雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第67話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第六十七話 明かされる秘密】
「それでは私達は一旦永遠亭に戻りましょう。お姉様、お願いします」
「任せといて」
 レイセンを連れて一時地上の永遠亭に戻る事に決めた一行。そこで依姫は豊姫に能力で地上へと連れていってもらうべく伝える。
 だが、その最中勇美はある事を思っていた。本当にどうでもいい事を。
「豊姫さん?」
「何かしら?」
「そこは違いますよ。『お姉ちゃんにまっかせなさ~い☆』じゃないと」
「……本当にどうでもいいね」
 これには豊姫は呆れて、突っ込む意欲も沸かなかったのだった。
 だが、勇美はここで引き下がらなかったのである。
「む~、どうでもいい事ありませんよ。豊姫さんってお姉さんだし帽子も髪型もウサギ好きな所まであの人に似てるんですから」
「そういう別次元の話はやめようね」
 豊姫はこの話はここまでにしておきたかったのだった。でなければウサギを注文してしまいかねないと懸念しての事であった。大のウサギ好きの自分ならやりかねないだろう。
 閑話休題。豊姫は気を取り直して能力発動の準備に取り掛かるのだった。と言っても手間らしい手間を掛ける事なく、すぐにでも発動出来るのだが。
「それじゃあ戻るよ。レイセンも私と一度一緒にやった事があるから心配ないよね」
「はい♪」
 元気よく返事をするレイセン。そう声が弾むのは訳があった。
 それは、以前豊姫と一緒に地上に出向いた時には空気が張り詰めていた状況だったからだ。
 まず、侵略者を捕らえるという展開だったというのが一つの理由である。それ故に『敵』と初めて対面するレイセンには刺激が強すぎたのだ。
 それに加えてもう一つ原因があった。
 その原因とは他でもない、豊姫の事であったのである。
 レイセンには感じられたのだ。その振る舞いはいつものように飄々としながらも、重苦しい空気……それがあの時の豊姫から醸し出されていたのだ。
 あの時の豊姫の有無を言わさぬ冷徹さ、そして地上に対する優位を仄めかすような物言い……その時の豊姫の様子をレイセンはこの先忘れる事は出来ないだろう。
 だが、今は侵略者を捕らえる等という異常事態ではないのだ。確かに今話題に上がっているのは当の八雲紫だが、レイセンにとって今は任務ではなく羽休めの一環なのである。
 だからレイセンは良い気分なのだ。肩の力を抜いて豊姫と地上に出向ける。彼女にとってこれから憩いの時間が待っているから期待が胸の内で膨らむのである。
「それじゃあ行こうか」
 レイセンがそのように考えていると、いよいよ当の豊姫から声が上がるのであった。
「はい」
 そうレイセンは再度返事をする。もう彼女は心の準備は出来たようだ。
 豊姫の能力で一気に別の場所へ移動する。その演出は何度味わっても慣れるものではないのだ。何せ周りの景色が瞬時に別物になるからだ。
 だが、前もって身構えていればどうという事はないのだ。──ここにレイセンの気持ちは決まっていたようである。
 そして、豊姫、依姫、勇美、レイセンの四人は地上へと赴くのだった。

◇ ◇ ◇

 そして一行は永遠亭のすぐ側の竹林の中へと辿り着いていた。
「う~ん、いい香り~♪」
 そう言って地上の空気を堪能するのは勇美であった。やはり彼女は地上で生まれ育ったのだから、そこの空気は実に馴染むのである。
 対して他の三人は穢れの無い月で育った為に、抵抗が無いと言えば嘘になる。
 しかし、一般的な月の民のように軽蔑の対称には決してしてはいなかった。月での倫理があるように、地上での倫理もある事は良く分かっていたのだった。
 それは、まず永琳が綿月姉妹にすべからく教えた事である。そしてその二人を通じて玉兎達にも伝わったという訳だ。
