雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER】第74話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第七十四話 高みへの挑戦:3/3】
 勇美と紫の弾幕ごっこの勝負の行方は鮮烈を極めていった。その中で紫を追い詰めたかに見えた勇美であるが、攻撃を紫お得意の境界の力でかわされて逆に窮地に陥ろうとしていた。
「あっ!」
 そう声をあげて防御態勢を取ろうとした勇美であったが、それは叶わなかったのである。──何故ならブラックカイザーは紫へと斬り掛かって勇美から距離を取っている状態だったからだ。
「やばっ……」
 そう勇美が言い終わるより前に紫の攻撃は彼女に到達する事となった。そして、彼女が放った紫色の弾丸は勇美に直撃……はしなかった。
「何ですって?」
 当然紫はその光景に驚くしかなかったのである。完全に背後を付き、かつ得意の分身が側から離れている勇美が反応するとは予想外なのであった。
 勇美は見事に紫の放った弾丸をその身でひらりとかわして見せたのである。
 驚く紫に対して、勇美はしたり顔で言った。
「私が戦えるのはマッくんと神様だけのお陰じゃないんだからね~」
 言って勇美は背後の紫目掛けて、星の銃の引き金を引いたのであった。
「!」
 咄嗟の事で、さすがの紫も反応が出来なかったようだ。隙間を閉じて回避する対処が間に合わなかったのだった。
「くぅっ……」
 勇美の放った星の弾丸をその身に浴びた紫は苦痛に顔を歪めながら呻いた。
 そして、彼女は咄嗟に隙間から這い出ると、宙を浮きながら素早く体制を整え直す。
「やりますね……」
「いえ、私自身も驚いていますよ。こうもすんなりと自分の力で攻撃をかわせたなんて」
 悔しそうにする紫に対して、勇美は自惚れずに地に足を付けながらそう言った。
 そう、勇美自身自分の成長に驚きを見せていたのだった。そして彼女は様々な事柄に感謝する。
 自分を見出してくれた依姫に、そして自分と向かい合ってくれた幻想郷に。それがあったからこそ今の自分があるのだと、その事を忘れてはいけないと再度勇美は自分に念を押すのだった。
 勇美がそう思っていると、紫は勇美と十分に距離を取りながらこう言った。
「もうあなたはちっぽけな人間とは私は絶対に思いませんわ」
「それは光栄です」
 勇美はそう、紫程の人物に認められた事を誇りに思いながらそう返した。そんな勇美に紫は最後の確認をするかのようにこう言った。
「あなた程の存在なら、このスペルを使う価値がありますわね。受けてくれますか?」
「……はい」
 意味深な紫の言葉に一瞬勇美は迷うが、その言葉から彼女の強い意志が伝わってきたのだ。だから、勇美はその紫の想いを無碍にしてはいけない、そう思い答えを導き出したのだった。
「いい心構えですね……では!」
 そう言った後、紫の雰囲気は素人目にも分かる程にはっきりと変化するのが感じ取れた。
 一体何が起こるのか、勇美はごくりと唾を飲みながら何が起こってもいいように体制を整えた。紫に斬りかかって距離をおいていたブラックカイザーも既に自分の元に呼び戻してあり、万全の状態である。
 そんな勇美に対して、紫は新たなスペルカードを宣言する。
「【魔境「パラドックスの怪」】」
 先程の『ラプラスの魔』と語感が似ているスペルであった。恐らくそれのアレンジを施して開発した代物であろう。
 どこからでも掛かって来て下さい。そう強い意志で向かえ打つ姿勢の勇美。
 そんな勇美の姿勢に応えるかのように、はたまた嘲笑うかのように事は起こっていった。
 まず、紫の周囲から黒と紫色のオーラのようなものが放出したかと思ったら、一気に辺り一面に広がっていったのである。
(……ワルプルギスの夜と同じようなものかな?)
