雷獣ケーキ

東方を中心に二次創作小説やゲームデータを置いたり、思った事を気ままに書いていきます。

エイス・デイズ:プロット・ラウンド2

 このようにして、邂逅したコチとオロチの距離は瞬く間に狭まっていったのであった。
 だが、コチの方としてはこのままオロチを放置するという訳にもいかなかったのである。
 それは当然であろう。何せ相手は基本的に人間の生活を脅かしかねない魔物であるのだから。いくらそれが調べによって人間を襲わないとついていても、油断は禁物であるのだから。
 その事をオロチの方も重々承知であるが故に、この先をコチに促すのであった。
「それで、お前は私に対してどう挑むというのだろうか?」
 それが彼女が抱く疑問なのであった。
 そう、何かしらの勝負はしないと話が進まないだろう。人間と魔物という間柄であるのだから、そこにただ話し合いで済むという筈も無かったのでだから。
 無論、その事に関してコチは予め考えを持ってここに来たという事である。
「それは、わしが考案している『メンズーア』なるものじゃな?」
「メンズーアとな?」
 その用語にオロチは首を傾げるのであった。永年生きて来た彼女であっても、その言葉は余り耳にする機会が無かったからである。
 そんな当然の疑問を浮かべるオロチに対して、コチは話を進める。
 曰く、メンズーアとは昔のドイツで生まれた決闘方法なのだ。
 特徴的なのは、その真剣を使った戦い方であるのであり、肉体的に危険を伴い、初期には死者も出るような曰く付きの代物であったという側面がまず目に付くのであるが。
 他に、そしてコチが一番重要視する要素として、『勝ち負けを着ける』のが目的ではないという点に尽きるのであった。
 その元来のメンズーアを参考にした決闘方法を、コチはこう切り出した。
「そう、これは言うなれば『無勝敗決闘』とでも言うべき所なのじゃよ」
「無勝敗とな……」
 その言葉に、オロチの方も感心を持ったようであった。
 決闘でありながら勝敗を着けるのが目的ではないとは、如何なる事だろうか、と。
 しかし、幾ら考えても百聞は一見にしかずというものである。
 なので、早速やってみようとコチは促す前に、一言言っておくのであった。
「本来これはデュエルモンスターズで行おうとわしは画策しておるのじゃが、今回は急を要したからの。デュエルモンスターズは使わないという事じゃな」
「……」
 この瞬間、オロチは『おい、デュエルしろよ』とツッコミそうになったが、急な事だったという相手の事情を読み取り、その言葉は飲む込む事にしたのである。
 そんな微妙な空気になってしまったのはコチにも分かる所だったので、そこに彼女はフォローを入れるのであった。
「まあ、それは今回だけという事でな。そなたには悪いが少々お手数を掛けてしまうから済まぬという事じゃよ」
「……仕方ないか」
 相手も謝っている事だしと、オロチはここで妥協をする事にしたのであった。
 出来ればデュエルモンスターズで勝負したかった所であるが、この場合は仕方ないだろう。
 そうして気持ちを切り替えたオロチは、ここでどうやってその『メンズーア』を実行するのだろうかとコチに聞くのである。
「それで、どういう勝負法になるのだ?」
「それは、百聞は一見にしかず……じゃよ♪」
 そうコチは言うと、彼女は得意気に指をパチンと鳴らすのであった。
「ゴクッ……」
 それを合図に一体何が起こるのか。思わず固唾を飲んでオロチは成り行きを見守るのであったが。
 ……結論から言うと何も起こらなかったのであった。
「あれ……」
 何か不測の事態でもあったのかと、オロチは少し胸がざわつくような心持ちでコチに聞く。
「何も起きないのだが?」
 それに対して、コチはあっけらかんとして返答するのであった。
「それもそうじゃろう? ただわしは指を鳴らしただけなのじゃからな?」
「はい?」
 それが一体何を意味するのかと、オロチは思わず声が上擦ってしまう。
「どういう事だ?」
「わしのサイコデュエリスト能力はサイコエナジーをしっかりとカードに投入しないと現出しないのでな。ただ指を鳴らして発動出来るような全自動っぷりはないのじゃよ♪」
「うっわ……!」
 してやられたとオロチは思ってしまった。今のはただの格好つけであるのかと。
 なので、当然彼女のコチへの視線には低温なるものが含まれる事となり、それにコチも気付いたので、悪ふざけはここまでにしておこうと彼女は話を進める。
「まあ、冗談はここまでにして、ここからが本番じゃぞ♪」
「うん、頼むわ……」
 言外に二度目はないという意味合いを含ませながら、オロチはそう言葉を返したのであった。
 それに答えるように、コチは懐からカードを取り出したのである。
 そのカードは、《デザートストーム》なのであった。
「それは、風属性モンスターでデッキを組むなら有力候補なカードという訳だな?」
「よく知っておるのう」
「それ位デュエルモンスターズをやっていれば知っている事なのはお前も良く分かっているだろう?」
「確かにのう」
 この間の二人には、互いにデュエルモンスターズへ向き合うべき姿が垣間見れたという訳なのであった。
「では、やるとするかの……」
「何を……?」
 そうオロチが言いかける前に、コチは行動を終えていたのであった。
 彼女がサイコエナジーをそのカードへと籠めると、そこから一気に力が解放されたのである。
「いざ、戦いのリングへ!」
 そう言いながらコチがカードを掲げると、そこからその実体化した効果が発揮されていったのだ。今度こそ、効果発動もどきの指パッチンではなく正真正銘の本物という事である。
 すると、辺りに一陣の強力な風がまず吹いたのである。それに対して思わずオロチは目を瞑りながら身構えてしまう。
 そう彼女が防御体勢を取ったのも無理からぬ事であろう。それだけコチの力で起こしたこの現象は凄まじかったのであるから。
 そして、一頻り風が収まった所でオロチが目を開けると、
「!!」
 彼女は驚愕してしまったのであった。
 何故ならば、彼女の目の前に飛び込んで来た光景が余りにも先程までと状況が違ったからである。
 先程まで彼女は洞窟の中に作った王室の玉座に居た筈である。それが今ではどうであろうか?
