雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第22話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第二十二話 勇美と恐竜:前編】
 豊姫と有意義な話をして、自分が『悪』を目指すと心に決めてから数日が経ったのだ。
 この時勇美は依姫との稽古も行っておらず、悠々自適に永遠亭の自室で過ごしていたのだ。
「ああ~、おきらくごくらく~♪」
 等と、勇美はバブル期に流行った混沌要素てんこ盛りの子供(&マニア)向け番組で言われていたような事を洩らしながら実にリラックスモードとなっていた。
 それ程永遠亭での暮らしは快適なのだ。竹林の中でありながら程よく陽が差し見張らしが良く、内部の造りは豪華でありながら贅沢さを強調して威圧感を与える等決してない、まさに落ち着いて暮らすにはこれ以上ない建設様式なのであった。
 過ごしているだけで夢心地となるような永遠亭であったが、勇美は何も考えなしに時を貪っている訳ではなかった。
 それというのも、依姫が人里に赴いていて、今彼女にいつも稽古をつけてくれる人がいなかったのだ。
 勿論勇美には妹紅のように他に稽古をつけてくれる人もいるのであるが、『休める時に休む』が彼女のモットーなので、無理に気張る事もないと考えたのだ。
「ああ~、しあわせ~」
 今の勇美の表情は綻ぶを通り越して、だらけ切っていた。だがこれも考えのない怠惰では決してないのだった。

◇ ◇ ◇

 勇美がそうして時を貪っている間、依姫は何をしていたのか。
 その答えは慧音の屋敷で、彼女と対談していたのであった。
 話の内容の一つは依姫にとって慧音は憧れの役職に就いている事についてであった。
 月の守護者を勤め、地上からの侵略に備えて玉兎達に軍事的訓練を施す役職に就く依姫。
 勿論それは依姫が望み努力した上で掴んだ地位である。しかし、そこに至った理由は月人達の歪んだ思想を知っていたが故に自分が月の守護者にならなくては月と地上双方のためにならないと考えた事による使命感からであった。
 使命感ではなく、依姫が望む役職。それこそが慧音が今就いている『先生』というものなのだ。
「……そういう訳で慧音さん。私が本当に望む役職にいる貴方がうらやましいのですよ」
 そう依姫が言う。ちなみに阿求と同じく慧音を『さん』付けしていた。何故なら彼女は自分の憧れる場所にいる、謂わば『先輩』なのであったのだから。
「そう言って貰えるとありがたいな。私とて、ものを教える今の立場は誇りだからな」
 依姫に言われて、慧音も満更でもなさそうにしていた。だが、ここで表情を引き締める。
「だが、憧れるからには覚悟は必要だぞ」
 そう言って慧音は説明を始める。自分は生真面目故に授業の内容に面白くなくなってしまい、その結果生徒には居眠りされてしまうのだと。
「あっ、それ何か親近感ありますね」
 と、依姫。彼女もまた玉兎達に秘かに訓練をさぼられていた経験があるのだ。そこに至る経緯は違えど似た経験をした仲に違いはないのだ。
 そして慧音は続ける。
「今回そなたと話をしたのは、何を隠そうその事なのだよ。そなたの力を見込んで子供達が喜んで学ぶ事に意欲的になるような特別授業をしてはくれないだろうか?」
 そう言って慧音は依姫に対して頭を下げた。
「分かりました。力を貸しましょう。私にどこまで出来るか分かりませんが」
「かたじけない」
 そうして依姫と慧音の対談は終わったのだった。

◇ ◇ ◇

「と、そんな話を慧音さんとしてきた訳よ」
 永遠亭に戻って来た依姫は勇美にそう告げた。
「成る程、子供達の学ぶ気を高めるような特別授業ですか」
 そう呟く勇美。この事は直接彼女には関係ないように思えたが。
「私にいい考えがありますよ!」
 勇美は意気揚々とそう返したのだった。
 それを聞いて依姫は訝った。
「この問題は貴方には関係ないから気を遣わなくていいのよ」
 そもそも依姫は自分だけの問題として慧音の話を受けたのだ。今回勇美は関係ないのである。
 だが、勇美は引き下がらない。
「いえ、ちょっと試してみたい事が最近出来ましたから」
 そう言う勇美。それはどうやら紅魔館に招待されて以降、そこの図書館に通い詰めるようになった事が原因のようだ。
「……勇美がそう言うならお願いしてみようかしら」
「やったー♪」
 とうとう折れた依姫に対して嬉しくなる勇美であった。
