雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第28話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第二十八話 レイセン一世:後編】
 鈴仙の今の事を気遣う依姫の言伝により、勇美は鈴仙と戦っていたのだ。
 そして、鈴仙は勇美が造りだした要塞から生える触手に追い込まれていたのだった。
(こうなったら……)
 と、この状況を打破するために鈴仙は考えを巡らせた。
 そして鈴仙は──懐から出したスペルカードを宣言した。
「【狂視「狂視調律(イリュージョンシーカー)」!】躍り狂いなさい、忌まわしい触手ども!」
 そう鈴仙が言ってのけると、彼女の瞳が一際赤く光り、更に彼女の背後に漫画で書いたような造形の巨大な真紅の眼が浮かび上がった。
 そこから何やら不可視の波動が発せられ、空気の流動が勇美の陣地を襲った。
 それを身構えながら目をつぶっていた勇美は流動が過ぎ去ると目を開けた。
(あれ? 何ともない?)
 勇美は何事も起こっていないと判断すると、拍子抜けすると共に安堵した。
 だが、何もないならないでチャンスだと踏んで攻勢に出ようとする。
「まあ何であれ、今よマッくん! その触手でやっちゃって!」
 勇美は自らの相棒に呼び掛け、目の前の敵である鈴仙に向けて指を指す。
 だが、勇美はそこで異変に気付いた。
「あれ? マッくん? 何かおかしい」
「気付いたようね」
 鈴仙は口角を上げて笑みを浮かべた。
 そして鈴仙が指を鳴らすと──触手が自らの主人である勇美に襲い掛かったのだった。
「ええっ!?」
 間一髪で触手の一振りをかわす勇美。そうして慌てふためく勇美に鈴仙は律儀に種明かしをする。
「これがイリュージョンシーカーの力よ。それを受けた者は例え機械であっても幻惑によって狂うのよ」
「そんなっ……!?」
 触手の攻撃をかわしながらも勇美は驚愕してしまう。
「参ったね……咲夜さんもこういう苦労をしたんだね」
 勇美はかつて咲夜が月で依姫に自らのナイフを自分に飛び交わされた時の光景を思い返しながら愚痴た。
「どう? 私の狂気の味は?」
 そんな思いを馳せながら回避行動に勤しむ勇美に、鈴仙は憮然とした態度でのたまう。
(……)
 その様子を端から見ていた依姫は、興味深い心持ちとなっていた。
(今の鈴仙……。かつての貴方とは違うわね。何と言うか、迷いが無いわ)
 それが依姫がこの勝負の経過を見てきた中で抱いた切実な感想であった。
「はあ、参ったなあ~」
 そんな達観した依姫の事はいざ知らず、勇美は切羽詰まった様子である。
「な~んちゃって♪」
 ──否、切羽詰まった様子に『見えていた』だけのようであった。
「それってどういう──?」
 鈴仙が反応するや否や、勇美は事も無げに言ってのけた。
「『スキッドテンタクラー解除』!」
 そう勇美が唱えると、要塞から生えていた触手が録画映像の逆再生の如くみるみるうちに体内へと引っ込んでいったのだ。
「何ですって?」
「触手が操られたのなら、引っ込めるしかないじゃない! あなたも私も!」
 そんな事がイリュージョンシーカーの術下で出来るの? そう鈴仙は抗議した。後最後の台詞はニュアンスとしておかしい事も付け加えた。
「それはですね、スキッドテンタクラーは私の能力扱いだから、解除する事で対処出来たんですよ。要は電化製品が熱暴走する前に電源を切る感覚ですね」
 丁寧に説明していく勇美。ちなみにニュアンスの件をスルーするような情け容赦無さが、勇美には存在した。
「でも、自慢の触手はこれで封じたわよ」
 流れを逆転された鈴仙であったが、強気な姿勢は崩さなかった。このような果敢さも月から逃げる前には見られなかったものである。
「ご心配なく。まだ私の奥の手は残っていますから」
 すると右手を高らかに上げ、勇美は新たなる神に呼び掛けた。
「『石凝姥命』よ、私に更なる力を貸して下さい!」
 その呼び掛けに応えるかのように、要塞は燦然と輝き出し辺りが目映く照らし出される。それに伴い要塞は僅かにその形を変えていった。
 そして、徐々に光は収まっていき、要塞の全容が明らかになっていく。
「これは……」
 思わず目を見張る鈴仙。彼女の視線の先にあったのは。
 鮮やかな透明質でシャープな質感となっていた。それはまるで……。
「水晶……」
 呟く鈴仙。その感想が生まれ変わった要塞の様相を見事に言い表していたのだ。
「どうですか? 【石英「クリスタルフォートレス」】の見映えは?」
「見事だわ……」
 鈴仙はそう言うしかなかった。何故なら弾幕ごっこの醍醐味の一つに『いかに美しく見せるか』というものがある。その点で勇美の催しは合格だったのだ。
