雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第18話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

【第十八話 悪魔嬢レミリア:前編】
 ここは夜の紅魔館の庭。依姫は見事に咲夜との勝負を下し、因縁に決着を着けたのだった。
 そんな依姫を勇美は迎え入れた。
「やりましたね、依姫さん」
「ええ、これで思い残した事はなくなったわ」
 勇美に労われ、依姫の表情も晴れ渡っていた。
「それじゃあ、これで私達は失礼しましょうか?」
 このまま永遠亭に帰り、依姫には本当の勝利の余韻を抱いたまま眠りについてもらおうと勇美なりの気遣いをするのだったが。
 だが、依姫から返って来た答えは勇美の予想の範疇外であった。
「何を言っているの? お楽しみはこれからよ」
「えっ?」
 思わず勇美は首を傾げてしまった。一体どういう事なのかと。
 そしてその言葉にそこはかとなくエンターテイナー性を求めるような匂いを感じ取ってしまったのだ。
 それは自分には荷が重すぎた。勇美は自分を出し切る事で精一杯なのだ。そこへ相手やギャラリーを楽しませるまでの余裕はなかったのだ。
 閑話休題。とにかく今勇美はとても嫌な予感が走り、それを回避すべく行動に移す事にする。
「そ、それなら私だけでも帰らせてもらいますよ。夜更かしはいけませんからね」
 そしてそそくさと後退する。だが、依姫に呼び止められてしまった。
「あら、こんな夜中にここから永遠亭まで一人では危険極まりないわよ」
「うっ……」
 依姫に正論を付かれて勇美はたじろいでしまう。
「観念する事ね」
「はい……」
 したり顔で依姫に言われて、勇美は縮こまってしまった。
「それで、私に何をして欲しいんですか?」
 腹を括って勇美は依姫に聞く。
「それは他でもない事よ。貴方、レミリア・スカーレット弾幕ごっこしなさい」
 そう依姫に直球で大それた事を言われて、勇美は一瞬固まり、そして頭の中が弾けるかのような感覚に襲われるのだった。
「ええ~~!? レミリアさんとですか~?」
 それは無茶な話だと勇美は首を横に振って足掻く。
「何か不服かしら?」
「不服も何も、ハードルが高すぎます! 彼女、依姫さんと渡り合った咲夜さんのご主人様ですよ!」
 勇美は正論で返して、何とか依姫を言いくるめようとする。だが依姫もそれで引き下がりはしなかったのだ。
「幻想郷の者との戦いは単純な力の強さでは決まらないわ」
 そして依姫は付け加える。──現に自分は主のレミリアよりも、従者の咲夜に対して手こずったと。
「確かに、言われてみれば……」
「それに、弾幕ごっこという精神の美しさを競う勝負方法ともなれば尚の事よ」
「はい」
 この理論には勇美も納得した。依姫の助力のお陰で自分も弾幕ごっこをこなせるようになり実感した事だからだ。
 弾幕ごっこは単なる決闘ではなく、信念と信念のぶつかり合いなのだ。そして、そういうやり取りこそ幻想郷やそこに住まう者達を愛する勇美は求めていたのだった。
 故に幻想郷の者達とは積極的に勝負していきたい。
 だが、今の依姫の持ち掛ける話ともなると事は違ってくるのだ。
 確かに以前、藤原妹紅という強敵に勇美は勝った事がある。
 しかしそれは勇美が蓬莱人の事を知らなかったから、輝夜を殺させまいと意気込んだ事により実力以上の力が出せたのと、炎の扱いが主な攻撃方法となる彼女に対して自分は水を操る神の力を借りられたから優位に立てた事があるのだ。
 なので……。
「依姫さんの言いたい事は分かりました。でも今の私には敷居が高いので遠慮させてもらいます」
 勇美はこれで流れは自分に向いてきたと確信した。そして決定打となる言葉を続ける。
「それに、レミリアさんだって突然こんな話を振られて迷惑じゃありませんか?」
 どうだ、これで私の退路は確保出来た。そう心の中で勇美はふんぞり返った。
「あら、私は構わないわよ」
 だが現実は非情であった。勇美が今一番目を付けられたくない者から声を掛けられてしまったのだ。
「面白そうだし、私は賛成よ」
