雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

【小説】エイス・デイズ:プロット

 レーザー光線のように心地良い光が窓から斜めに差し込んで来て、部屋全体を暖かく包み込む。
 そう、今は早朝が清々しいスタートを切っている所なのである。
「う~ん……」
 その瞬間を気だるそうに、それでいて心躍るような気持ちでベッドの中で迎えるのは一人の少女なのであった。
 外見の年齢は17歳位であろうか、大人の階段を昇り始めたあどけなさの中にも女性としての肉体的成長を確実に遂げつつある初々しい姿なのであった。
 しかし、多くの女性が気にする胸の双丘に関しては平均以下という憂き目が見られたのであるが、『とある理由』によって本人は寧ろ気にする方がおかしいという事情があったのであるが、それは後述しよう。
 そして、そんな控え目な胸部を以てしても彼女を彩る要素があるのであった。
 それは、髪の色なのであった。
 その彼女のそれは、見事なまでの鮮やかなエメラルドグリーンなのであった。故に、多くの者がまず彼女を見たらその鮮やかな髪へと目が映るだろう。
 そんな彼女が心地良い唸り声えあげながら夢の世界から現実の世界へと覚醒させられている真っ最中なのであった。
 徐々に視界が開け、そこに最初はうすぼんやりと光と色が目の中に舞い込んできたのである。
 それを享受しながら『彼女』は現実の世界に生きる者となるのであった。
「もう朝かのう……」
 そのように彼女は、どこか老人めいた口調で呟くのであった。
 ともあれ、こうしてほぼ覚醒した彼女はベッドから出る事としたのである。
「では、朝の準備と行こうかの」
 そう言って彼女は意識を確実に現実に向ける為に顔を洗う、着替える、朝食を摂るなどの朝の準備を執り行うのであった。

