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【第四十三話 東戯王TAG FORCE10419】
天子の親への敬意が低いという薄情が露呈したり、豊姫の姉としての威厳が揺るがされる事態になったりしたが、地上と月と天界の者達の邂逅は無事に済んだようであった。
何より、勇美と天子には『持たざる者同士の絆』が手堅く結ばれたのは収穫である。
なので、勇美は新たなる盟友に気兼ねなく話し掛ける事が出来るのだった。
「いやあ、天子さんの招待状が脅迫状でなくて良かったですよ」
「いや、私どれだけ悪役に見られてるのよ」
天子は勇美の言葉に首を横に振った。
確かに自分はヒーローよりも悪役に徹するのが好きである。
しかし、さすがに893並に思われるのは甚だ心外と言えるものだ。
「ま、まあいいわ。取り敢えず私の招待だから存分に楽しんで行きなさい」
天子は気を取り直して言う。
「ご馳走も用意してあるしね」
そう天子は続ける。
自己顕示の為にパーティーを開いたり、ご馳走を用意したりする自己愛の強い人は多い。
だが、天子の場合、その意味合いも含まれるものの、純粋に招待した者を手堅く応えたいという気持ちもあるのだ。
その事を、自己愛だけの母親を持った勇美だからこそ解るのだった。
客をもてなす母親からは『自分を褒めて讃えて』という捻じ曲がった念しか感じられなかったが、この天子からはお互いに楽しみたいという無邪気で純粋な気持ちが伝わって来るのだ。
そう感じると勇美は嬉しくなるのだった。
「天子、勿論桃は出るんでしょうね~♪」
豊姫は『待て』を言い付けられた犬の如く息を上がらせながら天子に迫る。
「いや、あなたにはちゃんと報酬として桃をあげるから」
「何ぃ~、ご馳走に桃が出ないだとぉ~」
意地汚く天子に食い下がる豊姫に、連れの二人は遠い目で見ながら思った。ああ、この人は色々大切な何かを置き去りにしてしまったんだなと。
「くぅっ、まあ報酬で貰えるなら文句はないわ。六割がた」
残りの四割も妥協して下さい。二人の視線がそう物語っていた。
金髪の狂人の事は一先ず置いておき、天子は話の続きに入る。
「ご馳走は後でちゃんと出すから、その前にちょっと楽しまない?」
「何をするのですか?」
そう勇美は聞きつつも、心の何処かでこの先の展開が読めるかのようであった。
「それは他でもない、弾幕ごっこよ」
ああ、やっぱり来たかと勇美は思った。
最早この展開はお約束であると言えるのだから。
だが、今回はその様相は少し違った。
「まあ、『うん、またなんだ』って顔はしないでね。これから予定している弾幕ごっこは一味違うんだからね」
「それって一体どういう事ですか?」
天子の言い回しに疑問を感じた勇美は聞いた。
「それはね、今からやろうとしているのは、『タッグ弾幕ごっこ』なのよ」
「……何か語呂が余り良くないですね」
「語呂の事は言わないで」
さらりと自分のセンスの事を指摘されて天子は閉口する。
「でもまあ、何だ……」
だが、取り敢えず気を取り直しながら天子は続ける。
「あなた達とてこういう勝負方法は初めてじゃない?」
「あ、確かに二対二は今までやった事はないですね」
天子に指摘されて、勇美も納得して首を縦に振る。
思い返してみれば、阿求の時のようにクイズ形式のものや、慧音の依頼でパフォーマンス的に行った事もある。
だが、二人と二人が同時に戦うのはこれが初の事であった。
「面白そうですね」
故に勇美もこの提案に興味を示したのだ。
「でも、永江さんはよろしいのですか?」
しかし、一つの疑問が勇美にはあった。天子が考えた催し物に自分も巻き込まれてどう思っているのかと。
「ええ、総領娘様が頻繁にこのような事をするのでは問題ですけど、たまにやるのであればよろしいでしょう」
「珍しい地上と月からの客人のおもてなしですしね」と衣玖は付け加えた。
ここで意見は満場一致したようなものである。後は画竜点睛だけだ。
「依姫さんも、これでいいですよね」
「ええ、私も問題ないわ」
案の定最後の一人の依姫も承諾したのだった。