 そこは一変して、見渡す限りの青空が広がっていたのである。
 そして、地平線まで届く程の砂漠が果てしなく広がっている。
 それだけでは彼女らは足場の悪い砂の上に立つ事になっていたであろう。
 しかし、そこには配慮があるのであった。彼女達は今、茶色の岩がまるで大きな土俵のように盛り上げらえて作られた舞台が用意されていたという事である。
 そこから、オロチはこれがどういう事かを推測していき、答えを導き出したのだ。
「……これが、今宵我等が勝負を繰り広げる為のステージという事であるな?」
 それに対してコチから返って来た言葉は肯定の意であったのだ。
「ご名答じゃ。お気に召してくれたかの?」
「気に入るというか何というか」
 論点はそこではないというのが、オロチの思う所なのであった。それはこれである。
「よく、このような力を発揮出来るな、という事だ」
 その事実に強大なモンスターとして生を受け、永き間生きて来たオロチとて驚愕してしまう所なのであった。
 これに関して、オロチはある疑念を抱くのであった。
 ──この者は、自分と同等か、あるいはそれ以上の力を有している、と。
 これでもし真正面から力で挑まれていたら危うかったと率直にオロチは思う所であった。
 しかし、それでいて彼女には嫌な気持ちは余り存在しなかったのである。その理由が彼女の口から発せられる。
「いや見事だ。それだけの力を持っていながら、それを見せびらかすよりも相手と対等に渡り合う事を選ぶとは」
「うむ、わしにも少々思う所があっての……」
 それは、彼女がこの世界に転生する前の出来事に起因するのであった。
 その時のコチの前世の存在と関わる者の思想が、口にするのも憚られるような常軌を逸したおぞましいものであり、彼と関わろうものならまともな生き方が出来ないだろうというレベルのものだったのである。
 その彼の思想は倫理観というものに興味はなく、ひらすら有り余る力を求め、それだけしか評価せずにそれ以外のものには存在する価値が無く、平気で踏みにじっていくスタンスを取っていたのである。
 そんな『彼』の吐いた台詞の一つがこれである。
『片割れは何の取り柄もないカスだったようだな』
 そのような発言を平気でする辺り、その者に真っ当な人間性というものは欠落しているのは明白である。
 しかし、相手を倒して勝負を着けるという判定方法では、そのような起こらないには勝負の参加者の良心に委ねられる……というより『依存』してしまっているのだ。
 これでは、肉食獣である相手に、他の動物を襲って食べないで下さいと言って襲われない事を祈るような非建設的な願いというものであろう。
 加えて、他の世界ではこういう事例もあったのだ。
 才能はそこまでないものの、地道な努力で技術と大切な事を身に付けていった少女ビリヤードプレイヤー。
 そんな彼女を有り余る才能で以って蹂躙し、挙句の果てには負かした彼女を下着姿にして店の酒を浴びせるという辱めを与えるという事をした暴漢もいたのである。
 そのように、力の有り余る者の場合例え一人であっても力量の差のある場合は集団で一人を襲うような、一対一である見た目からは察しづらいがこれも言うなれば『卑怯』と表現すべきようなものだろう。
 そこで、転生した後に更に自分の力を努力によって磨く事を怠らずに伸ばしていったコチだからこそ思う所があり、それが『メンズーア』に繋がっているという事なのだ。
「つまりじゃな、力の強い者が他の者がそれに達しない際にどうすべきかと思っての事なのじゃった訳じゃ」
 力を考えなく振るえば他の者の足を引っ張り、かと言って力の出し惜しみをさせればその力ある者の本質を捻じ曲げてしまう所であろう。
 そのコチの答えが、今出るのであった。
「それでは勝負の準備をせねばならぬだろう、まずは……」
 そうコチが独りごちると、例の如く懐からカードを取り出したのであった。
 そのイラストは背中に巨大な扇風機を背負った、ユーモラスながらも勇ましさもある戦闘ロボットの姿──即ち《旋風機 ストリボーグ》なのだ。
 余談であるが、腹部に扇風機の場合はかつて『倒せない』で有名になったあのロボットなのであるが、本当に余談である。
 それでは、そのストリボーグのサイコデュエリストとしての使い方はどうなるのであろうか。
 今回の場合は、武力の軍奏やホークビショップのような捻りのある使い方ではなかったようだ。このストリボーグがそのままの姿でこの砂漠のど真ん中の土俵へと現出したのであった。
 それを見ながら、オロチは呟く。
「成る程、そいつと私が戦えばいいのだな?」
 当人同士ではなく、召喚したモンスターと戦えばいざこざが少なくなる、そうオロチは踏んだのであるが。
 どうやら事の詳細は少々違ったようである。
「のんのんのん♪ 早とちりしてはいかんぞ♪」
 そう言ってコチは指を振って茶目っ気を出して見せるのであった。
 それを可憐な少女の容姿を持つ者がやるのだから、仮初とは言え同姓の姿を取っているオロチは思わず憧れの念を抱いてしまう。
(……って、そういう場合ではないだろう)
 だが、彼女はようやってその雑念を振りほどく事に成功したのであった。
 そして、今の問題はストリボーグを倒せばいいというのではないというこのメンズーアのルールが如何なる者であるのかを見極める必要があるのだ。
 さて、相手はここからどう出るのかと、オロチは瞠目する事とした。
 それに答えるように、コチは次の動きに転ずる。
 続いて彼女はまた別のカードを懐から取り出したのである。その絵柄には機械仕掛けのコウモリの姿が描かれていたのであった。