 その演出に勇美は、これから起こる事にそれ位の事だろうかと思ってしまう。
 だが、そうではない事がこの後すぐに分かるのだった。まず辺りを包んだ黒と紫色のオーラの量は濃厚であり、半端なかったのだ。
(これは……)
 それだけで勇美は今の異様な状況というものが実感出来た。
 そして、感じたのだ。紫はこれで勝負に出て来たという事を。
 そう勇美が思っていると、瞬く間に黒と紫色は完全に周囲を支配したのだった。
 その瞬間、勇美は理解した。これは断じて目眩ましの効果を狙ったもの等ではないと。もっと得体の知れない何かが、このスペルからは感じ取れるのだった。
(……)
 勇美がそのような考えを巡らせている間にも、変化は目に見て取れる形となっていった。

◇ ◇ ◇

「あれ……?」
 勇美は思わず首を傾げてしまった。他でもない、今いる状況である。
 今まで彼女は紫の扱う空間にいた筈である。それが今は……。
 崩れかかったコンクリートの壁に、剥き出しの地面。それはまるで。
「廃墟……?」
 勇美が呟く通りであった。今彼女がいる場所は、使われなくなり崩壊しかけた建物の一階のフロアそのものであったからだ。
 取り敢えず外へ出るべきか。勇美が思っていると、突然彼女の前に何かが迫って来たのだった。
 その正体は勇美は分からなかったが、取り敢えず危険が迫って来た事は理解出来た。だから彼女は黒騎士に命令を下したのである。
「ブラックカイザー、向かえ打って!」
 勇美の命に応え、黒騎士は手に持った大刀を目の前に構えて勇美を護る体制を取った。
 そして、次の瞬間、彼の持つ刀にビームが当たったのだった。パキンと弾かれるような音が鳴り響くも、彼の刀は無事で、見事にビームの攻撃を防ぐ事に成功したのだった。
 取り敢えず、彼女達は何者かの攻撃を防ぐ事には成功した。だが、それだけでは当然安心出来る状況ではなかった訳だ。
 彼女達が次にやるべき事。それは、今の攻撃を仕掛けて来た敵をその目で認識する事であった。
 そして、二人は協力し合ってそれぞれの目で以て辺りを確認していった。
 だが、辺りは静まりかえった廃墟の内部が広がるのみであった。しかし、二人は諦める事なく敵の散策を続けていった。
 二人がそうしている内に、彼女達に何者かの気配が迫って来たのだ。それに一瞬勇美は驚くが、臆する事なくこう言ってのけた。
「そっちから出て来てくれるなんて好都合だよ♪」
 そして、その気配へと指を指して相棒に指示を出す。恐らく手加減のいらない相手であるだろうから、この命令を。
「ブラックカイザー、思いっきりぶった斬っちゃって♪」
 その勇美の声を合図に、黒騎士は彼女が指す方向へと刃を思いっきり上から下へと振り下ろしたのだ。
 そして、それは一瞬であった。その敵はものの見事に左右から真っ二つに両断されてしまっていた。
 その敵の正体を勇美は見ると、それは機械仕掛けの人型の存在であったのだった。ただし浮遊して移動する為か下半身のパーツは省略されたかのような構造となっていた。
 そして、その完全な人型ではない機械の兵士はパチパチと火花を散らせて爆散してしまったのだった。
「ふう……」
 取り敢えず目の前の敵を倒して一息つく勇美。だが、今の現状は全くを以て安堵する事の出来ない状況なのだ。
 その事を勇美は再認識して気を引き締める。まずは今は一体どうなっているのか現状の把握である。
「まずは、ここの外から出てみないとね……」
 そう自分に言い聞かせるように呟くと、勇美は今いる建物の外の光が見えている場所へと歩を進めたのだ。
 そして、勇美はとうとう建物の外へと赴いたのだ。
「っ!!」
 彼女を待っていた光景を目の当たりにして、勇美は声にならない叫びをあげてしまった。
 そこは辺り一面廃ビルや壊れかけた建物や瓦礫の山が散乱し、空には暗雲が立ち込める、正に地獄絵図と呼ぶに相応しい光景が繰り広げられていたからだ。
 それは、正にSF映画によく出てくる滅びの未来の描写そのものであった。
 だが、これは映画ではなく実際に勇美の目の前に展開されている情景なのであった。
 勿論紫のスペルカードによる効果である事は分かる。いや、寧ろ、このような効果を出せる彼女の力がいかに底が知れないかを嫌という程示すバロメーターになっていると言えよう。
 そして、辺りを見回して目的の人物を見付けた勇美は、その人物に対して離れている為に大声で呼び掛ける。
「これはどういうつもりですか、紫さん!?」
 そう勇美に呼び掛けられ、低めのビルの屋上から紫が答えを返してくる。
「これが私の『パラドックスの怪』の力よ」
 そう紫は言い切った。これにより今の怪現象は彼女のスペルカードにより引き起こされている事
が証明された。
 正に今の状況は近未来からの介入によりタイムパラドックスを引き起こされ、歴史を改変されて滅びの道を辿った末路そのものであると言えよう。
 だが、勇美には腑に落ちない事があったのだ。それを彼女は口にする。
「でも、紫さん。何でこれを私に見せるのですか?」
 それはもっともな意見であろう。今の光景と勇美にはどういった関係があるというのだろうか?