依姫はみだりに変則的なルールを設けるのは、その概念に対する侮辱であり乱暴だと考える。
だが、今回の二対二の発想は既存の弾幕ごっこの規範の延長線上にあるのだ。
全くを以て問題ないだろう。依姫はそう思い、未知なる勝負へ赴く事に胸を踊らせるのだった。
◇ ◇ ◇
そして四人は比那名居邸の敷地内の庭園へ歩を進めていた。
「うわあ……」
そこの光景に勇美は思わず感嘆の声を漏らしていた。
何故なら、地上では余り見掛けない木々が周りに存在し、極め付きはここが天界故に高所に位置する為であった。
故に勇美はまだ行った事のない、海外の山地に行った時の感動はこのようなものなのだろうかと感銘に耽るのだった。
しかし、その感動は後でたっぷりと堪能しようと勇美は思う。今は初めて行う新感覚の弾幕ごっこがメインディッシュなのである。
その提案の張本人である天子が口を開く。
「それじゃあ始めようか」
それに勇美も賛同する。
「はい、お願いします」
こうして『タッグ弾幕ごっこ』の幕は開いたのだった。
そこで勇美は感慨に耽る。
「私、とうとう依姫さんと組めるんですね」
それは彼女が願ってもない事であった。
基本的に一対一で戦う弾幕ごっこだから、まさか憧れの人と組んで戦える機会があるとは夢にも思わなかったのだ。
喜ぶ勇美に、依姫も微笑み返す。
「喜んでもらえて光栄ね」
「それはもう~! この喜びは今晩のオカズに使えそうですよ~」
「何か方向性がおかしいわよそれ」
依姫は項垂れた。何、人を妄想に使おうとしているんだと。
そんなやり取りをした後、勇美は切り出す。
「では、まずは私から行かせてもらいますよ!」
先陣を切ったのは勇美であった。いつも通りに彼女は神に呼び掛ける。
彼女が呼び掛けたのは、初の弾幕ごっこで力を借りた『マーキュリー』であった。
その力で勇美は、かつて造った事のある姿の機械を生成していった。
それは二本の逞しい脚部を持つものであった。その名前は。
「『エルメスの靴』よ。もう一度その力を見せてあげて」
勇美の呼応に応え、エルメスの靴は……衣玖へと向かって俊敏に走り出したのだ。
「永江さん、私の将来のお嫁さんに対して悪いですけど、覚悟して下さい」
何故勇美は彼女を狙ったのか。その理由はこうだ。
勇美は今までの衣玖の動作を見ながら思っていたのだ。──この人はゆったりと泳ぐように振る舞うから、スピードは苦手分野だろうと。
だから勇美は素早さに定評がある(と、自分で思う)エルメスの靴を彼女にぶつけたのだ。
「くっ……。いい判断ですね」
狙われた衣玖は口惜しそうに呟く。そして断じてお嫁さんではないと心の中で付け加えるのだった。
そんな最中にもエルメスの靴は衣玖に肉薄する。そして、それの蹴りの一撃が今正に衣玖へと届こうとしていた。
ダメージを覚悟する衣玖。そしてほとばしる衝撃。
だが、いつまで経っても彼女の脳が痛みの信号を受け取る事はなかったのだ。その理由は。
「……総領娘様?」
そこには金属の足の一撃を生身の体で受け止める天子の姿があった。
「私がいる限り、そう簡単に衣玖には攻撃させないわよ」
そう得意気に言う天子は両手を交差して防御体勢を取っているとはいえ、蹴りをもろにもらっていたのだ。
それでいて、今の彼女は別段痩せ我慢している様子はなかった。
そこで勇美は確信する。
「これが天子さんの防御力ですか……」
感心半分、口惜しさ半分で勇美は呟く。
勇美は噂に聞いていたのだ。天子は天人の中でも、その身の守りは一級品であると。
「ええ、これには自信があるからね」
そして、それが天子の誇りでもあったのだ。
彼女の防御力は努力よりも彼女自身の体質によるものが多い。だが、その持って生まれた力、存分に活用してやろうというのが天子の考えである。
続いて攻撃を受け止めた後、天子は鞘に収めた剣を抜き放った。
これは比那名居に伝わる名刀、緋想の剣であった。
外観は、まるで緋色の炎を固めたかのような、そんな不思議な様相だ。
「この剣はお父様からの借り物の剣だから私の物じゃないんだけどね」
天子はそう物惜しそうに呟く。
それを聞いた勇美はこう答える。
