雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第75.2話(閲覧注意)

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。
※加えて、この話ではオリジナルの敵キャラが東方キャラに相応しくないレベルの卑劣、外道な言動を取ります。閲覧の際はご注意下さい。そういった意味で話数を整数には加えたくないが為に小数点を用いています。
(登場人物が殺されたり、取り返しのつかない事にはなりませんのでその辺りはご安心下さい)

 【第七十五.二話 真の根源】
「紫さん!」
 その勇美の呼び掛けに応える事なく、勇美と接戦を繰り広げた八雲紫は突如として頭上に開いた空間の亀裂へと飲み込まれていったのだった。
 そして、勇美には分かるのだった。この現象は断じて紫が起こしたものではない、もっと何か得体の知れない概念が絡んでいる事を。
 なので、当然勇美は身構えるのであった。未知の領域の存在であるが、立ち向かわなければいけないと。
 対して、依姫も同様に緊張に包まれていた。その理由は、彼女にも分かるからであった。
 依姫はかつて第一次月面戦争で紫と対峙しているのだった。
 その時の紫からは今よりも妖怪らしい獰猛な意思を感じられたのであるが、それでも彼女の奥底からは慈悲や母性のようなものが感じられたのである。
 だが、今目の前で起こっている怪現象の先からは、そのようなものは一切感じられないのだ。あるのは『渦巻く負のエネルギーの流動』ばかりであった。
 そして、紫を飲み込んだ黒い亀裂はみるみるうちに大きくなっていったのである。
 ピシピシと耳障りな割れる音が徐々に大きくなっていったと思うと、一気にガラスが砕けるようなおぞましい音と共に、目の前に大穴が開いたのだった。
「!!」
 一体何が起こるのかと二人は気を張り詰めさせながらその様子を見ていたのである。
 二人がそのようにして事の成り行きを見守っていると、そこには人の影が確認出来た。
 やがて盛大に割れた空間の破片が消滅し、その何者かの姿をはっきりと目視出来るようになっていったのだ。
 その容姿は、見事な金髪をロングのストレートに仕立て上げ、端整に整った顔立ちをしていた。
 そして、胸には潤沢に肉が付いており、あらゆる者の目を引かんばかりであった。
 それらの要素を纏めると、正に『絶世の美女』という例えはこの者の為にあるとさえ言えると思われる程であった。
 しかし、それ以上に『異様さ』というものがこの者から感じられるのだ。
 まず服装の問題になってくるのだが、彼女のそれは黒と白を基調としたコルセットであった。それにより腰周りは不自然な位に絞り上げられていたのだ。
 だが、彼女の異質な雰囲気の要因はそれが主たる理由ではなかったのである。彼女には、もっと得体の知れない何かが備わっているのだ。
 勇美達が警戒をしている最中、その者から先に声が掛かってきた。
ごきげんよう
 その者は、このように気品溢れる優雅さでそう挨拶をしてきたのであった。
 その様は淑女の鑑と言える程様になっていたのだ。
 その振る舞いだけで判断するなら、この者は極めて友好的に思えただろう。
 だが、二人は断じて警戒の念を解かなかったのである。──この者に気を許してはいけない。そう二人の今までの経験で培った感性がそう警鐘を鳴らすのであった。
 そのような態度を示す二人に対して、その者は物腰柔らかい振る舞いで続けてきたのである。
「おやおや、お二人ともそう固くならずに。折角の可憐さが台無しになってしまいますよ」
「……」
 そう優しく話し掛けるその者であったが、二人は無言で警戒を続けていた。
「ごめんなさいね、私が悪かったわ。名前も名乗っていない者になんて気を許せる筈なんてありませんからね」
 そう言って、その者は恭しく手を添えて一礼をするのだった。
「私の名前は『遠音ランティス』と申します。二つ名は『真理の女王』ですよ」