◇ ◇ ◇

「ご馳走様でした」
 こうして、彼女は自身の朝食を作り終えて食すまでを完了させたのであった。
 その後は歯磨きをすれば、後は彼女の自由な時間となるのである。
 その前に、今の彼女の出で立ちを説明しておこう。
 彼女の服装は白の上着をはだけて下を緑色のノースリーブで包み、下半身には白のズボンという清楚なものとなっていた。
 そして特筆すべきは、その艶やかな緑の髪を赤いリボンでポニーテールにしており、服装と相俟ってより可憐なものに引き立てられていたのであった。
 と、このようにここまでは普通の者と同じような朝の様相となっているであろう。
 だが、ここからが少々……と言っていいのか、普通の者とは毛色が違う過ごし方となるのであった。
 歯磨きまでを終えた彼女は、その足で再び自分の部屋へと向かうのであった。
「ふぅ~、これからがお楽しみタイムじゃのう♪」
 そう彼女は一人ごちると、何やら自身の内に『力』を籠め始めたのであった。
 それにより、彼女の胸の内で淡いグリーンの光が灯るのであった。
 その光は一瞬で治まり、どうやら彼女の手に持った一枚のカードへと吸い込まれていったようだ。
《武力の軍奏(ブリキのぐんそう)》
 それが、彼女の手に持っており、先程なにやら力を籠めた対象のようであったのだ。
 絵柄はファンタジー作品でよく見られる、現代の常識では日本語がおかしいとも思われかねない『古代文明の人型機動兵器』というような代物なのであった。そこに背中には蓄音機のようなスピーカーが取り付けられている、実に特徴的な姿をしていたのである。
 そんな特徴的な絵柄のカードであったが、ここから先は更に目を引くような光景が繰り広げられるのであった。
 これは現実の人間ならばそのような事を言うのは意識がどうにかなってしまったのかと思われるような事であろう。
 だが、現実にそれは起こったのだ。
 一言で言うと、その絵柄の機動兵器がそのものの姿で彼女の目の前に現れていたのであった。
 そのような異常事態を目にしては、不法侵入だとか超常現象だとか判断が覚束なくなるであろう。
 だが、その少女は極めて落ち着いていたのであった。
 何せ、『彼女自身の力で』今の出来事は引き起こされているからである。
 そんな感じで、彼女はその機械に呼び掛ける。
「今日もいい曲を頼むぞな、武力の軍奏♪」
『御意!』
 その彼女の呼び掛けに、その機動兵器は言葉を返したのであった。
 その後はどうであろうか。すぐにそこはかとなく心地良い音楽がこの兵器のスピーカーの部分から奏でられ始めたのである。
 これが彼女が有する、『サイコデュエリスト』の力なのであった。
 ここで、彼女の生い立ちや素性について触れないといけないだろう。
 彼女の名前は、『コチ・マルティノッジ』。紛れもなく、この世界──地球とは別の星である惑星『プレシンクト』の住人なのであった。
 だが、最初からそこの住人であったのではないのである。それが、彼女が元からこの星の住人には持ち合わせていない『サイコデュエリスト』なる力を持っている事がその裏付けであろう。
 コチは今まで『彼女』と称されていたが、実は『生前』は少年だったのである。
 それは、微弱ながらもそのサイコデュエリストの能力を持っており、それを世の中の役に立てたいという健気な心の持ち主なのであった。
 だが、世の中というのは理不尽なものであり、彼は常人では理解不能な理由で殺されてしまったのである。
 それによって彼の短い人生は終わる筈──であったのであるが。
 ここで、赤い炎で龍の形を象ったような姿をした神のような存在、『赤き龍』が彼の受けた仕打ちに心を痛めてある気まぐれを起こしたのであった。
 それは人間の感性からすれば世の理を逸脱する禁忌の行為たる『転生』であったのだ。
 そう、その少年は生まれ変わり別の生を受ける事となったのである。
 ただし、元の世界でという訳にはいかなかったのだ。
 それもそうであろう。一度限りの筈の人生を再び同じ世界で会得するというのは反則も過ぎる事であるからだ。
 そして、その少年は新たにこのプレシンクトで生を受ける事となったのである。
 ただし、また同じ人間という訳にはいかなかったのである。
 彼は風の精霊という人ならざる者に生まれ変わったのである。その影響からか、生前のサイコデュエスト能力は『風属性のデュエルモンスターズのモンスター』のみの力を行使出来るという限られたものとなったのだ。
 しかし、制約があればより力はその分大きくなるものであり。
 今行使している武力の軍奏の力もコチが今までその耳で聞き溜めた音楽を再現して演奏してくれるという効力の強いものとなっているのである。
 そして、ここに二つ目のサイコデュエリスト能力を彼女は行使する事とするのだ。
 次にコチが力を籠めたのは《本の精霊 ホークビショップ》であった。
 すると、彼女の目の前にゆったりとしたローブを纏った鳥人間の姿が現出したのである。
「ホークビショップや、例の本を頼む」
『かしこまりました』
 そう二人がやり取りすると、その鳥人間はどこからともなく本を取り出してコチへと差し出したのだ。
「ありがとうなのじゃ」
『いいえ、お安い御用です』
 そう互いに一例すると、コチはその本を手に取り、自室のリクライニングチェアーに座り、読書を始めたのである。
 それも、武力の軍奏のミュージックプレイがある中での読書なので、中々に洒落た彼女の趣味がそこに繰り広げられたという事なのであった。
 件のホークビショップのサイコデュエリストの力で行使出来る能力は、コチが今まで借りるなどして手に取った事のある本をサイコエナジーで中身の文字ごと再現しているというスグレモノなのである。
 無論、ただで本が手に入ってしまうような事にならないように、コチが手にしていない本は再現出来ず、必ず借りるなどをする必要があるのである。要は、ビデオで言えばダビングに近いであろうか。
 そのようなほんの少しだけ姑息な手段で手に入れた本による読書を、コチは堪能するのであった。

◇ ◇ ◇

「うむ、今日もいい時間を過ごしたのう」
 この、自身の能力を行使した読書と音楽鑑賞を兼ねた憩いの時間も終える事となったのである。
 その後は、二つのカードから再び自分の籠めたサイコエナジーを取り払い、再び元のカードに戻したのである。
 こうして『後片付け』をきっちり終えたコチは、そのまま次なる今日やる事へと向かうのであった。