「それじゃあ、これから私が考えた特別授業の打ち合わせをしないといけないですね」
「そうね、お手柔らかに」
 そして二人は来たる特別授業に備えて、綿密に打ち合わせをするのだった。
 ちなみに、その内容は永琳と輝夜に筒抜けであった。月の頭脳たる八意永琳に隠し事など不可能なのである。
「これは面白そうになりそうね、さすがは私の弟子をなのっている依姫の事はあるわね」
「今回の場合、勇美の発想が一番すごいんじゃないかしら?」
 コーヒータイムをたしなみながら、二人は実に楽しそうに言った。
「これはあの二人が揃ったが故の化学反応って所ね」
「さすが永琳ね。言う事が科学者らしいわ」
 そう永琳を茶化しながらころころと笑う輝夜であった。
「お楽しみは最後まで取って置かないとね……」
 そう永琳は意味ありげな言葉を呟いた。

◇ ◇ ◇

 そして、勇美と依姫による特別授業の日がとうとう来たのであった。二人は今、慧音が営む寺子屋の前にいた。
「それじゃあ、裏口から入りましょう」
「そうですね」
 それがどかどか他人が集まる場所へ踏み込まない礼儀だからだ。例外的に、例えばデ○ーズでは従業員も客の目線で店内を見るべく正面から入らなくてはいけないルールが設けられているが、これは余談であろう。
 そして、二人は寺子屋の裏口から慧音を訪ねるべく入っていったのだ。
 そこにいたのは他でもない、特徴的な頭の弁当b……もとい帽子の凛々しい姿の女性、上白沢慧音その人であった。
「よく来てくれた、依姫殿」
 慧音は約束を守ってくれた依姫を労い握手をした。
 だが、彼女の頭には疑問が浮かんでいた。
「で、何故勇美もこの場にいるんだ?」
 そう言って慧音は首を傾げた。
「それは、後でのお楽しみですよ♪」
「そうか……」
 慧音は勇美の意図する事が読めずに訝しがりながらも、彼女の同行を容認するのであった。
「それで、依姫殿。頼みましたぞ」
「分かりました。任せておいて下さい」
 そう確認し合う依姫と慧音。
「頑張って下さいね。私は後から参りますから」
 そこに勇美も声を掛けたのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、いざ依姫は慧音に連れられて寺子屋の教室の教壇の前まで連れてこられたのだ。
(ここが教室という物ね……緊張するわ)
 そう、依姫とて初めての体験には緊張が付きまとうのであった。
 月での弾幕ごっこは実に平静を装って行われていたかのように見えたものであるが、あくまで玉兎の前で『装っていた』だけで実際は多少なりとも緊張はあったものであるのだ。
 そして、寺子屋で初めての顔である依姫は、当然子供達からは珍しい物を見る目で見られたのである。
「あ、初めて見る人だ~」
「きれいなおねえちゃんだ~」
「あのポニーテール、クンカクンカしたいお~」
 それを聞きながら、依姫はやはり子供は無邪気でいいものであると噛み締めるのだった。最後の発言は余り頂けないと思いながらも。
「みんな、静かにするんだ」
 そこへ慧音はパンパンと手を叩いて生徒達に静まるように促した。
「慧音せんせ~、その人誰なんですか~」
 生徒の一人が当然疑問に思った事を口にする。
「まあ、そう焦るな。ちゃんと説明するからな」
 そう言って慧音は咳払い一つをした。
 そして、彼女が何者であるか説明していく。
「この方は今回特別講師としておいでになってくれた、綿月依姫先生であるぞ」
「よろしくね」
 慧音に紹介されて、依姫は普段は余り見せない柔らかな笑顔で生徒達に向き合ったのだ。
 少し彼女らしくない行為であるが、今回この授業限りだと思えば何て事はない。
(うん……見事に私らしくなくて落ち着かないわ)
 何て事はない……のである。
 だが、依姫はこの時慧音に感謝していた。それは依姫を紹介する時に、彼女が月人である事を言わなかった事に対してである。子供達にいらない不安を与えない配慮、素晴らしいものだと依姫は思うのだった。
 そして、彼女は教壇に登り生徒達に挨拶をし始めた。
「私は今回慧音先生に特別講師として呼ばれた、綿月依姫と言います。皆さん、よろしくね」
 ニッコリ微笑みながら依姫は自己紹介をした。
「依姫先生~、一体何を教えてくれるんですか~」
 生徒の一人である茶髪で小柄な少女が依姫に質問した。
「まあ、慌てないで下さい」
 その少女を中心にはやる気持ちの生徒達を依姫は宥める。
「今回私は皆さんに『神霊』について教えようと思います」
