力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第42話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第四十二話 勇美、空へ】
 永江衣玖から比那名居天子の自分への招待状を受け取った勇美であったが、そこで彼女は思い悩んでいた。
「う~む……」
 腕を組み唸る勇美。そんな勇美に依姫は聞く。
「勇美、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもありませんよ」
 依姫にそう聞かれて勇美は答えを言う。
「天界への行き方ですよ」
 それが揺るぎない事実であった。何故なら勇美は多くの幻想少女のようには空を飛ぶという便利な事は出来ないのだから。
 だが、そう言われても依姫は至極落ち着いていた。
「それなら問題ないわ」
「それってどういう……?」
 どういう事と言おうとした勇美はここではっと閃いた。
 そう、こういう時に都合の良すぎる存在がいた事を思い出したのだ。
「あ、あの人ですね♪」
「そういう事よ」
 二人はそこで微笑み合った。
 そして、タイミングが良すぎる事とはあるものだ。今しがた二人が意識していた者の訪問があるのだった。
「依姫、勇美ちゃんお久しぶり~♪」
 やや気の抜けたような喋り方をする、その者は。
「お姉様」
「豊姫さん♪」
 そう、瞬間移動のような誰もが羨む能力の持ち主、綿月豊姫そのものであった。
 ちなみに彼女は今回も勇美のリクエストで着た白のノースリーブワンピースにケープというフェティシズム全開の服装であった。
「というかお姉様、まだその服着てるのですか?」
「そういう依姫だって、ずっと巫女装束着てるじゃないの♪」
「確かに……」
 そこで依姫はそれ以上反論するのを止めたのだ。
 豊姫の言う通りだったからだ。習慣になるというものは恐ろしいなと依姫は痛感するのだった。
 そんな状況の中、勇美は悪ノリをして見せる。
「豊姫さん、いつ見てもそのお召し物素敵です」
「ありがとう、勇美ちゃん」
「なので、素敵ついでに腋見せて下さい」
 そんな突拍子もない発言に一瞬空気が凍り付いたような雰囲気になる。
 だが、それもすぐに打ち破られる事となる。
「こんなもので良ければいくらでもどうぞ、はいっ♪」
 そう言って豊姫は惜しげもなくケープを捲り上げ、その中の腕の付け根を披露してみせる。
「うん、いい眺め♪」
 勇美は夕日を堪能する時のように感慨深い気持ちでしみじみと呟く。
 依姫はこの倒錯した空間に指摘をする価値はあるのかと言う葛藤に苛まれるが、敢えて進言をする事に決めたようだ。
「勇美、人の姉に何させてるのよ。そしてお姉様も何乗り気でそんな事してるのですか」
 そんななけなしの勇気を見せた依姫に、姉は非情な現実を突き付ける。
「あら依姫、ノースリーブは腋を見せる為にあるようなものよ♪」
「それはノースリーブに対する偏見です」
 豊姫の理屈に、依姫は屈せずに、ノースリーブの名誉の為に戦った。
 そんな妹に対して、豊姫も屈してはいなかった。
「でも依姫、ノースリーブはフェティシズムをくすぐるものじゃない?」
「まあ、それは否定しませんけど」
 その事は認めた依姫であった。
 そして、依姫は何か空虚な心持ちとなった。何で自分はノースリーブを着ないのに、こんなムキになっているのだと。
 なので、この話題はもう考えないようにしたのだ。
「それでお姉様、そろそろ本題に入りましょう」
「そうね」
 その提案に豊姫も素直に従う事にした。
「勇美ちゃん、天界へは私の能力で送って行くから心配ご無用よ」