◇ ◇ ◇

 それから、役二時間経った訳であるが、彼女は再び自分の家の前までやって来ていたのである。
 彼女が今までやっていたのはウォーキングなのであった。
 無論、ここにもサイコデュエリストの能力を行使していた訳なのであるが。
 その際に使用していたカードを彼女は懐から取り出したのであった。
《俊足なカバ バリキテリウム》
 それは、二足歩行のカバがサングラスとマントを携えた、言うなれば『チョイ悪ヒーロー』とでも言うべき風貌のカードなのであった。
「もう良いぞ、バリキテリウム。今日も良く働いてくれた」
『いつも気に入ってくれてこっちとしても嬉しいぜ』
 そうやり取りした後はコチのサイコエナジーが解放されて、再び元のカードへと戻ったのであった。
 彼女がどう力を使っていたのかという所であろう。
 このカードは俊足と名の付くように、手早い処理が出来るカードなのであった。テキストのカード効果は相手に自身のモンスターの蘇生権を与える代わりに自身を召喚権を行使せずに場に出せる、所謂『特殊召喚』の効果があるのであった。
 そんな手早い効果にサイコエナジーを投入したらどうなったかである。
 その答えは、召喚権を行使しないが如く身体への負荷が減り、普段よりも動かしやすくするというものであったのだ。
 よく漫画では主人公が自身の鍛錬の為に自分に身体への負荷を高めて修行するというような展開が多々見られるものであるが。
 実際の運動ではそれはマイナスとなりうる要素なのである。
 それは、人間の身体は20分以上掛けて運動しないとその効果が身につきづらいという結果が分かっているからだ。
 この事に関する論争は『20分続けてやる』か『合計20分以上やる』かで争われていたのであるが、どうやら前者に軍配が上がったようなのである。
 後者のように思われていた理由として、時間を余り空けずに合計20分以上の運動を行っていたからというものがあるようだ。
 それは、体内の脂肪などの燃焼が続いているからであったようだ。
 つまり、結論から言うと『少し休憩を挟んでもいいが、可能な限り時間を空けずに合計20分以上運動をすべき』という事になるのだ。
 話を負荷に戻そう。即ち、漫画のように格好付けて自分に負荷を付けたハードトレーニングなどという事をして、もし継続的に20分以上掛けられなくなっては効能的に運動の効率が悪くなるという本末転倒な事となるのであった。
 だから、コチは漫画のトレーニングのような事とは逆に自分への負荷をバリキテリウムのサイコデュエリスト効果で減らし、その代わりにより長時間掛けて自分を鍛錬するというやり方を選んだ、そういう事であったのだ。
 そして、その際の彼女の服装はTシャツに短パンという運動向けなラフな格好であったのだ。これで程良い汗を掻いても普段着を汚さないという事なのであった。
 なので、彼女は運動着から普段着に戻る為に、自分の家の前へと戻ってきたという事なのだ。
 このようにしていざシャワーでも浴びて汗を流してスッキリした後に普段着に戻ろうとした時であった。
 不意に、コチに声が掛けられたのである。
「コチ、今日もウォーキングお疲れ様♪」
「おう」
 その声に対して、実に落ち着いた様子で対応するコチ。何故ならば彼女にとって一番聞く機会の多い馴染みの声であったからだ。
 その声の正体の名前を、コチは口にする。
「アユの方こそ、お出迎えありがとうなのじゃ♪」
「これ位、お安い御用よ♪」
 そう言うと名前を言われた少女、アユ・マルティノッジははにかむのであった。
 彼女の容姿は、身の丈はコチと同じ位の17歳の少女なのであった。
 だが、まず目に付くのはその髪の色であろう。
 コチはエメラルドグリーンなのに対して、アユの場合は燃えるような赤であったのだ。それこそルビーのような煌びやかなレベルの代物となっている。
 それをショートヘアにしてカチューシャであしらっているので、『熱さ』を感じる所でありながら同時にサッパリした印象も見る者に与えるのであった。
 それも彼女の特徴的な外見を現す要因であるが、それ以上に特筆すべき事がその顔から下にあったのだ。
 まず目に付くのが服装であろう。
 それは、白と緋色のコントラストと生地の美しさが世の、特に男性を虜にしてやまない『巫女装束』なのであった。
 それに加えて、彼女の場合はコチとは違ってその胸部のものは実に豊満に仕上がっていたのである。
 それは即ち、その方面で格差を生んでしまっているというものであろう。
 だが、ここではっきりするのである。コチは生前には少年であったが為に、かえって男性として取り扱いに困る胸の膨らみが豊富でもただ煩わしいだけであるのだから、全くを以てコンプレックスを抱くような事なく至って二人は平穏な関係を結んでいるのであった。
 いや、それ以上に二人には強い絆がある所なのだった。
 それは、アユが巫女という役職に就いている事に起因するのである。
 巫女というのは霊的なものに精通する神秘的な役職なのである。
 そこで勘の良い読者ならば察しているかも知れないが、彼女の力でこそ今のコチの姿があるのだ。
 それは、前述の通りコチが風の精霊という存在に転生した事に他ならないのである。
 そのままでは精神体故に人とのコミュニケーションを取れない存在であった彼女に、自身の巫女としての力で仮初めの肉体を構築させるに至ったのがアユという訳なのだ。
 だが、そこで少々と言ってしまっていいのか分からないアクシデントが起こったのである。