 そのように『繋がり』の大切さを依姫は分かっていたからあの時勇美とコンタクトを取り……そして今があるという事である。
 その事実を依姫は噛み締めながら、勇美とレイセンと共に永遠亭を目指すのだった。
 そして一行は永遠亭で永琳に挨拶をした後、休憩室へと赴いていた。
 すると、綿月姉妹の二人はおもむろに辺りをキョロキョロと確認をし始めた。それを見ながら勇美は何事だろうかと思う。
 対してレイセンは、それを疑問には思ってはいないようであった。それどころか、どこか卓越したようにすら見えた。
 一人と一羽がそのような対照的な振る舞いを見せている中で、とうとう依姫は切り出す。
「『演技』、ご苦労様でした、レイセン……いえ『イシン』」
「??」
 依姫の言いたい事がまるで分からずに、勇美の頭にはクエスチョンマークが大量に出るばかりである。
 対して勇美の隣の玉兎は、話の内容を抜かりなく熟慮しているようで「はい」と歯切れよく返事をした。
 一人置いてきぼりを喰らって、勇美は堪らずに聞いた。
「どういう事ですか、レイセンさん~?」
 すがる様に言う勇美に、豊姫は実にしれっと彼女に言ってのける。
「残念。違うわよ勇美ちゃん。彼女は『イシン』なんだから~♪」
「だから分かるように教えて下さい~!」
 自分だけ煮えきらないこの状況に、勇美は頬を膨らませて抗議した。やっぱり彼女は小動物っぽかった。
 豊姫はそんな勇美を見ているのも愛らしくて楽しい訳であったが、ずっとからかい続けているのも可哀想なので勇美に事の説明をしようと心に決める。
「……依姫、いいかな?」
「ええ、勇美にとってもイシンにとっても問題はないでしょうから」
 意味ありげなやり取りを綿月姉妹は行う。その後二人は頷き合い、互いに承諾をしたようだ。
 そして、豊姫は勇美に向き直った。その表情は些か真剣味を帯びている。
「勇美、前に私と喫茶店に行った事を覚えてる?」
「あ、はい」
 突然その話題を振られて驚く勇美。あの時は自分の夢や、自分が豊姫のように『悪』を背負う事を決める切っ掛けになった有意義なやり取りであった。だが、その話が何故今出てくるのだろうか?
「あの時最後に私が言った事覚えてる?」
 そう言われて勇美は、ますます話が分からなくなりそうで混乱しそうになる。しかし、ここで彼女は頭に電流が走るような感覚に陥ったのだ。
「はい、思い出しました。『あの子はもうレイセンじゃない』でしたよね!」
 クイズで正解を言い当てたかのように頭の中が済みきった体感の元勇美は言ってのける。
 よし、正解を言い当てた。そう思いながら勇美は得意な気持ちとなる。だが、豊姫から吐き出された言葉はこんなものであった。
「正解はCMの後で」
「今答えろぉ! そして『よくできました、よくできました』と機械音声で誉めて下さい!」
「……勇美のその突っ込みもおかしいわよ……」
 依姫は、ずれた発想の姉と友達に頭を抱えるしかなかった。どうでもいいけどあの番組、司会者が巨匠からイケメン俳優に変わってから進行がグダグダになったなあと思ったりもした。
 閑話休題。脱線をする二人を元のレールに戻そうと、依姫は話を再開する。
「では、話を元に戻しましょうか」
「え、ええ」
「そうですねぇ……」
 依姫の有無を言わさぬような雰囲気に、二人は咄嗟に真面目に振る舞うのだった。
「私からも話を元に戻す事をお願いします」
 ここで、しばらく置いてきぼりを食っていたレイセン──いや、イシンも提案してくる。
「おほん、それじゃあ話を続けるわね」
 そう言って豊姫は気を引き締め直して続け始める。
「話は『もうこの子はレイセンではない』って所まで行ったっけ?」
「はい」
 豊姫の再確認に勇美も肯定の意で示す。それをした後、やはり勇美は疑問符が頭に浮かんでしまうのだった。
「それってどういう事でなんですか?」
「うん、やっぱり気になるよね。それじゃあ説明するわね」