「ううん、気にする事ないよ。私が今使ってる力だって、依姫さんの神降ろしの力から更に借りているんだし」
「ふふっ、それもそうね」
勇美の答えを聞いてどこか弾むような心持ちとなる天子。その最中、彼女は想った。
──やはりこの子は色々と私と合う所が多いと。そして私の見る目は緋想の剣抜きでも狂いはなかったと。
何故ここで緋想の剣が話題に出るのか。それは後々分かる事となる。
ともあれ心に火の付いた天子。ここで畳み掛ける事にしたのだ。
「それじゃあ防御ついでに攻撃に転じさせてもらうわよ♪」
そして天子は踏み込み、剣を横薙にしながらスペルカードを宣言する。
「【透符「守り人の見極め」】!」
その瞬間、緋想の剣が瞬きをするかのように一瞬光った。
「危ないっ、と」
だが間一髪の所で勇美はそれを避ける。
「ふう……」
何とかかわした。そう思う勇美であったが、どこか違和感があったのだ。
その答えは、すぐに天子の口から語られる事となる。
「どうもありがとう。これで分かったわ」
「? 何がですか?」
天子の言いたい事が読めずに勇美は首を傾げる。
その疑問に対して、天子は率直に答える代わりにこう言った。
「衣玖、この子の相棒に電撃、お見舞いしてあげなさい」
「成る程、承知致しました」
天子の指令に衣玖は快く応える。
「?」
対して勇美は首を傾げていた。──相棒とは依姫さんの事だろうかと。
それとも……そう考えを巡らせた勇美はハッとした。
「!? 待って、それはまずい!」
だが、既に時遅しであった。衣玖は人差し指を天に掲げると狙いを定める。
そう、相棒とは勇美の使役する鋼鉄の分身、マックスの事であった。
「お覚悟! 【雷符「エレキテルの龍宮」】!!」
その宣言後、マックス目掛けて一直線に激しく目映い稲妻が貫いたのだ。
破裂音が辺りに響いたかと思うと、マックスは火花をけたたましくぶち蒔けながら狂ったようにガタガタ震えた。
「マッくん!!」
勇美は慌てるも、こうなる事に驚きはしなかった。
何故なら精密機械は電気に弱いのだ。それは勇美が使役する分身かつ、神力で動く規格外のマックスであろうとその宿命から逃れる事は出来なかったのである。
そして『エルメスの靴』の形態を取っていたマックスは維持が困難となってくる。
更に、その状況に追い討ちを掛けるかのように天子は言う。
「これが緋想の剣の能力よ」
「『剣』の……能力?」
その珍妙な表現に勇美は耳を疑った。
「すまんのう……儂は年で耳が遠くてのう、もう一回言ってくれ」
「青臭い小娘が何をほざくか」
ふざけた宣いをする勇美に、天子は手厳しい突っ込みを入れる。
「まあいいわ、もう一度言うわ。今の状況は緋想の剣の能力で編み出したものって事よ」
「うん、やっぱり聞き間違えじゃなかったんですね。一体どういう事ですか?」
それを聞いた天子は得意気に説明を始める。
「この緋想の剣の能力。それは相手の資質を見極めるものよ」
「資質を……そうか!」
それを聞いて勇美は合点がいったようであった。
「それで私のマッくんの弱点を見出だしたって訳ですね」
「そういう事よ」
天子は尚も得意気な態度を取る。
それは剣の能力であって天子自身の能力ではない。
にも関わらず彼女が得意気になる理由。それは緋想の剣を自分は使いこなせているという自負からであった。
「あなたが衣玖を狙ったのは的確な判断だったと思うわ。でも、こっちにはより的確な判断を促す手段がある、そういう事よ」
「そっかあ~」
勇美は感心と口惜しさが混じった心境で呟いた。そして、緋想の剣を使ったその戦法を卑怯だとは思わなかったのだった。
何がなんでも勝つ。その心構えは勇美にも共感出来る事だったからだ。
そこに天子は付け加える。
「そして、これはタッグ戦だって事よ」
「確かに」
天子に諭されるように指摘されて、勇美は納得する。
勇美は動きの早くない衣玖だけを狙えばうまく事を運べると踏んだのだ。だが結果はその間に防御力に秀でた天子にはばかられる事となったのである。
これは一対一の普通の弾幕ごっこでは起こり得ない事柄であった。
「勉強になります」
「いい心構えね。あなたのパートナーも喜ぶでしょうね」