「助かります、豊姫さん」
 それを聞いて勇美はこの人の心強さを再認識するのだった。
 この人は雰囲気に反して頼りになるのである。
 まず、月で侵略をされる前敵の正体が分からない状態の時、さすがの依姫にも迷いが生じていたのだ。
 それを豊姫は、ブレる事なく諭して依姫を導いた経緯がある。
 そして、勇美自身彼女と深く話を聞いた事で彼女の懐の広さを感じたのだった。
 そう豊姫に想いを馳せるついでに、勇美は彼女にあるお願いをする。
「ところで豊姫さん」
「何かしら?」
 優しい笑みを浮かべながら豊姫は言う。
「一緒にこの招待状、読んでくれませんか?」
 勇美は未だに衣玖から受け取った招待状を読んでいなかったのだ。その理由は。
「何か天子さんって、聞く所によると、何て言うか『悪い子』のイメージがあるんですよね」
 勇美が聞いた話から判断すると、天子はヒーローよりも悪役を好む性格らしいのだ。故にこう懸念するのだった。
「招待状じゃなくて挑戦状だったらどうしようと思うんですよね。前話のタイトルを『たけしの挑戦状』と聞き間違えてしまったのがありましてね」
「あんなげーむをわだいにもちだしちゃってどうするの?」
「豊姫さん、いいノリですね。でもその場合濁音も一文字としないと」
「それだとこの小説をツールやアプリで縦書きで読んでいる人がいたら読みづらい事この上ないでしょうからね」
「あ、成る程」
「……」
 ネタ発言にメタ発言の応酬。その事実に依姫は……突っ込むのをやめた。

◇ ◇ ◇

 そして天子の招待状を三人一緒に読んだ。そして出た結論は。
「どう見ても、招待状だね」
 そう豊姫は結論付けたようであった。
「そうですね。挑戦状じゃなくて良かったです」
 その事が分かって勇美も胸を撫で降ろした。
「それじゃあ、早速行こうか。私の能力で連れていってあげるからね」
 豊姫は得意気になって言う。この小説でも陰が薄いばかりに、活躍の場が出来て嬉しいのだ。
「あっ、ちょっと待って下さい」
 ところが勇美は、ここで何を思ったのか待ったを掛けた。
「どうしたの勇美ちゃん? もしかして私の数少ない出番を奪うつもり!?」
「はうあ、そんなつもりはありません」
 血相を変えて迫って来た豊姫におののく勇美。はっきり言って『引く』。
「いえ、少し心の準備が欲しいと思いましてね」
 怖じけづきつつも勇美は弁明する。
「天界に行くって、私にとってかなり大それた事なんですよね。
 だからこの部屋から直接豊姫さんの能力で天界に直行するのは何だか怖いんですよ」
 そして、勇美は結論を言う。
「だから、この部屋から直接じゃなくって、一旦永遠亭の外に出てからにしたいんですよね」
「それならいいわ」
 勇美の申し出に豊姫も頷く。一見無意味にも思える『こだわり』だが、豊姫にもこだわりはあるし(特に桃と動物)、何より人のこだわりに介入するのはエゴの極みである事を知っいるからだ。
 そして、三人は永遠亭の玄関を出て外に赴いた。
「いよいよですね」
 文字通り勇美は手に汗を握っていた。ぶっちゃけ汗で濡れすぎて煩わしい。
「勇美ちゃん、準備はいい?」
「勇美、こういう時にリラックスは重要よ」
 昂る勇美に、豊姫と依姫は優しく諭す。
「お二人とも、ありがとうございます」
 言って勇美は呼吸を整え、続ける。
「いざ、夢見鏡の世界へ!」
「「それ違う」」
 綿月姉妹は首を振った。それには色々触れてはいけないと心の叫びをあげるのだった。特に仲間が足手まといにしかならなかったのは辛い所だろう。
「はあ……はあ……気を取り直して」
 突っ込み役にされるという不本意な扱いを受けつつ、豊姫は仕切り直しをする。
「「「天界へ!」」」