 その答えを紫は淡々と語っていった。
「それは……他でもない、あなたの相棒の『マックス』そのものよ」
「マッくんがどうかしたの?」
 予想していなかった紫の答えに、勇美は頭に疑問符を浮かべながら聞き返した。
「あなた……気付かないかしら? あなたのその相棒が異質な所……」
「あっ……」
 紫に言われて勇美はハッとして声を漏らしてしまった。今まで普通に使っていた力であるが、思い当たる節が多すぎたのである。
 まず、人間が機械を生成、変型させる事が出来るような力は幻想郷を探しても極めて異質な能力と言えるものであった。
 ましてや勇美は外来人なのである。その特異性は極めて大きいだろう。
 続いて、依姫が神降ろしの力を貸して勇美の力の動力源と出来た事も異例の事なのだ。本来依姫の神降ろしは彼女本人にのみ力を貸すものである。その力を勇美が使えてしまうというのも普通なら有り得ないだろう。
 勿論、幻想郷は全てを受け入れ、あらゆる情事をありのままに受け止める懐の広い存在である。その事は紫が一番知っている事実なのだ。
 しかし、今こうして紫は勇美の力に注意を促したのだ。それだけ勇美のそれは異質なものといえるだろう。
「……」
 紫に言われて、勇美は暫しの間無言となって考えていた。そんな彼女を見届けながら紫は続ける。
「あなたの力の特異性に気付いたようね」
「はい……」
 そのように勇美は自分の特異性を自覚した旨を紫との返答で伝えるのだった。
 だが、彼女の瞳には強い意志が宿っていたのである。そして、その心を言葉にする。
「私が異質なのはよく分かりました。下手をしたら今の映像のような未来を生み出しかねない事も。
 でも、今まで私が得て来たかけがいのないものは決して忌まわしいものではなかった。それだけは言えると思います」
 そう勇美は彼女が今想う事を打ち明けたのだった。それに対して紫は満足気な表情の微笑みをたたえて勇美を見据えながら言う。
「……あなたのその折れない心意気、見事ですわ」
「それは光栄です。そして私が培ってきた色々なものに応える為に──この勝負には勝たせてもらいますよ」
「いい心構えね」
 勇美とのそのやり取りに満足した紫は、おもむろに懐から扇子を取り出した。だが、今回はいつものように口元を覆う事はしなかったのだった。
「でも、心構えだけでは勝てない事を思い知らせてあげますわ!」
 いつになく力の籠もった口調で紫はそう言うと、手に持った扇子を勇美の方向へと向けたのだ。
「やりなさい、『最凶の魔物』よ!」
 そう、意味深な発言をすると、辺りの様子がにわかに変化が見られた。
 まず、空気の流れが変わったのだ。それに勇美が身構えると同時に、今度は激しい地響きが周囲を包み込んだのだ。
「っ!」
 それには勇美は驚き、どうすべきか思考を巡らす。そして、名案が浮かんだのである。
「そうだ、ブラックカイザー。こんな事してもらうのも何だけど、頼むね!」
 そう勇美に言われたブラックカイザーは手に持った大刀を背中に背負い、両手が空いた状態になった。
 すると、おもむろに彼は勇美を軽々と抱きかかえて見せたのだった。
 そう、勇美がとった名案は、屈強な体躯を持つブラックカイザーに自らの身を支えてもらい地響きから逃れるというものであったのだ。
「あらまあ、やりますわね……」
「ええ、お姫様抱っこなんて柄じゃないんですけど、今は四の五の言っていられませんからね」
 騎士に抱きかかえられるミニ丈の着物の姫君然となってしまった勇美と、それを茶化すように言う紫。
 紫は微笑ましい光景だと、何だか素敵な気分となりつつも、ここで当の勇美に釘を刺しておく。
「名案ですけど、まさか、地響きを起こす事が目的だとは思っていませんわよね?」