パートナー。今度のその言葉はマックスではなく依姫の事を指していた。天子が最近有名になった勇美や依姫の特性を良く理解している事の現れであろう。
「それじゃあ勉強ついでに、もう一発喰らってね♪」
そう言うと天子は足を踏み込みその場で宙に跳躍した。そして、その状態で緋想の剣を高らかに上へと掲げる。
「一体何をするつもりですか?」
「タッグ戦の醍醐味って奴よ! 衣玖、お願い!」
宙で剣を掲げながら、天子はこの戦いのパートナーの衣玖へと呼び掛ける。
「承知しました、総領娘様♪」
衣玖は大人の女性的な茶目っ気を見せながらウィンクすると、先程のように天に人差し指を掲げる。
すると、案の定雷撃が発生して大気中に閃く。
「!?」
その瞬間勇美は自分の目を疑った。
確かに先程と同じように衣玖の呼応に応じて雷撃は発生したのだ。
問題は行き先であった。その電気の閃きは──天子の持つ緋想の剣へと吸い込まれていったのである。
「一体何を……?」
「見てなさい、私の衣玖との合体技を!」
そう言って天子は雷を綿飴の如く纏った緋想の剣を高らかに掲げ宣言する。
「【大雷「龍使雷鳴剣」】!!」
そして天子は思う存分雷の刃を振り下ろす。
──狙うは満身創痍の鋼の靴である。
「砕けなさーい!」
意気揚々と叫びながら、天子は渾身の一撃をそれにぶつけた。
そして巻き起こる激しい火花と破裂音に閃光。
当然虫の息だったマックスはそれに抗う事も出来ずに、ビルの解体作業の如く盛大に吹き飛んでしまったのだった。
「ぐっ……」
そして分身が破壊された事で起こる、勇美へのダメージのフィードバック。
それも漸く収まる。
「ふぅ、この瞬間、何度味わっても慣れないんだよねぇ~」
勇美は苦笑いしながらそう呟く。
「……同じ借り物での戦いでも、緋想の剣と違ってあなたの場合は随分リスクがあるのね」
天子は、本心から気の毒そうに勇美に声を掛けた。
だが、当の勇美は余り気にしていないかのようにこう言った。
「うん、でもこのマッくんと依姫さんと神様がいたからこそ今の私がいるんですよね。
だから文句を言ったら罰が当たるってものですよ♪」
そう言ってのけた勇美はニカッと笑顔を天子に向けて見せた。
「あなた、強いのね」
基本的に余り他人を褒めない天子であったが、この時ばかりは例外であった。
人間でありながら、どこか逞しさを持つ勇美に、天子は興味を惹かれていったのだ。
そして、それを聞いていた依姫も思った。
ますますこの子は立派になっていると。
そう感じ、依姫は胸の内が暖まるような心持ちになるのだった。
「う~ん……」
だが勇美はここで悩んでいた。
確かに応援というのは戦いに置いて重要な要素だ。応援してくれるギャラリーが敵よりも少なかったばかりに負けたチームというのも存在する程だ。
しかし、応援だけで巻き返せない状況というのもあるのだ。それが今の自分だろう。
なので、勇美は腹を括る事にした。プライドというものには、衣玖を狙った時から捕らわれていないのだから。
「依姫さん、力を貸して下さい!」
それを聞いた依姫は一瞬狐に摘ままれたような表情になるが、すぐにそれを崩し、
「勇美、よく言ったわ……」
我が子、依姫にとっては玉兎達を見る時のように優しい雰囲気をかもし出しながら勇美を見据えたのだ。
そして二人は視線を交わし合ってから、相手側の二人へと向く。
「それでは行きますよ」
勇美は言うと、マックスの核部を現出させる。
続いて、神に呼び掛ける。
「天照大神よ、その力を!」
勇美に呼び掛けられ、太陽を司る神の力が核部に取り込まれて目映く輝く。その様相は、正に空に浮かぶ太陽そのものであった。
続いて、その疑似太陽を取り囲むように金属片や歯車が集まっていき、砲台の形を形成した。
「名付けて【大和「ソル・カノン」】ですよ」
それは禍々しいまでの黄金色の砲台であった。見るからに出力が大きそうである。
だが、これだけで終わらない。次は依姫の番だ。
「『月読』よ、更にその力を見せたまえ!」
依姫は日本を築き上げた三柱でありながら、唯一月への侵入者と対峙した時に繰り出さなかった『夜の神』を呼び出したのだ。
