力が欲しい

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【MOONDREAMER リベン珠】第7話

【はじめに】の内容を承諾して頂けた方のみお進み下さい。

 【第七話 今日はここまで】
 清蘭と弾幕ごっこに勝利した勇美と鈴仙のコンビ。そして勇美はその勝利を条件にして清蘭から食事をせびるのだった。
「う~ん、美味しいクリームシチューだね~♪」
 そうのたまいながら勇美は清蘭から、本来は他の玉兎用の食事を施してもらっていた。
 その味は、正に絶品であった。肉類は入っていなかったものの、じゃがいもやブロッコリーや人参といった野菜が見事にクリームに溶け込んだ完成度の高いものだ。
 口に含むとクリームのスープが中に浸透していき、野菜を噛めば優しく柔らかく砕けていく。
 その味と食感の芸術を、勇美は思う存分に堪能していったのである。
 そう……勇美だけである。鈴仙の方はというと彼女は食事を提供してもらう事を遠慮していたのだ。
 それは別に鈴仙が謙遜している訳でも、清蘭が意地悪をしている訳でもなかったのだ。その理由を鈴仙は今しがた口にする。
「勇美さん、さっきお昼食べたばかりでしょ~!」
 その言葉が事の全ての真相であった。──要は勇美は既に先程食事を済ませた筈なのに再び食べているというのが現状なのである。
 そんな醜態を見せつつも、勇美は平然とのさばる。
「だって、清蘭さんと弾幕ごっこをしたらお腹が空いたんですもん♪」
「いんや、あなたはそもそも最初からご飯を食べる気だったでしょ……」
「それもそうか~」
 等と二人はやるせない不毛なやり取りを繰り広げ、そんな話をしつつも勇美は綺麗に清蘭からご馳走になった料理を完食するのだった。
「ごちそうさまでした~♪」
 そう満面の笑みで以て、勇美は食後の挨拶をそつなくこなした。
「まあ……程々にね……」
 清蘭は取り敢えずそう言葉を返しておいた。こればっかりは『お粗末様』と快い言葉を掛ける気にはなれなかったからだ。
「食器はここに置いておいてくれればいいよ」
 だが相手は客人なのだからと、皿洗いの要求はしない辺り、清蘭の人の良さが窺えるというものであろう。
「ありがとう清蘭さん」
 そんな彼女の何気ない気配りに、勇美も嬉しくなって笑顔で返すのであった。
 そうしてこれにて勇美達と清蘭はお別れとなるだろう。その為に鈴仙は勇美を促すべく言う。
「それじゃあ勇美さん、先を急ぎましょう。清蘭もお世話になったわね」
「あ、ちょっと待って下さい。最後にいいですか?」
「「?」」
 これで解散になるかと思われていた所での勇美の物言い。一体何事かと思い玉兎二人は首を傾げる。
 その疑問をぶつけたのは清蘭の方であった。
「勇美、一体何なの?」
「それはですね……。こんな事突然言うべきか迷ったんですが、清蘭さん、依姫さんの所で鍛練を積むのはどうですかって思ったんですよ」
「これまた突然ね……」
 勇美のその進言に清蘭は意表を付かれつつも、努めて平静を装って言った。
 それには当然鈴仙も首を傾げる事となる。
「勇美さん、どういうつもりなんですか?」
「それはですね、今しがた清蘭さんと戦って分かったんですよ。この人の素質は極めて高いって」
「……」
 勇美に思ってもみなかった事を言われて、清蘭は無言になってしまった。
 そんな心持ちの清蘭を尻目に勇美は続ける。
「今までの話から、清蘭さんは依姫さんの管轄ではない玉兎さんなんでしょう? そして、清蘭さん程の素質があれば依姫さんに指導してもらえば絶対に力を伸ばせるって思うんですよ」
 その勇美の言葉を聞きながら、清蘭はどこか狐につままれたような気持ちとなっていたが、ここで気をしっかり持ってこう言ったのである。
「……確かに、勇美が言うと説得力が違うわね……」
 そう清蘭は結論付けたのである。それは清蘭が勇美の実力を高く評価している事に繋がるのだった。