「でも、美しさだけでは勝負にはならないわよ!」
 見取れつつも、鈴仙は負けじと口で返す。
「勿論、見た目だけじゃありませんよ♪」
 だが、勇美も口でも負けてはいなかった。そして、彼女は右手を掲げると、水晶の塊と化した要塞に命令を下す。
「マッくん。あれをお願い!」
 勇美のその要望を受けて、水晶の要塞は砲身からボコボコと何かを次々に吐き出した。
「一体何が……」
 鈴仙は呆気に取られながらも、身構え警戒を怠る事はなかった。
 そして、吐き出された物体は一つ、また一つと連続して鈴仙の周りを取り囲んでいったのである。
 鈴仙は漸く動きが止まった物体を目を凝らして見てみると、その正体が分かったのだ。
「……鏡の玉?」
 それが鈴仙が見出した結論であった。
 よく磨き上げられた鏡。それを巧みに球状に仕立て上げた物、それがその物体の正体だったのだ。
「それじゃあ、次に私が何をするか、鈴仙さんなら分かりますよね」
「まさか……?」
 嫌な汗が彼女のブラウスの奥の背中に流れる。
「察しがいいですね、では発射!」
 とうとう勇美は指を鈴仙に向け、水晶の要塞に攻撃指令を送ったのだ。
 先程まで鏡の玉を吐き出した砲身が怪しく青く光の粒を集め、そして今度は同じ色のレーザーを照射した。
 だが、今回は直接鈴仙を狙って撃ちはしなかったのだ。──狙うは無数に漂う鏡の玉の一つである。
 そして、レーザーに射貫かれたその鏡の玉はキィンという小気味よくもあり耳障りとも取れる金属音を放ち……受けたレーザーを弾き飛ばしたのだ。
 その住処を追われるように弾かれたレーザーはまた別の鏡の玉に向かい──先程と同じ行程を繰り返していった。
「きゃああっ……!」
 当然鈴仙はその渦中にいた訳であり、当然の如く何度もレーザーの乱射を浴びる事となったのである。
 レーザーに何度も翻弄されながらなぶられた鈴仙。だが彼女にとって幸運にも何度も弾かれたレーザーはその勢いを弱めて徐々に消滅していったのだ。
 漸く鈴仙に安堵が訪れる。だが、彼女はそれを噛み締める余裕などなかった。
 当然だろう。彼女は何度も射貫かれて、身体のあちこちがボロボロになり、満身創痍だったのだから。
「はあ……はあ……」
 よろけながら息を荒げながらも、何とか気力で立っている鈴仙。だが、それがいつまで持つのか本人すら分からなかった。
(勇美さん、ここまで強敵だったとはね……)
 鈴仙は感心半分、悔しさ半分で、戦っている相手にそう思いを馳せた。
 正直な所、勇美がここまで自分を追い詰めるとは思っていなかったのだ。
 寧ろ、自分を圧倒し得る程の力なのだ。その力は依姫と神々の助力があるとはいえ、それを勇美は使いこなしているのである。
 そんな存在を相手にしているのだと鈴仙は痛感する。
 ──率直に言うと、分が悪いかも知れない。このまま降参するのが賢明だろうか。そう鈴仙は感じる。
(……でも)
 そこまで思って鈴仙は首を横に振った。
 ──ここで逃げたら私はあの時と同じだ、鈴仙の頭の中にそのような言葉が浮かび上がり、熱く、大きくもりもりと膨らんでいったのだ。
 今の自分はかつてのそれとは違うのだ。
 兎というものは実際は単独行動をするものなのだ。故に孤独死するという見解は誤りで要因は別にあるのである。
 鈴仙も玉兎であるとはいえ、やはり兎の範疇であった。今でも基本的に一匹狼である事は代わりはない。
 しかし、月から逃げて永遠亭に住み込み働くようになってから彼女は少しずつ変わっていったのだ。
 変わり者であるが、頭が良くて頼りになり間違いを正し、導いてくれる永琳。
 自堕落でだらしない君主であるが、ここぞという時の分別はわきまえている輝夜
 悪戯好きで騒動を良く起こすが憎めないてゐ。そして彼女が率いる地上の兎達。
 そう、今の鈴仙には立派な『仲間』と呼べる存在が確かに存在している。だから彼女はもう独りではないのだ。
 弾幕ごっこは基本的に一人で戦うものである。しかし、仲間を持つが故の心強さを持つ鈴仙は言いようによっては一人で戦っているのではないのである。
 今こそ『あれ』を使う時だと鈴仙は心に決めたのだ。地上の兎達と一緒に考案したあのスペルカードを。
 そして、鈴仙は奥の手であるそのカードを懐から取り出し、宣言した。
「【水月「ムーンシャドウレイ」】!!」
 彼女の近未来風のデザインの銃口に青白い光が集約し、勇ましい戦士の如く光線が発射された。
「新しいスペルですか、でも無駄ですよ。クリスタルフォートレスが生み出した鏡の玉は光線の攻撃は全て弾き返しますよ!」