 こうしてこの者の名前が『遠音ランティス』というものである事が判明したのである。
 紳士的に自分から名前を名乗ってくれたのだ。その事に対しては些か安堵を感じられよう。
 だが、その事がこの者──ランティスに気を許す要因にはなり得ない事を二人は分かっていたのだ。
 二人が尚もそのような態度を取る事に対して、ランティスはその表情を歪にさせて不快感を示した。しかし、それは一瞬の事であり、目で認識出来るものではなかったのである。
 故に何事もなかったかのようにランティスは続けた。
「やはり、私に聞きたい事はあるでしょうね。遠慮なさらずにお聞きなさい」
 そうランティスが切り出した事により勇美は思った。
 この人は気を許してはいけない存在ではあるが、彼女は一体何であるかは知らなくては話が進まないだろう。そう考えた勇美は思い切ってこう切り出した。
「あなたは一体何者ですか?」
 それが勇美達が一番知りたい事であるのだ。後はこの質問に相手が答えてくれさえすれば良いのだ。
 この質問に対して、ランティスは極めて冷たい表情を現した。何て下らない質問によって私の口を無駄に動かさせるのかと言わんばかりに。
 だが、その表情になったのも一瞬の事で、すぐに彼女は元の淑女の鑑たる笑みへと戻したのである。
「成る程、最も気になる事を知りたがるその素直さ、素敵ですよ」
 そう言ってランティスは表面上は勇美の純粋さを誉めるという誠意ある振る舞いを見せた。
 だが、僅かづつではあるが、彼女の本性が滲み出て来るのであった。その序章といった感じで、彼女から返って来た言葉はこれであった。
「確かにその質問は重要ですけど、私には余り意味は感じられないのですよね」
 そう言ってランティスは勇美の質問を振り払う態度を見せてきたのである。そこには僅かに勇美を見下す匂いが醸し出されていた。そしてランティスは続ける。
「なので、私が選んだより有意義な事を話しましょう」
「有意義な話……ですか?」
 自分の質問を流された事に違和感を覚えた勇美であったが、相手が有意義と評する話というのには興味を惹かれるのであった。この辺りに勇美の人の良さが感じられるのであった。
 そして、ランティスは『有意義な話』を話し始めた。表面上はそれはもう紳士的に。
「そうね……まずは私の目的からお話しましょうか?」
 女神のような微笑みを、まるで機械で精巧に作ったかのように顔に張り付けるランティス。そして、彼女の話は続く。
「率直に言いますと、私の目的は月と地上の関係を悪化させて全面戦争をさせて滅びの道を辿らさせる事です」
「!!」
 そのランティスが語った話に当然二人は驚愕するのだった。
 特に依姫であった。彼女の信条は、月と地上とが争うの避けて双方の安泰を望む事であるが故に、今ランティスが漏らした内容は聞き捨てならないものであったのだ。
 そう依姫が想う中、ランティスは更に続ける。
「そうそう、境界の妖怪に博麗の巫女へ禍神の神降ろしを教えさせて月で穢れをばら蒔かさせたのですけどね…あれ、私の差し金ですよ」
「なっ!?」
 まさかの驚きの事実に、依姫ともあろう者が声がひっくり返りそうになってしまう。
「私の狙いはその事で月と地上の関係が険悪になって全面戦争が勃発してくれる事だったんですけどね、残念ですね」
 そう言うランティスの表情はみるみる内に歪んでいった。
「お前が伊豆能売の力で穢れを浄化した上にその事実を月の上層部には内密にさせてくれたお陰で、私の目論見は台無しよ、このカスが!!」
 そして、言葉も乱れていった。更には歪んだ表情はもう取り繕う気はなくなったようで完全に醜悪なものへと変貌していたのだった。
「……本性を現したわね」
 そう依姫は呟いた。やはり私達の読みは正しかったと。それに続いて勇美も追従する。
「この人、霊夢さん達と関わった人妖の皆さんと同じとはいかないと考えた方がいいんですよね」
「ええ、勇美のその考え方が正解のようね」
 勇美の言い分に依姫も賛同する。
 博麗霊夢達が幻想郷関連で起こる異変を起こし来て退治されていった者達。