 勇美の素直な反応に、豊姫は微笑ましくなりながら彼女の疑問に返す。そして豊姫は事の詳細を説明していくのだった。
「まず言うとね、この子にレイセン──今の鈴仙の事ね、それの代わりを務めてもらう事にしたのは、元々月での騒動の間だけって依姫と決めていた訳よ」
 そう説明を始めていく豊姫に補足する形で依姫がそこに入っていく。
「今の鈴仙を失って困惑しているだろう玉兎達の所へ励みになるようにと、私はこの子をレイセンだと紹介した、そういう経緯だったという事ね」
「そうだったんですか……」
 色々複雑な事情があったのだなと、勇美は覚束ない意識の中でそれを聞いていた。
 そして、自分の場合は依姫に見出だされてそのまま関係を持つ事が出来たのを、実にストレートに話が進んだのだなと再確認するのだった。
 そう勇美が思っている中、依姫は話を続けた。
「だから、この子をレイセンとして私達の手元に置いておくのは騒動の間だけ……それは最初から決めていた事だったのよ」
「……」
 それを聞きながら勇美は考えを馳せていた。──二人が言わんとしている事は分かった。この子をレイセンとして務めさせるのは騒動の間だけで、それが終わった今はその必要が無くなったという事を。
 でもそれだと、と勇美は新たな疑問を抱くのだった。彼女はそれを迷う事なく口にする。
「事情は分かりました。ですが、その場合レイ……イシンさんはどうなるのですか?」
 それが勇美が抱いた一番の問題点であった。彼女がレイセンとして綿月姉妹の元に置かれなくなったら、一体どうなるのかと。
 そんな不安を胸にする勇美に対して、豊姫は優しい微笑みを携えながら諭すように語り出した。
「安心して勇美ちゃん。そこでこの子の名前の事よ」
「と、言いますと?」
「この子に新しい名前を付けたのは、この子がこれから一人立ちして行くのを後押しする、その為に新たにイシンと名付けたのよ」
「一人立ちですか……?」
 その言葉を聞いて勇美は疑問に思う所があったのだ。彼女がそう思案している所に、再度豊姫から声が掛かる。
「勇美ちゃんはこう思っているんでしょう? 『イシンが一人立ちするには早いのではないか』って?」
「は、はい。失礼ながら……」
 豊姫に図星を突かれて驚き、勇美は正直にその事を打ち明けるのだった。
 そう、勇美が思う所。イシンが綿月姉妹の元を離れて自立するには、まだ経験と実力が不足しているのではという所であった。
 その疑問に対して、尚も豊姫は答えていく。
「この子、イシンなら今後心配は要らないわよ」
 そう言って豊姫はイシンに目配せをする──この先を言っていいのかという意味合いを込めて。それに対してイシンは答える。
「はい、構いませんよ。お願いします」
「ありがとうね」
 本人から承諾を得られた豊姫は彼女ににっこりと笑みで持って返す。
 了承は得られたのだ。ならば最早迷う事はない。意を決して豊姫は事の核心に迫った。
「イシンが大丈夫だって事の理由はね、この子が『能力』に目覚めたからよ」
「!」
 その発言を受けて勇美はどきりとした。それは衝撃の事実だったからだ。
 しかし、その一方で『驚き』はしなかったのだった。やっぱり薄々感じていた通りだと勇美は再認識するのだった。
「勇美、余り驚いていないようね」
「はい、何となくそうじゃないかと思っていたんですよ。イシンさん達と弾幕ごっこをした時からそう思っていたんです」
 そう、それは勇美が先程イシンに他の玉兎二羽を加えた一対多数の勝負を繰り広げた時の事であった。
 その時の戦いでイシンがスペルカードを使用してから戦況が一変したのだ。そこから勇美は何かを感じ取っていたようだ。
 それは、勇美が今まで弾幕ごっこを幾度となくこなして来たが故の賜物かも知れなかった。彼女のスキルや感性はそれにより確実に磨き上げられていったという事だろう。