 それは、アユが女性だったからである。
 女性であるアユの力で以てコチが肉体を手に入れた事によって、コチもまた少女の姿へと変貌してしまったという事なのだ──人格が男性であるにも関わらずに。
 しかし、幸いにも二人の性格によって互いに取り乱す事はなかったのである。
 コチの方は生前からマイペースな人格だったので極めて落ち着いていたし、強かな性格のアユは寧ろこれを利用しようと思った位である。
 利用とは何か? それは前々から一人っ子のアユは妹が欲しかったという所にあったのだ。
 要は考え方の転換だ。彼女は外見が自分の力で少女になったコチを自分の姉妹のように扱う事に決めたのである。その為にコチに自分と同じ性である『マルティノッジ』を名乗ってもらう事にしたのだ。
 こうして今日まで、この奇妙な姉妹(?)関係が二人には築き上げられていたという事なのだ。
 そんな関係の発端であるアユが、どうやらコチの事を出迎えてくれたようである。
「運動お疲れ様、コチ。はい、これお茶」
「うむ、かたじけないのう」
 そういうやり取りをした後、アユは手持ちのお茶入りの容器をコチに差し出したのであった。
 そして、有り難くそれを飲むコチ。
 一頻り一服した後には、この瞬間特有の条件反射をしてしまうというものである。それは、風の精霊という人ならざる者になったコチとて例外ではなかったのだ。
「ぷはぁ~、堪らんのう♪」
「気に入ってくれて良かったわ♪」
 こういういい飲みっぷりをしてくれると、アユは渡した方としても気持ちが良いのであった。
 そのようなやり取りを行った二人は、その場で話を始めるのであった。
「して、これからの仕事に就いてかのう?」
「そういう事ね、まあコチがシャワー浴びてスッキリした後でいいわよ」
 そう、彼女達の今日の仕事に就いての事なのである。
 彼女達は未成年(片方は実際にその年齢である)のであるが、それでいながら実はと職に就いているのであった。
 それも、この惑星プレシンクトの『平和維持局オラクル』という大掛かりな組織の幹部という外見では判断出来ないが大それた役職に就く二人なのだ。
 そんな、実は偉大な存在であった二人が今仕事に関するやり取りとしているという訳である。
 こうして、これからの二人の仕事の計画が進むかと思いきや、ここでコチが思わぬ事を言うのであった。
「のうアユよ、済まぬが今日はわし一人でやらせてもらえはせんかの?」
「えっ!?」
 その言葉にアユは面食らってしまうのであった。
 一体どういう風の吹き回しという所であろうか。
 何せ二人はこれまで幾度となく協力してその力を合わせあって任務を乗り越えてきたというのにだ。
 それが何故、今日に限ってコチはそのような事を言うのであろうか?
 暫し沈黙の時間が二人の間を流れるのであった。だが、それも束の間であったようだ。
 そこから最初に言葉を発したのがアユの方なのであった。
「……分かったわ、コチ」
 それが、アユの出した答えという事のようだ。
 彼女をその結論に至らせたのは、コチとの今までの深い絆で以って培われたものであったのだ。
 つまり、そこには言葉以上の以心伝心の心があり、声に出して言うよりも更に深い『何か』が生まれての事なのであった。
 ──コチには何か考えがある、それが長年の付き合いであるアユには心によって良く分かる所なのだった。
「かたじけないのう、アユ」
「言葉は無用よ、コチ。私達どれくらい一緒に過ごしていると思っているのよ?」
「ふふ、そうじゃな♪」
 そのような軽口の叩き合いによって、コチがそうアユに意味深な発言をした事による心残りが軽減されていったのであった。
 その後の事は、スムーズに進む事となる。
「それじゃあ、コチ。私はこれから帰って探偵の勉強をするから、後はよろしくね♪」
 そうアユは言うのであった。
 彼女は巫女であると同時に、実は探偵でもあるのだ。
 無論、それは相応のスキルがないと務まらない事であるが故に、そこには熱心に勉強を行ってそれを高めていく必要があるのである。
「おう、頑張るのじゃぞ」
 そのような勉強に意欲を燃やす者に対してマイナスのイメージというものは沸きづらいであろう。無論自身の鍛錬が好きなコチでも、いや人一倍そういう事が好きな彼女はアユに対して快い気持ちを抱くのであった。
 そして、彼女も今しがた運動してきて流れた汗を洗い流す儀式へと向かうべく行動しようと一言言う。
「では、わしもシャワーを浴びて来ようかの?」
 そんなコチに対して、アユは注意を促す意味で言う。
「コチ、仮にもあなたは女の子の姿なんだから、不用意にそういう無防備になる事の発言は控えた方がいいわよ?」
「いや、わしは貧乳だから覗かれても問題はないぞな?」
 そんな事を平気で言う辺り、やはりコチの中身は男性のそれである事は隠しようがなさそうである。
 なので、アユは敢えてこう言っておく事にしたのであった。
「問題オオアリよ。胸とかそういう事じゃなくて、女の子が裸を曝け出すという事が問題なの!?」
「おおう……」
 この迫真の勢いに、さすがのコチもタジタジとなってしまったようである。
 こういう時は、女性の方が強いものであるのだ。その辺りは幾ら外見が少女同士のコチとアユであっても中身で明確になってしまったようである。
「ま、まあ用心しておく事としよう……」
「分かればよろしい」
 そうアユは言いながら得意気になるのであった。所謂『ドヤ顔』という奴である。
 そんなやり取りをして、二人はここで解散となったようである。

