雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER リベン珠】第16話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第十六話 いざ、月の世界へ】
 ドレミー・スイートとの戦いに勝利した勇美と鈴仙は、三人でテーブルに座って憩いの時を過ごしていた。
 無論これはドレミーの力により現出させた代物である。この力を利用して三人は話に華を咲かせていたのだった。
「この先待ち受けているのが悪夢だとしても、それでも私は行くしかないんですよ。それが仕事だからねぇ。守らなきゃいけないのですよね。それに、勇美さんも一緒にいてくれる訳ですから、心細い事はないですよ」
鈴仙さん……」
 自分のパートナーからそのような言葉を掛けてもらえて、勇美は嬉しくなる。 
「そうですか……。私の方は一応形だけでも仕事をしたのでもう十分です。そして、お二方、いい関係ですね」
「それは勿論!」
 勇美はドレミーから称されて、ますます心が弾む心持ちとなるのだった。
「それはさておき……ドレミーさん、その格好はどうにかならないのですか?」
 話題を変えた鈴仙は、目のやり場に困りながらチラチラとドレミーを見やりながら言っていた。
 その鈴仙が気にするドレミーの今の格好。それは上半身にはサラシ、下半身は紺のプリーツスカート、後は裸というもはや服装と呼べはしない破廉恥な代物と変貌していたのである。
 この格好で普通に二人と話に華を咲かせる事が出来る辺り、様々な意味でドレミーの器の大きさというものを計り知る事が出来るであろう。
「さっきの戦いでかなりダメージと霊力を消費しましたからね……。今作り出せる服ってこれ位の物なのですよね」
 そう言いながらドレミーサラシ越しにその肉鞠をたゆんと揺らしていた。
「しかし、他に取れる格好はあるでしょうに……」
 例えば普通に白のブラジャーとショーツに。そう思った鈴仙だが、それはそれで問題かと思い直した。
 ともあれ、今のドレミーのような『この上ないご馳走』を決して見逃さない者は確かに存在するのだった。
「ところでどうですかドレミーさん、今夜私とベッドで……」
「はいはい、ネチョになるからやめてね」
「夢の世界に昼も夜もありませんって……」
 勇美のピンク色の発想に、鈴仙もドレミーもツッコミを入れる。
「ははは、冗談ですって」
「いいえ、あなたは7割方本気でしたよ」
 軽く受け流そうとする勇美に対して、ドレミーは手痛い指摘をする。
 それから、夢の世界という非現実的な空間にありながら三人は世間話や他愛もない話をして憩いの時間をそこで過ごしたのであった。

◇ ◇ ◇

 そして、一頻り話をしてリラックスした勇美と鈴仙は旅を再開すべく立ち上がるのである。
「それでは、ドレミーさん。何だかお世話になりました」
「いいえ、こちらこそ仕事とはいえお急ぎの所を足止めする形になってしまって申し訳ないですね」
 勇美とドレミーはそう言い合って笑い合う。その今の事を思うと、勇美は自然と顔が綻ぶのだった。
 こうして弾幕ごっこの果てに友情が芽生えた事も含めて、ドレミーは紫に色々と似ているものがあるなと微笑ましい気持ちとなるのだった。仕事に対する熱意は雲泥の差だとは思いながらも。
「では、私も行きますね。何やら月で大変な事が起こっているみたいですし……」
「お気を付けて行って下さいね。それでは、あなた達に吉夢があらん事を……」
「いえ、私は寧ろとびっきりの淫夢をお願いしたいです」
「まだそういう事言うか!」
 言うと鈴仙はむんずと勇美の襟元を掴むと、そのまま彼女を引き摺りながらこの場を後にしようとするのだった。
「は・な・せ! いや、離して下さい鈴仙さん。私にとって淫夢は死活問題な訳でして!」
「いいえ、倫理的に問題があるからさせません。それではドレミーさん、色々ありがとうございました」
「え、ええ……お気を付けて……」
 相方に引き摺られて勇美を尻目に見ながら、さしものドレミーも呆気に取られながら見送るしかなかったのだった。
 そんなしょうもない茶番劇を繰り広げながらも二人は無事に旅路に着いたのである。
 ちなみに勇美はもう引き摺られてはいない。途中で鈴仙が引き摺っていると、その短い着物の中から下着が見えかねないと判断したからである。改めてこの勇美の服装は際どいものだと鈴仙は再認識するのだった。
 そして、下着が見えそうになった事を勇美に伝えると彼女は『やっぱりパンツじゃなければ恥ずかしくないんですよ』と、ここぞとばかりにノーパンになる機会を逃すまいと喰らい付いて来たのだが、当然鈴仙はそれを丁重に断ったのだ。
 そういう訳で、無事に勇美は再び自分の足で歩き始め、加えて断じてノーパンにもなりはせずに鈴仙と一緒に秘密の通路の残りを歩き進んでいた。
「勇美さん、もうすぐで出口ですから、あと一息ですよ」
「それは良かったです」
 鈴仙に言われて、勇美は素直にそう答えるのだった。
 確かに夢の領域であるこの通路は見る目を楽しませてくれた。だが、現世に住まう者としてはやはり長時間滞在すれば気が触れかねないものが確かに存在するのである。
 だから、今はこの世界からはいち早く脱出を試みたかった訳なのだ。──例え、この先にある世界も未知の領域であったとしても……である。
 そして、二人が目指す所は徐々に近付いて来たのだった。
 それはまごう事なき様々な絵の具をない混ぜにしたような壁──秘密の通路の出口である。
「勇美さん、着きましたよ」
「いよいよって訳ですね」
 鈴仙に言われて、勇美はゴクリと固唾を飲んでしまう。いよいよこの先に待つのは月の世界なのである。故に彼女の緊張も一入という訳だ。
 勇美は確かに以前に月へと来た事はある。だがそれは豊姫の能力により瞬時に行ったのだ。それに対して今回は鈴仙と共に自分の足でここまで来たが故に、彼女が肌に感じるその意味合いは違うのである。
 気を引き締めていかねばならない。今回ばかりは勇美は真剣になってまだ見ぬ領域への入り口に足を踏み入れるのだった。