 そして今、その勇美の察し通りの事実であった事が判明したという訳だ。自分の感性が確かに上がっている事に勇美は密かに嬉しい気持ちを抱くのだった。
 話はイシンに戻る。彼女は『能力』に目覚めた事はこれで判明したのだ。そこで勇美は思った事を口にする。
「でもイシンさん、いつ頃から?」
 当然出てくる疑問であるが、それに対してイシンは嫌そうな顔一つせず誠実に勇美に答えていった。
「まず、地上に逃げた時に八意様と会った時からですね。八意様はそこで私の何かを見抜いていたのかも知れません」
「やっぱり八意先生って抜け目がないですね~」
 イシンの話を聞きながら勇美はただただ感心するばかりであった。やはりあの人は豊姫と依姫の師匠その人なのだと。
 そう勇美が思う中、イシンは話を続ける。
「でも、それだけじゃないんですよね」
「?」
 勇美は首を傾げる。イシンの話はまだ終わっていないという事なのか。
「決定的になったのは、豊姫様と月への侵略者を阻止する場にたちあった時からなのです」
 そう言った後、イシンは説明をし始めた。
 豊姫の月人のリーダーとしての冷徹さ、月人の思想に対して『本当にそうなのか?』という沸き上がってくる疑問。
 あの時は彼女の頭の中で目まぐるしく沢山の事が巡ったのだった。そして極め付きにとイシンは最後に付け加える。
「あの時私は思ったんですよね。守るものの為に敵に立ち向かう、それはとても気の張り詰める事だって」
「あっ……」
 その言葉を聞いて勇美ははっとなった。
 その理由は勇美は未だに『実際に敵に立ち会う』という経験をしていないからである。
 そう、即ち彼女は弾幕ごっこというルールに守られた、謂わばスポーツのような概念の中での決闘しかした事がなかったのだった。
 だから、勇美は思った。この人は自分がまだ遭っていない経験を出来たのだと。なので勇美はこう言っておいた。
「イシンさん。こういう言い方をするのはちょっと不謹慎かも知れませんが、あなたは貴重な経験をしたって事かも知れませんね」
「そ、そうですか……?」
 勇美にそのような言われ方をして、イシンはキョトンとしてしまった。そんな彼女に対して勇美は続ける。
「だからイシンさんは、私にはないものを手に入れる事が出来たんです。これからその事を大切にしていって下さいね」
 それを聞いてイシンは暫し考えに耽っていたが、意を決して口を開いた。
「はい! 私がした経験、大切にします!」
 嘘偽りのないイシンの答えであった。そう返事を返しながら彼女は思っていた。
 ──こういう経緯になったのも豊姫様の計算通りだったのかと。
 その可能性は高いだろう。豊姫が普段まったりとしているのは、それが彼女の全ての本質でない事は侵略者を迎え打った時に分かったのであるから。
 掴み所のない豊姫の事だから、それを指摘してもきっとはぐらかされてしまうだろう。
 だからイシンは──心の中で彼女に感謝する事に決めたのである。
 そう心に誓いながら、イシンは締め括りの為にこう言った。
「あの時に味わった緊張感から、私解ったんです。『命を張るって事は誰にでも出来るものじゃない』って」
「イシンさん……」
 中々言えるようになる言葉ではない、勇美はこの時尊敬の眼差しでイシンを見るのだった。この人は自分が辿り着いていない境地を知ったのだと。
 だから、勇美はこう言った。
「イシンさん、私とあなたとは住む場所が違うから中々会う機会がないかも知れませんが──これからもお願いします」
 それが勇美が抱く本心であった。勇美は彼女には同志、ライバル、先輩等様々な感情を抱いてイシンと関わって行きたいと切に願うのだ。
 勇美の言葉を聞いてイシンは暫し呆けていたが、やがて意識を持って言った。
「はい、よろしくお願いしますね」
 そうしてイシンは満面の笑みで以てそう答えたのだった。
 ここに勇美とイシンには風変わりな友情が生まれたのである。互いに二人は満更でもない心地よさを感じていた。