 その者達はやりたい放題をして派手な事をやらかし、正に『迷惑』な者達が多かったのだ。
 だが、その者達は皆事情を抱えていたり、その心の根源にあるのは純粋さや無邪気さであった。
 故に霊夢達は事後もその者達との関わりが生まれていき、友情めいたものが芽生えていくという奇妙な間柄となっていったのだ。
 そのような関係を多く生み出していったのが幻想郷の魅力なのである。
 しかし、今勇美と依姫が対峙しているこの『遠音ランティス』は、それらとは全くの別物であった。
 彼女の思考を支配するものは、邪悪しか感じられなかったのである。
 だが、依姫には相手がそのような存在でも聞いておかなければならない事があるのだった。
 それを紡ぐ為に、彼女は口を開いた。
「貴方の目的は分かった。しかし、何の為にそのような事をする?」
 その質問を受けたランティスはあからさまに表情を歪めた。
「人が話している所に質問してくるなんて図々しい女だな。ちっ……。だが、まあ私は寛容だから許してやる。そして質問にも答えてやるからありがたく思え」
 全くを以て寛容的ではない態度と台詞でランティスはそうのたまった。そして、表情を再び淑女的な佇まいへと変貌させて続ける。
「まずは私が何者かを話さなければなりませんわね……」
「……」
 そんなランティスの振る舞いに、勇美はモヤモヤとした気分になった。その質問を自分は先程からしているというのにと。
 だが、彼女が漸く自分が何者かを話してくれるのだ。勇美と依姫の二人は神経を集中させて聞き耳を立てた。
 そんな二人を前にしながら、遂にランティスは自分の正体を話し始める。
「まず、私は八雲紫の境界の中で誕生した『精神集合体』なのですよ」
「紫さんの中で……?」
 そう首を傾げる勇美に対して、面白くなさそうな態度を示すランティス。さながら『もう少し気の利いた反応は出来ないのかよ』という念を見せているかのようであった。
 そう茶を濁されたような不快な気分を味わいながらも、ランティスは続ける。
「そう、彼女の境界の中で、ですよ」
 それがどのような事なのかをランティスは説明していく。
「丁度、彼女が第一次月面戦争の為に月へ境界を繋げた時ですね。その時月と地上に繋がりが発生して、月の民と地上の民の精神エネルギーの流れが混じり合った、そういう訳ですよ」
 そこまで語ったランティスは、ふてぶてしい表情となっていた。丁度、自己主張の激しい人間が自慢をし終えた時のようであった。
 やや満足気になっているランティス。彼女の舌は興に乗っていた。
 そのような状態の下、ランティスは続ける。彼女の表情は歪な快感を感じている顔であった。
「それで、月人の考えがまともなら良かったんだがよう、知っての通り奴等の思想は碌なものじゃない訳で、その影響をもろに私は受けてしまったという事さ」
 最早、彼女には淑女らしい洗練された立ち振舞いはなく、乱暴に投げ出された口調となっていた。
「それだけなら多少はマシだったかも知れないがなあ、問題は地上の奴等の思考エネルギーも混じっちまった事だな。奴等も月の連中と同様に程度が低い訳だった訳よ」
「……」
 それを聞いていた勇美は返す言葉がなかった。何故なら彼女とて自分達人間の愚かさは知っていたからである。
 戦争、犯罪、いじめ。そのような愚行がいつの時代も収まりを見せない事を勇美も実感しているのである。
 それに加えて他の人を支配して思いのままに動かそうとする自己愛の強い人間も多い。そのような母親の元に生まれた勇美にはよく分かるのだった。
 だが、その話をした当の遠音ランティスに対して、勇美は断じて気を許す考えには至れなかったのである。
 それは他でもない、ランティス自身が勇美の母親と共通した思想の持ち主だと勇美が感じていたからだった。
 勇美がそのように考えを巡らせているのを知ってか知らずかランティスは……いや、知らないだろう。察していればランティスのねじ曲がった自尊心の琴線に触れていただろうから。