「ええ、もちろん。これはあくまで一時しのぎですから気にしないで下さい」
 紫の辛口の忠告に、勇美も饒舌な口調で返した。
 二人がそのようなやり取りをしている間にも、地響きの先にある本命の存在が顔を見せようとしていた。
 刹那、勇美の眼前の地面に一気にヒビが入り、そしてそれを突き破って巨大な何者かがその姿を見せたのだった。
 それはクラゲのように傘から無数の触手が生えている存在である。そのクラゲを模したかのような機械仕掛けの魔物であった。
 だが、特筆すべきはその大きさであろう。軽く8メートルはあり、勇美位の大きさの者なら軽く踏みつぶしてしまわんばかりの体躯なのだ。
「!!」
 それには当然勇美は驚愕してしまった。このような強力な隠し玉を紫は持っていたのかと。
「驚いたようね。でも、強い機械の相棒を使えるのは自分だけとは思わない事ですわ」
「……善処します」
 紫の皮肉めいた口調に、勇美は苦虫を噛みつぶしたように返す。だが、落ち込んだ様子はなく、キッと紫と、その魔物を強い眼差しで見据えた。
「戦意は失っていないみたいで何よりですわ。では、最凶の魔物よ──やりなさい!」
 紫がそう言うと、その機械仕掛けの巨大クラゲは機械によって作られた鳴き声をあげると、自慢の触手の一本を勇美目掛けて振りかざしたのだった。
「迎え打って、ブラックカイザー!」
 その攻撃に臆する事なく、勇美は的確に相棒に迎撃命令を下した。
 すると、ブラックカイザーは背中に背負っていた大刀を再びその両手に持ち直し、触手に一太刀を浴びせたのだ。
 甲高い音が鳴り響いたと思った次の瞬間、その触手は間接部分から分解されて細切れにされていたのだった。そして、ドカドカとその触手の断片達は地面に落ちていった。
「おやまあ……」
 敵の思いがけない奮闘に、紫は感心した様子で見据えながら呟いた。
 だが、決して余裕は消えていなかった。次に紫はこう言った。
「やりますわね。でも、このパラドックスの怪の世界は特殊でしてね……」
 そう言うと紫は威勢よく手に持った扇子を振りかざした。
「!?」
 その瞬間勇美は異様な雰囲気を感じた。その感覚に間違いがない事が次に示される事となる。
 紫が扇子を振りかざしたのを合図にして、細切れにした触手の断片が発光体のように眩く一瞬輝いたのだ。そして、続け様にそれは起こった。
 切り離された断片が、それ自体が意思を持っているかのように次々と本体の機械クラゲの元へと戻っていったのだった。それはビデオの逆再生の如く的確にであった。
 つまり、その今起こった事とは……。
「触手が再生しちゃった……!?」
 勇美はひっくり返りそうな声で言ったのが答えであった。
 つまり、敵の状態が元の木阿弥となってしまったという事である。ブラックカイザーの先程の快進撃が無駄となってしまったのだ。
 そんな彼らを紫は見据えながら呟く。
「あらら……、ちょっとスパイスが効き過ぎちゃったかしら?」
 いくらやり手に成長したとはいえ、人間の少女たる勇美には些か辛口の味付けだったかと紫は密かに心の中で反省しながら彼女を見ていた。
 そして、俯く勇美の表情は伺いしれない。
「……」
 そんな勇美を見ながら紫は思う。でも、あなたならこれ位乗り越えられるでしょうと。何せ私が見込んだ存在なのだからと。
 紫がそう思っていると、徐々に勇美はその顔を上げていったのだった。
 その表情は……実に晴れ晴れとしていたのである。
「いやあ、素晴らしいです紫さん!」
はえっ?」
 思いもしなかった勇美の言葉に、今度は紫がひっくり返った声を出す番であった。そういう状況になりつつも、勇美相手にこういう感情を抱くのにもだんだん慣れてしまいそうな自分が嫌になったりもしていた。
 だが、取り敢えず紫は勇美の真意を聞く事にする。