《バット》である。だが、今回は先程のストリボーグの時とはサイコエナジーの籠め方が違っていたのである。
 先程は大きく一つの力を籠めるだけだったのに対して、今回は小さい代わりにそれを何度もそのバットのカードへと送り込んだのであった。
 その異質な行為の後に、『それ』は起こったのである。
 しこたま大量のサイコエナジーを籠めたバットのカードから、無数の存在が壊れた蛇口から出る水の如く噴出したのであった。
 無論、それはバットなのであった。しかし、問題はその数であろう。
 優に100体はコチのカードから放出されたと見て間違いないだろう。
「これはまた……」
 実に規格外な芸当をしでかしてくれるな、そうオロチは思ったのであった。
 ただデュエルモンスターズを実体化するだけではなく、今度なその数を大量に召喚するという事をしでかしたからである。
 どこまでもこのコチ・マルティノッジは計り知れない力を持った存在であるなとオロチは再確認するのであった。
 このような者を敵に回さなくて良かったなとオロチは思った所で、ふとフフッと笑みを漏らしたのであった。
 それを見ながら、コチは首を傾げる。
「どうしたのじゃ?」
「いや、今私とお前では『敵同士』ではないという事を改めて思ってな……」
 それを聞いて、今度はコチが笑みを浮かべる事となったのだ。
 それは、正に満面の笑みであったのだ。ちなみに彼女には八重歯があるから笑うとそのあどけなさに更に拍車が掛かったのである。
 それはさておき、その笑みを携えながらコチはオロチに対して言葉を返すのであった。
「そう、そなたもこのメンズーアの良さが分かってくれたかのう?」
 そう言ってコチは続ける。
「このメンズーアの醍醐味は何と言っても従来の決闘方法とは違って『敵味方』に分かれて行うものではないからのう♪」
 その辺りが元来のデュエル等の勝負方法とは違うのである。
 幾らデュエルが望ましい倫理的な美徳として、ライバルとの切磋琢磨という点にあるのであるが。
 やはり、その勝負方法では限界があるというものであろう。
 基本的に相手のライフ、モンスター、時にデッキを破壊し合って戦うという謂わば相手との奪い合いを行う訳であるのだから。
 つまり、喧嘩にルールをつけたようなものであるのだ。
 故に、幾ら『デュエリストの誇り』と銘打ってもそれを取り仕切るのが相手との傷つけ合いが背景にあるのでは難しいというものであろう。
 なので、時に倒した相手をカス呼ばわりという心無い対応をするデュエリストも出ても必然的というものなのだ。要はやっているのは野生動物の捕食のし合いのようなものであり、そこに友情だのという感情を混ぜ込む方が無理があるというものなのである。
 そこで、コチが考えたのがデュエルからそんなやり取りの要素を無くすというものであり、それが『メンズーア』という事なのであった。
「今わしが画策しておるのは、これをデュエルに取り入れる事なのじゃが、今回は急という事でデュエルではない事を先にお詫びしておくぞ」
「ああ、構わない」
 その事は先程聞いたのであるから、オロチは既に承諾済みなのであった。
 この勝負の性質がデュエルに取り入れられたら、如何ほどの革新的な躍進があるだろうかと期待する所である。
 だが、今はその用意が出来ていないが為に試作段階の勝負方法となるのである。
 しかし、それを言い換えれば今回のオロチの奮闘っぷりがそのデュエルとしてのメンズーアの基盤になっていくという事も示唆しているのである。
 つまり、この勝負にオロチは抜かりを持つ事が出来ないというのが重々分かる所であったのだ。
 ──何故ならば、彼女もまたデュエルが好きであるからである。
 そこまで心積もりが出来たオロチであったが、ここでいよいよ根本となる試作メンズーアのルールについてに入る所であろう。
 その事がコチの口から発せられる。
「では、このメンズーアのルールを説明しておくとしよう」
「ああ、頼む」
 革新的な勝負方法となる幕開けの戦いであるのだから、オロチは思わず固唾を飲んでしまうのであった。
 そんな彼女に対して、コチは説明をしていく。
「ルールは簡単じゃ。お互いがより多くの《バット》を打ち倒すというものであるのじゃ」
「つまり、その倒した数を競うと?」
 そう特に考える所無しに、オロチはそうコチに聞いたのであった。
 だが、そこが極めて肝であった事をすぐに彼女は思い知る事となる。
「いや、それでは今までの競い合いの勝負方法と同じになってしまうぞな。わしのやりたい事は無勝敗決闘-メンズーア-なのじゃからな?」
 特にコチはこの瞬間に怒ってはいなかったようであるが。
 オロチには『そこを間違えてはいけないぞ』というメッセージが言外に伝わってくるのを肌で感じられる所であったので、
「ああ、済まなかった」
 素直に謝罪の言葉を述べておく事としたのであった。
 そう言われた後、コチは続けていく。
「いや、謝る事はないぞ、何せわしもこの勝負方法は始めて実戦するのじゃからな?」
 そう、自分でもこの先に得られるものが何になるのか見えていないが為に、ましてやそれ以外の相手に知れというのも酷なものである事が分かっているので、コチの方こそオロチにお詫びを申し立てる所であったのだ。
 それはそうと、気を取り直してコチはルールの説明を続けていく。
「確かにバットを打ち倒すのは変わらないが、これはお互いがそれぞれ10体を倒した時点で相手に自分の要望を聞いてもらえるというものなのじゃよ?」
