雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第83話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第八十三話 明日への挑戦3/4】
[前回のあらすじ]
 辛うじて、勇美がノーパンになるのは阻止されたのだった。

◇ ◇ ◇

「だって、こんな状況じゃあ、パンツの一つや二つ脱がないと打破出来ませんよ」
「じゃがしい! ノーパンになって戦況を変えられるなら、誰も苦労しないわよ!」
 と、そんな感じで二人はやんややんやとやり取りを始めた。それは何時もの二人の様子そのものである。
 だが、その様子を引き気味に観ていた者達がいた。他でもない、豊姫と紫である。特に初めて勇美の本性をかいま見た紫は普段飄々とした彼女らしくなく呆気に取られてしまっていた。
「あの……依姫さん、少しいいですか?」
「ええ」
 紫に確認を取られる形となる依姫であったが、それを容認して返事をした。
「依姫さんは、いつも勇美さんにどのような教育を施しておいでなのですか?」
 その言い分は、正に問題児の親を前にした時のそれであった。だが、それは全くを以てとばっちりというものである。
「いいえ、この事に関しては私は一切指導していませんよ!」
 紫から掛けられた理不尽な言い掛かりに、さすがの依姫も所謂『半ギレ』の状態となってしまうのだった。
「紫……依姫の言う事は本当だから信じてあげてね……」
 そこに豊姫の助け舟が差し出される事となった。だが、その表情は哀れみを醸し出し、まるで可哀想な者を見るかのような視線であった。完全に『同情』の域である。
「解せぬ……」
 それが依姫の心からの叫びであった。何故自分がそのような目で見られなくてはならないのか。
 依姫ら人生の先輩らがそのようなやり取りをしている内に、勇美は調子を取り戻していたようだ。
「依姫さん、茶番はもういいですかぁ♪」
 その勇美の無神経な物言いに、依姫は頭の中で何かが切れてしまったようであった。
「そもそもの元凶はお前だぁ~~~!!」
 ここに依姫らしからぬ苛烈な突っ込みが誕生したのだった。特に『お前』という言葉を依姫から導き出そうとする事はそう簡単には出来ないだろう。
 だが、基本的に依姫は落ち着いた性格なのだ。実際はクールと言うよりは静かに燃える性質なのだが、こう表に出して燃え上がる事は稀なのだ。
「まあいいわ、勇美もまだまだやれるようだし、お互いに楽しみましょう」
 ここに依姫のペースは戻っていた。決して相手を自分が一方的に楽しむ為に利用したりはしない、彼女のモットーがそこにはあった。
 その依姫らしい配慮に勇美の高揚感は高まるのであった。今この人と行っている勝負はとても貴重なものだと、沸々と実感が沸いてくるのである。
 その想いを胸に、勇美は口を開く。
「それでは、私は『あれ』を使うしかないね」
 言いながら勇美は懐からある物を取り出す。
「ノーパンになれないなら、これで満足するしかねえ!」
「いや、そっちの方が明らかに現実的な手段よ」
 依姫は頭を抱えて言った。無意味に卑猥な行為なんかよりも、もっと有効な事なのにと。
 彼女がそう思っている間にも、勇美はお目当ての物を引き当てたようだ。そして、その物の名を口にする。
「出番だよ、アバドンズジェネレーター♪」
 そう、勇美を一度は圧倒し、今では彼女の好敵手となっている妖怪、皇跳流から譲り受けた彼女の力の籠められたアイテムなのであった。
 その紫との戦いでも活躍したそのアイテムをここで勇美は万を持して使う事に決めたのである。
「受け取って、マッくん!」
 勇美はそう自分の相棒に呼び掛けながら、彼に向かってその濃縮エネルギーの塊を与えたのだ。それを見事に彼は受け取り、その瞬間に眩い光が辺りを支配した。
「いよいよ来るわね……」
 依姫は呟きながら、その存在の到来を待ちわびたのである。
 そしてとうとう光は止み、そこに勇美の切り札が顕現していたのだった。──それは機械仕掛けの黒騎士、ブラックカイザーである。跳流の妖力を受けて一時的に進化したマックスの姿だ。
 彼はその屈強な鋼の肉体を行使して、非力な人間の少女である勇美に成り代わり膂力による戦法を取る事が出来るのだ。当然今回も勇美はそれを存分に活かす所存でいた。
「ブラックカイザー、今回もお世話になるね。これは私にとっても負けられない戦いだから力を貸してね」