 そんな清蘭に対して勇美は付け加える。
「勿論、無理強いしては意味がないって事は分かっているよ。だから、どうするかは清蘭さん自身が決める事だよ」
「……」
 そう勇美に言われて清蘭は考え込んでしまった。
 確かに自分は今、自らの意思で依姫とは違う者に着いている。だが、これを切っ掛けに依姫側に着く事を考えてみるというのも悪くはないと思うのであった。
 そして、彼女自身が今の下っ端的な役職に納得していないというのもあった。自分に素質があるというなら、自分を磨き上げて上を目指すというのは悪い話ではないだろう。
 それらの事を踏まえて、清蘭は今の答えを導き出すに至るのだった。
「……少し考えさせてね。すぐには答えを出すのは簡単じゃないし、行動に移すのにも時間が掛かるというものだからね」
「清蘭さん」
 この瞬間勇美は『手応えがあった』と確信に至るのであった。この事が今後の清蘭に確実に影響を与えるだろうと。
 勇美がそう内心で歓喜している間にも清蘭は続ける。
「いざ実行するには色々準備も必要だしね。『嫦娥』様にも話を通さないといけないし」
「その人?」
 勇美はその名前を聞いてハッとなった。
 何故なら聞き覚えがあったからである。確か蓬莱の薬を飲んだ月の罪人で、玉兎達は彼女の罪を代わりに償うべく薬をついていたという事、そしてレイセン──今ではイシン──がその役職に嫌気がさして月から地上に逃げて来た経緯もあった事を勇美も聞かされていたからである。
 何やらとても訳アリのような人のようである。そう勇美は思った。
 だが、それと同時に今の自分達には直接関係はしてこないだろうと割り切るのだった。今は月の介入から幻想郷を護る事、そして連絡のつかなくなった綿月姉妹の安否を知る事が第一の目標なのだから。
「まあ、話は今回はここまでね。その先の事は今後情報を送るからね。……私に気を利かせてくれてありがとうね」
 清蘭はそう言いながら、誰かにお礼を言うなんて自分の柄じゃないなと心の中で自嘲していた。ましてやそれが敵として現れた者に対してとなれば、その思いも一入となるだろう。
「こちらこそ、シチューをごちそうしてくれてありがとうね。月製のシチューってのもいいものだったよ♪」
「そう言ってもらえると悪い気はしないわね」
 そう勇美と清蘭は言い合って、互いに固い握手をしたのだった。
 ちなみにその後清蘭は、きっちり仲間への緊急要請は行った訳であるが。

◇ ◇ ◇

 妖怪の山。それは文字通り妖怪達のみが住処としている山である。その例外として勇美も関わった事がある東風谷早苗八坂神奈子、守矢諏訪子といった守矢神社一家が、外の世界で信仰を集められなくなったが為に幻想郷に来てここに住み着いている訳だが。
 そのような例外が起こりはしたが、基本的には妖怪の山は妖怪の領域であるのだ。故に……。
「やっぱりここは部外者には手厳しい対応をしてくるわね……」
「依姫さんが私にここに近付けさせたくなかった訳がよく分かりましたよ」
 鈴仙と勇美が愚痴るに至る事となっていたのだ。
 彼女達が妖怪の山へ足を踏み入れるや否や、当然とばかりにそこの住人である妖怪からの『洗礼』があったという事である。
 そう、つまり妖怪の山の妖怪達は排他的なのである。故に部外者は歓迎しないのである。
 それは人間である勇美には勿論、同じ妖怪である鈴仙に対しても変わらなかったのだった。
 それにより二人は急ぎたい所だというのに、妖怪達の相手をする事となり手こずってしまっていた。
 そう二人が煩わしく思っている最中にも、新たに『歓迎者』は現れるのだった。
「ここから立ち去れ!」
 そう言ってこちらに声を張り上げてきたのは、背中に羽根の生えた、下っ端の天狗であった。そして、それはもう見慣れた光景なのである。
「またですか」
「そのようですね」
 二人はうんざりとした様子で言い合うと、その天狗に向かって各々の銃を引き抜いて向ける。