◇ ◇ ◇

 その後は、コチ一人のシャワータイムとなって、そのまま彼女はウォーキングで流れた汗を洗い流してスッキリしたようであった。
 ちなみに、一人でのシャワータイム、それも人格が男性のコチのそれは特に面白みの無いものであり、かつこれは小説なので特にお楽しみはここには記述されないのであった。残念!
「ふぅ~、いいシャワーじゃったのう♪」
 そう言う彼女は既に湯を浴びた後であるが故にラフな格好へと着替えを済ませてしまっていたのであった。
 それは、運動の時と同じようにTシャツと短パンという代わり映えしないものなので、ここにもお楽しみは無かったのである。
 こうして、彼女は運動後の憩いの一時を満喫してその余韻に浸りたい所であるのであったが、実際はいつまでもそうしてはいられない所であったのだ。
 そう、彼女はこれからアユと一緒に行う筈だった仕事を一人でこなさないといけないのであるのだから。
「では、行くとするかの?」
 そう言うとコチは普段着である白の上着とズボンという清楚な服装へと身に纏ったのであった。

◇ ◇ ◇

 そのようにした後、彼女は家から出発して30分程の所へとやって来ていたのであった。
 その際には件の《俊足なカバ バリキテリウム》をサイコデュエリスト能力を使って自身の機敏性を増してやって来た訳であるので、普通の徒歩だと自宅から二時間は掛かる程の距離を彼女は飛ばして来たという事なのである。
「我ながら、少々チートっぽい事が出来てしまうものじゃのう……」
 その事実に、コチはどこかメタっぽい発言をして自嘲してしまうのであった。どうにも自分は自然の摂理に反した行為が多くなっているのではと思ってしまう所なのだ。
 しかし、そんな自嘲をしても得られるものはない為、コチは気を取り直して今回の『仕事場』へと意識を向ける事としたのであった。
「ここがそうという訳じゃな……」
 そう言ってコチは辺りを見回すのだ。
 そう辺りを見回してみると、その場所は森林に囲まれた場所の中にある、とある岩壁なのであった。
 その限りでは、何の変哲もないというように見えるが、コチにはちゃんと分かっていたのであった。
「うむ……わしの感覚は誤魔化されんぞな?」
 そう彼女が独りごちるように、ここには確かに『何か』が存在しているという事なのであった。
 無論、これが彼女の今回の仕事であるという事なのだ。
 そして、忘れてはならないのが彼女とアユが『平和維持局』という団体に所属している事なのであった。
 そう、言葉通りにそこは平和を護る為の組織なのだ。
 その辺りはよく漫画で平和だの秩序だのを護ると明言しておきながら自身が正義の名の下か、はたまた名ばかりの下に暴力的な行為をする組織が少なくないのであるが。
 幸い、彼女達が所属する『オラクル』はれっきとした真っ当に平和を護る為に行動している健全な組織という事なのであった。
 その組織の命で以って彼女は今ここにいる訳である事から、一つの事実が浮かび上がってくるというものであろう。
『ここには、その平和を脅かす存在がいる』この一点に尽きるだろう。
 この惑星プレシンクトは現代の地球のような凶悪な人間の犯罪はほとんど無いのであるが、その代わりと言ってはどうかと思う所であるが、人ならざる魔物が跋扈している環境なのである。
 その辺りは、この惑星に転生した後に風の精霊として命を授かったコチという成り行きからも判断出来るだろう。
 そう、この星は地球と違って断じて『人間の天下』ではないという事に尽きるのである。
 無論、その事に人間が指をくわえて黙って見ていたという事はない訳であり。
 その為に、魔物を討伐する組織や団体が数多く設けられる事となっており、コチ達が所属する『オラクル』もその一つだったという事なのだ。
 そして、そのオラクルの実績は確かなものであり、不正という事もしておらず健全な組織だったという事なのであり、今までコチ達が安定して仕事が出来ていた一因となっているのだ。
 そんな信頼出来る組織からの命、そしてコチ自身の『生前から引き継がれたサイキック能力と、転生してから得た風の力のハイブリッド』によって彼女にはここにお目当ての『平和を脅かす存在』がいる事を裏付けているという訳なのである。
 しかし、一見すればこの場所にはそのような忌まわしい存在が確認出来はしない訳であるのだ。つまり、『見当たらない』という事になるのだ。
 だが、コチには分かっていたのであった。それは、現時点での条件では目で確認出来ないに過ぎないのである、と。
 その状況を打破する為に、彼女はここで行動を起こすのであった。
「では、頼むぞな!」
 そう言うと彼女は懐からカードを取り出したのである。