 勇美のその切実な呼び掛けに応えるかのように彼は勇ましく駆動音を立てたのだった。それが特に今は勇美にとって、とても頼もしく思えた。
 それだけで勇美には自分の名前に恥じない『勇気』がみなぎってくるかのようであった。だから、勇美は後は彼を信じて、そして自分を信じて戦えば良いのである。
 その想いを胸に、勇美は次なる神々の力を借りるべく呼び掛ける。
「『火雷神』に『金山彦命』よ、その力を私に!」
 勇美の呼び掛けに、その二柱の神々は応えていった。それにより勇美の前に新たなる力が示される。
 その力は、大きな鉄の球体であった。当然そのような重量溢れる物は勇美には扱えない。
 そこで万を持してブラックカイザーの出番なのである。持ち手から鎖で繋がれたその鉄球を、彼は掴み上げて自分の手元にたぐり寄せたのだ。
 その重量武器を手にした彼は、どこか得意気に依姫を見据えているかのようであった。まるで、我が主が選んだこの力を防げるかと言わんばかりである。
 そこで、当の主である勇美はこの力の名を宣言する。
「【雷槌「ミョルニルハンマー」】!」
 その名は日本とは別の神話の雷神が使う槌を冠していた。そして、その名を背負うかのように鉄の塊は勢い良く打ち出されたのである。
 目指す場所は他ならぬ、依姫が展開した鏡の防壁である。その狙いは寸分違わずに的確に標的を捉えたのだった。
(まずい……)
 そう心の中で依姫が呟いた時には既に遅かったようだ。防壁目掛けて打ち込まれた鉄の塊は──ものの見事にそれにめり込みヒビと風穴を刻んでいたのだから。
「そして、『通電』っと♪」
 おもむろに勇美はそう言うと、その鉄球から激しい放電が巻き起こったのである。そして、さも当然といわんばかりに防壁はその電撃により木端微塵に吹き飛んでしまったのだった。
 それを依姫は苦々しく思いながらも、その健闘を称えて言う。
「いい読みね。いつから思いついたのかしら?」
魔理沙さんのダブルスパークを弾き返した時と、さっき私のレーザーを反射した時ですね。エネルギーなら決まって弾いているけど、もし物理攻撃を打ち込んだらどうなるかって思いましてね」
 だが、ここで勇美はこれは『賭け』だったのだと告白した。彼女とて、エネルギーでない物理的攻撃なら絶対反射されないだろうという確証は持っていなかったのだと。
「いい決断ですよ、勇美」
 その勇美の踏み切った行為を依姫は労ったのである。確かに物事というのは慎重に進めないと生きていく上で危険を伴うものだ。だが、時に失敗を恐れずに前に突き進む事も必要、そう依姫は勇美に諭すように言った。
 しかし、「ですが」と依姫は勇美に注意を促す。
「貴方の思い切りは見事です。しかし、それだけで私と神々を攻略出来るとは思ってはいけないわ」
 そう言うと依姫は自分の手に霊気を集め、それを投げたのである。──察しの通り、直接に勇美目掛けてではなく、残った鏡の防壁目掛けてである。
 当然その行為による結果は見えているだろう。予想通りに依姫の放った霊弾は防壁から防壁へと次々に乱反射を起こしていった。
「私がみすみす護りを崩されるのを、ただ指をくわえて見ていると思っていましたか?」
「いいえ、当然思っていませんよ」
 売り言葉に買い言葉。注意と皮肉を込めて言う依姫に対して、勇美も負けじと強気で言葉を返したのである。
 そう二人がやり取りをしている間に、乱反射を繰り返していた霊弾はとうとう勇美目掛けて飛び掛かって来た。
 だが、勇美はそれを悠々と避けてみせたのだった。その様相はまるで自分は余裕ですよとアピールしているかのようだった。
 そして、霊弾をかわした所で勇美は言った。
「依姫さんこそ、今私がブラックカイザーを繰り出している事を忘れてはいませんか?」
 そう、それが今の勇美が強く出られる要素なのであった。ブラックカイザーを顕現させている事により、彼のアイセンサーから送られて来る視覚情報も勇美の頭の中に送り込まれるのだ。彼は膂力を貸してくれるだけではないのだ。
「これまた見事ですね。しかし、霊弾一つを回避した位で思い上がらない事ですよ!」
 言うと依姫は再び手に霊気を集め始めた。再び彼女は霊撃を仕掛けようという算段である。
 そして、当然その射撃は単発ではなかった。依姫はその手から次々と弾丸を撃ち出したのだ。それも一方向ではなくあらゆる鏡の防壁に向けてでだ。
 それにより霊気の塊は暴れ回るように飛び交ったのである。例えるなら狭い部屋でスーパーボールをしこたま弾ませるかの如くである。
 そして、狂ったように霊弾は勇美目掛けて襲い掛かったのだ。勇美は一気に窮地に追い込まれたかのように見えた。