 願わくば余り傷つけたくはないのだが、これも先へ進む為だと割り切って二人は銃口を引こうとした、その時であった。
「待ちなさい!」
 そう、辺りにどこか生真面目そうな声が響くのだった。そして、その声に勇美はとても馴染みがあった。
「文さん!」
 勇美はその者の名前を口にした通り、目の前に現れた存在は、天狗の中でも高い地位に就いている、鴉天狗である射命丸文なのだ。
「この戦いは無意味です。なのでここは私に免じて引いてもらえませんか?」
 文がそう言葉を向けたのは下っ端の天狗の方であった。それを聞いて天狗は意表を付かれてしまう。
「ですが文様、この者達は部外者であって……」
 だが、天狗はなけなしの勇気を振り絞って文に食って掛かる。しかし、それを文は諭すように言う。
「いいえ、あなたも今の月の者達が起こしている異変を知っているでしょう? 今この者達はそれを解決に向かおうとしているのです。だから、ここは多めに見てあげなさい」
「……」
 文に言われて天狗は暫し無言になってしまうが、ここで気持ちを持ち直して言った。
「……分かりました、文様がそう仰られるのならこの場は引きましょう。ですが、この者達が何かしでかしたら容赦しませんよ」
「分かっています。もし不手際があれば私としても黙ってはいませんから」
「それでは、失礼しました」
 そう言って天狗はこの場から飛び去っていったのだった。後に残ったのは射命丸文だけである。
「勇美さん、知り合いなの?」
「ええ、私の目標の為に少し前からお付き合いしている仲です。それにしても凄いですね、文さんが……」
 そこで勇美が一旦言葉を区切ると、にやりとどこか嫌らしい笑みを顔に貼り付けて続けた。
「融通利かせてくれるなんてね」
あやややや!?」
 手痛い所を勇美に突かれて、文は思わず上擦った声を漏らしてしまった。
 だが、さすがは基本的に冷静な判断力の持ち主である文である。少し取り乱してしまったものの、すぐに持ち直して勇美に言った。
「勇美さん、今は非常事態ですよ? いくら私でも物事の分別はするというものです」
「そうですよね。何はともあれ助かりました」
 言って勇美は文に頭を垂れるのだった。それを見た鈴仙も、この者には紳士的にしておくべきだと踏んで彼女に話し掛ける。
「文さん、私も度々取材させて頂いてますね。それに加えてどうやら勇美さんがあなたにお世話になっているようで」
「ええ、彼女が持ちかけてくれる話は『文々。新聞』のいい記事に出来ますからね、今回の話も期待していますよ♪」
「はい、大船に乗ったつもりで待っていて下さいね。私の方も文さんの物書きとしてのセンスは参考にさせて頂いていますから」
 そう二人は言い合って微笑み合ったのである。そこには既に友情と呼べるものが出来上がっているようであった。
 そして、鈴仙はやや確信めいたものを感じるのだった。──やはりこの妖怪は融通が利かない存在なのだと。今回自分達を助けたのは、文自身の記事のネタを守るという確固たる信念の元に行われた、つまり自分のルールに忠実に従ったに過ぎないのだと。
(でも……それでいいか)
 だが鈴仙はそう思う事にしたのだった。結果論ではあるが今回文には助けられたし、自分のポリシーには忠実である方が幻想郷らしいからと感じたからである。
「それでは、また何かあったらどうぞ」
「助かりましたよ、文さん♪」
 勇美にそう言われながら文は颯爽とその場から風のように飛び去ったのである。
 いや、風そのものと言った方がいいだろう。彼女の能力は風を操るものなのであるから。
 嵐の如く、もとい風の如く文が去った後に二人は残された訳であった。その事に加えて、今の時間帯の事が加わり、二人は哀愁深く感じる。
「文さん、行っちゃったね……」
「ええ、それにもう『夕方』だしね」
「そうですねぇ……」
 そう、鈴仙が言った通り今の時間は夕暮れ時であったのである。
 今までここまで歩いて来たのだ。それに加えて妖精や妖怪、果ては清蘭といった玉兎と弾幕ごっこまでしているのだ。時間が経たない方がおかしいというものだろう。