 無論、それはデュエルモンスターズのカードなのであった。それを彼女はサイコデュエリスト能力で効果を発揮するという魂胆なのだ。
 彼女がカードを前方に翳すと、そこから機械仕掛けであろう固形物が照射されたのである。
 そして、その固形物は彼女の前方の岩壁へと向かっていったのであった。
 その後、それは岩壁に固定されたのである。
 そうした事で、この彼女が現出させた機械の正体が分かる事となったのだ。
 それは、球状の機械なのであった。その後方には噴射口があって、今しがたここから推進力を得て岩に向かっていった事が伺えるのである。
 加えて、そのボディーには四つの鉤爪状の固定器官が存在していたのだ。それによって岩にこの機械が装着されたという事なのである。
 それを確認したコチは、ここで合図を声にして出力するのであった。
「では……『爆破』じゃ!」
 そう言って彼女が指を鳴らすと、その機械は一瞬の内に熱を帯びたかと思うと、その場で一気に爆発を起こしたのであった。
 激しい破裂音に、岩が砕けるけたたましい音が辺りには響いたのであった。
 結論から言えば、この球体の兵器によって彼女の目の前に立ち塞がっていた岩はものの見事に爆散したという事なのだ。
 その様を見ながら、コチは得意気にこう言うのであった。
「やっぱりいざという時頼りになるのう……この『クラッシュボム』は♪」
 こうボケて見せたのも、アユがこの場にいない事を見計らっての事なのであった。
 アユがこの場にいようものなら、『それ、別の作品のでしょ!』というツッコミの元にハリセンの洗礼をコチは頭から被ってしまう所であっただろう。
 そのような仕打ちには長い付き合いであるからコチは習慣付いたものではあったのであるが、やはり痛いツッコミというのは煩わしい訳であるのだから。
 故に、その洗礼の心配の無い状況で、のびのびと自由に彼女はボケて見せたのであった。しかし……。
「うむ……何だか空しいのう……」
 ツッコミの無い所でボケる。何とも味気ない事であろうか。
 ボケとはツッコミがあってこそ成り立つものであるのが基本であるからだ。世の中にはその基本から逸脱した表現をしてしまう者も中にはいるのではあるが。
 コチは例外のようで、ボケにはツッコミが無くてはならないと今この場で痛感する所なのであった。
 閑話休題。では話を今の兵器についてに戻す事としよう。
 このカードは《瞬着ボマー》なる機械族モンスターなのであった。
 デュエルモンスターズでの効果は攻撃してきたモンスターに装着されて、時間差の後で爆破破壊する『だけ』というそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える効果も持った《スフィアボム 球体時限爆弾》の完全ではないものの基本的には下位互換の産物なのであった。
 しかし、この瞬着ボマーが風属性であった事によりコチはこうして力として行使出来るようになった為、その事に感謝しつつ、このカードをいざという時頼りにしているという訳なのである。
 そして、その効果は上々のようであった。彼女の狙い通り『それ』は確かにそこにあったからである。
「やっぱり、この岩壁の奥に道が続いておったようじゃのう……」
 つまり、こうして瞬着ボマーのお陰で、文字通り『道は開けた』という事のようであった。
「では、行くとするかの……」
 こうしてコチはそのままその出来立てホヤホヤの洞穴の中へと歩を進めていくのであった。

◇ ◇ ◇

 そして、コチは洞窟の中の散策を続けていっていたのである。
「《電光千鳥》は必要無かったようじゃのう……」
 そう彼女が呟くモンスターは、風属性なのは勿論、その身に目映い稲光を纏った存在なのであった。
 それを利用して彼女はこの洞窟という真っ暗闇の中の散策を進めようと画策していたのである。
 しかし、それが実は必要無かったという事なのだ。
 それはつまりどういう事かというのは、実に簡単な事なのであった。
 この洞窟にはその道という道に松明が設けられており、その為明りが常に確保されていて散策には何も持たずに行えてしまうという状況なのである。
 その事が意味するのは一つであろう──そう、この洞窟の中には誰かが住んでいるという事なのだ。
 つまり、その事はというと……。
(やはり、この中で間違いないじゃろうな!)
 そう、この洞窟の中にこそ、今回の仕事に関する『何者か』がいるという事なのである。
 コチはそこまで分かれば良かったのであった。後はその先に進むだけなのであるのだから。
 その想いを胸に、彼女はそのままその洞窟の中で歩を進めて行くのであった。