 だが、ブラックカイザーと視覚を共有した勇美の身のこなしは抜かりがなかった。コイン返却口の如くばら蒔かれる霊弾を、勇美は彼と共にのらりくらりと避けたのであった。
 そして、勇美はそれだけで終わらせる事はしなかったのである。
「依姫さんこそ、私がただかわすだけだとお思いですか?」
 その言葉に続けて、勇美は次の言葉を紡いだのである。
「ブラックカイザー、引き続きお願いね♪」
 それに応えるかのように彼はギラリと眼部を眩く輝かせると、手に持った鉄球を再び振り翳して防壁へ向けて放り投げたのである。
 鉄球は見事に防壁に当たり、それを砕いた。エネルギーの破片が派手に飛び散る。
 こうして再び勇美は敵の護りの要を打ち砕いたのだ。しかも、それを回避を行いつつである。この事は彼女の手腕の向上を物語っているのである。
 そして、勇美は霊弾の乱射をかわしつつ防壁を砕かせる行為を繰り返していった。その地道で堅実な戦法は勇美を確実に優位にするのだった。
 当然であろう。勇美が攻撃をかわしつつ防壁を破壊する事により、弾の乱反射の回数は確実に減っていったのだから。こうして勇美は依姫をじわじわと追い詰めていった。
「これで最後ですよ!」
 言って勇美は鉄球の投擲を行い、またも防壁を破壊したのだ。そして、それが最後の物となったようだ。
 こうして依姫に攻めと護りの両方を提供していた無数の壁は全て打ち砕かれてしまったのだ。この好機を逃す勇美ではなかった。
「行きますよ。依姫さん、お覚悟!」
 どこか時代掛かった台詞と共に、勇美は相棒に止めの指令を出した。依姫を護る壁はもう存在しないのだから、後は本体を叩くのみである。
 依姫に迫りくる雷神の槌。その重量感により彼女を盛大に叩き潰さんとしていた。
「ふっ……」
 だが、そう易々と落とされる依姫ではなかった。その程度の存在であったなら、彼女は今この場にはいないだろう。
 彼女はその鉄球を最低限の動きでひらりとかわしたのである。それも神の力を借りずとも、いともあっさりと。
 だが勇美とて、そう簡単に直接攻撃を許してくれるだろうとは思っていなかった。なので彼女は次の手を打つ事とする。勇美がブラックカイザーに合図を行うと、彼の持つ鉄球にみるみる内に大量の高圧電流がみなぎったのだ。
「名付けて、ミョルニルハンマー 雷光モードです。叩き潰すだけじゃなくて電撃も放つこれを依姫さんはかわせますか?」
 鉄球が帯び纏う電流は最高潮となる。この物理とエネルギーを兼ね備えた強力な武器で攻撃し続ければ、さすがの依姫でも突破出来るだろうと勇美は興奮気味になっていた。
 だが、勇美は気が流行る余りに状況を的確に把握しきれていなかったようだ。
「その一気に勝負に持ち掛けようとする姿勢は良いです。──しかし、状況というものはしっかり把握しないといけないものよ」
 そう依姫に言われ、そして今の状況の確認をした勇美はハッとなってしまった。
 依姫の手には、再び刀が握られていたのだった。彼女の神降ろしの補助をするその重要な代物が今彼女の手にはあったのだ。
「あっ!」
 思わず勇美は驚愕してしまう。今までは依姫がそれを地に刺したまま戦っていたから付け入る隙があったというのに、これで依姫の布陣は元通りになってしまったというものだ。
「いつの間に……」
 その答えは自分でも薄々察する事が出来る勇美であったが、敢えてそれを依姫に確認するのだった。
「それは勇美も分かっているでしょう……でも教えといてあげるわ」
 そう言うと、依姫は自分の足元の近くへ目配せしたのだった。
 そこには、鉄球で抉られた地面が存在していたのだった。それが意味する事は一つだろう。
「……参りました。私とブラックカイザーの攻撃を誘導したと言う事ですね」
 そう、依姫は防壁を破り万を持して直接自分へと向けられた攻撃を利用したという訳である。要は鉄球の衝撃を利用し、刀が地面から抜かれて宙を舞いそれを依姫は巧みにキャッチする……そうなるように勇美の攻撃を誘ったという事だ。
 言葉で説明するのは簡単であるが、それを実戦でこなしてしまうのは並大抵の事ではないだろう。それを依姫はやってのけたのであった。
 ──やっぱりこの人は凄い。そう勇美は改めて実感する。そして思う、こんな人と戦えて自分はとても光栄だと。
 それは、こうして戦えただけで意味がある事であった。だが、勇美はここで気を引き締め直した。
 いつまでもそうして浮かれてはいられないと。何故ならこの勝負、勇美は勝つつもりで挑んでいるのだから。そして、その事は依姫も望んでいるのだから。