 今度は三人の気持ちは一つになり、彼女らは天界へと旅立つのであった。

◇ ◇ ◇

「ここが天界ですか~」
 三人が移動を終えた後、勇美が感心したように言った。
 そこは雲の上の世界であるので空の上に雲はない。なので日本晴れの如く澄みきった一面の青は芸術的で心を晴れやかにするものがある。
 そして地面には、まるでドライアイスのように雲が漂っていて、まさに絵に描いたような天国のイメージにそぐう幻想的な雰囲気がかもし出されていた。
 そして、天界独特の要素とは別に勇美の目を引き付けるものがあった。それは。
「うわあ……立派なお屋敷……」
 勇美の指摘通り、彼女達の目前には荘厳で壮大な造りの屋敷が待ち構えていたのだ。
 だが、驚いているのは勇美だけであった。彼女とは対称的に、綿月姉妹は極めて落ち着いていたのだ。
 それは無理もない事であろう。かく言う二人もこれと同じ位豪勢な屋敷に普段から住んでいるのだから。
 だが二人は決してその事を口にしたりはしなかった。
 二人は勇美のような庶民の感覚を完全に理解している訳ではない。だが、その気持ちは大切にしていきたいが故の事である。
「それじゃあ、行こうか」
 興奮冷め上がらない勇美に豊姫は先導を促した。
 そして三人は比那名居邸の門の前まで赴いた。
 すると、そこには門番という有るべき存在がいた。有権者の住居の門前には見張りがいるのは月でも天界でも同じなようだ。
 そこへ豊姫が歩を進めていく。それに気付いた門番の一人が口を開く。
「あっ、あなた様は豊姫様ですね。とするとお連れの方々がそうなのですね」
「ええ、そうよ」
 豊姫は比那名居家の者達に話が通っているようだった。
 そして、もう一人の門番が豊姫の後ろの二人に呼び掛ける。
「あなた方が綿月依姫様に黒銀勇美様ですね。
 話は総領娘様から聞いています。どうぞお通り下さい」
 そう言った後、門番二人は互いに門の脇へと移動して勇美達に道を譲った。
「あ、ありがとうございます」
 余りにも話がスムーズに流れた事に、勇美は呆気に取られてしまった。
 これが天界の主の娘の力か。勇美は途方もない何かを感じるのだった。
 そして三人は門を潜って比那名居邸の敷地へと入っていった。
 門を抜けた先の道を歩きながら勇美は言う。
「でも、話の分かる門番さん達で良かったね」
「全くね。お姉様はいつの間に天界との関わりを築いたのかしら」
 依姫はその疑問に首を傾げながら言う。
「ま、まあ細かい事は言いっこなしよ」
 そこへ豊姫が入るが、どこか心なしか声が上擦っていた。
 そんな豊姫が先頭を切る中、三人はお目当ての場所へと赴いていったのだった。
 そして一行は目的の場所へと辿り着いたのだった。
 そこは謁見の間であった。そして永江衣玖と共にお目当ての人物がいたのだ。
 彼女こそ天界の主の一人娘、総領娘こと比那名居天子その人であった。
 出でたちは白のカッターシャツに青のロングスカート、それに加えて前掛け式のエプロンと、特徴的な旗のような七色の飾りがあしらわれている。
 そして帽子である。黒いそれ事態は何の変哲もない物であったが、問題は。
「桃……」
 そう勇美が呟いた事が示す通り、その帽子には桃が付いていたのだった。
 と言ってもそれはプチトマト程度のサイズの物であった。故に本物の桃という事は断じてなく、アクセサリーか何かだろう。
 最後に天子自身は青のロングヘアーに、清楚に見えるがどこか小生意気そうな顔立ちと言うものであった。
 更に言えば……。
「……」
「……」
 暫し無言となる天子と勇美。互いに視線が向いた先には──胸があったのだ。
 そして、おもむろに視線を合わせ、言葉無きメッセージを交わす二人。