◇ ◇ ◇

 その洞窟の道すがらは非常に効率良く進んで行ったのである。
 しかし、逆に言えばそれは『効率が良すぎた』のである。
 その存在の気配はするものの、他に誰もコチの行く手を阻む者が存在しなかったのであるのだから。
 その事実から考えられる理由を、コチはすぐさま察する事となった。
(どうやら向こうの方も、わしを歓迎しておるようじゃの……)
 それが、一番の可能性という訳なのである。
 向こうの方もコチと出会いたがっている、その一つの仮説を胸にコチは更に歩を進めて行ったのであった。
 そして、その進軍はやがて終局を迎える事となったのである。
(ほう、こう来るとはな……)
 そうコチが心の中で一人ごちるその視線の先にあったのは、またしても岩壁なのであった。
 そう、最初この洞窟の入り口に立ち塞がっていたアレである。
 こうなると、また《瞬着ボマー》の出番かとコチはサイコエナジーをそのカードに籠めようとした、その時であった。
 突如として、辺りの雰囲気に変化が現れたのであった。それに続いて、少しばかりの地響きも鳴り響く。
「むぅ……」
 その突如の展開に、コチは身構えるのであった。『相手』がいつどう出て来ても良いようにである。
 場合によってはサイコデュエリストの能力で迎撃もやむなし、そうコチが思っていた所であった。
 その地響きの後、彼女の目の前に立ち塞がる岩壁が徐々に動き始めたではないか。
 それも、真ん中から真っ二つに割れていったのである。そう、扉が開く様子以外の何物でもない所であろう。
 その事から、疑惑が確信に変わったコチなのであった。
(うむ、やはり歓迎されておるようじゃのう……)
 そう思いながら、コチはその開かれた『扉』の中へと歩を進めて行ったのであった。

