雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第65話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第六十五話 歯車の策士:前編】
 突如として依姫から玉兎達と一対三の勝負を提案された勇美。
 一瞬戸惑う彼女ではあったが、彼女を信頼している依姫のために、そして自分のためにその戦いを申し出る事を決意するのであった。
 そして、そのような提案をされた玉兎達はと言えばどうだろうか?
 普通なら、そのような自分達にあからさまに有利な条件をだされてはプライドが傷つきかねないだろう。
 だが、この玉兎達にはそのような感情は殆ど沸かなかったのだった。
 まず、この玉兎達には妬みなどという感情は少ないという人柄があったのだ。言うなれば無邪気な子供と同じような存在であろう。
 そして、玉兎達は勇美の事を軽視してはいなかったのだ。何故なら他でもない、依姫の紹介した者であるからだ。
 今では彼女達は依姫が戦う姿を見て、その実力を認めているのだ。その尊敬すべき依姫が手掛けた者となれば油断する意味はないのである。
 そういう流れで勇美と玉兎達は双方に了承の意が沸くのだった。最早互いに否定する要素はないという事である。
 そんな彼女達の様子を見据え、依姫は満足がいったようであった。そして、後は事を済ませるのみである。
「では、始めなさい」
 ここに勇美対玉兎三羽の変則バトルが開始されるのであった。

◇ ◇ ◇

 勇美と玉兎達は互いに距離を取って出方を伺っている。双方とも相手の実力が未知数だからである。
 玉兎達から勇美に対しては勿論、その逆も然りなのであった。何せ月に住む兎という未だ合間見えた事のない存在達だからだ。
 しかし、一方でこの戦いは抜かりなく行う決心は着いていた。
 それは、勝負の始まる前に豊姫に言われていたからである──自分の力を使っていつでも永遠亭に帰って休めるから余力の事は余り気にしなくてもいいと。
 それは、月の民が地上の生き物を差別しているから、勇美を月の都の中に入れる事が出来ないのも理由だとも語ったのだ。
 これでは日帰りの冒険になってしまうなと勇美は苦笑していた。だが、逆に肩の力を落としながらやるべき事をやれる訳でもあるので怪我の功名とも取れるかとポジティブに受け止めるのだった。
 要は紫探しに身を置きながらも、今は玉兎達との戦いに集中出来るというものである。
 余力の事をしなくていい。勇美の心は実に軽やかなのであった。
 だから、この戦いでは彼女が先に仕掛ける事にしたのだ。
「あなた達は、これを見るのは始めてなんですよね?」
「?」
 意味ありげな勇美の言い草に、玉兎達は首を傾げた。
 それと同時に期待に胸を膨らませているようだ。依姫の弟子のような存在なら、どのようなサプライズを見せてくれるのかと。
「マッくん、出て来て!」
 そう言って勇美は自分の分身であり相棒でもある者の名を呼んだのだ。
 それに対して玉兎達はワクワクしながら思わず唾を飲み込んでしまった。一体何が飛び出すのかと。
 そして、玉兎一同の目の前に金属片や歯車が集まっていき何かの形に作られていったのだった。
 それを見た玉兎達は……。
 そう、勇美の前に顕現した存在は、機械であしらった小動物のような者であったのだ。
 小動物……、言うなれば。
「小動物が小動物を呼び出したみたいですね~♪」
「うっさい」
 ここでも勇美は小動物扱いされるのだった。しかも、元が兎という小動物な存在達に。
「おっほん……」
 こういう時の定番とでも言うべき、わざとらしい咳払いをして気を取り直す勇美。ここは依姫に手掛けられた同志として、威厳を保たねばならないだろう。
 そう思いながら勇美は得意気に言い始めた。
「この子は、ただ可愛いだけじゃないんだからね~♪」
 そう言うと勇美はいよいよこの機械の分身の本領を発揮させるのだった。──神降ろしを借りるのは今である。
「それではお願いします。『天津甕星』よ!」
 勇美はいつも戦いの時にお世話になっている神に呼び掛けた。
 それを見た玉兎達は当然驚いてしまう。
「え?」
「嘘でしょ?」
「神降ろし?」
 口々に驚きの言葉を放つ。それもそうであろう。自分達が仕える主の力は彼女達は件の事で良く知る事が出来たのだ。だから、それと同じ力を使う勇美には驚愕するしかなかったのだった。
(うん、驚いているね)
 勇美は当然ながらそう思った。だが、ここは事の真相を正直に話しておく必要があるだろう。
「でもね、これは私の力じゃないんだよね……」