「ほう……」
 それが意味する所をオロチは暫し脳内で吟味するのであった。
 そして、その答えを理解したようだ。
「つまり、お互いが倒した数を競い合わずに、それぞれが規定の数を倒せるかという、言うなれば自分との勝負という事だな」
「そう、その通りじゃ!」
 よもや良く自分のメンズーアに籠める目論見というものを言い当ててくれたと、コチはその心の内に歓喜の念が満たされるのを感じたのであった。
 そこにコチは言葉を足していく。
「元来のデュエルだと互いの潰し合い、どちらが優れているかの競い合いとなる訳じゃからな。それを廃したという事なのじゃよ?」
 このルールならば、どちらが多く敵を倒したかというのが論点ではない訳であるから、今までのデュエルのように勝負の後にわだかまりが生まれづらい事となるというのがコチの狙いなのである。
 だが、彼女のモットーであるのが『百聞は一見にしかず』であるのだから、ここはこのメンズーアを試してみて、それが実際に役割を果たせるかどうかを見届けなければならないのだ。
 そして、追加のルールとしてこれが挙げられるのだ。
「ただバットをなぎ倒していくだけでは面白みがないと思って呼び出しておいたのが、先程のストリボーグという訳なのじゃよ?」
「それはどういう事だ?」
 ここでオロチは首を傾げるのであった。倒す相手ではなかったストリボーグの役割がこれで知る事が出来るとあって期待と不安が入り混じるのであった。
 その答えをコチが言う。
「言うなれば、このストリボーグはお邪魔キャラという訳じゃよ。時折このリングの上で強力な風を起こすから、それに飛ばされないようにしながら戦うという訳じゃよ」
 そこで一息つき、そのまま続けていく。
「飛ばされたら場外へと落ちる事となるが、すぐに元のリングの上に戻されるから心配はご無用じゃ。ただしその分時間はロスするから極力飛ばされないようにするのじゃぞ♪」
 これは、コチが別の世界でのビデオゲームを参考にして作ったシステムなのであった。詳細をぼかして言うと『大乱闘して殴る兄弟』なゲームであるのだ。
「……何か、そこはかとなくパチモン臭くなって来たが、それでも面白そうだから良しとするか?」
「うむ、わしとて大人の事情に関しては深く突っ込まないで欲しい所なのじゃよ♪」
 こうして、コチとオロチは互いに了承するのであった。これに関してもしかしらた夢の国並みに版権に厳しいあの我々の世界の京都に本拠地のある大手会社が了承しないかも知れないが、そこはまた別の問題なのであった。
 そんな別次元な話はこれまでとして、ルールを説明した後はそれを実行するだけであろう。
「では、始めるとするかの?」
「それがいい」
 こうして、互いの了承を得た二人はここから『極めて特殊な』戦いへと向き合うのであった。

◇ ◇ ◇

 目的は互いに、バットを如何ほど倒せるかを目指すというものであり、それをストリボーグの妨害を掻い潜って行うという変わった戦いとなるのであった。
 その戦いへ赴く為に、コチはここで彼女なりにやっておかねばならない事をするのであった。
「わしにはデュエル時のコスチュームというものがあっての、それに今からなっていいかの?」
「え?」
 その言葉にオロチは絶句してしまったのであった。
 相手は中身はどうあれ、その姿はあどけない美少女のそれなのである。
 そのような者に、堂々と人前で着替えなどさせられるかという至極真っ当な問題があるのであった。
「いや、それはちょっと……」
「何勘違いをしておるのかの?」
 そうコチが言うと、彼女はその場ですぐさまその身に風を纏ったのであった。
 風に包まれるコチ。
「?」
 その様子に何が起こったのかと注目してしまうオロチ。
 そして、風はすぐさまに止んだのであった。そこにあったのは……。
「これは……?」
 その『芸当』に永い時を生きるオロチも度肝を抜かれてしまったのであった。
 それは、コチの出で立ちが一瞬の内に変化していたからである。
 先程までの白の上着と白のスボンという清楚な姿から一転して、艶やかな和服姿となっていたのである。
 しかし、その和服姿は普通のものではなかったのであった。
 まず、全体をコチの髪と同じく緑色を包んでいる所まではそう普通の和服とは違わない所であろう。
 だが、特筆すべきはその丈の短さにあったのだ。
 それが、洋服で言うミニスカート程の丈しかなかったのである。
 その為にコチの健康的な脚線美が惜しげもなく曝け出されているのである。
 そこにはさすがは自身の鍛錬を欠かさないコチであろうか、スマートながらにも程良く筋肉が乗っており、華奢さは感じさせない力強さがそこには醸し出されていたのであった。
 一応は現代にも『着物ドレス』のような短い丈の和服というものが最近では出回っているのであるが。そこにはフリルがふんだんにあしらわれており、真っ当な和服とはイメージが異にかいしてしまっているのだ。
 しかしコチのそれは、そのような魔改造的なイメージはなく、ただ純粋に和服を短くしただけの悪意のようなものが感じられない慎ましいものであったのだ。
 ともあれ、突如としてそのような特徴的な服装となったコチに対して、当然オロチからの突っ込みはあったのであり。
「何故、お前はこれから戦うに際してそのような格好になるのだ?」
 その疑問は至極真っ当という所であろう。それに対して、勿論コチの方としても答えは用意しているからであった。
「これはわしがデュエルする時に決まって取る格好なんでのう。つまり勝負事に挑む際には気を引き締める為にこの姿になるという事じゃ」