 だが、勇美にはまだ聞きたい事があった。それを彼女は口にする。
「それで、イシンさんは豊姫さんと依姫さんの元を離れていったらどこへ行くのですか?」
 それは更に重要な事柄であろう。何しろ月のリーダーたる綿月姉妹の元から巣立っていったイシンはどこへ行き着くのだろうかという話となる。
 その疑問に答えるべく口を開いたのは依姫であった。
「最もな質問ですね。そして、それがイシンには先程まで玉兎達の前でレイセンを演じてもらっていた理由です」
「それはどういう事ですか?」
 再び話が読めなくなったので勇美はまた首を傾げてしまった。
「それは、率直に言うとイシンには月の重役の補佐として取り入らせれるという話を進めているのよ」
「ええっ!?」
 これには勇美は驚いてしまった。些か話が飛びすぎてはいないかと。
「そう、勇美も驚く事よね。だからこの事は他の玉兎達には秘密にさせたという訳よ」
「ですよね……」
 事の重大さを知って呆けたまま、勇美は相槌を打った。
 確かに依姫が配慮するのは最もだ。他の綿月姉妹の元で訓練を受けていた玉兎よりも後から入って来たのに、それを追い抜くような形でイシンは成り上がってしまったのだから。
 玉兎達は純粋であり、人間程の妬みの感情は少ない。だが、全くない訳ではないのだ。
 だから、依姫は他の玉兎の気持ちとイシンの安全の為に秘密裏に話を進めていた、そういう事である。
「イシンさん……おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」
 まだ呆けた状態ながらもここは労うべきだと踏んで言う勇美と、突如労われた事によりたどたどしくもお礼で以て返すイシン。
 話は飛んでいるものの、事の流れは知る事が出来た勇美。だが、こうなってしまっては最後にこう聞いておかなければいけないだろう。
「……失礼な事言うかも知れませんが、『イシンさんが目覚めた能力ってそんなに凄いんですか』?」
 それが勇美が導き出した結論であった。そう彼女が至ったのも無理のない事であろう。
 ──何せ月の重役の補佐という大それた役職に就く訳だ。生半可な能力では到底辿り着けない境地というものである。
「ええ、切っ掛けを作った私でも驚いたわ」
 そう切り出したのは豊姫であった。そして彼女は『イシン、お願いね』と何かを促したのだった。
「はい、勇美さん。それではお見せしますね」
 そう言ってイシンはおもむろにスペルカードを取り出して宣言する。
「【識符「ギアブレインズ」】……」
 イシンはそう神妙に紡ぐと、彼女の背後に無数の歯車のビジョンが出現したのだ。
 そう、勇美が彼女達と弾幕ごっこに打ち込んだ時と同じ光景である。これがイシンの能力の根源なんだと。
 だが、ここからはあの時とは様相が違っていたのだった。
 何やら噛み合った歯車の間で文字のような物が忙しく蠢いているではないか。勇美は何だろうと思い、それらを注意深く見てみると……。
『『演技』、ご苦労様でした、レイセン……いえ『イシン』』
『この子、イシンなら今後心配は要らないわよ』
『ええ、切っ掛けを作った私でも驚いたわ』
 等という文字も見受けられたのだ。それは正に。
「今までの会話の内容ですね」
 その勇美の指摘する通りなのであった。しかし、これが意味する所が分からずに勇美は困惑した。
「これ、どういう事なんですか?」
「うん、やっぱりこれだけ見ても分からないよね~」
 勇美の疑問に、豊姫は勿体ぶって彼女をはぐらかしていた。
 イシンは失礼ながらもそんな勇美を見ているのが癒されると思っていたが、このままでは可哀想だと考えて助け舟を出す事にしたのだった。
「勇美さん、私の能力は『あらゆる文章を管理する』というものですよ」
 それは具体的にどういう能力なのか。勇美がその事を聞くと、イシンはなるべく明かしたくないのが普通の自分の能力というものの中にありながら快く説明を始めるのだった。