「どういう事?」
 やはりそういう思わせ振りな言い方だと、相手は疑問に思うだろう。その当然の疑問に勇美は答えていく。
「これはね、依姫さんから神降ろしの力を借りてやっているんだよ」
「ええっ?」
 神降ろしの力を借りる。そんな事が出来るのかと玉兎達の興味は尽きない。
 そして、そんな会話をしている内に、勇美の分身マックスに天津甕星の力が取り込まれていったのだった。
 それにより、マックスの身体は目映く輝き始めたのである。
「すごい……」
 眼鏡の玉兎はその光景に思わず目を凝らしてしまった。依姫本人の神降ろし顔負け、いや、目を引くという点ではそれ以上の演出だったからだ。
 それを見ながら依姫は感心していた。こうもいとも簡単に玉兎達の心を勇美は掴んでしまったのかと。
 故にこの勝負、どう勇美は魅せてくれるのかと依姫は期待に胸を寄せるのだった。
 一方で勇美である。とうとう彼女の目の前には、いつも通りに未来のデザインのような銃が顕現していた。それを勇美は威勢よく手に納める。
 その銃口を玉兎達に向けた。
「うわあ、生き物の形から銃になった!」
 当然玉兎達はその変型演出に驚いていたのだった。それに気を良くしながら勇美は、これまたいつも通りにスペル名を宣言した。
「それでは行きますよ。【星弾「プレアデスブレット」】!」
 それと共に勇美は引き金をキリリと引く。そして、銃口から星々の弾が次々と放出されたのだ。
 まずは眼鏡の子から攻めようと勇美は踏んでいた。相手が三羽でも、一羽ずつ堅実に対処していけば道は開けると思っての事である。
 そして、星の群れは狙い通りに眼鏡の玉兎へと肉薄していったのだ。「よしっ!」と勇美は心の中で歓声をあげた。
 だが、ここで場の空気の流れが変わる事となる。
「ロールさん、来ます!」
 そう叫んだのはレイセンであった。彼女が『ロール』と呼んだのはこの眼鏡の玉兎のようである。
「はい!」
 レイセンの呼び掛けに応え、『ロール』は構え、手にした銃剣を星々の群れへと向けたのだ。
 そして、勇美にとって驚くべき事が起こるのだった。
「【転符「ルナバレルロール」】!」
 そう、ロールもスペルカードを使ったのであった。そして、彼女の銃剣から勢い良く無数の弾丸が放出されたのだ。
 そして、それは勇美の放った星々へと飛び込んでいき、次々と相殺していった。それによりパチンパチンと小気味良い音が鳴り響いた。
 こうして勇美の放った星の群れは、儚い泡のように綺麗さっぱり消滅してしまったのだった。
 この事態に呆気に取られてしまう勇美。無言になっている彼女からは心情が読み知れない。
 ショックだったのだろうか? 自分の攻撃を防がれたばかりか、まさか玉兎にスペルカードを使われるとは思っていなかっただろうから。
 スペルカード。それは勇美に取って特別なものであったのだ。依姫と出会うまでは、いくら渇望しても自分とは無縁の存在だったのだ。
 それが依姫と出会った事を切っ掛けに自分もスペルカードを作れるようになったのだ。故に、勇美はそれに人一倍思い入れがあるのだった。
 だから、一介の玉兎があっさりとスペルカードを使う所を目の当たりにしては、その精神的衝撃は強いのではなかろうか。
 そう思われる中、勇美は口を開いたのだ。
「ロールさん……でしたっけ? あなたもスペルカードを使えるんですね?」
 言う勇美の表情は実に晴れ晴れとしていて快活な振る舞いなのであった。そんな勇美にやや気押されるようにロールは言う。
「え、ええ。少しだけですけどね」
 そうロールは遠慮気味に言うのであった。
 その言葉に謙遜の意味合いはなかったのだ。本当に最近になって少し使えるようになっていったからだ。
 そこまで聞いても、勇美のうきうきした様子は変わらなかった。
「でも、素晴らしいですよ」
 そう勇美はロールに労いの言葉を掛けるのだった。
 一方で、そんな勇美の心境が理解出来ないのはロールである。その理由は彼女自身の口から紡がれた。
「勇美さん、何で私がスペルカードを使えた事が嬉しいのですか?」
 当然の疑問だろう。自分以外の部外者が成果を出した事に、一体何の得があるというのだろうか。
 その疑問に勇美はこう答えた。
「その、何というか……『仲間』が増えたって気分なんですよね?」
「仲間……ですか?」
 思いがけない勇美の言い分に、ロールは首を傾げて聞き返した。
「そう、仲間ですよ」
 それを受けて勇美は言い切ったのであった。そして、それでは言葉足らずであろうと彼女は付け加えていく。
「私はですね、弾幕ごっこやスペルカードには隔たりを狭めていく力があると思うんですよ」