 勇美は一瞬警戒したが、すぐに堂々とした態度でのたまった。石凝姥命の力で作った反射包囲網はそう簡単には破られる事はないと踏んだのだ。
 だが、鈴仙は至って落ち着いて言った。
「勇美さん、水月って何だか知っていますか?」
「それって、水面に移った月ですよね?」
 勇美は何故鈴仙がそのような問いかけをするのか意図を読めずに首を傾げる。
「ご名答よ。そしてそれは光を反射する物になら何でも映し出される物よ」
「ですから、何で今そういう事を言うので……っ!」
 言い掛けた時、勇美は気付いてしまった。そう、今まさに彼女には『水月』が向けられている事に。
「気付いたようね……」
 呟く鈴仙。その彼女の先には……一斉に勇美に向けられた水月の数々、鏡の玉全てに浮かび上がったムーンシャドウレイが存在していたのだった。
 そう、ムーンシャドウレイの光線全てが『水月』となって鏡に反射されていたのだ。
「発射!」
 鈴仙のその号令と共に、全ての鏡の玉から光線が発射された。
 そしてそれら全ては要塞のシャッター目掛けて射出され、いとも簡単に撃ち抜き砕いてしまった。
 あまつさえ壁を破壊しても余力は十分にあった。何せ無数の鏡の玉全てから光線は発射されたのだから。
 やがて一箇所に集まった光線は、折り重なり合い、一本の太いものへと変貌していた。そしてそれは要塞の核の部分へと一気に注がれていったのだ。
 当然堅い要塞の外郭を突破された核にはそれに耐える事など出来る訳もなく、光線を吸い込むように浴び尽くすと、糸が切れた人形のように崩れ落ち爆散してしまった。
 そして、動力部を破壊された要塞は全身に破裂音と爆発が巻き起こっていき、崩壊を始めたのだ。
「綺麗……」
 思わず呟く鈴仙。その言葉が示しているように、確かにそれは流麗な光景であった。
 鋭利で透き通った外観の要塞が小気味良い音と鮮やかな爆発に包まれて崩落していく様は非常芸術的なものなのだった。それを鈴仙は勿論、持ち主である勇美でさえも魅了されながら見ていたのだった。
 勇美は結論を率直に述べた。
「この勝負、私の負けですね……」

◇ ◇ ◇

「うう~っ☆」
 勝負が終わった後、勇美は頬を膨らませながら唸っていた。
 その様子は見ていて愛らしいものがあるのだが、当然そのままにしておくにもいかないので鈴仙は彼女に声を掛けた。
「勇美さん、機嫌を直して下さい。いい勝負でしたから」
 という言い方も上から目線になるなと鈴仙は思いながら言っていた。いい勝負どころか、自分が勝てた事すら紙一重の勝負だったからである。
「だってぇ~。これじゃあ見事な『策士、策に溺れる』って形で格好悪いじゃないですかぁ~」
 頭を抱えながら項垂れる勇美。やっぱり小動物みたいで可愛い。鈴仙は自分が兎である事を棚に上げてそう思ってしまった。
 しかし、そのままにもしておく訳にもいかないので鈴仙は勇美に声を掛ける。
「いえ、勇美さん。あなたの弾幕、見事でしたよ」
「そ、そうですか?」
 鈴仙に言われて、勇美は少し晴れやかな気分となる。
「そう言ってもらえるなら、成功だったんですね」
 勇美はそう自分に言い聞かせた。
鈴仙、今の貴方の心構え、見させてもらいましたよ」
 勇美と鈴仙の間に依姫が入って来た。
「依姫様……」
 鈴仙は今、かつての師にずっと勝負の行方を見守られていた事を自覚して呆けてしまった。そこに依姫は続ける。
「見事です。今の貴方には立派な仲間がいる事が分かりました」
「はい……」
 そう依姫に言われて、鈴仙は声は小さくだが力強く返事をした。
「勇美も私の我がままを聞いてくれてありがとう。今の鈴仙の事を分かれたのは貴方のお陰よ」
「お役に立てて光栄です♪」
 勝負には負けたけど、自分はしっかりと役に立ったのだ。ここは堂々と胸を張る事にした。
 そして、勇美は再び鈴仙に向き直る。
鈴仙さん、素晴らしかったです。あなたの仲間を持っている事が生む力、私も噛み締めさせてもらいました」
「ありがとう、勇美さん」
 勇美に言われて、鈴仙は少しはにかみながら微笑んだ。
 そして、鈴仙がそうしている間、勇美は何やらもじもじした様子を見せていた。
「どうしたの、勇美?」
 それに気付いた鈴仙は勇美に呼び掛ける。
「あ、あの、鈴仙さん……」
「……何?」
「こ、これから私の事も『仲間』だと認めてもらっていいですか?」
 勇美はこそばゆい気持ちから言葉を詰まらせていたが、ここで漸く気持ちを踏み切って言いたい事を切り出せたのだった。
 それを聞いて鈴仙は一瞬呆けてしまう。が、すぐに気持ちを整理して勇美に顔を合わせて言った。
「もちろんですよ。勇美はもう永遠亭の家族で、仲間なんですから♪」
 と、鈴仙はここ一番の笑顔でそう言い切ったのだった。