 レミリアはニコニコ笑いながら勇美に話す。外見年齢に相応しく愛らしい笑顔であったが、勇美は戦慄していた。
「それに、咲夜の弔い合戦にあなたをやっつけてあげたいしね」
 可愛らしい笑顔を一変させ、レミリアはさすが悪魔とも言うべき魔性の笑みを浮かべながら言った。
「お嬢様、私は生きてますけど」
「咲夜、ここは空気読んで、お願い」
 従者の天然発言に、レミリアは自分の演出を台無しにされて唸った。
「まあ、気を取り直して……と」
 そう言ってレミリアは再度勇美に向き直る。
「ちなみに、これはあなたの師匠に持ち掛けられた事でもあるのよ」
「あー、何か嫌な予感がしてきた」
 レミリアの発言に、勇美は話の先が段々と見えてきた。
「依姫さん、念のために聞きます」
「ええ、以前勇美がいない時にあの子に会ってね、その時勇美と戦ってあげてねとお願いしたわね」
「く……そ……、はかったな依姫さ~ん!!」
 幸い勇美の体は崩れる事はなかったが、心が崩れそうであった。ちなみにDS版は精神崩壊による暴走になっているが、この際どうでも良かった。
「これであなたの退路は断たれたわよ、観念しなさい」
 レミリアは目にこびりつかんばかりの、ねっとりとした笑顔で勇美に差し迫る。
「うう~……」
 もはや勇美に抵抗する手立ては残っていなかったのだった。

◇ ◇ ◇

 そしてレミリアと勇美は咲夜と依姫の時と同じように庭の中心部で向かい合っていた。
「やっぱり止めません? 夜ですし」
「いや、寧ろ私は夜の王だから、おあつらえ向きよ」
「あ、やっちゃった……」
 今のは墓穴掘っちゃったなあ、勇美は盛大に後悔した。
「いい加減腹を括りなさいって……」
「はい……」
 そして勇美は決心する事にしたのだ。
(いつまでもグダグダしてても仕方ないよね)
「分かりました。始めましょう」
「その意気よ」
 ようやく吹っ切れた勇美に、レミリアも満足気になる。
「でも、余り痛くしないで下さいね……」
「……」
 勇美に上目遣いでうるうるした瞳で言われてレミリアは少しばかり心臓が高鳴るかのようであった。
 別に言葉自体に変な意味はないのであるが、今の勇美のような態度で言われるとおかしな想像をしてしまうのだ。
 永遠に幼き500歳の吸血鬼とて、『色』は知っているのだった。
 閑話休題。曲りなりにもようやくやる気を出した勇美に、レミリアも心踊り行動を開始した。
 そして右手をかざしスペル宣言をする。
「【紅符「スカーレットシュート」】!」
 レミリアの手から紅い針のような槍のような物体が射出され、勇美目掛けて襲い掛かった。
「これは頑丈そうですね」
 勇美はそう呟きながら思った。自分が得意として多用するプレアデスブレットでは、あれを弾き落とす程の力を出す事は出来ないだろうと。
(それなら……)
 そして、思い付いた事を彼女は実行する。
「金山彦様、お願いします」
 勇美は金属の神に呼び掛け、手をかざしスペルを宣言する。
「【鉄符「アイアンローリング」】!」
 そう宣言すると勇美の手の先に鉄の粒子が集束していき、鉄で出来た球体が形成されたのだ。
「シュート!」
 勇美はその掛け声と共に念じて鉄球を射出した。
 そして鉄球は紅い針にどんどん肉薄していき、遂にはそれを弾き飛ばしたのだ。
 それだけて終わりではなかった。鉄球は紅い針を退けた後は勢いが削がれるどころか更に加速していったのだ。
 当然その進路の先には、レミリアがいた。そして鉄球は見事に彼女に衝突した。
「ぐぅっ……!」
 攻撃をもろに受けてレミリアは呻いた後、仰け反ってしまった。
 そして後ろに押されるが、すぐに踏みとどまったのはさすが吸血鬼といった所だろう。
「やるじゃないか」
 バランスを安定させた所でレミリアは勇美に向き直り言った。
「その調子よ」
「えっ?」
 レミリアに思いがけない言葉を投げ掛けられて勇美は驚いてしまった。
 基本的に吸血鬼にとって人間は血を提供してくれる食料でしかないのだ。それはレミリアとて例外ではない。
 そんな彼女が咲夜や霊夢魔理沙以外の人間を認めるなど、予想出来ない事態なのであった。
レミリアさん、何故私なんかにそのような言葉を?」