「……はい」
 勇美の理論にロールは思わず頷いてしまった。
 それは彼女にも心当たりがあったからだ。侵略して来た者の一人から提案された決闘方法である弾幕ごっこ
 それを最初は無駄な血を流させない為にと成り行きで始めていた依姫であったが、気付けば戦う相手と自分のやり取りを考えて向かい合っていた事を玉兎達は覚えていた。──これが戦争や殺し合いでは絶対に起こらない事であろう。
「あ……」
 そう認識した瞬間、ロールの心にも何か暖かいものが満たされるような感じがするのであった。──弾幕ごっこはそこまで懐が深い概念なのかと。
 その事を噛み締めながらロールは口を開いた。
「勇美さん、ありがとう。あなたのお陰で弾幕ごっこの大切さが再認識出来ましたよ」
「それは良かったです♪」
 そう言い合い、二人は互いに微笑み合ったのだった。
 それを見ていた依姫は、ますます感心していた。
 まず、勇美が自分以外にも新たにスペルカードが使えるようになった者に会っても気落ちしなかった事である。その事を自分の専売特許だと思っていなかった心意気が一つ。
 更にそこから弾幕ごっこの大切さを説いて玉兎達と打ち解けた事である。それは玉兎達にあれから弾幕ごっこを教えていった依姫とて喜ばしい事なのであった。
 何故なら、弾幕ごっこに月と地上の隔たりを少しづつだが解消出来る可能性を依姫は感じているからだ。その価値を勇美達が感じ取ってくれた事が嬉しいのだ。
 依姫がそのような想いを馳せている中で、勇美達が再度声を発する。
「それじゃあ、続き始めましょうか」
「そうですね」
 それを皮切りに勝負は再開されるのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、勇美は再度プレアデスガンの引き金を引くのだった。先程はロールの弾幕によって阻止されてしまったが、何度もそのようにうまく行くとは思わなかったからである。
 今度は勇美はロールではなく、茶髪の玉兎を狙ったのだ。念には念を入れて、まだスペルカードを使っていない方を標的にしたのである。
 そして星々は茶髪の玉兎へと着実に向かっていった。これで攻撃を当てられれば勇美は勝利に一歩近付く事だろう。勇美は思わず口角を上げる。
(よしっ!)
 心の中で歓喜の声を出す勇美。だが、ここで場の流れが変わるのであった。
「ロールさん、ニースさん。例のフォーメーションでいきましょう!」
 そう言葉を発したのはレイセンであった。彼女はロールと、茶髪の玉兎ニースに呼び掛けるのだった。
 その後、更にレイセンは行動を起こす。
「【揮符「コマンドギア」】……」
 何と彼女もスペルカードを発動したのだった。それにより彼女の背後に歯車が噛み合ったような映像が現出したのだ。
 するとその歯車が回り始めた。カタカタと小気味良い音が静かな月の空間に奏でられる。
 当然勇美は身構えていたが……。
(あれ……っ?)
 彼女は様子がおかしい事に気付いたのだ。その理由は。
(何も攻撃して来ない……?)
 それが答えであったのだ。そう、確かにレイセンはスペルカードを発動したのだ。だが、それにも関わらず勇美に向かって攻撃が向かって来なかったのである。
 どういう事だろうか? その理由はすぐに分かる事となる。
「……!」
 勇美は驚愕してしまった。何故ならその瞬間ロールとニースの二羽が機敏な動きを見せたからだ。
「早いっ!?」
 勇美が驚いている間にも二羽は無駄のない動きで陣形を組んだのだった。
 そして定位置に着い二羽は一斉にスペルカードを宣言した。
「「【月符「エックスポイント」】っ!」」
「二羽で!?」
 連携スペル。その事に勇美は驚愕するのだった。
 しかしそれは彼女自身にとって無縁なものではなかった。──寧ろ勇美もレミリアと一緒に連携スペルを使ったからだ。
 だから勇美は驚くのだった。自分以外にもそれを行う者達がいた事に。
 そうしている間に玉兎二羽は互いの銃剣をまるで門番が槍を構えるが如く交差させた。正にアルファベットの『X』がそこには描かれていたのだった。
 そして、その交差された銃剣からエネルギーが放出されたのだ。さながらX型のビームである。
 そのビームは勇美の放った星々を一気に貫いたのだった。それにより星々はパチンパチンと次々に砕かれていった。正にビデオゲームでレーザーで敵の群れを串刺しにするかの如く。
 これにより勇美の放った星々はことごとく粉砕されてしまったのだった。それは見事に綺麗さっぱりと。
 勿論それだけではなかった。星々の侵攻を全滅させたXの光線の進路の先には……当然勇美が存在していたのだった。