「どこか野宿でもするしかないかな?」
 勇美はそうやれやれといった様子で呟くが、こういう事態は予測していたのである。
 今回の異変の発生源は月なのである。故にとても一日で行けるような場所にはないのだ。
 だから勇美と鈴仙はこの時の為の準備は用意して貰っているのだった。
「まあ、八意先生特製のテントがあれば野宿もへっちゃらでしょう♪」
「そうね、さすがは我が師匠って感じです」
 そう二人が言うように、永琳が用意したテントは非常に高性能であったのだ。
 まず、空調が完備されていて、外が暑かろうが寒かろうがテントの中は常に快適な温度が保たれるのである。
 それに加えて、幻想郷にてなくてはならないのが、何といっても『妖怪対策』であろう。
 それがこのテントには完璧に備わっているのだった。設置してある状態なら、対妖怪用の結界が生成されて妖怪達は近寄る事が出来ないのである。勿論その妖怪である鈴仙にだけは使えるように処置を施しているのは、永琳がいかに天才であるかという事なのだ。
 詰まる所は今回の旅において、就寝場所には困りはしないという事であった。そして、そのテントも夕食も勇美が八雲紫から貰った簡易スキマを使っていつでも取り出す事が出来るのだ。最早完璧といってもいい位に準備というものは備わっているのである。
 だが、どうやら今回はその『備え』なくしても『憂い』な目には遭わずに済みそうであった。
 勇美達が怠っていない準備に安堵しながら歩を進めていると、そこに見知った者の人影が見えたのだった。
 そして、それは非常に目立つ外見なので、勇美は誰だか迷う事はなかったのである。──本当ならば余り会いたくはない存在なのであったが。
 だが、無情にも相手の方はここで勇美に気付いてしまったようだ。
「お久しぶりです、勇美さん」
「うげっ、気付かれてしまいましたか……、早苗さん」
 そう勇美が今しがた言葉を返した人こそ、東風谷早苗であり、勇美が苦手とする者であったのだ。
 そんな思いの勇美に、早苗も気付いたのかこう返した。
「安心して下さい勇美さん。別にあなたを取って喰おうなんてしませんから」
「いえ、早苗さんの場合普段が普段だから信用出来ないんですよ……」
「大丈夫ですよ。今は幻想郷の一大事だって事は私も分かっていますから、節度はわきまえますよ」
 そう言う早苗の表情は真剣そのもので、普段の猛然と勇美に迫る様子はそこには存在していなかったのである。
「……」
 この様相に、勇美もここは信用してもいいかと思ったのである。
 そう勇美が思う中、早苗は言って来た。
「それで勇美さんに鈴仙さん。今日寝る所はどうするのですか? 今回の異変は月から発生しているから、一日ではそこまで辿り着く事は出来ないでしょう」
 その早苗の言葉は誠実そのものであり、彼女の気遣いに勇美も嬉しく思うのであった。そんな早苗に対して勇美は返す。
「早苗さん、お気遣いありがとうございます。でもご心配には及びませんよ、ちゃんと野宿の為の準備は用意して来ていますから」
「そういう事ですよ、お師匠様の技術で作られていますから、その性能は折り紙付きってものですよ」
 鈴仙も勇美の主張に相槌を打つのであった。普段振り回されているが、こういう時に永琳は頼りになる事は彼女はよく分かっているのだ。
 二人の主張に抜かりはない。だが、ここまでの話を聞いた早苗の様子は急変したのである。
「の、野宿ですかぁ!?」
「うわっ!?」
 突然声を張り上げた早苗に、勇美はびっくりしてしまったようだ。
「な、何ですか早苗さん?」
「野宿なんていけませんよお二人とも! 私がいる限りそんな事はさせませんよ!」
 豹変しながらそう言う早苗。その様子に呆気に取られながらも勇美は言葉を返す。
「でも早苗さん。月に行く為にはそうでもしないと辿り着けはしない事、あなたも分かっていますよね?」