「勇美、いい目をしているわね」
 そんな姿勢の勇美を、依姫は冷徹な態度でいながらも物腰柔らかく称賛したのであった。それに対して勇美も答える。
「はい、この勝負、負けませんから」
「言ってくれるわね。確かに勝負は後半に入ったけど、ここからが本番よ」
「はい」
 依姫の忠告に勇美は素直に返事をする。その通りなのだ、依姫に対して順調に戦いを進めているからといってそこで油断するなど愚の骨頂もいい所なのだから。
 そうして二人の間に程よい緊張が走ると、そこから勝負は再開される。
「それでは、次に行きますよ。『天宇受売命』よ、我と共に再び舞踊を楽しみましょうぞ!」
 依姫は次なる神、天宇受売命へと呼び掛けたのだった。この神の力により依姫は卓越した身のこなしを見せてくるだろう事は勇美も知っている所である。
 だが、勇美は油断しなかった。この人相手に知識だけでは優位には立てない事が分かっているからである。
 勇美がそう身構えている中で、依姫はスペル名を宣言する。
「【舞踏「神の剣の舞い」】」
 それにより依姫の体が白いオーラのようなもので覆われた。これをレミリアとの戦いで見せたのも勇美は映像で見ているのだ。
 だが、回避のみに従事したあの時と全く同じにはならないだろうという事は勇美も分かっていた。
 その勇美の予想は当たっていたようだ。天宇受売命の力を受けた依姫は、レミリアの時とは違い自らが攻撃に出てきたのだった。
 迎え打たねば。勇美はそう思い、対応すべく行動に移す。まずは、今力を借りている火雷神金山彦命の加護を解除し、次なる手に出る。
「『祗園様』、お願いします」
 勇美がそう新たな神に呼び掛けると、ブラックカイザーの持つ鉄球の形状が崩され、大振りの剣となった。
「【剣符「スサ・ブレード」】。ブラックカイザー、迎え打って!」
 その主人の言伝を受けると、彼は承諾の意を見せて今正に迫る敵へと目を向けたのである。
 そして、それは同時であった。巧みな身のこなしを手に入れた依姫と、槌の代わりに騎士らしく剣を携えた彼は、全く同じタイミングで得物を引き抜いたのである。
 ぶつかり合う剣と剣。それにより予想を裏切らない程の金属音と火花が築き上げられた。
 直接その場にいる依姫とは違って、勇美は自分の相棒にそれを行わせている状態である。だが、その戦いの重みは彼女にも伝わってくるのだった。
「くぅっ……」
 故に勇美はその余りの気迫に気押されてくぐもった声をあげてしまう。だが、そうしている内にも依姫の攻撃は続くのだった。
 一度剣を振るっても、返す刀で無駄な動きもなく続けて攻撃を行う。それも天宇受売命の力を受けた事で舞うように繰り出されていた。
 正に『剣の舞い』であった。まるで依姫のみならず、剣自体が踊っていると錯覚してしまうかのような光景であった。
 それを勇美はブラックカイザーの剣捌きで何とか受け流しながらも思っていた。依姫は見た目が派手な攻撃をする時よりも、今のような戦いをする方が遥かに手強い存在だと。
 そう、依姫はこういった堅実で地に足を付けた戦い方を得意としているのだ。この勝負が始まってから一番厄介な状況と言ってもいいだろう。
 故に、目を引く現象は起こさない天宇受売命の力は依姫とは相性抜群と言えるのである。これこそが依姫らしい戦い、その事を勇美は実感するのであった。
 なので勇美は悟る。──このままの流れで戦い続ければ、確実に自分は不利になると。だから彼女はここで決心をするのだった。
 だが、彼女が思い立った事はまたしても賭けとなるのだ。それも、防壁を物理攻撃で破った時とは比べ物にならない程のである。
(でも……やらなきゃ駄目だよね)
 依姫相手に迷っている余裕などないだろう。そう勇美は自分に言い聞かせると、腹を括って相手を見据えたのである。小柄ながら凛としたその振る舞いからは、強い意志を感じられるのだった。
(来るわね……)
 依姫はそう直感した。それは、勇美がこのような様相を見せる時は決まって勝負に出ていた事を、今までの経験から彼女には分かっていたからである。
 その期待に、勇美は応える事となる。まずは祗園様の力を返還して、相棒の持つ剣を解放した。
 洗練された剣士となっている依姫に対してその行為は、失礼かつ無謀に見えるだろう。だが、これから勇美が取る手段には剣は寧ろ枷となってしまうのだ。
 その答えとなる神の名を依姫は口にする。
「『だいだらぼっち』よ、その力を私に貸して下さい!」
「!!」