「ようは、仕事着のようなものという訳か?」
「そういう事じゃ♪」
 ようは、デュエルの時のユニフォームのような感覚で、コチはそのミニスカ和服を身に纏うように心掛けていたという事なのであった。
 とまあ、ここまではコチの出で立ちを変化させる行為だったのであるが、そこに彼女はもう一つ行為を加える。
「では、戦いの為の武器というのも用意させてもらわねばの? という事で《サイコ・ソード》!」
 そうコチが言うとカードにサイコエナジーを投入し、カードの実体化を執り行うのであった。
 それは、サイキック族の攻撃力を敵のライフよりも低い時に最大2000まで上げる効果のカードなのであった。
 攻撃力の増加に限りがある代わりに《巨大化》のように下がる事がないからその分安定はするという代物というのがデュエルでの効果という訳である。
 ここで重要なのは、まずコチが現出出来るカードは『風属性』かそれに接点のあるカードに加えて、このようなサイキック族に関する効果を持ったカードも含まれるという事なのであった。
 そして、これはデュエルでないから相手のライフに関係なく武器として使える代物となっているという事なのである。
 そのカードを現出した今、コチの手にはエネルギー体を刃の代わりにした一筋の剣が握られているという事なのであった。
「待たせたの。これでこのメンズーアにおける武器が拵えられたというものじゃ」
「それを使ってお前は戦うという事なのか?」
「そういう事じゃ♪」
 そのようにやり取りを始めるコチ。だが、やはり彼女のふざけた性格というのが、またここに出てしまうようであった。
「このサイコ・ソードを使うという意味合いでもわしは和服姿になったという事じゃ。ビームの剣を使うには和服と相場が決まっておるじゃろう?」
「いや、あれは和服に似た別の服だと思うぞ?」
 そもそもが、その話題にはこういう場では触れて欲しくないとオロチは思う所であったのだ。何せ、今では夢の国の管轄となってややこしくなっているからである。
 閑話休題。そういう大人の事情はさておき、こうしてコチの方としても戦いの為の準備は整ったという事なのであった。
「では、今度こそ始めるとするかの?」
「ああ、いい加減頼む」
 夢の国とか京都の本拠地の会社とかそういうややこしい話題はもうこりごりなので、オロチとしても早く進めて欲しい所であったのだ。
 そして、コチが指を鳴らすと、バット達がどよめきたち、いよいよこのメンズーアの始動の合図となったのである。
 ちなみに、今度の指パッチンはこのようにちゃんと意味がある所であったのだ。いつまでもふざけていないのがコチというものなのだ。
 そして、バット達は各々の思考の下に行動を開始し始めたのであった。
「動き始めたな?」
「そういう事じゃ、わしらも始めるぞ♪ ちなみに制限時間は5分間じゃぞ」
 そう二人が言うと、彼女らもそれに倣って動き始めたのであった。
 最初に動いたのはコチなのであった。
 彼女は手馴れた手付きで近くを飛んでいたバットを、そのサイコ・ソードで持って一刀両断したのであった。
 それは一瞬であったので、斬撃の音すら聞こえずに見事に真っ二つにしてしまったいたのである。
 遅れて、両断されたバットはそのままその両方が爆散してしまったのであった。小規模の爆発とその音と部品が宙を舞う。
「まずは一体という所じゃな?」
[コチ:撃破1体→合計1体]
 これはまず手始めという感じで、事もなげにコチは言ってのけたのであった。
「ほう……」
 見事な剣捌きだと、オロチは感心するのであった。
 そして、これがメンズーアの賜物でもあるのかという意味でも感心するのであった。
 ──それは、コチの力が統制されながら振るわれている所を垣間見たからである。
 先程の経験から分かるように、コチに真っ向から力で挑めば永年生きて来て強大な力を携えた自信のある自分ですら危ういと思わせる程のものがあったのが鮮明に記憶されているからである。
 そんな者と肩を並べて一緒に戦えるというのは、このメンズーアという特殊な戦いの方法ならではなのだろうとオロチはただただ感心する所であったのだ。
 だが、彼女とて我々の世界では最上級スピリットモンスターとして君臨する者という大それた存在なのだ。故にいつまでも指をくわえてその光景を観ているだけという訳にはいかなかったのだ。
「我の方もいかせてもらうぞ」
 相手にばかりいい見せ場を見せている訳にも行かないだろう。幾らここに『敵』という表現が間違いだという先進的な戦いの方法であってもこれ以上自分が出ないのは避けるべきであろう。
 そして、オロチはここで行動を起こしたのであった。
「ふんっ!」
 彼女はその場で両手を振るうと、それは起こったのである。
 彼女のその両の手から、まるで鞭のような何かが現出されて振るわれたのである。
 そして、その二つの鞭は見事な軌跡を見せて、二体のバットを同時に華麗に仕留めたのであった。
「悪いな、お前よりも仕留めさせてもらったよ♪」
[オロチ:撃破2体→合計2体]
「おおう……」
 これにはコチも素直に感心したのであった。出だし好調の自分を抜いて、より多くの標的を仕留めたのであるのだから。
 だが、この戦いは競い合うのが目的ではないから、コチはいつも通りのマイペースな感じでオロチに聞いたのである。
「やるなお主。一体どういう芸当で今のをやったのじゃ?」
「ああ、それはだな」
 こんな感じで互いにおしゃべりの余裕が出来るのが、メンズーアの醍醐味の一つなのである。