「とまあ、私はそんなクズな連中の思念から生まれた訳だからな。
 それで月と地上の連中を争わせて痛め付け合わす事が『正しい』と思ってしまう訳よ」
「……」
 それを聞いて勇美は思った。その言い分なら、ランティスは僅かながら自分の考えにどこか間違いがあるような感じがしたと。勇美はその事を指摘してみる。
 だが、当然の事か、真っ当な答えは返って来なかった。
「アホかお前は。自分が正しいと思う事はやらないでどうするってんだよなぁ。要は私が楽しければいい訳だ」
 二つの種族に無駄な戦いを生じさせようとした事を『楽しい』と言ってのけるランティス。やはりこの者にはまともな感性はないと窺えるだろう。
 やはり、この人とは相まみえる事は出来そうもない。そう思う勇美に追い討ちを掛けるようにランティスはこのような事を言い始めた。今の勇美の振る舞いから彼女の心情を察しての事かも知れない。
「そうそう、良い事教えといてやるよ。まず、あの『悪魔の妹』の事だがな……」
「フランちゃんの事?」
 ランティスが示す者が即座にフランドールの事だと理解し、勇美は聞き返した。
「そういう名前だったっけかなあ、まあいいや。そいつが前に暴走した事があったろ」
「まさか……」
「てめえのような奴にしては察しがいいな」
 そう言ってランティスはここ一番の、心底楽しそうな面持ちを見せる。
「そう、あいつが暴走したのは、私が境界を利用してあいつに私の思念を当ててやったからなんだよな」
「何て……」
 言い掛けて勇美は言葉を詰まらせてしまった。
 その勇美の様子をランティスはさぞかし嬉しそうに眺めていた。
『そういう反応を私は求めているんだよ』という彼女の邪な念がその態度からは滲み出てくるようであった。
 極めて興が乗ったランティスは更に続ける。
「もう一つ教えといてやるよ。それはあのバッタの妖怪よ」
 その存在の名前は皇跳流。今では勇美の妖怪の友達にしてライバルとなった者である。
 彼女は勇美に明確に負けを喫しさせ、その経験を通して勇美は成長をしていったかけがえのない存在なのだ。
 そしてその跳流とのリベンジマッチでの事である。勇美との名勝負となった流れに水を指すかのように跳流に語りかけ、彼女を暴走させ本来の姿であるバッタの群れで暴れさせる者の存在があったのだ。
「あの時も私があいつに『気を利かせてやった』訳よ。お前等はあんまりにもつまらない戦いをするからよ」
「……」
「もっと教えておこうか。あいつの正体はバッタの群れだろ? それを人型の一つの妖怪にしたのは私だよ」
「!」
 その事を聞いた勇美は弾かれるように言い始めた。
「どうしてそんな事ばかりするの? フランちゃんだって跳流さんだって苦しんでいたんだよ」
 その勇美の主張を聞いて、ランティスはそれを鼻で笑い、ゴミを見るかのような視線で勇美を見据えた。
「つくづくおめえはつまらん奴だな。私が楽しいと思ったからやったに決まってんだろ、カスが!」
 その言葉を聞いて勇美は心が決まったようだ。
「……やっぱりあなたとは分かり合えそうにありませんね」
 そう勇美は実感するのだった。
 確かに幻想郷に関わる者達は、異変を起こす『迷惑』な存在が多い。
 だが、そんな彼女らは明確な目的意識の為にそれを行うのだ。断じて異変で迷惑を被る人々を見て喜ぶ為などではないのだ。
 しかし、この遠音ランティスはその範疇に収まらないようだ。誰かが嫌な思いをする、それを至上の喜びとして彼女は行動を起こしているのだった。
 そのランティスであるが、彼女は再び表情を歪めて不快感を露にしていたのだ。
「んだテメェ……。分かり合うって何様だコラ? 上から目線でモノを言ってんじゃねえぞ!」
 不機嫌さが最高潮といった様相になるランティスであったが、何を思ったか彼女はその顔を再び淑女然としたものへと取り繕っていた。
「……まあ、ですがあなたが言いたい事はもっともですね。そこでどうでしょう?」
「?」
 何を言うつもりだろう? そう思いながら勇美は身構えた。
「そうですね……私と『弾幕ごっこ』を致しませんか?」