「我が同志よ~~」
「お会いしたかったです~~」
 そう言い合い、天子と勇美は固い抱擁を交わすのだった。
「変な友情が……」
「芽生えましたね~」
 その様子を依姫と衣玖は呆れながら傍観する。
「衣玖、黙らっしゃい!」
「これは『ある』人には分からない苦しみですよ、依姫さん!」
 必死の形相で迫る二人に、依姫と衣玖は「ごめんなさい」と、取り敢えず謝っておいた。
「それはさておき……」
 天子との傷の舐め合いから立ち直った勇美は、次なる目標に目を向けた。
「永江さん、会いたかったです~。まずはお近づきの挨拶にキスして下さい♪」
 と、勇美は猫科の肉食獣の如く衣玖に駆け寄った。
「ぬわっ、お近づきなのに話が飛んでいますよ。しかも何で名字で呼ぶのですか」
「永江さん程の素敵な方を気安く名前で何て呼べませんよ♪」
「そ、そうですか」
 そう言われて衣玖は少し頬を赤くする。そのように言われて悪い気はしないからだ。
 だが、その後でキスの件は丁重に断った。
 そうこうした後、天子が話を仕切り直す。
「改めて。私の招待を受けてくれてありがとう。ようこそ天界へ」
 天子はそのようにおもてなしの態度を見せたのだった。
「固くならなくていいわ、今はお父様もお母様も出掛けているから」
「もしかしてご両親に無断で私達を招待したのですか!?」
 勇美はその事実に面喰らってしまった。さすがは『不良天人』と呼ばれるだけの事はあると思ってしまうのだった。
「まあ、そんなのは些細な事よ」
「いえ、とても重要な事ですよ!」
 あっけらかんと言い放つ天子に、勇美は食い付く。
 確かに勇美は彼女の両親の事は快く思っていない。
 だが、親に対してふてぶてしく振る舞う事は道徳に反するのを勇美は知っているのだった。
「天子、勇美の言う通りよ」
 そんな勇美に対して、依姫も彼女の肩を持った。
 依姫も知っているのだ。彼女もまた自分の両親や師に対しては敬意を払わねばいけない事を。
 永琳という素晴らしい師がいるからこそ分かる事であった。だからこの事は自分と同じ両親と師を持つ豊姫も同様の考えだろうと依姫は思った。
「まあ勇美ちゃん、依姫。私は天子位アバウトでもいいと思うな~」
 と、豊姫の弁。現実は非情であったようだ。
「おねえさま~」
 これに対して依姫はらしくない泣きの入った声を出すしかなかった。
「うん、さすが姉の方は話が分かるわね」
 天子がご満悦といった風にのたまいながら続ける。
「それから豊姫、二人のお迎えご苦労様」
 さらりと失礼な物言いをする天子。
 実は年配の人に対しては「お疲れ様」でも上から目線の意味合いになってしまうのだ。
 ましてや「ご苦労様」など、それ以外でも上から目線になる言語道断な言い回しなのである。
 だが豊姫は気にした風を見せなかった。それが彼女の懐の広さを表しているのだ。
「これ位お安い御用よ」
「頼もしいわね。それじゃあ、報酬の天界の桃ははずんでおくわね♪」
「ちょっと天子……!」
「ご苦労様」では動じなかった豊姫だが、これには弾かれたように慌てた。
 そして、彼女には冷たい二つの視線が刺さる。
「おねえさま……」
「豊姫さん、買収されてたんですか!?」
 これには穴があったら入りたくなる豊姫。
「てんし~、何て事してくれたのよ~」
「あらごめんなさい。内緒の事だったかしら」
 悪びれずのたまう天子。
(この人って……)
 そして、そのやり取りをみながら勇美は確信する。
 ──今のはこの人の故意犯なのだったと。
 名前は天子なのにまるで小悪魔みたいだ。パチュリーの使いの小悪魔は寧ろ紳士的なのに不思議だと。
 何やら一癖も二癖もある人からお呼びが掛かったものだと勇美は思うのだった。