「しんれい?」
 黒髪の少年の生徒がその聞き慣れない言葉を聞いて首を傾げた。
 それに対して依姫は答える。
「そう、神霊。分かりやすく言うと『神様』の事よ。そう言えば分かるんじゃないかしら?」
「神様か~、面白そうだな~」
 そう言う少年に同意する形で、生徒全体が一気に囃し立てたのだった。
「はいはい、静かに。慌てなくてもちゃんと説明して行きますから、落ち着いて私の話を聞くように」
「は~い!」
 依姫に言われて、生徒達は素直に良い返事をして同意したのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、依姫は神霊についての成り立ちや、それがいかに無くてはならないものなのか等を丁寧に説明していった。
 のだが……。
「……」
 依姫は生徒達の様子を見て、頭を抱える気分となってしまった。
 何故なら居眠りをする者や退屈そうにする者が多く出てしまっていたのだから。
(これは私と同じだな、同情するぞ依姫殿……)
 慧音は依姫の傍らでそう痛感するのだった。
 その理由。それは本人が真面目故に授業に面白味が欠けてしまい、内容が退屈になってしまうというものであった。
(これは参ったわね……)
 この惨状には、さすがの依姫とてどうする事も出来ない状況であった。
 依姫にとって戦いでは滅多に訪れない事であったが、まさに『万事休す』というものである。
 だが、こんな絶望的な状況でも救いの手というのは必ずあるものなのである。
「ここで、私の出番ですね♪」
 そう教室の入り口で声がしたと思うと、新たに中へ入って来る者の姿があったのだ。
「やあみんな~、元気~♪」
 そう言いながら颯爽と教室へ現れる者は。
「体操のお姉さん~♪」
「ちゃうわ!」
 天然か人工の産物か分からない生徒のボケに対して、スパッとツッコミを入れるその者。
「黒銀勇美よ! 人里じゃない所に住むようになって顔を見せる機会が減ったからって忘れないでね!」
「勇美お姉ちゃん~?」
 勇美に言われて生徒が疑問の声を上げるのは当然だろう。年上のお姉さんとは言え、教師を勤める者ではないのに、何故教室に入って来たのかと。
「今日は何の用~?」
「今日はね、この特別授業の先生である依姫さんの助手として来たんだよ~♪」
 生徒に言われて勇美ははつらつとしながら答えた。
「助手って、何をするの~?」
「それは、見てのお楽しみだよ」
 そう言って勇美は教壇の前に立った。
「それじゃあみんな、これから外に出ようね」
 教壇の前に立つ等とは初めての事なのに、勇美は手慣れた様子で生徒達に指示を出していく。
「う~ん、何だか話が見えて来ないけど……」
「勇美お姉ちゃんのやる事に任せておけば大丈夫かな?」
 口々に生徒はそう言い合う。
 その様子を見ていた依姫は素直に感心していた。
「さすがね勇美。子供達をこうも簡単に扇動するなんて」
「いえ、元から里の子供達とは仲が良かっただけですよ」
「それでも見事だわ」
 依姫は自分に余りないものを潔く認める。
「うむ、勇美のこういう所、私も見習う所があると思うぞ」
 慧音も依姫と同じ考えであった。
「お二人にそう言われると照れちゃいますよ、今夜のオカズに使えそうです」
 嬉しさの余りそう漏らす勇美。だがそれがいけなかった。
「勇美、そういう下品な発言は……」
「やめないか」
 すかさず依姫は勇美にチョップをかまし、慧音は得意の頭突きを綺麗に決めた。
「あだ~~~~お二人こそ子供達の前で暴力はいけませんよ~」
 涙目で訴える勇美。
「じゃがしい! そもそも言いだしっぺのお前が悪い」
「それに暴力反対を盾に取って自分を守ろうなんて姑息よ」
 対する慧音も依姫も引かなかった。
「それにしてもお二人とも息が合っていますね♪」
 頭への攻撃の痛みも治まり、勇美は二人の様子を茶化した。
「そう言われてみれば……」
「そうだな」
 改めて二人は思った。やはり似た性格故だろうかと。
「まあ、その話は一旦置いてだな」
「頼むわよ、勇美」
 そう言って慧音と依姫は勇美に期待を込めて言う。勇美こそ今回の特別授業を成功させるためのキーパーソンなのだから。
「はい、任せておいて下さい!」
 勇美は得意気に言うのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、勇美達三人は生徒達を連れて人里の広場まで来たのだ。丁度以前阿求との風変りな弾幕ごっこを繰り広げた場所であった。