「……どういう風の吹き回しかしら?」
「だって、巨大なボディーに加えて再生能力といったら、『ラスボスの醍醐味』でしょう? だからついワクワクしてしまいましてね~」
「んまあ……」
 等と、紫は勇美の言い分に彼女らしからぬ返答の仕方をしてしまった。それ位勇美のふてぶてしい理論には意表を突かれたという訳だ。
 だが、何とか気を取り直して紫はこう返す。
「言葉が一丁前でも、それでやられたら口だけですわよ」
「分かっていますって♪」
 紫の挑発染みた言い分にも、勇美は得意気に返して見せるのだった。
 それにはさすがの紫も、些かカチンとくるものがあったようだ。
「その威勢、いつまで続くかしら? 最凶の魔物よ、遠慮はいらないわ!」
 言って紫は、今度は扇子を高らかに頭上に掲げて見せたのだ。その先程とは違う指示の仕方に、これが彼女の本気が込められているかのようであった。
 それに続いて、最凶の魔物は先とは違った機械の咆哮をみせたのだ。それはまるで、ドラゴンのようなファンタジーの産物の怪物が猛々しく雄叫びをあげているかのようだった。
 そして、とうとう魔物の猛攻が始まったのだ。再び彼は触手をブラックカイザー目掛けて突き付けていったのだが、問題はその数であった。一気に10本位の触手を同時に向かわせたのであった。
 当然だろう。クラゲの姿を模している以上、その触手は何10本と存在するのだ。それらの数は決して飾りではないのだから。
 窮地に立たされたように見えるブラックカイザー。だが、彼はそれらの猛攻に対してどっしりと構えていた。
 そして、無数の触手の凶刃は纏めて彼に向かっていった。
 そして、万事休すかと思われた瞬間、ブラックカイザーに動きがあったのだった。
 なんと、彼は目にも止まらぬ剣捌きで迫り来る触手を次々と切り落としていったのである。それは、彼自身が機械だから当然なのだが、精密にコントロールされたマシーンそのものといった様相であった。
 敵の猛攻にも怯まずに勇敢に立ち向かう騎士。その姿は正に勇者そのものだった。
 だが、そうしていつまでも攻防を繰り広げては埒が明かないというものである。その事を紫は指摘する。
「素晴らしいわ。でも、このまま続けては先が見えないのではないかしら?」
「ええ、私もそう思います」
 紫の意見に勇美も同意するのであった。だが、彼女には考えがあるのだ。
「でも、紫さんは二つの事を忘れていますよ」
「?」
 その勇美の物言いに、紫は訝しげに眉を潜めた。一体それは何なのかと。
 それに答えるべく、勇美は次なる手を打つ。
「まず一つ目ですが、私は神降ろしの力を同時に三柱まで借りれるのですよ」
 実は今勇美が力を借りているのは、僅か祇園様の一柱なのである。その一柱だけでここまで戦えてきたのは、まさに跳流からの餞別を使用したブラックカイザーの賜物と言えよう。
 そこに、勇美は新たなる神の力を追加しようというのだ。
「『アメノウズメ』に『石凝姥命』よ」
 そうして勇美は追加で二柱の神に呼び掛けたのである。そう、この組み合わせは……。
「【陽符「ラーズミラー」】!!」
 そう、勇美の切り札たる太陽の鏡の顕現であった。そして、荘厳な大鏡は狙いを寸分違わずに紫に向けられていたのだった。
 これは勇美の知恵の勝利である。機械クラゲの猛攻は相棒のブラックカイザーに任せ、自分はその司令官たる紫の首を直接かっ切る作戦に踏み切ったという事である。見事な連携作業と言えよう。
「発射!!」
 そして、迷う事なく勇美の渾身の砲撃が紫目掛けて放出されたのだ。轟々と凄まじい音を出しながら光のエネルギーは彼女目掛けて襲いかかっていったのだった。