◇ ◇ ◇

 そして勇美達は秘密の通路の最後の扉を潜り、とうとう目的の場所へと辿り着いたのである。
 そこは青く光る水晶で構成された部屋であった。その見事な芸術的な光景に勇美は言葉を失う。
「綺麗ですね……」
 そして、気付けば勇美はそう呟いていたのだった。無意識にそうしてしまう辺り、この部屋には言葉に出来ない何かが感じられるのである。さすがは月の世界であるが故であろうか。
 それはさておき、鈴仙にはやっておかなければならない事があるのだ。その旨を勇美に伝える。
「それでは勇美さん、少し時間を取らせてもらいますね」
「あ、分かりました。入り口を閉じるんですよね」
 勇美の指摘通りであった。未だに通路の扉は開き、怪しくその彩色をたぎらせているのだ。このような代物を放っておく理由はないだろう。
 そして、鈴仙は振り替えると、入り口を開く時と同じように精神を集中して念を送り始めたのである。それによりまたしても彼女の長い耳がぴくぴくと動き、愛らしい光景が繰り広げられていた。
(やっぱり触りたい……)
 そう思うだけで実行には至らなかった勇美は、自分で自分を褒めていいだろう。
 相方がそのような葛藤と偉業を成し遂げている中で、扉を塞ぐ為の水晶の引き戸は閉まり、無事にその空間が存在する事の痕跡を隠したのであった。
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
「そうですね」
 事は一刻を争うのだ。二人はその言葉を交わすとすぐに地表を目指した。

◇ ◇ ◇

鈴仙さん、ここは……」
「ええ、月の都で間違いない筈です……」
 勇美の疑問に鈴仙が答える通り、確かにここは月の都で間違いないだろう。
 何故なら、伝統的な中国や日本のような外観をした町並みのここは、鈴仙が記憶している月の都の概要そのものであるからだ。幾ら彼女がそこから離れて長い時間が経つとはいえ、自分が生まれ育ったかつての故郷の事を忘れる訳がないのだ。
 それでも鈴仙が勇美に対する返答が歯切れが悪かったのには理由がある。
 確かにここは月の都であった。だが、断じて鈴仙が見知った馴染みのあるそれではなかったのだから。
 率直に言うと、月の都全体が青白く染まっているのだった。まるでその色彩が漂白されてしまったかのように。
 そして、辺りはそこはかとなくひんやりと冷たいのである。例えるなら……。
「電源を抜いた機械みたいですねぇ」
 それが勇美が今の現状に感じた感想であった。対して鈴仙は勇美にこう言う。
「勇美さん、今何が起こっているかは分かりませんが、『これを誰がやっている』かはおおよその見当が付いています。その人に今から会いにいきましょう」
「もしかして、通路に機械をけしかけていた人と同じ人ですか?」
「そういう事ですね」
 そう言うと鈴仙は勇美を誘導して、この豹変した月の都を進み始めたのである。
 鈴仙に着いていきながら勇美は、綿月邸に行こうかと提案しなくて良かったと思っていた。
 何故なら鈴仙にとって戻りづらい場所だからである。そこへ行かずに他に目指す場所があるなら、まずそこから行くべきだろう。
 勿論勇美にとって、本来なら月に着いたら真っ先に調べたい場所である。しかし、この異変をより確実に解決するには私情は挟んでいられないというものだ。
 ちなみに、月の都の道中には勇美の予想通り人っ子一人存在しなかった。精気の抜けた町並みに加えてその事実により、まるでここが実物大の箱庭ではないかと錯覚してしまう程だ。
「ここですよ」
 そして、二人はとある一際大きな建造物の前に来ていた。恐らく月の官邸か何かであろう。
 勇美の案内に成功した鈴仙は自分には恐れ多いという雰囲気を出しながらも、堂々とその建物の門の前まで来たのだった。
 もし開いていたらラッキーだが、侵入者を防ぐ門がそのような体たらくでは仕方がないだろう。
 最悪の場合、自分の狂気の瞳の力でハッキングめいた真似をしようと奮闘しかけた鈴仙を前にして、何者かの声が聞こえた。
『お待ちなさい』