「これで全員来ていますね」
 念の為、依姫は生徒に呼び掛ける。
「は~い!」
 生徒達が元気に答える。元から素直な子供達という事もあるが、突然屋外へ出るという空気の変動っぷりに皆心が躍っている状態なのであった。
「それでは始めますよ、見ていて下さい」
 生徒達に依姫は言う。
「先生~、何を始めるんですか~?」
 当然生徒達から疑問の声が上がる。
(先生……)
 そう自分を呼ばれた依姫は心の中で歓喜の声を上げた。これがものを教える者としての喜びであるのかと。
 それにより一瞬緩む依姫の心。だが彼女はここで浮かれてはいけないと、自分の気を引き締めた。
「それはですね、神霊の力を借りた実戦を皆さんに見てもらおうというものです。それがこの特別授業の締めという訳です」
 そして、依姫は勇美に呼び掛ける。
「勇美、準備はいい?」
「合点承知!」
 対する勇美は万端のようだ。
(それじゃあ、行くとしますか。『韋駄天』様、お願いします)
 そう心の中で、自分に力を貸してくれる神に呼び掛ける。ちなみに声に出さないのには訳があった。
 すると勇美の傍に金属辺が集まっていき形成される。
「【速符「ソニックラプトル」】!」
 そう勇美がスペルした先には小型で身のこなしが得意そうな恐竜……をかたどった機械が形造られていたのだった。
「それでは、依姫さん。手筈通りに行きますよ」
「ええ」
 準備が整った勇美は、依姫と言葉を合わせた。
 そう、これが勇美と依姫が考案した特別授業の内容であった。勇美が造り出す機械の獣を、依姫の神降ろしで下していき、神の偉大さを身をもって実感してもらおうという寸法だ。
 故に勇美が神の力を借りる時に口には出さなかったのだ。神の力を借りて戦う依姫を立てるため、勇美も神の力を借りている事は隠したのだ。
 ──つまり、勇美がやられ役、もとい悪役を引き受ける事を選んだのだ。それはレミリアとの弾幕ごっこや豊姫との対談を受け、立派に『悪』として生きる者達に触発され、自分もそういった悪を目指していこうと決心した事が火種となっていた。
 そして、悪を引き受ける上で勇美は『恐竜』をテーマに選んだのだ。雄々しくて獰猛なイメージの強いそれはいかにも盛大に倒される様が絵になると思っての事だ。
 その考えに至った理由は、紅魔館に招待された事が切っ掛けで勇美がそこの図書館によく通うようになり、そこで恐竜に関する文献を読んで魅了されてしまったという訳である。中二病真っ盛りの故の悲劇であった。
 と、そのような事があって、今の勇美がここにいる訳である。
ソニックラプトル! 行っちゃって下さい!」
 とうとう勇美は自分の分身となった鋼の古代生物に指令を送った。するとその小型恐竜メカはタンを足踏みを一つしたかと思うと、勢いよく駆け出したのだった。
 俊敏に依姫に迫る恐竜。さすがは音速の意を冠するだけの事はあるだろうか?
 いくら身体は小さくても、その速度から繰り出される体当たりの威力は相当なものになるだろう。
 だが、依姫は慌てなかった。
「単純な攻撃ね」
 事もなくそう呟くと、依姫は『声に出して』神に呼び掛けたのだ。
「『祇園様』よ! 女神をも閉じ込める力を我に!」
 そう宣言すると、依姫の隣に顕現する筋骨隆々の大男の像。
「うわ、何か浮かび上がった!」
「すげ~!」
 それを見ていた生徒達から感嘆の声が次々に上がった。
(掴みは良好みたいですよ、依姫さん)
 そう心の中で依姫を応援する勇美。彼女は依姫が今敵対しているとはいえ、やはり尊敬する師が持て囃されるのは嬉しいのであった。
 その事を依姫も受け止めていたかも知れない。だが、彼女は非情に勝負に徹した。
「【縛符「牛頭の牢獄」】!」
 そう宣言して、依姫は手持ちの刀を盛大に地面に突き刺したのだ。
 するとソニックラプトルの周りに白骨化した動物の肋骨のように無数の刃が生えたのだ。月で霊夢達を拘束した時と同じである。
「止まって! ソニックラプトル!」
 勇美に言われ、すかさずソニックラプトルは急静止してその場に踏み止まった。このまま突っ走っていれば神の裁きを受けていた所である。
「すごい、地面から刀が生えた……」
「漫画の技みたい……」
 子供達も呆気にとられながら固唾を飲んでいた。彼らが受けていたインパクトは絶大だろう。
(依姫さん、子供達の心を見事に掴みましたね)
 嬉しくなる勇美であった。だが、彼女とてそれだけで終わらせる気はなかった。
(でも、私もここで引き下がりはしませんよ!)