 勇美はその疑問を解消出来る台詞を期待して当人に聞いた。
「うん、はっきり言って私にも分からん」
はえっ?」
 どこか漫画でよく聞くような理論を挙げられて勇美はすっ頓狂な声を出してしまった。
「それじゃあ見も蓋もないじゃありませんか?」
「まあそう言いなさんな。そうとしか言いようがないんだから」
「うぅ……」
「けど、これだけは言えるんだよね。『あなたと私は何か共通するものがあるって事』だよ」
「共通する事ですか……」
 勇美は首を傾げて考えこんでしまう。
「もしかして、姉繋がりって事ですか?」
「そんなしょうもない事じゃないわ。というか、あなたに妹がいたの?」
 レミリアは呆れながら突っ込みを入れる。
(妹がいるって初耳ね)
 勇美の話を聞いていた依姫は少しばかり驚いてしまっていた。
「はい、それはもう可愛い妹で……」
「はい、そこまで」
 レミリアはそこで勇美を制止した。満面の笑顔で話始めたから、このまま続けさせたら収拾がつかなくなる予感がしたのだ。レミリアには霊夢のようなずば抜けた勘は持ち合わせていないが、こればかりは彼女にも察する事が出来たのだった。
「ぶぅ~、少しくらい語らせてもらってもいいじゃないですかぁ~」
「今は弾幕ごっこの最中よ、集中しなさい。それに明らかに少しじゃなくなりそうだったからね」
「うっ……」
 そう指摘されて勇美は言葉を詰まらせた。
 だが、彼女は気を取り直す事にする。
「そうですね、弾幕ごっこの続き、始めましょうか」
「そうよ、じゃあ次は私からね」
 ようやく軌道を元に戻せたレミリアは気分を良くして行動を開始し始める。
「さっきは針が一本しかなかったから押し負けたけど、お次はこれでどう?」
 そしてレミリアは懷から新たなスペルカードを取り出す。
「【獄符「千本の針の山」】!」
 宣言に続いてレミリアは両手を前に向けて構えた。
 すると、再びレミリアの手から針が射出される事となる。
 だが、先程との違いは、
「そんなに沢山!?」
 そう勇美が言うように、大量の針はばら蒔かれたのだった。『千本』と名を冠しているのは伊達ではないようだ。
 これは厄介である。さてどうしようかと考える勇美に妙案が浮かぶ
「目には目を。大量には大量でしょ!」
 そう言って勇美は神に呼び掛ける。
天津甕星様!」
 すると勇美の手に、使い慣れた星の銃が現出し握られた。
「『プレアデスガン』とやらね。知っているよ、それじゃあ恐らく私の千本の針の山は止められな……」
「更に!」
 レミリアが下す余裕の解釈を言い終えるのを勇美は遮った。
「金山彦様!」
 そう勇美が続けて宣言すると、勇美の持つ銃の形状が変化していったのだ。
「何? 神の力を二重に借りるって?」
 予想していなかった事態にレミリアは驚愕した。
 レミリアがそうこうしている内に勇美の銃は玩具の銃のサイズから、頑丈そうな機関銃へと変貌していたのだ。
 そして、勇美はその機関銃を迫り来る針の群れに向けて言った。
「【星蒔「クェーサースプラッシュ」】!!」
 勇美は引き金を引くと銃口から噴水のように星の弾が噴き出していき、次々に針の群れを弾き飛ばしていった。
「何っ!?」
 レミリアは声を上げる。今度の攻撃は先程のようには簡単に攻略されないと思っていた所での事だったからだ。
「お次はレミリアさんですよ~」
 針を全滅させたレミリアは勢いづいて、ターゲットを本体に向けたのだ。
「あんまりなめてもらっちゃ困るねえ」
 対するレミリアも気持ちで負けてはいなかった。
「えいっ!」
 そしてレミリアは右腕を振り上げ、自前の爪を振りかざしのだ。──例え敵の弾幕が自分の弾幕を打ち負かしても、自分に届かなければ意味はないのである。
 勢いづいたレミリアは両手の爪で星の弾の飛沫を全て弾き落としていった。
 遂に勇美の攻撃は止む事となった。どうやら弾切れのようだ。
「おや、これで終わりかい?」
 一仕事終えたレミリアは得意気に言ってのけた。
「うん、ここまでみたいですよ」
 勇美はそう返しながら内心で歯噛みした。折角の攻撃が全て防がれたばかりか、当の本人は息一つ乱していないからだ。
 ──さすがは吸血鬼といった所か。人間とは体の造りが違いすぎるようだ。
