収束も完成の時を迎えたのだ。
 そこに存在していたのは。
ティラノサウルスね……」
 依姫はそう呟いた。強靱な顎と四肢を持つ暴君の名を冠する恐竜の王者の姿であった。 圧倒的な威圧感。それを見ていた者は皆驚いていた……勇美を含めて。
「うわあ、マッくんの姿が凄まじい事になっちゃった~、マジビビるわぁ~、たまげたなぁ……」
「……自分でおののいてどうするのよ」
 そんな間の抜けた暴君の主に対して、依姫は頭を抱えながら突っ込みを入れた。
「だって、自分でもここまでなるとは思っていなかったんですよ~」
「それで、これからどう攻めてくるのよ?」
 呆れながらも依姫は勇美にどうするのかを促す。
「よく聞いてくれました。この形態は【降符「ティラノ・メテオ」】って言いましてね」
「メテオ……」
 依姫は呟いた。それは確か『隕石』を意味する言葉だったと。
 隕石、それは空から地上に降り、天変地異を起こして恐竜の住めない環境を作り出して恐竜時代を終わらせた産物である。
 それを持ち出すとは、まさに勇美がこの勝負の最後に持って行く為の決意の現れだと窺えたが、一体これでどういう攻め方をするというのだろうか。
「まあ見ていて下さいね、それじゃあティラノ・メテオ。頼んだよ!」
 そう勇美が命じると、その暴君は逞しい脚と腰に力を込めると、その重厚な見た目に反して身軽に空高く飛び上がったのだ。
「跳んだ!?」
 さすがの依姫も、この事態には驚いてしまった。だが、すぐに平静を取り戻し付け加えるように言った。
「意外性だけではどうにもならないわよ」
「ええ、分かっています」
 勇美もその事は十分承知であった。機をてらっただけで太刀打ち出来る程、依姫という牙城は脆くはないのは周知の事実だからだ。
「ティラノ・メテオ、続いてお願い!」
 上空に飛び上がった相棒に再び呼び掛ける勇美。するとそれに応えるように彼は身体の構造を変え始めたのだ。
 ガチャガチャと金属音をならして手足を身体へと収納させ、形作られていったものは。
「まるで、隕石そのものね」
 依姫の指摘通り、マックスは岩の塊のような形態へと変貌していたのだった。
「これぞティラノ・メテオの真骨頂よ! さあやっちゃって!」
 そう勇美が呼び掛けると、上空で隕石の形を取ったマックスは地上目掛けて落下を始めた。
 これを地面目掛けて叩き付ければ、さすがの依姫でもひとたまりも無いだろうと勇美は読んでの事であった。
(単純だけど、抜かりない攻め方ね……。でも、先程祇園様の力を解放したのが命取りだったようね!)
 そう依姫は心の中で言葉を発すると、その祇園様の力を自身の身体へと寄せたのだ。彼のもたらす膂力があれば、この事態も打破出来るだろうと。
 そして依姫は祇園様の力をその身体に込めて身構えた。これでいつでも相手を迎え入れられる準備は出来た。
「さあ、来なさい!」
 そして意気込む依姫。そんな彼女に対して隕石と化した暴君竜は刻一刻と迫っていった。後は依姫にその身をぶつけた一撃をお見舞いするだけであった。
 しかし……。
「あれ……?」
 様子がおかしい事に最初に気付いたのは勇美であった。
 隕石と化したマックスの所々から火花が爆ぜ始めたのだ。その接近速度も遅くなるどころか、もはや空中で制止している状態になっていったのである。
 そして、極め付きな事が起こる。ピシピシとマックスは軋むような音をたて……。
 削岩機を廃ビルに叩き込むかのような音と共に、彼は見事に爆散してしまったのだった。そして空には綺麗な花火が幾つも生まれたのだ。
「……」
「……」
 勇美本人も依姫も呆気に取られて言葉を発せないでいた。対して事情を良く知らない子供達は「きれーい♪」とその花火を見てはしゃいでいた。
「依姫さん、これは……」
「……恐らく八意様が何かしたのね」
 遠い方向を見ながら二人はそう言い合った。
 ──あの人は一体何をしてくれるんだろう、子供達を楽しませるだろうけど、自分の勝負に水を指してくれてどういうつもりだと勇美は思った。
 だが、彼女には別の理由も頭に浮かぶのだった。
 ──それは勇美が依姫と勝負して完全な形で負けたらこの先自分の心を引きずり続けるだろう事を懸念しての作戦だったのではと。
 そう、勇美は成長し続けているが、まだ師である依姫と戦うには早いのだろう。勇美が更なる成長をして本当に依姫と渡り合える時が来るまでこういう形で勝負をおあずけにしようと永琳は考えたのではなかろうか。
(ありがとうございます、八意先生)
 真意は永琳のみぞ知る訳だが、取り敢えず勇美は心の中で彼女にお礼を言った。

◇ ◇ ◇

 そして、勝負は『月の頭脳』の介入によりおあずけとなった訳であるが、当面の目的は果たしただろうと思い勇美は依姫にかけ寄って言った。
「取り敢えず、これで神降ろしの凄さは子供達に伝わったと思いますよ、ほら」
 そう言って勇美が目配せをする先には元気にはしゃぎながらこちらに駆け寄ってくる子供達の存在があった。
 後は依姫がちやほやされて子供達に神の偉大さが伝わって万々歳であろう。
 だが、世の中というのはどこかおかしく出来ているものである。『事実は小説よりも奇なり』とは言い得て妙なのだ。
「勇美お姉ちゃーん! 恐竜さんカッコ良かったよ!」
「また見せてねー」
「花火も綺麗だったよー」
 子供達に懐かれているのは依姫ではなく勇美の方であった。
「勇美……話が違っているわね」
「まあ……、ヒーロー番組でも主役ヒーローを食ってしまう敵やライバルっているじゃないですか……」
 依姫に指摘されるも、勇美は乾いた笑いを浮かべてごまかすしかなかったのだった。