 そう勇美は闘志を燃え上がらせると、新たなる神に思念を送った。
(『ガイア』様に『ネプチューン』様。お願いします)
 勇美が念じると、囚われたソニックラプトルは分解され形を造り替え始めた。
(あっ、変形であってマッくん自体が動いた訳じゃないから裁きは受けずに済んだみたいだね)
 ほっと胸を撫で下ろす勇美。祇園様に囚われてのこの行為は謂わば賭けだったので、その賭けに無事に勝ったようで安堵するのだった。
 そして、恐竜役のマックスの新しい姿の名前が明らかとなる。
「【地海竜「ランド・ショニサウルス」】!」
 その名前を呼ばれたマックスの姿はくちばしの長い海竜の姿となっていた。
 そして、勇美は早速生まれ変わった彼に指令を送った。
「ランド・ショニサウルス。地面に潜るのよ!」
「何ですって?」
 さすがの依姫とて、その勇美の指令には驚いてしまった。何故なら地面の中に逃げられては祇園様からの天罰をもかわす事が出来るからだ。
 そしてズブズブとマックスの周りの土が泥のように溶けて、彼は地中に潜っていったのだ。実際に土が溶けた訳ではないが、彼の周りの土がそうなっていったのだ。
『考えたわね』依姫はそう思いながら、刀を地面から抜き、これ以上継続する意味のなくなった祇園様の力を解除するのであった。
 するりと素麺をすするかのように綺麗に刃の群れは地面に吸い込まれてしまった。
 そして、依姫は自由の身となった敵に警戒する必要が出たのだ。
 つまり、依姫は油断はしていなかった。だが、相手が『地面の中を泳ぐ』という、抜かりなく勉強を怠らない自分ですら中々味わない事態に手をこまねいていたのだ。
 依姫の強さを人一倍実感している勇美はこの好機を逃しはしなかった。彼女はランド・ショニサウルスを慎重かつ大胆に地中を『泳がせて』いた。
 そして、彼は丁度依姫の足下まで差し迫ったのだ。
「いっけえ! 名付けてサウルスドリル!」
 勇ましく即興の技名を叫ぶ勇美。それに合わせるように依姫の足下にピシッとヒビが入った。
 そして、そこからマックスがくちばしを中心に身体を回転させながら勢いよく砕いた土を撒き散らせながら飛び出して来たのだった。
「!」
 これに依姫は驚愕する。だが、彼女とてそう易々とは攻撃を通しはしなかったのだ。
「甘い!」
 歯切れ良く言い切ると、依姫は手に持った刀をマックスのくちばしに的確に合わせたのである。
 ぶつかり合う刃とドリル。そこからけたたましい金切り音と共に激しく火花がばら撒かれた。
 このままいけば力は均衡し合い、競り合いは長引いてしまうだろう。だが、この流れに変化が訪れる事となる。
祇園様よ、私自身に力を貸したまえ!」
 依姫のこの宣言であった。それにより彼女に祇園様の膂力が備わっていったのだ。
「【強符「暴神の力自慢」】!」
 そして行われたスペル宣言。それは依姫が見せた設置トラップ的な用途以外の祇園様の力の使い方であった。
「ふんんっ!」
 依姫は一際力むと、ドリルの猛攻を力任せに刀で弾き飛ばしたのだ。
「ええっ!?」
 今度は勇美が驚愕する番であった。
 それは、優勢に進めていた筈の自分の攻撃が防がれた事に加えて、依姫が同じ神でも違う見た事のない力を見せた事にあった。
 そして渾身の攻撃を見せていたマックスは後方に飛ばされ、大きな音を立てて地面に叩き付けられたのだった。