 そう、それは早苗自身が言った事でもある。だから、勇美は理解してくれるだろうと踏んでの発言であった。
 だが、次に早苗が用意した言葉は意外なものだった。
「簡単な事です。──私の所に泊まればいいんですよ♪」
はえっ?」
 その提案に勇美は意表を突かれたようだ。
「でもいいんですか? ご迷惑にはならないですか?」
 当然勇美はその事を気にするのである。自分達は突然の来客となるのだ。予定にない事であるが故にわずらわせてしまうだろう。
「大丈夫ですよ。神奈子様も守山様も快く迎えてくれるでしょう」
 何せ二人は神様ですからと早苗はつけ加えた。それ故におおらかで懐が広いのだと。
「それに何より私がお二人を歓迎しているんですよ」
 そうである。これは早苗の心意気なのだ。だから寧ろ断る方が失礼というものだろう。
 そこまで想い至った勇美の答えは決まっていた。
「それではお世話になります、早苗さん」
「私からもよろしくお願いしますね」
 ここに二人の意見は固まったようである。
「はい、お客様は丁重におもてなししますよ」
 対して早苗はにっこりと爽やかな笑みを携えて二人を迎え入れたのだった。

◇ ◇ ◇

 ここは守山神社の境内である。
 山の上に作られた場所という事もあり、見晴らしが良く、空気も澄んでいて実に心地が良い場所である。
 そして、神社の近くに壮大な湖まで存在しているのだ。外の世界にこのような場所があれば世界遺産の候補になる位のクオリティーがあるというものだ。
 そんな芸術作品のような境内は今、夜の帳が降りていた。その事によりその神秘性は更に引き立てられていたのである。
 その事に勇美は当然心が踊るような気持ちを抱いていたのだった。──これぞ旅の醍醐味だと。
 勿論これは幻想郷を護る為の旅の途中なのであるが、だからといってそれに対して根詰めていては無駄に精神を浪費してしまうというものだろう。
 故に、この旅は楽しんでなんぼだと、そう勇美は思うのであった。
 勇美がそのように想いを馳せている中で声が掛かって来た。今回の宿泊の話の提案者である早苗からである。
「お二人とも、夕食の用意が出来ましたよ」
「はい」
「分かりました」
 その早苗の呼び掛けに二人は答えて、彼女の案内のままに歩を進めたのである。
 そして、二人は居間へと辿り着いたのだ。
 そこは程よい広さもあり、突然の来客である自分達も決して邪魔にならない程の空間が備わっていた。
「勇美~、お久しぶり~」
「お前と会うのはいつぞやの早苗との弾幕ごっこに立ち会って以来だな」
 勇美に対して諏訪子と神奈子の守矢神社の二柱は快く迎えてくれたのである。
「今回はお友達も一緒なんだね。ウサギさんのお客さんってのも珍しいね」
「あはは、鈴仙です。初めまして」
 物珍しそうに見られて鈴仙はこそばゆい気持ちとなりながらも、紳士的に挨拶を返していった。
「二人ともこれから先は長いのだろう? 今日はここでゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます」
 神奈子のその計らいに、勇美と鈴仙の両者は有難い気持ちとなっていた。
「それでは皆さん、積もる話もあるでしょうが、まずはお食事にするとしましょう」
 そう提案する早苗に対して、誰もノーの意見を出す者はいなかったのである。生き物が生きる糧である食事を蔑ろにする考えなど野暮というものだろう。

◇ ◇ ◇

 そして一同は食事の前の礼儀をこなした後、各々で好きなおかずに手を伸ばしていったのである。
 本日の守矢神社の夕食は山菜の天ぷらであった。どうやら山の妖怪達から分けてもらった物を使ったらしい。
 勇美も手頃な天ぷらを箸で取ると、それを大根おろしがしっかり利いたタレに付けてから口へと運んだ。
 その瞬間にまずサクリと心地良い食感が口の中を支配したのである。
 そして、天ぷらの衣と揚げられて食べやすくなった山菜とタレが見事に調和し合い、それぞれの素材の良い所を互いに口の中で引き立てていったのだ。詰まる所は……。