そして、依姫は手に持った刀を勇美の繰り出した『太陽の砲身』へと向け、宣言する。
「【螺旋「月の波動」】」
その宣言により、依姫の刀から青白い月の力の奔流が、正にドリルのような螺旋を描きながら余す事なく放出される。
その力の向かった先は、黄金の砲台の後部であった。
そして、後部は駆動音を出しながら開いたのだ。月の力をまるで本物の砲弾であるかのように、ごく自然に招き入れたのである。
砲弾の充填部へ流しそうめんのようにシュルシュルと気持ちいい位に吸い込まれていく月の波動。
それらが一頻り吸い込まれていくと、役目を終えたかのように蓋は綺麗に閉じた。
準備は整った。後はその力を遺憾なく発揮するだけである。
勇美は口角を上げ、迷う事なく宣言する。
「いっけえー!! 【日月符「ウルトラエクリプスカノン」】!!」
持ち主の砲撃命令を受けた分身は惜しげもなくその身から、目映く緑色に輝く光と熱の彷徨をぶち蒔けたのだ。
当然天子と衣玖の二人はそれを避けようとした。だが、その光の破壊者には速度まで備わっていたのだ。そして、光は地面に着弾すると大規模なドーム状の爆発を生んだのだった。
その爆発の凄まじさは、爆風により発動者の勇美すら吹き飛ばしてしまうように見えた程である。
「うん……凄すぎるね……」
勇美自身呆気に取られる程であった。それだけ依姫と力を合わせると凄まじい事となるのか。改めて依姫の底力を思い知らされる勇美であった。
使用者本人すら驚くエネルギーの爆ぜも、漸く収まっていった。
そこにあったのは、ダメージを負いつつもまだ余力のある衣玖と、
「……結構堪えるわね」
そう言いながら衣玖の前に立ち塞がりながら彼女を庇い、砲撃の直撃に耐えていた天子の姿であった。
「この攻撃に耐えましたか……」
どこまでこの人は頑丈なんだろう。勇美は頭を掻きながら呆れと称賛の入り混じった複雑な心境となった。
「でも、流れはこちらに向いて来たわよ」
そう言って依姫は勇美を嗜める。
そして彼女は続ける。
「だからここは私に任せなさい」
「どうするのですか?」
依姫の思惑は如何なるものなのかと勇美は聞く。
それに対して、依姫は行動で答えた。
「『天宇受売命』に『風神』よ!」
そう依姫は二柱の神に呼び掛け、その身に降ろす。後はその力の発動だけである。
「【風舞「フェザーダンス」】!」
その宣言と共に依姫は刀を高らかに上に掲げる。すると衣玖の足元で風が舞い上がり始めた。
「っ……!?」
その異変に気付くも、衣玖は身のこなしに優れていないが故にうまく対処が出来なかった。
そして衣玖が手をこまねいている間に、風は強くなり旋風規模になったのだ。
「くぅっ……」
その局地的な強風は衣玖を巻き込み、彼女を彼方へと運び去ってしまったのだった。
「勇美、電撃を使う彼女が相手では分が悪いでしょう」
「あ、はい」
依姫に指摘されて、勇美も頷く。その事実に否定する要素はないからだ。
「だから、このタッグ戦を提案してくれた二人には悪いけど、ここからは一対一に持ち込もうと思うけど、いい?」
「分かりました」
依姫の提案に勇美は承諾する。
「それじゃあ勇美に天子は任せましたよ。私はリュウグウノツカイの方を引き受けるわ。
──風神よ、ありがとうございました」
まずは依姫は天宇受売命はそのままで風神を送還した。代わりにその身に降ろすのは。
「『韋駄天』よ、風神に代わりその力を我に与えよ!」
そして、依姫は天宇受売命と韋駄天の力を持って新たなるスペルを発動する。
「【縮地「ライトステップ」】……」
宣言後、依姫は忽然と姿を消してしまった。
身のこなしに優れた二柱の力で距離を操り一気に衣玖の元へと移動したのだ。
距離を操る事。それは無縁塚の死神が自身の能力で行える事である。それを依姫は神の力で応用したのだった。
後には、ぽつねんと勇美と天子が取り残されていた。
「依姫さん……」
勇美は呟く。その声にはどこか物惜しそうな響きがある。
「私が永江さんと戦いたかったのに~っ!!」
「いや、あなた。どれだけ衣玖に入れ混んでいるのよ」
盲信的な勇美に、天子は先行きに不安を覚えるしかなかったのだった。