「これは参ったね……」
 勇美は自嘲気味に愚痴るしかなかった。
「まあ、そう気を落としちゃ駄目よ。私の弾幕を落とした事に変わりはないんだからね」
「そうですか?」
 レミリアにそう言って貰えると悪い気はしない勇美であった。
「そうよ、そして……」
 そこでレミリアは一息置き、続けた。
「私とて打ち落とされる攻撃ばかりする気はないよ」
 そう言ってレミリアは足を踏み込み身構えた。
「何をする気ですか?」
「飛び道具がふせがれるなら、こうするまでさ」
 レミリアは踏み込んだ足で一気に地面を蹴り上げると、その勢いを利用して瞬時に加速して勇美に襲い掛かったのだ。
「ひっ!?」
 驚きの余り息を飲む勇美。そんな彼女に対して遠慮する事なくレミリアは勢いに乗りながらスペルを宣言した。
「【悪魔「レミリアストレッチ」】!」
 そしてレミリアは拳を振り上げ勇美目掛けて打ち放ったのだ。
 勇美は今までレミリアの飛び道具に対峙していたから対抗手段を取れたのが。だが今回はレミリア本人の肉体から繰り出される攻撃だったのだ。故に勇美は対処が遅れてしまったのだった。
「きゃあっ!」
 ボーイッシュな見た目に反する少女らしい悲鳴を上げながら勇美は見事に受けてしまった拳撃にその身を弾き飛ばされてしまったのだ。
 そして勇美は地面にしたたかに体をぶつける事となった。
「うん、やっぱり私には肉弾戦が向いているね」
 拳の一撃を見事に決めて、レミリアは得意気に言ってのけた。
「さすがお嬢様ですわ」
 それを見ていた咲夜は、主の奮闘に恍惚の表情で酔いしれた。
「……」
 対する依姫は難しい表情をしていた。
 ──レミリアの肉弾戦の力は相当なものである。それは月で彼女と戦った依姫が良く知る所なのだ。
 単純な肉弾戦なら依姫をも上回るかも知れない。この事実を考えれば勇美は相当分が悪いだろう。
 だが、だからこそ依姫は勇美には奮闘して欲しかったのだ。この勝負に勝てれば更なる一歩を踏み出せるし、負けてもその勝負の過程は無駄にはならないだろう。
 過程や方法などどうでもいいという言葉がどこかであったが、それは時と場合によるものだ。レミリア程の者との戦いにおいては過程だけでも勇美にとって確かな糧となるはずである。
 だが、やはり依姫は『勝って欲しい』と切望するのだった。勝ちから得られるものは多大なる影響をもたらすからだ。
 肉体能力では明らかに不利な勇美であるが、彼女には依姫が貸し与えた神の力がついているのだ。それが勇美にとっての勝利の鍵であった。
「あたた……参ったねえ」
 そう言いながら勇美はフラフラと覚束無い足取りで起き上がり始めた。
 それを見ながら、レミリアは感心したようにしていた。
「まだやれるようだね?」
「ええ、これしきの事ではへこたれませんよ」
「言ってくれるじゃないか」
 そんな軽口の叩き合いをしながらも、レミリアは心踊る気分となっていたのだ。
 先程まで消極的な態度であった勇美が、今ではすっかり火がついていたのだから。
「それじゃあ、次は私の番ですよ」
 そう言って勇美はレミリアに向き直り構えを取った。そして。
咲夜さん、あなたの技を借りますよ!」
 勇美は思いがけない事を口にしたのだ。
「はいっ? 私ですか?」
 突然自分の名前を持ち出され、咲夜は意表を突かれてしまった。
「では行きますよ。『白虎』よ私に力を!」
 勇美は新たな神に呼び掛け、そして我が鋼の分身にその力を注ぎ始めたのだ。
「白虎は道の神です、そして道と言ったら……」
 勇美は白虎の力を受けて徐々に形成されていく我が分身を前にしながら、勿体ぶった態度を見せている。
「一体何が起こるのよ、咲夜の技を借りるって……?」
 その得体の知れない空気に、さすがのレミリアも警戒心を露にする。
 一頻り自分の分身が完成に近付いた事により、勇美はスペル宣言をした。
「【道符「整えし鉄の筒」】! とどのつまりは……」
 そこで勇美は一旦区切ると、遂に完成した彼女の分身の全貌が明らかになる。
 それは黄色の車体に、タイヤの代わりに二本の重厚な鉄の柱を備え付けた……。
ロードローラーだっ!」
「……」
「……」