 これで、敵の親玉を倒して勇美の勝利になるかと思われた。だが、妖怪の賢者たる紫はそう簡単に白星を提供してくれる生易しい存在ではなかったのだ。
 彼女に光の奔流が命中し、激しい爆発と激震が辺りを支配した。その状態が長く続いた後、漸く周囲の光景が見えてきた。
「!!」
 その瞬間、勇美は息を詰まらせてしまうかと思う程驚いてしまったのだった。
 幾重にも重なったバリアーに護られる形で、紫には傷一つ付いてはいなかったのである。
「間に合ったわ。【境符「四重結界」】……」
 紫は勇美の一撃を防いだ技の名前を口にした。
「結界。霊夢が使っていたでしょう。あれは私が教えたのよ」
 そう言って紫はどこか得意気になりながら感慨深い表情を見せる。
「……どうりで頑丈な訳ですね」
 勇美は皮肉交じりにそう感想を述べる。そして納得するのだった。
 何故なら勇美も霊夢の戦いを見る機会があったからである。そして地上で依姫と接戦したのは今でも鮮明に覚えている。
 これは謂わば師弟の絆とでも言えるだろうか。紫だけではない、紫と霊夢との繋がりの存在するスペルなのであった。
 と、ここで勇美はその顔に笑みを讃え始めた。
「……? 何がおかしいの?」
「いえ、紫さんと霊夢さんって、いい師匠と弟子みたいな関係なんだなって」
 そうのたまい、勇美は続ける。
「まるで私と依姫さんの関係みたいだって、そう思ったんですよ」
「そう……、それは素晴らしいわ」
 勇美の主張に、紫は決して嫌味ではないその感想を述べたのであった。そういった関係の大切さは、彼女とてよく分かるからだ。
 そう互いに通じるものを感じ合った二人であるが、ここで勇美は新たな発言をする。
「それでは『二つ目』ですよ」
 そう言いながら、勇美は次なるスペルカードを懐を出しながら続ける。
「私はその依姫さんと神様の助けを受けて、ずっとマッくんと二人で戦ってきたって事ですよ」
 言い切ると勇美はそのスペルの宣言をする。
「ブラックカイザー……マッくん。あなただけに任せっきりにはしないよ。【輝符「開闢の神剣」】!!」
 その宣言後、辺りに激しい光の爆ぜが巻き起こり、魔物も怯んだようでその猛攻を一瞬止めてしまった。
 その好機を逃さない形で、先程勇美が顕現した太陽の大鏡から再び光の波動が放出されたのだ。
 だが、今度はそれは紫に向かう事はなかった。代わりにブラックカイザーが持つ、英雄の力を携えた大刀へと収束していったのである。
 そして、神の力で構成された大刀は壊れる事なく貪欲に太陽のエネルギーをその身に纏っていった。
 その見た目はまるで太陽光で直接刀を作りあげたかのような様相となっていた。
 極め付きはその刀身のサイズであった。ゆうに5メートルは超えているだろう。
「いっけえー! マッくんーっ!」
 勇ましく勇美は叫びながら、相棒に指令を下した。
 そして、それに答える形でブラックカイザー──マックスはその光の剣をぶんぶんと振り回したのである。
 それにより、光の刃がまるで鞭のようにしなり暴れたのだ。いや、このサイズで例えるなら『大蛇』でもいうのが妥当だろう。大蛇の化け物を対峙した神の力がその大蛇のように振る舞う光景は些か皮肉と言えるだろうが。
 そして、マックスは一頻りその光の鞭を振り回した後、迷う事なく目の前へと振り下ろしたのである。
 轟音と極光が激しく繰り出され、『最凶の魔物』ですら呆気なくバラバラに分解されてしまったのだった。今度は粉微塵にされてしまったので、再生出来る見込みはないだろう。
 更に、光はその魔物へ指令を出していた紫そのものへも向かっていったのだ。
「くっ、四重結界……」
 だが、紫は臆する事なく、再度自分がこなせる最大の防衛手段を繰り出す。
 そこに、勇美達の結束の力による攻撃が直撃し、辺りは完全に白一色で染められていったのだった。