 そして、その答えをこちらも比較的まったりとしながらオロチは返すのであった。
「それは、これだな」
 そう言って彼女はその両手に持った何かをコチに見せる。
 その答えは、正に鞭であったのであるが、その概容が少し特徴的なのであった。
 蛇の鱗のような外郭で覆われており、かつその先端は正に蛇だったのだ。
 これが何であるのかを、オロチは説明していく。
「これは、我の首の内の二つを鞭の形に凝縮させてもらったという訳だ」
 そう、彼女は今では狩衣を着た少女の姿をしているが、その正体は《八岐大蛇(ヤマタノドラゴン)》の絵柄に描かれている通り、伝承と同じく八つ首の大蛇なのである。
 その内の首の二つをこうして鞭の形にして振るったという事なのであった。
「それは面白い事をするのう……」
 ここに、コチも相手がメンズーアのルールを飲み込んでくれた事に快いものを感じるのであった。
 力をそのまま考え無しに放出するのではなく、使い方を考えてうまく出力する。それがメンズーアの醍醐味であるのだから。
 その様子を見たコチはますます興が乗ってくるというものであったのだ。
「わしの方もちゃんとやらねばならぬのう!」
 そう自分を鼓舞するようにコチが言うと、彼女は意識を集中する。
 そして、彼女はやや上方に位置するバットへと目を向けたのであった。
「そこじゃ!」
 そう言って彼女は、その艶かしい脚を踏み込み──そのまま跳躍したのであった。
「何と!」
 その様子にオロチは驚愕するのであった。
 さすがはこの辺りは風の精霊という所であろうかと彼女は目を見張るのであった。実に風の如く軽やかにその場で飛び跳ねて見せたのであるから。
 そんな驚きの目にされるオロチを尻目に、コチはそこから行動を起こしたのである。
「はっ!」
 そう掛け声を上げると、コチは跳躍した勢いのままにサイコ・ソードを振り翳したのであった。
 要は、体の動きに剣を乗せる手法である『抜刀術』である。
 しかし、やはり特筆すべきはそれを宙を舞いながらこなしてしまったコチの身体能力の賜物である事に起因するであろう。
 その体捌きと剣捌きによって、バットの一体は切り裂かれたのであった。
 そして、それの爆散を待たずして、コチは次なる行動を起こした。
「お次はお主じゃ!」
 そう言うとコチは今度は重力の法則に従って下に落ちる自身を利用して、剣を振り下ろす形で次のバットを串刺しにしていたのであった。
 その勢いのある攻撃によって、そのバットは一瞬の内に破壊されて爆ぜてしまったのであった。
 それに伴うように、先程切り裂いたバットもまた爆散してしまったのだ。
[コチ:撃破2体→合計3体]
 このようにしてオロチの見せた2体同時破壊という芸当を自分にも出来るという事を見せ付けたコチであった。
 この戦いは断じて競い合いではないのであるが、不思議と対抗意識は芽生えるのが戦いに赴く者の性とでも言えようか。
 しかし、そのように少々悪ノリをしてこのメンズーアのあるべきルールに逸脱した報いなのか、それは起こったのであった。
 そう、この戦いを盛り上げるべく設置されたストリボーグが、このタイミングで動いたのであった。
 彼の背中のファンから、勢いよく強風が吐き出されたのであった。
「ここでそれが来るかのう?」
 空中を降りている状態での強風。
 そのようなバランスを崩すような事態になれば、地面に不時着してしまい大変な事になるだろう。
 なので、これに対してコチは対抗策を取る事にしたのであった。
「《ワンショット・ロケット》!」
 そう言うと彼女は宙を舞ったままサイコ能力で以って風属性のモンスターの力の行使を行ったのである。
 それは、半分人型ロボットの姿をした、ロケット射出機なのであった。
 その機体に自分を乗せて、そのまま彼女はそこからはじき出されたのである。
 その際に、ストリボーグの強風で以って乱された体勢は綺麗の整えられ、見事な直線で以って地面へと向かって行く事になった。
 そうなれば、風の精霊たるコチにとって後処理は朝飯前なのであった。彼女は空気に乗るようにして直進の勢いを弱め、そのまま地面へと着地したのである。
「一件落着……じゃな♪」
「ほう……」
 見事にその美脚で以って着地に成功して得意気になるコチと、それに感心するオロチの姿がそこにはあったのだ。
 そして、オロチはこう思う。
(これは、少々本気を出した方がいいというものであろう)
 それが彼女が導き出した答えなのであった。
 てっきりあの強風に煽られるままに体勢を崩してそのまま場外へと向けられる事となるとオロチは踏んでいたのであるが。
 実際はこうしてサイコの力を使いはすれど自力で着地に成功するという芸当を見せたのである。
 何度も言うがこの戦いには競い合う要素はないのであるが、やはり相手の奮闘を目の当たりにさせられると意識が刺激されるという所なのであろう。
 その事をコチが狙ったかどうかは分からないが、このメンズーアにはそのような絶妙な効果があるという事実をオロチは受け止めながらそれに応える事とするのであった。
 それに、今は既に2分30秒を切った所であるのだ。5分という時間は長いようでいて短いというのが、この戦いのルールで感じさせられる所なのだ。
 故に、出し惜しみは出来ないなと、オロチはここで勝負に出るのであった。
「はぁぁぁぁ……」
 彼女は丹田に力を入れて両手を構えると、深く呼吸をして意識の集中を行ったのであった。
 すると、彼女に備わった『妖力』とでも言うべき力がみるみる内に増していったのである。
(何をする気じゃ?)