 高らかに言ってのける勇美に対して、レミリアも咲夜も絶句してしまった。
 そして咲夜は思った。幾ら自分がナイフや時間操作を使っても、これは絶対に使ったりはしないと。
 明らかに周りの勇美を見る目はおかしくなっていた。だが当の本人は空気を読まなかった。
「行きますよレミリアさん。ぶっつぶれて下さいぃ~!」
 そうのたまいながら勇美が念じると、その咲夜から借りた技(嘘)は宙に浮き上がり、レミリア目掛けて突進していった。
「しかも、ロードローラーとしても使い方おかしいし~!」
 そう突っ込みを入れつつも、レミリアはこれは厄介な攻撃だと思った。単純に見ても鉄の塊をぶつけるのは攻撃として案外効率的だったからだ。
 しかし、レミリアは慌ててはいなかった。
「これは人間相手なら致命的ね。でも……」
 レミリアは再び拳を振り上げて、ロードローラーに狙いを定める。
「私が吸血鬼だって事、忘れてはいないかい?」
 そう言い切って、レミリアは迷う事なく拳撃──レミリアストレッチ──を鉄の塊であるロードローラー目掛けて繰り出したのだった。
 そして激しい破裂音と共にロードローラーの一部が陥没したのだ。
「まだまだぁー!」
 それでレミリアの猛攻は終わらずに二撃、三撃と鉄をも抉る拳が次々に打ち込まれていった。
「このままスクラップにしてやろうじゃないか?」
 興がのりにのったレミリアは意気揚々と、自分に向かって来た鉄の巨体を廃品にしようと闘志を燃え上がらせていた。
 だが、レミリアは見逃していた。──不利に追い込まれている筈の勇美の表情が不敵な笑みを湛えていた事を。
 それに気付かずにレミリアは続けて拳を鉄塊に送り込み続けていた。
「これで最後よ!」
 そしてレミリアが渾身の一撃を鉄塊に打ち込むと、とうとう衝撃に耐えきれなくなったそれは崩壊の時を迎え……爆発を起こしたのだった。
 そう、爆発である。
「な、何で爆発なんか起こるのよぉ~っ!」
 突然の異常事態に対応出来ずに、レミリアは爆発に巻き込まれて吹き飛ばされてしまった。
「あたた……」
 今度は自分が倒れる番となったレミリア。色々な種類のダメージを負いながら頭がこんがらがりそうになりながらも体を起こした。
「一体何なのよ!」
 当然憤慨するレミリア
「それはですね。白虎の力を借りる時、同時に愛宕様の力も借りていたんですよ」
 勇美は得意気に説明し始める。
「つまりどういう事よ」
ロードローラーの中に愛宕様の力を封じ込めていたんですよ。要は壊れる事で爆発する、大型の爆弾になってもらっていたという訳です」
 それを聞いて、レミリアは見事に謀られたと痛感するのだった。まさかただの質量任せに仕掛けられた攻撃だと思われたものに、相手の行動により起動する罠を仕込んでくるとは露にも思わなかったからだ。
「やるね。いい演出だったよ」
 そう評価するレミリア。そこには自分が追い込まれた事による皮肉と、純粋に健闘した相手を褒める意図があった。
「だから、こっちも気の利いた演出をしないとしないといけないってものよね」
 レミリアは羽ばたき宙に浮かぶと、その身に妖力を集め始めた。そしてそれは禍々しく紅く光るオーラのようなものとなって彼女の体から溢れていったのだ。
 それは漆黒の夜空とは恐ろしくとも美しいコントラストを生み出していた。
「一体何を……」
 思わず勇美は身構える。今までとは違う雰囲気がレミリアからは醸し出されていた。
「それじゃあ、行くとしますか!」
 そしてレミリアは両手を頭上に上げるポーズを取る。
「【魔符「全世界ナイトメア」】!」
 レミリアはそうスペルを宣言すると、彼女の体に纏わり付いていたオーラが激しく燃え上がるように膨れ上がったのだ。
 そしてそのオーラは段々と形を成していった。
「悪魔……」
 思わず勇美は呟いた。彼女の言う通り、それは悪魔と形容するに相応しかったのだ。
「そうさ、悪魔のようでしょう」
 勇美に言われたレミリアは気を良くしてのたまった。
「それも、ナイトメア……即ち『夢魔』という奴さ! これから覚めない悪夢を噛み締めるといい!」
 月で依姫と戦った時と同じように芝居掛かった台詞で決めるレミリア。余興はバッチリであった。