◇ ◇ ◇

「うむ……これは……」
 その先にあったのは、今までの洞窟の雰囲気から打って変わって、非常に大きな部屋となっていたのである。
 その場所は正に王室なのであった。そして中央には言わずもがな『玉座』が厳かに佇んでいたのである。
 それは無論、『王』の座に就く者の威厳を引き立てる為に存在するものであり、そして、現在進行形でその役割は果たされていたのであった。
 そう、その王に該当するだろう人物が確かにコチが入って来た時から確認出来たのである。
 その者は、率直に言うと一人の少女の姿をしていたのであった。
 無論、このような場にいる存在であるのだから、ただの少女とは掛け離れていたのであった。
 その少女はその身を厳かな狩衣に身を包み、どこか古風な雰囲気を醸し出していたのであった。
 そして、艶やかな黒髪に、切れ長の瞳を持っているという妖艶な女性としての要素が掻き集められていたのである。
 それが狩衣という威厳のある服装と相俟って、更にはその視覚効果だけからではない『何か』が彼女をより幻想的な雰囲気で包み込んでいたという事なのであった。
 こうなれば、この者がただの少女である筈もないだろう。なのでコチはこの場で警戒しながら相手の出方を待つ事にしたのであった。
 そして、どうやら相手の方から働き掛けてくれたようだ。
「そう警戒しなくても良いぞ。こっちに来てくれ」
 その口調は中性的で、ややラフなものとなっていたのだ。
 それが、幻想的な外見とのギャップを生んでおり、よりこの少女の雰囲気がただ者ではない事へと拍車を掛けていたのである。
「う、うむ……」
 その者の言葉にコチは甘んじる事としたのであった。
 彼女はまだ警戒しながらも、その少女の目の前へと繰り出して行ったのである。
 そして、その者と対面する所まで近付いて、まずは彼女の事について話をするのであった。
「……間違いないかの? そなたが、最近この場所を縄張りにしたモンスターである《八岐大蛇(ヤマタノドラゴン)》で?」
 それは、遊戯王デュエルモンスターズをある程度知っている人ならご存じの、最上級スピリットの一角であるモンスターなのだ。
 それは私達の感覚から言えば一カードキャラである筈であろう。
 だが、ここにその存在は現実の者として居る訳である。
 それは、ここが地球とは違う星であるプレシンクトである事に起因しているのであった。
 この世界では現代地球のような人間間の犯罪行為はほとんど存在しないのではあるが、前述の通りに代わりに魔物やモンスターの類いの存在がいるのである。
 そして、時に彼等は人間の生活を脅かす驚異となって平和な暮らしに立ち塞がってくるのだ。
 それを、『平和維持局オラクル』のような戦力を持った組織が対応する事でその驚異に対しての牽制となっている訳なのだ。
 そのオラクルとしての任務に従って、この八岐大蛇の前までこうして来たのが今のコチという訳なのであった。
 そのコチの問いに対して、八岐大蛇が答える事となったのだ。
「如何にも、私が八岐大蛇その者よ。この少女の姿は人前に見せる為の仮初のものである事を断っておこう」
 これで答えは確定したのであった。この者が八ツ首の大蛇である八岐大蛇本人である事が。
 つまり、この場には強大な力を持ったモンスターがコチの目の前に君臨しているという訳なのである。
 その事にも動じず、コチは続けていくのであった。
「では、話が早いであろう。わしはオラクルからそなたの討伐の命を受けておる」
 それがコチの仕事なのであった。
 それは至極当然という所であろう。幾度となく人間の生活の平和を脅かす魔物の類いが最近現れ始めたのであるから、人間は自身の保身の為にそれを亡き者にしないと安心出来ない所であろう。
 そのコチの言葉に対して、八岐大蛇──以下、オロチ──は驚く程に落ち着いた様子で受け答えするのであった。
「……確かに、それが真っ当な判断というものだろう。恐ろしい魔物は滅しておかないと人間は自分達を襲ってくださいと言っているような心持ちになるだろう」
「そういう事じゃな……」
 そうコチは、その心に何か含むような雰囲気で以ってその言に対して答えたのである。
 その内容を聞けば一触即発である事は想像に難くないであろう。最近現れた魔物であるオロチを、平和の使者であるコチが退治にやって来た、実にシンプルな構図であるのだから。
 しかし、ここで話は少々意外な流れとなってくるのであった。まず口を開いたのはオロチなのであった。
「──しかし、お前は私を葬る為にここに来たのではないのだろう?」
 ここから、流れは退治という所から変わっていったのであった。
 それに対して、今度はコチが答える事となる。
「うむ、わしはお主を亡き者にしようなどという心積もりは毛頭ないからのう?」
 そう彼女は結論付けたのであった。
 曰く、相方のアユの調べで、この八岐大蛇という存在は最近この辺りを縄張りにして勢力を持った存在であるものの、決して人間を襲ったという経緯がない事がしっかりと分かっていたからである。
 それは、アユの探偵としてのスキル故に出来た芸当なのであるが、その事に関してはまた別の機会に話すとしよう。
 今重要なのは、コチと二人でこのオロチという者は人間に害を示さない存在である事が分かったという事なのであった。
 それがどういう事なのであるのかを、オロチは指摘していく。
「安易に上の者の言いなりにならず、自分の考えを持って行動している。それがお前だという事が分かっていたからこそ、お前をこの場に招きいれたという訳なのだよ」
 それは、別の世界で父親の復讐の命の言いなりになって、自分で危険であるのかも判断せずに従ったが為に、その父親が標的にして闇堕ちさせる事で自分の復讐の駒にしようとした兄とその妹の平穏な日々をぶち壊した三兄弟の次男のケースとは対照的であろう。
 それを指摘するオロチに対して、コチも自分の理論を述べていく。
「そういう事じゃ、そしてわしはそなたと一対一で語り合いたいから今日はアユには暇を取ってもらったという事なのじゃよ」
 一人に対しては一人で向き合いたい。それがコチが大切にしているモットーなのであった。
 これまた別の世界でこういう事があったのだ。神格化されている学園のアイドルの元に紆余曲折あって一緒に住む場所を与えられた女生徒の一人。
 それを『学園の他の女生徒のほぼ全て』が逆恨みして全員でその女生徒を集団いじめしたという痛ましい出来事があったのだ。
 それが悪い事として片付けられればまだしも、その女生徒すらに件の学園のアイドルが如何に人気であるかというバロメーターとして重宝される事となったという締めくくりがなされてしまったのだ。
 別の世界の出来事なのでその事をコチは知らないのであるが。
 重要なのは、大勢が指示するものを安易に正義とせずに、自分一人だけでも大切に思った事は大切にしたり。
 加えて、大勢の決定というのは個人の意思が希薄になるから避けるようにして、かつ多勢に無勢という卑怯な数の暴力は用いずに一人が相手ならば自分だけで向き合うというのがコチのポリシーという事なのである。
 その為に、今回の任務はオロチ一人を相手にするが為に、アユを連れて行って二人で対処するという事を避けた、そういう事なのだ。
───────
遊戯王エイス・デイズのプロットです。
 まだ途中となってしまいましたが、一応イズミとIVを社会的にぶっ飛ばす為の記述が出来ましたのでここまで載せておきます。