 その様子に卓越したコチであっても瞠目してしまう何かがそこにはあったのであった。
 そして、それは次の瞬間に遂行される事となる。
「『八首総撃陣』!!」
 その掛け声と共に、オロチの体から何かが放出されたのである。
 それは、八つあったのであった。そう、彼女は人間体の状態から、自らの本来の姿である八つ首を現出したのであった。
 その首がそれぞれの意思で動き、戦場を次々と舞ったのである。
 そして、一体、また一体と立て続けにバット達を撃墜していったのであった。それによりまるで花火大会のように数多の爆ぜが起こったのだ。
 そう、察しの通りそれを八対の首で行った訳であるから。
[オロチ:撃破8体→合計10体]
「何と……!」
 これにはコチは驚愕してしまうのであった。
 何せ、これでオロチはこの戦いに於いて自分の要望を聞いてもらえるノルマである10体の撃破をこなしてしまったのであるのだから。
 これにて、オロチは後は適当にしていればいいだけの事となるだろう。
 ここは是非とも達成した気分を肴にして相手の奮闘を勝利の美酒として味わうというのがオツであろうと決め込みたい所であったが。
 オロチの方もそうは問屋が卸さないという状況となっていたのである。
「うぬぅ……」
 そう彼女は呻くと、そのままその場で横に大の字になってしまったのであった。
「どうしたのじゃ?」
 自分の戦いに集中したくとも、奮闘した相手の事も気になる余力があるのがこのメンズーアなので、コチは相手の事を気に掛けたのである。
 それに対してオロチはこう答えたのであった。
「……少し疲れた」
 そう短く彼女は答えたのである。
 その彼女が今置かれている現状、それはエネルギーの大量消費によって生まれた疲労によるダウンという事なのであった。
 確かに彼女の真の姿は八つ首の大蛇であるが、今は人間の少女の姿を取っているのであり、故にその肉体のスペックもそれに合わせて抑えられているのだ。
 その状態で本来の自分の力を解放するとなると、それ相応の負担が彼女を襲うという事なのであった。言うなれば『ブランク』に近いものがあるかも知れないだろう。
 そのようにして、彼女はそのままこの場は休む事としたのであった。
「済まないが、少し横にさせていてくれ」
「全く、無茶をするのう……」
 そう呆れながらもコチは言うのであったが、同時に微笑ましさもそこには感じられたのである。
 こうして直接相手とぶつかり合いながら削り合いながらの勝負でないが故に、こうしてありったけの自分の力を発揮する事が出来る。
 ──やはり、メンズーアの方向性は良いものであったのだ、そうコチは結論に至る所であったのである。
 その事を喜ばしく思いながら、コチは自分の方も本気を出す気概を見せるのであった。
「オロチ、後はゆっくりしているといい。わしの方も仕上げと行くからのう♪」
 そう言って彼女は親指を上に向けてこの戦いの盟友であるオロチを労ったのだ。
 このような戦いの最中に互いを尊重し合う事が出来る特異なルール、それがメンズーアなのである。
 ともあれ、このままではコチは時間切れとなってしまい、10体を倒せなくなって自分の要望をオロチに聞いてもらえなくなってしまうだろう。
 それは御免被る訳であり、ここでコチは勝負に出るのであった。普通のやり方ではいけないだろう。
 そう思いながら、コチはここで再び風属性モンスターの具現化を行うのであった。そして、それは現れる。
《メガ・サンダーボール》
 何でも、回転しながら電撃を撒き散らすトゲトゲの付いたボール型の兵器のようであるのだ。兵器でありながら機械族ではなく雷族なのは、その電撃を放つ設定を網羅する為であろう。
 幸い、これに関しては機械族でも雷族でもコチにとっては問題無かったのである。重要なのは風属性であるのだから。
「それをどうするつもりだ?」
 そのモンスターなのか兵器なのかよく分からない代物を見ながら、オロチは首を傾げるのであった。
「まあ、見ておれ♪」
 訝しがるオロチに対して、コチは得意気にそう返してみせた。
 そして、ここでコチは次なるデュエルモンスターズのカードの力の実体化を行うのであった。
「次に、吹きすさべ! 《イタクァの暴風》!」
 その、デュエルでの効果では相手のモンスターを全て守備表示にするという派手な効果かつ、守りと次のターンの反撃の布石を兼ね備えた大味でありながらに優秀なカードなのであったが、それをサイコ効果でコチは発動した。
 すると、コチの手からその暴風が巻き起こされたのである。そして、その中に先程のメガ・サンダーボールが乗せられていたのであった。
 要は、強風を推進力にして兵器が射出されたのである。
 このようにしてサンダーボールは射出されて行き、バットの群れの真っ只中に放り込まれたのであった。
 しかも、暴風の力でバット達はろくに身動きが出来ない状態なのであった。そう、これは彼等への行動抑制の意味合いもあったのだ。
 そして、ここで頃合だとコチは睨み、
「やれ、サンダーボール。思う存分に暴れまわってやれ!」
 そうコチが合図を送る、次の瞬間であった。
 サンダーボールは宙でそのまま回転して、そこから大量の電撃を辺りに放出したのであった。
 それにより、バット達が巻き込まれて放電した後に弾けて砕けていく。
 その攻撃で仕留められたバットは……。
[コチ:3体撃破→合計6体]
 となったのである。
「まずまずじゃな♪」
 予想通りとも外れともいかない所であったのであるが、コチとしては上々の成果をここで出す事が出来たようである。
 しかし、ここで時間が残り1分を切ったのである。このような好調な進撃をまた繰り返していかないと巻き返す事が出来ない状態なのであった。
 だが、コチには焦りの色が無かったのである。
「さて、こうなれば奥の手じゃのう♪」
 言うとコチは両手を交差させて自身のサイコエナジーの集中をさせ始めたのである。
 それも、今までにないレベルの集中を行うであった。
 それにより、辺りにコチから漏れるエネルギーの滞留が激しく迸る。
「一体何を……!?」
 これにはオロチもただならないものを感じて、その身を引き締めるのであった。
 しかし、やはり寝っころがりながらである。ただならぬ状況であっても疲れたものは疲れたのであるから。
 そんなオロチがものぐさな対応をしている中でも、コチの集約したエネルギーはしこたま練り上げられたのであった。
「そろそろいいかの?」
 そうマイペースに言うコチであったが、もう時間は30秒を切っていたのである。言葉の緩さに反して予断を許さないのが現状なので、最早彼女が迷う事は無かったのであった。
 そして、それは施行されるのであった。
「唸れ! 《最古式念導》っ!!」