「おいし~☆」
 その言葉を導き出す事しか、勇美には選択肢は用意されていなかったという訳である。
 それは正に至福の一時であった。だが、その貴重な瞬間を打ち砕く言葉を神奈子は放つ。
「ところで勇美、早苗は相変わらずか?」
「うえっ、えふっ、げふっ!」
 それにより勇美は盛大にむせてしまうのだった。
「あ、悪い悪い」
 その事態を招いてしまった神奈子は素直に謝る。もしかしたら彼女には天然な所があるのかも知れない。
「ええ……まあ……」
 対して勇美は漸く体制を整えて返した。
 折角絶品の天ぷらに舌鼓を打っていたというのに、全くをもって水を指された気分である。
 そんな勇美に、神奈子は少し申し訳ない気持ちとなりながらも続けた。
「まあ勇美には迷惑を掛けているかも知れないが、前にも言ったけど早苗は自分以外の外界の人間に会えて嬉しいんだ。どうか多目に見て欲しい」
「か、神奈子様ってば……」
 神奈子にそのような事を言われて、早苗は気恥ずかしい心持ちとなってしまう。その事を指摘されると自分としてもこそばゆい気持ちとなってしまう。それは彼女にも自分が羽目を外してしまっている自覚があるからだ。
 早苗がそのような葛藤を抱えていると、それに助け舟を出したのは意外にも勇美であった。
「まあまあ神奈子様、私は早苗さんの事を疎ましく思ってはいませんから。ちょっとアプローチが過激かなとは思いますが」
「勇美さん……」
 その勇美の言葉を聞いて、早苗は天にも昇らんばかりの心地となってしまった。
 今のように自分を気遣ってくれる勇美を益々愛おしく感じるのだった。
 今すぐにでも抱き締めて、すりすりして、挙げ句の果てに今日は自分の家に泊まってくれるので一緒にお風呂に入る誘いまでしたくなるのである。
 だが、その溢れ出すような想いを、早苗は今回飲み込んだのだ。
 何故なら、今回勇美達は異変解決の為に奮闘しているのである。それを邪魔してはいけない事は、さしもの早苗とて理解しているのであった。
 早苗はこの場はその熱すぎる想いを抑える事に成功していた。その中で次に口を開いたのは諏訪子だ。
鈴仙も頑張ってね」
「あ、私ですか?」
 突然話題を振られて鈴仙は驚いてしまった。
「そう、あなた。何たってあなたのようなケースは珍しいからね」
「と言いますと?」
 諏訪子が一体何を言わんとしているのか計りかねて、鈴仙は首を傾げる。その際に彼女自慢(?)のしわしわの耳が揺れ、それを見て諏訪子は何か愛しいものを感じてしまった。
 それはさておき、諏訪子は続ける。
「あなたのように純粋な妖怪が異変解決に向かうってケースは珍しいからね。妖怪は基本的に異変を起こす側だからね」
「あ、言われてみればそうですね」
 諏訪子にそう理屈を言われて、鈴仙も納得するのだった。
「それと、幻想郷の外から来た者が異変解決に向かうのも珍しいね。早苗はその例外だったけど。だから頑張ってね、応援してるよ」
「あ、ありがとうございます」
 予期していなかった諏訪子の労いの言葉に鈴仙はどこか気持ちが弾けるような感覚に陥ってしまった。その際にも彼女のしわしわ耳はぴょこぴょこと跳ねたので、諏訪子はこの素敵なアイテムを今度存分に味わいたいと思うのであった。
 そこまでの会話を聞いていた勇美は、ふと思った事を口にした。
「幻想郷の外出身といったら私もですよ~」
「そういえばそうだったな」
 勇美の指摘に、しみじみとした気持ちで神奈子は頷き、そして付け加える。
「考えてみれば、今ここにいる私達全員幻想郷の外から来たのだよな」
 確かに……そうこの場にいる者達全員がそう思うのだった。
 そして、勇美と鈴仙は確かめるように言い合うのだった。──こうして外の者であっても、望めば受け入れてくれる幻想郷。それをこれから自分達の手で護っていかなければと。
 その想いを確かめ合った二人は、守矢神社で憩いの時を過ごして明日に備えるのだった。