 そのサイキック族専用のデュエルにおける除去手段を、コチはこのメンズーアで繰り出したのであった。
 それにより、彼女の右手から凄まじいエネルギーを凝縮した黒と紺が入り混じった球体が放出されたのであった。
 それが、勢い良くバットの群れの中を突っ切っていったのであった。
 刹那、次々とバットの群れが爆ぜていったのである。
 その詳細は……。
[コチ:5体撃破→合計11体]
 そして、この瞬間に丁度『メンズーア』の時間切れとなり幕引きとなったのであった。

◇ ◇ ◇

 そして、コチのサイコエナジーによって作られた《デザートストーム》の空間が解除され、二人は元のオロチの使う玉座の部屋へと戻って来ていたのであった。
 そこから、二人は語り合うのだ。
「いや、今までにない経験が出来た。メンズーア、今後注目すべき戦いの方法だな」
「気に入ってもらえて何よりじゃ♪」
 まずは、この戦いの方法に関する感想のやり取りであった。
 互いが削り合いを行わず各々が自分に合わせた戦い方が出来る、それは他の勝負方法ではないものが得られる故に貴重な体験となったようだ。
「これで、私の方から要望を聞いてもらえる訳だな。私のそれは、今後私を討伐しに来ないという約束をお前の上部の者に取り付けて欲しいというものだ」
「心得た」
 まずは、オロチの方からの要望であり、それがコチの口約束で守られる事となった。
 しかし、ここからがメンズーアの真骨頂の一つなのだ。同時にコチの方も要望を聞いてもらう条件が揃っている為に、彼女の方からも申し出るのだ。
「それで、わしの方からは、今後ともお主が人を襲わないと約束するものじゃよ」
「ああ、問題ない」
 こうして、双方ともの要望は聞き入れられたのだ。
 だが、それでも問題があるのであった。
「しかし、参加する戦士は互いを傷つけない関係が結ばれるが、一方でモンスターは我々にことごとく仕留められてしまうものなのだよな?」
「うむ、じゃから今回は《バット》という生物ではない機械を選んだのじゃし、それでも体を張ってくれた彼等の事は尊重する心を忘れてはいけぬのう」
 この辺りの問題は、おいおい解決する方法を考えていかなければならないだろう。
 この話題の後は、コチの挑む姿勢についてオロチは触れていくのであった。
「しかし、お前は大したものだ。このメンズーアのような解決方法を用いて、もしうまくいかなければ責任を取る気概というものが垣間見る事が出来たのだからな」
 そう、責任の問題である。
 例えば件の次男は標的の家族の幸せを踏みにじる助力をしておきながら、事後もその際に手に入れた『極東チャンプ』の座から降りる事もなく、その家族の兄に再起のチャンスを与える等という事もせずに堂々とその座に居座り続けるという責任の放棄をしたのである。
 それに対して、コチは違うのであった。
「責任というものは、取る姿勢を持って当然というものじゃろう?」
「いや、その当然の事が出来ない輩が少なからずいるから、お前は立派だというのだよ」
「うむ、その言葉は有難く受け取っておくとしよう」
 けなされたり苛烈なサイコパスが好む『嫌味』では、なく純粋に褒められているのだ。ここは嬉しく思えはすれど、否定的になる意味合いはないだろうと思いコチは素直にオロチの言葉を胸に留める事としたのだ。
 その後にオロチが言いたかったのは、コチの戦い方であったのだ。
「しかし、お前はかなり派手な戦い方をするものなのだな?」
 それが、オロチが一緒に戦ってみて思う事なのであった。
 その事にコチは思う所があったようだ。
「派手な戦い方とは基本的にファンが喜ぶからな。要はサービス精神の元にわしはこういう戦い方をするという事じゃ」
 件の次男のモットーであった『ファンサービス』。
 これは自身の復讐心を晴らす為に、自分と同じような苦しみを相手に与える為に『希望を持たせて、それを踏みにじる』という加虐的な嗜好であったのだ。
 そのような意味合いではなく、本当の意味でのファンサービス精神がコチにはあるという事なのであった。
 コチ自身にも、復讐を抱くような境遇というものはある事を忘れてはいけないだろう。
 何せ、生前に理不尽な理由で自分の所属する組織の総帥に殺されるという経緯があったのだから。
 それでいながら、誰かに喜んでもらいたくて力を使う。
 それが、コチ・マルティノッジ──トビー・ローラの生まれ変わり──の性分なのであった。
遊戯王エイス・デイズ序章[完]
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[おまけ]
 無事初の試みの『メンズーア』も終わり、コチが戦いの為の出で立ちのミニ丈の和服から普段通りの白の上着とズボンに戻る様を見ながら、オロチは思っていた。
(そう、和服……)
 彼女が思うのは、コチのその和服姿の時に垣間見えたある光景なのであった。
 それを彼女は聞く。
「なあ、お前」
「なんじゃ?」
 突然聞かれて、コチは返し、そこにオロチが続ける。
「何で、和服の時はパンツ穿いてなかったんだ? ワンショット・ロケットで体勢を整える時に見えてしまってな……」
 コチは、ここで『おおう、その事か?』と思うのであった。
 そして、オロチは自分で聞いていて、気まずいものを感じていたのである。何せ、内容が内容だからだ。
「いや、何か言いたくない事情があるなら無理に言えとは言わないからな」
 そう言って言葉を濁すオロチに、コチは特に気構えもせずに言う。
「それはのう、わしはノーパンでデュエルしてきたからこそ、強くなれたからなのじゃな。それで、戦いの際には決まって和服でノーパンになるように心掛けている訳じゃ♪」
 曰く、まず風の精霊の力で身に纏う衣服を普段着からそのミニ丈の和服にするとパンツが無くなってしまうという神の悪戯か悪意のような仕様となっていたようだ。
 しかし、ある時その紆余曲折あってその和服でいる時にデュエルを行わざるを得ない状況になってやむなく行ったのであるが。
 その際の解放感がこの上なかったのだそうだ。
 そこにノーパンでデュエルする事は自分の体が望む事だという変な確証を得たコチは、その後のデュエルは決まってミニの和服でノーパンという出で立ちで行うようになっていったのだ。
 その結果、デュエルの腕がメキメキと上がっていき、恐らく今では彼女が行動を共にしていた組織のトップであった、人類の始祖の女性と同じ名を冠する者以上のデュエルセンスを身に付けている事のようである。
 それを聞きながら、オロチはコメントに困ってしまっていたのであった。
「まあ、人のやり方はそれぞれだからな……私の方としては何も言わない事にする」
「うむ、それがいいのう……」
 コチの方としても、無理に自分のスタンスを理解させようとは思っておらず、最後にどこか微妙な空気の元に解散となったのだった。